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僕は今ようやく、自分の人生に自信を持てた。【後編】

僕は今ようやく、自分の人生に自信を持てた。【前編】はこちら

2024/01/20/Sat
Photo : Taku Katayama Text : Ryosuke Aritake
山本 皓埜 / Hiroya Yamamoto

1968年、愛知県生まれ。学生時代から女の子に恋心を抱いたものの、その感情にフタをして、社会人になってからは仕事にまい進。40代後半で初めて女性と交際し、自身がFTM(トランスジェンダー男性)であることを自覚。現在は本業のかたわら、名古屋レインボープライドのボランティアスタッフなどを行っている。

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INDEX
01 幼かった自分が抱いた疑問
02 初めて知った女の子に対する恋心
03 悩まないでいられた思春期
04 ひたむきに働き続けた日々
05 男性とつき合うということ
==================(後編)========================
06 FTMの自分を自覚するまで
07 築きたいのはウソのない関係
08 立場も考えも違うパートナー
09 自分自身をさらけ出す意味
10 僕が選んで歩んでいく道

06 FTMの自分を自覚するまで

踏み出した一歩

それまではずっと「女の子が好き」という感情だけを自覚していた。

「僕自身は何者なんだろう、って初めて本気で思ったきっかけは、『ラスト・フレンズ』というテレビドラマでした」

上野樹里が演じていたFTM(トランスジェンダー男性)を見て、心が揺さぶられた。

「感情移入しちゃって、泣いちゃったんです。こういう人がほかにもいるんだって」

「ただ、あくまで “女の子が好きな女の子” という認識でした」

その時点でトランスジェンダーというセクシュアリティがあることは、知らなかった。

「自分の感情を言語化して検索したら、ひとつのアプリが出てきたんです」

出てきたのは、レズビアン同士のマッチングアプリ。さっそく登録して、女性と知り合っていく。

「最初はいいんですけど、しばらく経つと居心地が悪くなるんですよ。なんで、女性同士でワイワイしなきゃいけないんだろうって」

彼女ができて知ったこと

40代後半になり、アプリを通じて初めて女性の恋人ができる。

「初めて彼女という存在ができた時に、受け入れてくれる人がいるんだ、女の子が好きでもいいんだ、って思えました」

ずっと行ってはいけないと思っていた道に、ようやく踏み出すことができた。

「その頃もまだトランスジェンダーやFTMって言葉は知らなくて、自分の居場所ははっきりしてなかったです」

彼女ができたことで、初めて知ったことがあった。

「性的な行為をする時、いままで天井を見上げる側だったところから、相手を見下ろす側になったんです。その時に、ここが自分の居場所だって思いました」

「女性が相手でも、天井を見上げる側になるとイヤですもん」

ようやく知った「FTM」

彼女ができてから、外の世界に踏み出せるようになり、セクシュアルマイノリティ支援を行う団体に出入りするようになる。

「そこから勉強していって、トランスジェンダーというセクシュアリティがあることを知りました」

トランスジェンダー男性の友だちも増え、いままでと違う感覚が生まれる。

「いわゆる男友だちの感覚で、下ネタが話せる関係が居心地良かったんです(笑)」

「女の子相手だと引かれるような話もすんなりできて、すごく気持ちがラクになりました」

自分はFTMだったんだ、と思えるようになっていく。

「そういう意味では、自分のセクシュアリティを自覚したのは、最近ですね」

07築きたいのはウソのない関係

あっけらかんとした母へのカミングアウト

初めて彼女ができた日、母親にカミングアウトした。

「彼女と『この先も一緒にいようね』って話した日に、自分の中で、女性のパートナーと生きていくって覚悟ができたんです」

「だから、家族にパートナーのことを『友だち』と紹介するのがイヤで、全部カミングアウトしようって、その日に母に話しました」

当時は、自分がトランスジェンダーであることは自覚していなかったため、「彼女ができた」という話をした。

「母は、僕が男性とおつき合いしてたことも知ってたので、最初は『え?  いつから?』って、呆気に取られてました」

「でも、もともと柔軟であっけらかんとした人なので、すぐに認めてくれたんです。彼女のことも信用してくれました」

FTMだと自認し、「自分は男なんだ」と話した時も、受け入れてくれた。

「すぐ周りの母の友だちに、『うちの子、男の子なのよ』って話してくれて、今はみんなから『ひろくん』って呼ばれてます(笑)」

語らなかった心中

後々母から聞いた話は、思いがけないものだった。

「僕がカミングアウトした後、しばらく眠れない時もあったみたいです」

「でも、僕にはそんなこと、一切言わなかったですね」

実際は、周りの友だちに『うちの子、男の子だったのよ。どうしたらいいかな』と、相談していたらしい。

「母の友だちも寛容な人ばかりで、『いいじゃない、ひろくんはひろくんなんだから』って、母を支えてくれたみたいです」

「だからこそ、みんな『ひろくん』って、呼んでくれるんだろうなって」

母も「ひろくん」と呼び、息子として接してくれている。

弟のお嫁さんや甥っ子と一緒に出かけた日のこと。

「帰りに寄ったラーメン屋で、急に母が『この子さ、実は男の子なのよ』って、言い出したんです。思わずラーメンを吹き出しましたよ(笑)」

まさかのタイミングでの告白に、お嫁さんも甥っ子も笑っていた。

ありがたいことに、自分の周りには受け入れてくれる人ばかりだった。

同僚のリアクション

ある日、パートナーが事故を起こし、自分に連絡が来た。

「仕事中だったんですけど、なんとかしなきゃいけない、と思って、社長に相談しました」

「僕はウソがつけない人間なので、その時に自分のこと、彼女のことを素直に話したんです」

社長は「なんとなく気づいてた。仕事はいいから行ってこい」と、背中を押してくれた。

一緒に仕事をしていた後輩にも、本当のことを話した。

「後輩にも素直に話したら、驚きつつも『行ってきてください』って、言ってくれました」

家族にも職場にも、ウソはつきたくない。ウソのない言葉が、信用につながるから。

「どれだけパートナーが大事な人かわかってもらわないと、相手を動かせないと思うんです」

「そのためには、ウソはつけない。本当の言葉じゃないと、温度が伝わらないですから」

08立場も考えも違うパートナー

食い違う気持ち

初めてできた彼女との関係は、6年続いた。

相手はパンセクシュアルで、男性と結婚した経験があり、子どもがいる人。

「ある時パートナーに『私の彼女』って表現されたんです。それがイヤでした」

つき合い始めた頃の自分はウルフカットのような髪型で、ボーイッシュな女性という雰囲気だった。

レズビアンのマッチングアプリで出会ったこともあり、「彼女」と表現されるのは仕方なかったかもしれない。

「ただ、自分は “彼女” ではない、って感覚が強くて、パートナーにも『男として見てくれてる?』って、話してました」

「でも、何回言っても伝わらないんです。『いいじゃない、あなたはあなたなんだから』って言われて・・・・・・」

いち個人としてではなく、男として認めてほしかった。

「バレると困る」

デートの時、人目につかないところでは手をつないだ。

パートナーが住んでいるエリアでは、「ママ友に見つかると困るから」と、距離を開けられた。

「パートナーに言われて一番イヤだった言葉が、『バレると困る』でした」

「僕はパートナーと生きる覚悟を決めてたから、まるで悪いことをしてるみたいに言われるのがつらかったです」

これ以上、この人とは一緒にいられないと思った。

「別れを切り出すと、『イヤだ』って、言われるんです。僕もまだ想いがあったからよりを戻して、6年間くっついたり離れたり」

感じていた2人の違い

6年間を振り返ると、彼女とは、立場も背負っているものも向かう先も違った。

「僕は一生を共にする覚悟だったけど、彼女は一緒にいれたらいい、くらいの気持ちだったのかなって」

互いのセクシュアリティが異なることで、温度差も感じた。

「パートナーは結婚や出産という経験をしてきましたが、僕はそのどちらもできない。そこをすり合わせていくのは、簡単なことではないのかもしれないと知りました」

何度も何度も自分の思いを伝え続けた結果、別れを決意した。

彼女との関係を育む中で、自分がトランスジェンダーであることに気づいた。

「1年半前にパートナーと別れてから、僕の革命期が始まった感覚があります」

本当の自分を見つけ、ここからは前に進むだけ。

09自分自身をさらけ出す意味

名古屋レインボープライド

パートナーとの別れをきっかけに、自分を顧みる機会が増え、自分自身を発信する場を求めた。

「これまで、言葉にできない生きづらさを感じてきました。その経験を発信できたら、何か変わるのかなって」

「たまたまセクシュアルマイノリティに関するセミナーを見つけて、参加しました」

その場でセミナーを開催する団体の代表と知り合い、「活動を手伝いたい」と、伝えた。

「ここで一歩踏み出さないと何も進まない、と思って声をかけたら、『おいで』って、言ってくれたんです」

名古屋レインボープライドが開催される直前で、ボランティアスタッフとして迎え入れられた。

「メインステージのスタッフに選ばれたんですけど、右も左も専門用語もわからなくて、ぶっつけ本番みたいな形で勢いで取り組みました(笑)」

「その姿を見て、代表の方が『来年も手伝って』って言ってくださって、今も継続してます」

発信する理由

イベントの運営側に入ったことで、見えてきた現実がある。

「LGBTQのイベントに関心を持っているのは、まだまだ一部の人だけなのかなって。『LGBTQ当事者のお祭り』ってイメージが、強すぎるのかもしれません」

本当は当事者だけでなく、シスジェンダーの人をはじめ世の中全体に関心を持ってもらいたい。

「当事者の中にも、『レインボーの旗を振って意味があるの?』と、話す人もいます。わざわざ目立たなくてもいい、という言い分はあると思います」

「どっちが正しいのかな、って思うこともありますね」

それでも自分は、自分の経験を伝えることで、生きづらさを抱える人に何かを届けたい。

もっともっと発信していくことで、生きやすい世界につながるはずだから。

生きやすい場所

周りの人に自分のセクシュアリティを受け入れてもらうことが多かったが、中にはマイナスなリアクションを取る人もいた。

以前働いていた職場では、男っぽい言動をするだけで、変な目で見られた。

「男っぽい口調が出てしまった時に、『女のくせに男みたいなしゃべり方しやがって』って、言われたこともありました」

「そう言ってくる人とは、どうしたって合わないんですよね。だから、その仕事は辞めました」

話しても通じない人とは、無理して一緒にいなくてもいい、と思っている。

自分には家族や職場の同僚、友だちといった、わかってくれる人がいるから。

「何も悪いことはしてないし、わかってくれる人もいる。それなら生きやすいところにポジションを移せばいいかな、って思います」

10僕が選んで歩んでいく道

自分なりの生き方

FTMだという自覚はあるが、SRS(性別適合手術)やホルモン治療は受けていない。

「美容部員を目指した時期があるように、美容にはこだわりがあって、周りからは『美容番長』って、呼ばれてます(笑)」

「どちらかというとキレイ系男子のタイプで、全身脱毛もしてるんですよ。毛が生えるから、ホルモン治療はしないでおこうかと」

「筋肉は鍛えてつければいいし、声は仕方ない。それよりもキレイでいたいんです(笑)」

SRSやホルモン治療をしたからといって、自信が持てるとは限らないと感じている。

「SRSをした自分を想像すると、温泉に入る時は前を隠す姿が出てきて、それで満足できるのかな、って思ってしまうんです」

「手術や治療は手段のひとつであって、自信を持てる生き方ができるかどうかは、自分次第じゃないかなって」

自分は今の生き方に自信を持てている。だから、今の姿でいい。

自信の持ち方

最初から自信を持てたわけではない。パートナーがいた頃は、相手に依存していた。

「当時の僕は彼女がいないと生きていけなかったし、彼女のために生きる人でした。パートナーがいないと頑張れなかったです」

「でも、人に頼ってるうちは、自信を持てないんですよね。自分1人になっても肩で風を切れるくらいの強さがないと、自信は出てこない、って感じてます」

そう思えるのは、パートナーと別れて1人になったから。

「セクシュアルマイノリティの居場所はあるけど、そこに行くには自分自身で立ち上がるしかないんですよね」

「自分の足で立つためには、自分に自信を持っていなきゃいけない。自分の生き様を通して、それを伝えたいです」

「ただ、悩みはいくらでも出てくるものだから、僕で良ければいくらでも聞くし、そのために自分が広告塔になろうと思ってます」

ロールモデルのような存在がいることで、立ち上がれる人はいると思うからだ。

「誰かに好かれようと思わなくていいし、寄り添ってくれる人が1人でもいたら十分だな、って最近は思います」

「そして、いつか一緒に歩んでくれるパートナーと出会えたら、うれしいですね」

「互いに依存せず、『一緒にいてよ』って言わなくても当たり前のようにそばにいられる人がいたら、その人が未来のパートナーなのかなって」

僕の本当の人生は、始まったばかり。

これから歩む道が、これから出会う誰かの希望になると信じて。

あとがき
あふれた気持ちと涙、笑い、インタビュー後の晴れやかな笑顔。人間味のある皓埜さん。別れは多くの気づきをくれる。「別れてから僕の革命期が始まった感覚がある」という。押し込めざるを得なかった感情とも上手く向き合うぞ! って心に決めたように感じた■自分を推し進めて、自分の主導権をにぎる。そう考えなくなったときが、自信がついたときかな。皓埜さんの新しい一歩にLGBTERを選んでもらえてよかった。その瞬間に立ち会うことができてよかった。(編集部)

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