02 恋愛と性に対する興味
03 ゲイコミュニティなら恋が成就するかもしれない
04 カミングアウトは社会人になってから
05 東京と地方の人口格差
==================(後編)========================
06 なんでこの仕事をしているんだろう
07 元恋人との共依存関係
08 完璧なカップルなんて、幻想だと思ってた
09 一般人こそ、等身大の姿を提示するべき
10 夢は「世界平和」!
06なんでこの仕事をしているんだろう
介護の仕事
大阪に越してから働いていた飲食店は、売り上げ不振により閉店。
今後は、何か資格を持っていないとまずいだろうと考えるようになっていった。
そんな時、ハローワークで何の気なしに職業訓練校の募集を見ていると、介護職の資格が目に留まった。
「それで、『介護をやりたい!』と思ったんです」
「訓練校に通いはじめて、ホームヘルパー2級など、5つくらい資格を取りました」
訓練校を出てからは、知的障害者の通所施設で2年半ほど働いた。
薄給な業界だということは、資格取得中から理解してはいた。
「でも、せっかく資格を取ってはじめた仕事だし、自分を採用してくれた職場も大切に思っていたので、なんとかがんばって続けたいと思っていたんです」
しかし、そうやって感情を押さえつけていると、徐々に体にも無理が生じてくる。
「ある日、そういうちょっとした変化が度々起こっていることに気づいて、いよいよ『なんでこの仕事をしてるんだろう・・・・・・』って、退職後に思ったんです」
本当の自分の気持ち
自分はどうして介護の仕事をしているんだろう。
改めて考えてみると、きっと他人に「介護の仕事をしているなんて、すごいですね」と言われたい、そうやって周囲から評価されたいがためなんだと気付いてしまった。
「もちろん、働いている時はそういった邪心はありませんでしたよ」
「でも、そういう他者からの承認がほしかったんだって、考えているうちに気がついたんです」
まわりからの評価を抜きに、本当に自分自身がこの仕事を続けたいのかと自問する日々。
「労働のしんどさと給料が見合っていないとか、いろいろ考えました」
そうして悩んでいる時に、現在も交際しているパートナーに「大の大人が、そんな給料じゃ暮らしていけないでしょ」と言われ、ようやく決心がついた。
この業界で転職をしても、給与アップはほとんど見込めない。
この先どうなるかわからなかったが、パートナーの支えもあって、仕事を辞めようと決めた。
07元恋人は、いつしか “同居人” に
別れられないまま10年・・・・・・
現在同棲しているパートナーとは、交際を始めて3年ほどになる。
出会いは、ネットの掲示板だった。
「その頃、僕は前の恋人と一緒に暮らしていたんですけど、当時付き合っていた彼とは、かなり歪んだ関係性でして・・・・・・」
「・・・・・・多分、心の病気だったんだと思います」
彼は、長年引きこもり状態だったのだ。
「一緒に暮らしてはいるけど、僕は全然本音が言えない生活をしていました」
彼はずっと家に引きこもっていて、もちろん仕事もしていない。
自分の安い給料のなかで、ふたり分の生活費をやりくりするしかなかった。
「だからといって、そんな状態の人に『出て行け』とも言えなかったんです」
彼の地元は離れていたから、実家に帰るのにも一苦労だし、無職だから家を出るお金もない。
追い出せるはずもなかった。
別れた方がいいと思いながらも、どうしても別れられなかったのだ。
「負担は大きかったんですけど、なかなか次に進めなかったんです」
気がつけば、そんな生活を10年近く続けていた。
「もうこれ以上はしんどいと思っていた時に、8歳年下の今のパートナーと知り合ったんです」
ちょうど当時、出会ったパートナーも、家族関係で悩んでいた時期で、それぞれの悩みを打ち明けるうちに意気投合。
「そうやって互いに相談しているうちに、『今のままじゃだめだよね、一歩踏み出さなきゃ』と考えるようになっていきました」
前に進むために
彼” から単なる “同居人”になってしまっても、関係をなかなか断ち切れないでいた。
だが、ある日耐え切れなくなり、自分の家を飛び出して現在のパートナーの家にかくまってもらうことに。
「その時に初めて、『この人と一緒にいた方が楽だな』って思ったんです」
その後、以前のパートナーとは何度かいざこざを繰り返しつつも、最終的に別れを選択した。
「でも、一緒に住んでいたのは僕の家だったし、別れるとなると向こうが家を出ていかなきゃいけないんですよ」
彼には、お金も行く当てもない。
「無一文でカバンひとつの状態で追い出したようなものなので・・・・・・」
彼に対する愛情が残っていたかどうかはわからない。
だが、曲がりなりにも、10年分の情はあった。
「こちらとしても、本当につらかったです」
その後、その人とは一度も連絡を取っていない。
08完璧なカップルなんて、幻想だと思ってた
お互いを尊重しあえる関係性
「恋人がいない時もありましたが、そういう時はだいぶ不安定でした」
「常に隣に誰かにいてほしいなって気持ちがあったんですけど、やっぱり付き合うのはダメ男率が高かったです(苦笑)」
それもあって、ゲイ同士で、ドラマに出てくるような円満な男女のカップルになるのはどうせ無理だろうと諦めていた。
「でも、今の彼とは本当にお互いを大切にできているんです」
彼とはただの「好き同士」というだけではなく、悩みや過去の経験を共有できたからこそ、こうした絆を築けたのだと思う。
一方的に支えるのではなく、お互いがお互いを尊重しあう関係性。
「知らず識らずのうちに、互いに役割分担ができている感じですね」
フラワーエッセンスとの出会い
現在は、自宅でフラワーエッセンスの個人サロンを開いている。
「たまたま、知人から『フラワーエッセンスの講座に行ってみない?』と誘われたのがきっかけです」
もともと、ホメオパシーなどに興味があり、フラワーエッセンスも気になっていたところだった。
「それで講座に通うことにして、初めてフラワーエッセンスを飲んでみたら、ものすごく自分が変わっていったような気がしたんです」
それからは、言葉では説明できない、いわゆる “スピリチュアル” なものについて考えることが増えていった。
昨年オープンしたばかりの自宅サロンでは、バッチフラワーエッセンスやティッシュソルトといった自然療法を施しつつ、ホメオパシー療法についても勉強中だ。
09一般人こそ、等身大の姿を提示するべき
次世代のために、自分に何ができるだろう
今はパートナーがいることもあって、ゲイコミュニティにはほとんど関わっていない。
しかし、過去にはセクシュアルマイノリティサークルでスタッフをしていた経験もある。
「やめてから10年以上経ちますが、たまたまFacebookなどでかつてのサークルの友人たちが今でもがんばって活動しているのを見て、いいな、自分にも何かできたらいいなと思ってたんです」
自分がサークルで活動をしていた頃は、「当事者は自己主張をした者勝ち」という風潮だった。
「自分から表に出て発信をし続けていかないと、世間に認識すらしてもらえない時代だったんです」
でも、今ではLGBTがテレビなどで取り上げられるほかにも、非当事者が運営するメディアも登場し、さらに内容も細分化していっている。
「そんな中で、僕らが今の若い世代にバトンタッチしていかなきゃいけないことがあるんじゃないかな、って思ったんですよね」
マイノリティのロールモデルを増やしたい
若いLGBT世代が生きやすい社会を作るためには、ひとりでも多くの当事者のロールモデルを提示するべきだと思う。
「誰かの歩んできた人生を見ることで、何かヒントをもらえるような人も多いと思ったんです」
何より、自分が若い頃は、そうしたロールモデルが不足していたから。
「ロールモデルが少ないと、人生設計が難しくなるんです」
ストレートならおよそ大半が思い描くであろう、「就職して結婚して子どもを産んで」という道は、そもそもゲイの自分には不可能だ。
それならどういう道を進めばいいのか、自分の力だけではなかなか答えを見つけられなかった。
そうやって悩んだからこそ、仕事を転々とすることになったのだと思う。
「今でも、LGBT当事者のタレントさんなどは多いですけど、入れ替わりも激しいですよね」
「そういう人の断片的な情報を見ても、一般人が実生活にフィードバックするのは難しいと思うんです」
だから、そうしたタレントがメディアを賑わすよりも、一般人が等身大の姿をどんどん提示していくことの方が重要なのではないだろうか。
10夢は「世界平和」!
過去の試練を乗り越えたからこそ、今がある
「自分は今の状態に満足しているから、これまで歩んできた過程はそれほど重視していないんです」
過去にはつらいことももちろんあったが、そうした試練は、乗り越えられるものだからこそ天から与えられたのだろう。
今なら、苦しかった過去の経験も、自分にとって必要だったんだと思える。
とはいえ、苦しみの渦中にいて、どうしようもなくもがいている当事者だっているだろう。
「そういう時には、自分が今後どうなりたいかをどんどん広げていって、それこそ宇宙レベルにまで引き伸ばしていくと、小さいことが気にならなくなったりもしますよ」
理想像を事細かに思い描くと、そこへたどり着くまでの具体的な道筋も見えてくる。
「僕は、その思考過程で『地球を救いたい』と思うようになったんです(笑)」
そうやって目標ができると、力も湧いてくる。
夢を実現するために
「夢は世界平和です」だなんて、こっぱずかしくてなかなか人に言えることでもないが、自分としては大真面目に考えている。
「そのために、小さなことから少しずつ、身の回りの人を巻き込んで活動していけたらいいなと思っています」
最初はひとりだったのが、5人になって、10人になって、そして・・・・・・。
そうやって小さな幸せの輪を広げていけば、世界平和だっていつか実現できるかもしれない。
「自分の足下に素敵なものがあれば、きっとそれは伝播していくと思うんです」
「だから、まずは自分自身の在り方を整えていきたいなと思っています」