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最期を迎える時、「めっちゃいい人生だった!」って思いたいから。【後編】

最期を迎える時、「めっちゃいい人生だった!」って思いたいから。【前編】はこちら

2019/10/19/Sat
Photo : Mayumi Suzuki  Text : Ryosuke Aritake
松江 研 / Ken Matsue

1983年、神奈川県生まれ。父、母、姉との4人家族で育ち、6歳の時、アメリカに移住。現地の学校で過ごし、中学校に上がるタイミングで帰国。思春期の頃から、自身の恋愛傾向に違和感を覚え、社会人になってからゲイであることを自認。現在は外資系企業に勤めながら、経営大学院に通い、ビジネススキルを高めるとともに、東京レインボープライドの運営などにも携わる。

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INDEX
01 幼いながらに抱いたマイノリティ意識
02 許されなかった “自己主張”
03 偽りの自分と出会えない運命の人
04 自分の意見を主張できる国
05 ようやく見つけた「恋愛ができない理由」
==================(後編)========================
06 ゲイの自分が初めて抱いた恋愛感情
07 人にウソをつき続ける人生
08 カミングアウトで再認識した “幸福”
09 知ってほしいのは、僕らがいるという事実
10 「自己肯定感」が「愛」を育む

06ゲイの自分が初めて抱いた恋愛感情

ゲイの実態を探る日々

男性と関係を持った翌々日、つき合っていた彼女に別れを告げる。

「女性ではない可能性が高いんじゃないか、ってわかっちゃったんです」

「男性をもっと知ってみたいけど、彼女とつき合いながら探るのは違うな、って思って、別れました」

まずは、ゲイについて調べたり、ゲイ専用の掲示板を覗いたり、ネット上をさまよってみる。

「掲示板に投稿するとか、アクションを起こすまでには、割と時間がかかりましたね」

大学職員をしていた2年間は、知識を溜めるだけで、行動には移さなかった。

「大学の仕事が面白くなくて、外資系のアパレル企業に転職したんです」

「その頃には、お金もうまく使えば、世の中を良くできるってわかってたんで(笑)」

転職先は、アメリカに本社があり、多様性を重んじる文化が根付いた企業。

「転職したタイミングで、私生活でも一歩踏み出そう、と思って掲示板に投稿したんです」

初めての恋

ゲイ専用の掲示板を通じて何人かの男性と知り合い、その中の1人と会うことに。

「友だちや恋人を作るというより、はじめは性的な欲求を満たすことが目的でした(笑)」

待ち合わせ場所は、近所のスーパーの駐車場。

「10歳上の方だったんですけど、会ってみたら話が盛り上がって、最初の目的は後回しにして食事に行ったんです」

「お互いに家が近かったんで、それから毎日会いました」

「一緒にいるとめちゃめちゃ楽しくて、これが恋愛だ! みたいな感覚」

「この人のために何かしてあげたい、って初めて思ったんですよね」

つき合ってきた女性たちには、抱かなかった感情。

25歳にして、初恋を経験する。

「結果的に、その彼とつき合い始めました」

6週連続の浮気

初めて恋をした男性が、初めての彼氏。とても幸せなことだ。

しかし、まだ若かった自分は、他の人にも興味が湧いてしまう。

「1年目に、僕が6週連続で浮気をするって事件を起こしたんです」

「浮気というか、他の人と関係を持ったんです。最悪ですよね(苦笑)」

最初は出来心で、掲示板で出会った男性と関係を持ってしまった。

「僕って変なところで正直で、『この人としてしまいました』って、彼に報告したんです」

「彼は心が広くて、『若いから仕方ないけど、もうダメだよ』って、言ってくれたんです」

「そこで僕も『わかった』って言ったんですけど、次の週にまたしちゃって(苦笑)」

結果的に6週連続で浮気をし、すべて正直に話すと、彼の部屋の合鍵を没収されてしまう。

「彼と連絡が取れなくなったから、毎日手紙を書いて投函したら、1週間後に連絡が来ました」

「さすがに、僕も6回目で懲りましたね(苦笑)」

07人にウソをつき続ける人生

唯一打ち明けられた人

10歳上の彼と出会ったことで、自分のセクシュアリティは揺るぎないものになる。

「自分はやっぱり男性が好きなんだ、ってすんなり受け入れられました」

アメリカに住んでいた姉とSkypeしていた時、話してみよう、と思い立つ。

「『実は報告があって、僕は男が好きなんだよね』みたいに、伝えたんです」

「姉はあっさりしてて、『ずっとそう思ってたんだけど』って、言われました(笑)」

どうやら幼い頃の自分は、『ゲゲゲの鬼太郎』のおもちゃでも、猫娘を使うことが多かったらしい。

女性的な要素があることを、姉は見抜いていたようだ。

「姉には25歳の時に言えたんですけど、他の人にはずっと言えない状態が続きました」

架空の彼女の存在

「性的対象が男性って自覚はあったけど、それは言っちゃいけないことだ、って気持ちがありました」

言ってしまえば、嫌われるのではないか、という恐怖心が募っていく。

「中学でいじめられた時のキズが、どこかしらに残ってたのかもしれないです」

「人から認められたい、嫌われたくない、って気持ちが割と強かったんですよね」

やりがいのある仕事も、“明るくて面白い人” というポジションも、失いたくなかった。

「職場でも、話すとバレちゃいそうだから、あんまり話さないようにしてました」

「『彼女とはどうなの?』とか聞かれたら、適当に『いい感じ』ってはぐらかしたり」

「彼女の写真見せてよ」と言われれば、見ず知らずの女性の写真を見せて誤魔化す。

「僕はこのままウソをつき続けて生きるんだ、って思ってました」

「壁を作って人と接するから、そこまで仲良くなれなくて、寂しさがありましたね」

きっかけをくれた彼の言葉

30歳の夏、彼と2人でハワイ旅行に繰り出す。

「たまたま同僚の女の子もハワイに来てて、『一緒にごはん食べよう』って、誘ってくれたんです」

「その時は、『友だちも一緒だけど、良かったら』って、彼のことを『友だち』って話しました」

「僕もカミングアウトしてなかったし、彼も周りに打ち明けてなかったから」

親切心のつもりで、彼に「一緒に来て、友だちって言ってあるから」と、話した。

「そしたら、彼に『じゃあ行きたくない』って、言われたんです」

「研がずっとウソをつき続けてるところを、見たくない」という理由だった。

「そこで、初めて彼に『打ち明けて嫌われるのが怖いし、そこから広まるのも嫌だ』って、話したんです」

彼はこう言ってくれた。「周りから嫌われても、俺がずっとそばにいてあげるよ」。

「彼のひと言が、カミングアウトしてもいいかな、って思うきっかけでした」

同僚の女性と会い、「実は友だちじゃなくて、つき合ってる彼なんだよね」と、紹介する。

「その子は特に驚かずに、『ふ~ん、そうなんだ』で終わって、拍子抜けしました(笑)」

08カミングアウトで再認識した “幸福”

ようやく打ち明けられた人た

「カミングアウトした1人目の反応が軽かったから、その後は全然怖くなかった(笑)」

自分を含めて男性3人、女性2人の仲良しグループで、韓国旅行に行った時のこと。

「行きの飛行機で、『実は話したいことがあるんだよね』って、セクシュアリティのことを話したんです」

「4人とも、『言ってくれてありがとう』『いままで辛かったでしょ』って、認めてくれました」

「全部さらけ出してスタートした韓国旅行は、めちゃめちゃ楽しかったな」

想像以上に周りが受け入れてくれることに、安心感を覚えた。

そして、自分自身を出すことの素晴らしさを、実感していく。

セクシュアリティを明かして働く意義

ハワイ旅行に行った年の12月、別のアパレル企業に転職する。

「当時はカミングアウトすることが快感で、面接でもとりあえず言ってました」

「最初の頃は、『初めまして、ゲイです』くらいの勢いで(笑)」

面接を重ね、相手に構えさせない伝え方を編み出す。

「『質問ありますか?』って聞かれた時に、『多様性に対する取り組みはされていますか?』って聞くんです」

「その流れで、『実は僕も当事者で』って、伝えるようになっていきました」

セクシュアリティを明かして入社した職場では、これまでと仕事の向き合い方が変わった。

「いままでは、力の半分は仕事、半分は自分自身を隠すことに使ってました」

「でも、100%仕事に使えるようになって、効率もスピードもすごく上がりましたね」

予想外の母の涙

両親にも、30歳の時に伝えた。

「結婚記念日に沖縄旅行をプレゼントして、その帰りの飛行機で話したんです」

「『実は、つき合ってる男性がいて。男の人が好きなの』って」

息子の言葉を聞いた母は、何も言わず、涙を流すばかり。

父も言葉を発することはなく、ただ静かに時が流れていくだけ。

「オープンな両親だから、カミングアウトのハードルは低いと思ってたんです」

「でも、冷たい反応が返ってきて、言っちゃいけないことだったんだ、って後悔しましたね」

「大好きな両親に、もう会えないのかな・・・・・・って」

曖昧な状態のままではいられず、その1週間後、実家を訪ねる。

「あの時は泣かせちゃってごめんね」と、母に謝ると、意外な言葉が返ってきた。

「びっくりして泣いちゃったけど、いままで気づいてあげられなくてごめんね、って気持ちもあったんだよ」

母の涙は、決して否定の意味ではなかった。

無言だった父も、母に気を使い、沈黙を貫いただけだった。

「父はあっけらかんとしてて、『時代の最先端いってるね!』みたいに言ってました(笑)」

「いい家族がそばにいてくれて、本当に恵まれてるな、って思います」

09知ってほしいのは、僕らがいるという事実

正面からの否定の言葉

現在は働きながら、経営大学院に通っている。

「入学前に、少しだけ授業を取れたので、ちゃんと受けてたんですよ」

「その時に目立ってたみたいで、職員の方から『代表スピーチをしてほしい』って、お願いされたんです」

入学式、新入生代表として、「多様性」という切り口でスピーチをした。

「約500人の学生の前で、『自分も当事者で、多様性が日本のビジネスの世界でも広がってほしい』って、話しました」

「入学式の後、同じ新入生の男性に『そういうの気持ち悪いと思う』って、言われたんです」

ほかの人からは、「いつ女性になるんですか?」「普段はスカートはいてるの?」と、聞かれた。

「最初は怒りの感情が湧いたけど、その人たちはただ知らないだけなんですよね」

「当事者と話す機会がなかったんだろうし、LGBTはまだまだ知られてない存在なんだって認識しました」

きっかけとなる存在

経営大学院に進むきっかけは、経営を学びたい、という気持ちだけではなかった。

「ほかの国に比べて日本は、セクシュアリティをオープンにしてビジネスリーダーになってる人が、少ないですよね」

「だから、自分がそのロールモデルになりたいし、人にも影響を与えたい、って思ったんです」

経営大学院に通う学生は、将来的にビジネスの場で活躍していくことだろう。

その人たちが役職に就いた時、起業した時に、「松江っていたけど、自分と何も変わらなかったな」と、思い出してほしい。

「僕をきっかけにLGBTを知ってもらって、ビジネスの世界から多様性を広めたい、って使命感があります」

「学生の中にも、『実は自分も当事者なんです』って方がいたんですよ」

自分はカミングアウトしてハッピーに過ごせているが、隠したまま生きている人は多い。

「そういう人のために何かしたい、って気持ちも強くなってきましたね」

自分なりの生き方

カミングアウトをして、自分をさらけ出す生き方は、素晴らしいと実感している。

「周りからなんて言われようと、最期を迎える時に『めっちゃ良かった!』って思える人生がいいじゃないですか」

「人生は一度きりだと思うから、1人でも多くの人が後悔なく、自分らしく生きてくれたらいいな、って思います」

「でも、全員に打ち明けてほしい、って思ってるわけでもないんです。言いたいタイミングって、人それぞれ違うと思うから」

打ち明けたいと願う人もいれば、打ち明けなくていいと考える人もいるだろう。

「ただ、言えなくて苦しんでいる人を救えるように、カミングアウトウェルカムな人がちょっとでも多くなるといいな、って思います」

10「自己肯定感」が「愛」を育む

走り回る面白さ

経営大学院のビジネスカンファレンスで、1人のトランスジェンダーと出会う。

「杉山文野さんが登壇して、そこで初めてFTMの人って知りました」

「その頃は、東京レインボープライドも行ったことがないどころか、知らなかったんですよ。

その年、初めて東京レインボープライドに赴き、会場で杉山氏を見かけた。

「走って近づいて、名刺を渡して、『何かしたいんです!』って言ったんです」

「文野さんは快く受け入れてくれて、お手伝いすることになりました」

今年から執行部に入り、東京レインボープライドの運営に携わっている。

「活動を通じて、いろんなセクシュアリティの方と会う機会が増えましたね」

「それぞれに抱える大変さがあって、違う視点で物事を見ていて、興味深いです」

仕事、学業、活動と忙しなく動き回り、周囲から「走りすぎ」と言われることもある。

「限られた時間で、自分がやりたいことを一生懸命やることが、自分らしく生きることだと思ってます」

「すべてに目的意識があるから、忙しさに対して、ネガティブな感情は一切ないです」

内省することの大切さ

初恋の彼との関係も、11年目を迎えた。

長く続けるヒケツは、自分を知ること。

「うまくいかない相手は、その人じゃなかったってだけだと思うんです」

「でも、運命の人に出会うためには、自分を知らないといけない」

自分はどんな人で、何が好きで、何が嫌いで、何を大事にしているか。

「本当の自分を知って、その自分を愛せないと、人は愛せないから。そして、自分を出さないと、相手もさらけ出してくれないです」

日本人に足りないものは、自己肯定感。

「自己肯定感を持って自分を愛せたら、人に寛大になれるし、多様性も受け入れられると思うんです」

「いろんな意見があっていいよね」と言える社会こそ、目指す姿だと感じている。

「性別とか宗教とか価値観とか、いろんな違いがあるけど、受け入れられる世の中になったらいいな」

「いつか、『LGBT』とか『カミングアウト』って言葉すら、なくなる世界が来てほしいです」

そのために僕ができることは、僕自身がハッピーに生きた証を残すことだ。

「ゲイで生まれたことは、特別なギフトだと思ってます」

「もし生まれ変わるとしても、今のままの自分がいいな」

あとがき
待ち合わせ場所に、大きな笑顔を抱えてやって来た。研さんと出会った人は皆、きっと感じるはず。人生を楽しんでいる人だと■明るい人の特徴は? と考えてみた。思い立ったらすぐに行動できる人?? それは何か面白いことが起こるかもと期待できる、前向きな想像力??? たとえそれが上手くはいかなくても、「これも経験」と理解して次へ進む。「 I’m riceball!!」とハニカミながら口にしてみた少年研ちゃんのチャレンジは、今も続いている。(編集部)

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