02 一定の距離を保った家族関係
03 “1人の時間” を好んだ少女
04 理解できない恋愛小説の面白み
05 3年間続けたバレーボール部
==================(後編)========================
06 みんなとは違うかもしれない自分
07 コイバナだらけの女子高生ライフ
08 「アセクシュアル」に抱いた安心感
09 自分の生き方を決めるのは自分
10 大切なものは “興味” と “経験”
06みんなとは違うかもしれない自分
表に出ない感情
「学校の先生に、『ひょうひょうとしてるね』って、言われたことがあります」
あまり感情が表に出ないタイプ。
意識して、感情を抑えているわけではない。
「感極まって泣くとか、急に怒るとか、そういうことは全然ないです。冷めてるところがあるのかもしれない」
「昔も今も、あんまり変わってないと思います」
「先生に言われた時も、そういう性格なのかな、って思ったくらいでした(笑)」
そうはいっても、節目節目で喜びや悲しみを感じている。
「試験に合格した時とかは、うれしいですよ。ただ、顔にはあんまり出なくて(苦笑)」
「自分では結構喜んでるつもりなんですけど、友だちには『あんま表に出ないね』って、言われます」
「人に腹を立てることは、そんなにないです。平和に過ごしたいので(笑)」
反抗期も、特になかったように記憶している。
「反抗期って、どういう状態を指すのかわからないくらい、なかったと思います」
「そもそも親から何も言われなかったので、反抗する理由もなくて」
多感な中学生の頃の関心事といえば、部活。
「放課後に部活に出て、19時過ぎに帰って、すぐお風呂に入って、宿題して寝る生活でした」
「つき合う」って何?
中学生にもなると、交際を始める同級生も現れる。
「つき合ってる子たちもいたけど、そういう年頃なんだな、ってあまり関心がなかったです」
友だちから「つき合い始めたんだ」と報告されても、「そうなんだ」で終わり。
「好きな人はいないの?」と聞かれても、「特になし」でスルー。
「『今はバレーで忙しいから』って言って、かわしてましたね」
「友だちも、顧問の先生が怖いって知ってたから、深追いしてこなかったです」
「多くを語らなくて良かったから、バレーボール部に入って正解だったかも(笑)」
「恋愛」や「交際」に対して、憧れを抱くようなこともなかった。
「つき合うことで何になるの? みたいに感じちゃって」
「当時は、恋人も友だちも変わりないんじゃないの、って思って、特別な感情は湧かなかったですね」
告白されることも、することもないまま、中学生活が終わっていく。
「みんなと違うのかな、って感じたりもしたけど、深くは考えてなかったです」
07コイバナだらけの女子高生ライフ
順風満帆な女子校生活
中学卒業後は、私立の女子高に進学。
「その高校を選んだ理由は、自分の代から制服が変わって、かわいくなったから」
「あと、プールの授業がないから。泳ぐのが苦手なんです(苦笑)」
家から近いことも理由の1つだったため、女子高であることはあまり意識していなかった。
「入学式の日に教室に入ったら、本当に女子しかいなくて、女子高なんだって実感しました(笑)」
「校内に男子がいない分、ぶりっ子がいなくて、みんな奔放でした」
「私のいたクラスは、いわゆるいじめとかもなくて、仲良くしてましたね」
さまざまなタイプの女の子が集まったクラスは、行事のたびに団結し、仲を深めていった。
高校ではバレーボール部ではなく、テニス部に入る。
「バレー部の顧問の評判がよろしくなくて、じゃあ別の部活に入ろうかなって」
「同じクラスの子がテニス部に入ってたんで、私もそうしよう、って決めました」
「テニス部の顧問の先生はゆるゆるな感じで、ちょうど良かったです(笑)」
運動で汗を流す時間は、心地いい。
「テニスは、今でもたまにやってるくらい、楽しいです」
「振り返ってみると、学生時代は順風満帆すぎましたね」
やっぱり湧かない興味
年頃の女の子が集まれば、自然と話題は恋愛ネタが多くなる。
「高校生になると、内容も本格的になってくるじゃないですか」
「手をつないだ」「キスした」という話を聞いても、興味は湧かない。
「『だから?』みたいな感じで、わかんないというか、興味がないというか、憧れも全然なくて」
「巷でいう “恋愛感情” が、自分の中にないんですよ」
「だから、恋愛の話を聞いても、『へー、そうなんだ』って、棒読みになっちゃって(笑)」
興味がないため、僻みや嫉妬の感情も生まれず、純粋に「おめでとう」と祝福できた。
「中学の時ほど部活は厳しくなくて、余裕はあったけど、だから恋愛してみるってことはなかったです」
「好きな人はいないの?」と聞かれても、これまでと変わらず「いない」と受け流す。
恋愛に関心がないことは、周囲にも伝わっていたかもしれない。
08「アセクシュアル」に抱いた安心感
LでもBでもTでもない自分
高校の先輩には、FTMであろう人が数人いた。
「先輩がFTMであることは、ほとんどの子が知ってたけど、特に何かあるわけじゃなかったです」
「その先輩と仲がいい子がクラスにいたんで、私も知ってましたね」
「外見が男性寄りの方だったんで、気持ち悪さとかは感じなくて、そういう人なんだな、って受け入れてました」
トランスジェンダーやFTMに関して、詳しく知らなかったため、インターネットで検索する。
出てきた記事を通じて、レズビアンやゲイ、バイセクシュアルという言葉を知る。
「男性に恋愛感情を抱かない私はレズビアンなのかも、って思った時もありました」
「でも、女の子もそういう目では見られないというか、普通に友だちなんですよね」
自分はレズビアンではなく、バイセクシュアルでもない。
「女性の体で生まれた自分は女性だろうから、トランスジェンダーでもないんだろうなって」
自分自身のセクシュアリティを冷静に受け止める一方、少しだけ不安もあった。
「LでもBでもTでもない私は何なんだろう、って気持ちは多少あったと思います」
たどり着いた「アセクシュアル」
セクシュアルマイノリティに関して調べていく中で、1つの言葉と出会う。
「『アセクシュアル』にたどり着いて、こういうセクシュアリティもあるんだ、って興味が湧きました」
アセクシュアルに関する記事を読み進めると、自分に当てはまる部分が見えてくる。
「『誰も好きになったことがない』『性愛感情がない』って2つの言葉が、しっくりきました」
「自分もこれなのかな、って思ったら、ホッとしたんです」
「私みたいな感覚の人が他にもいるんだな、って安心しましたね」
人と違うのかもしれない、という不安は、自分が感じている以上に大きかったのかもしれない。
それから、ネット上でアセクシュアル当事者の記事などを読み、密かに共感してきた。
「同じセクシュアリティの人に会いたい、と思ったことはないんです」
「自分がそのセクシュアリティに納得していればいいかな、って思うから」
「いつかは会ってみたいと思うかもしれないけど、 “いつか” がいつ来るかはわかんないです」
自分がアセクシュアルであることに対して、ほとんど不安は感じていない。
「まったくないって言ったらウソになるけど、そこまで不安要素は大きくないですね」
09自分の生き方を決めるのは自分
他者への関心
今は、周囲から「好きな人はいないの?」と聞かれたら、「あんまり人間に興味ないんだよね」と答えている。
その言葉は、話題を逸らすためのウソとも言い切れない。
「恋愛に限らず、あんまり人のことを気にしないですね」
「周りに迷惑をかけないように、とは考えますけど、人の目を気にして自分を制限することはないです」
友だちに食事に誘われても、気が乗らなければ断る。
「もちろん、気分が上がってる時は、友だちとのごはんにも行きますよ」
「昔から、人間関係に対する意識は変わってないと思います」
「だけど、人間関係で悩まされた経験は、ほぼないです。職場でも困るようなことは起きてないかな」
過度に抱かない期待
他者に対して必要以上の関心がない分、人に苦手意識を持つこともない。
「その人の嫌な部分が見えるところまで、深入りしないからですかね」
「学校でも職場でも、これ以上は無理だな、と思ったら、そこまでの距離感で接するようにしてきました」
「一定の距離を保っていれば、嫌になることもないのかな」
そう思えるのは、そもそも他者に期待していないから。
「相手から過度に期待されて、困っちゃうことってありますよね」
期待していた結果に相手が到達していないと、自分自身に情けなさや憤りを感じてしまうこともあるだろう。
「相手に期待した分、自分も負担を感じてしまうから、うまい具合にセーブしていかないとな、って思うんです」
「それに、人の性格や性質って、自分以外の人の手じゃ変えられないから」
人に期待せず、自分でできることは自分で成し遂げてきた。
立ち止まらない生き方
「自分が納得した上で行動してきたからか、深刻に悩むようなこともあんまりなかったです」
時には、悩むこともある。
しかし、その場に立ち止まって、考え込むようなことはない。
「まずは1回経験してみて、思い描いた結果じゃなかったら、別の方法を試してみる。後ろ向きな悩み方はしないですね」
「だから、後悔もあんまりないんです」
自分だけで解決できないことは、そもそも悩まない。
「人間関係も同じで、性格が合わない人に対してイライラしても、意味がないじゃないですか」
「それなら、自分のいる環境を変えるように、次に進む方が効率的かなって」
周囲の目を気にしない。人に期待しない。深刻に悩まない。
生き方のキーワードは “ない” なのかも。
10大切なものは “興味” と “経験”
躊躇しない転職
仕事に対するスタンスも、「まずは経験し、合っていなければ他のことをしてみる」。
違う、と思ったら転職し、新たな環境に身を置いてきた。
専門学校を卒業し、まずは公務員として働き始める。
「一生安泰かな、って将来を見越して、就職したんです。でも、同じ作業のルーティンで、つまんないなと思っちゃって(苦笑)」
1年半ほど勤めてから退職し、ディズニーリゾートのキャストになる。
「ディズニーが好きだったんで、やってみようかなって」
「パレードやショーの運営に携わる裏方だったんですけど、いままでで一番自分に合う仕事だったと思います」
キャストとしてパークに触れると、より一層ディズニーリゾートが好きになれた。
「ただ、ずっとアルバイトのままだと将来的に不安だと思って、転職を決意しました」
2年ほどディズニーリゾートで働き、次に選んだのはIT業界。
興味のある分野
「高校が商業科で、パソコンの授業もあったので、IT業界のハードルはそこまで高くなかったんです」
「経験はないけど、プログラミングに興味があったし、自分でできたら楽しいだろうな、って軽い気持ちで転職しました(笑)」
現在勤めている会社には、2019年4月に入社したばかり。
任される仕事も、まだ初歩的なものだ。
「今は、顧客先に赴いて、Windows 7からWindows 10に移行する作業を担当してます」
「同じような作業のくり返しなんですけど、興味があることだから、つまらなくはないです」
今はまだ仕事を経験し、自分に向いているか、吟味している途中。
“次” に進んで見えるもの
人間関係にしろ、仕事にしろ、経験してみないとわからないことは多い。
「自分で経験して、納得しないと、次には進めないですよね」
「人から聞いた話だけで判断してしまうのは、ちょっと違うと思います」
これからも、違うな、嫌だな、と思うことがあれば、新たな道を見つけ、挑戦していきたい。
「自分がマイナスの感情を抱くような空間に、時間を使いたくないんです」
「それだったら、次に興味があるところに行ってみよう、って気持ちが大きいので」
興味のないことよりも、興味のあることを優先していきたい。
さまざまな選択の先に、自分の将来がある。