02 スクールカーストのトップ
03 中2で訪れた人生の転機
04 正体不明のモヤモヤ
05 Xジェンダーという答え
==================(後編)========================
06 本当の自分を知ってほしい
07 全校生徒の前でカミングアウト
08 学校への不信感 再び不登校に
09 YouTuber “ぺさ” としての活動
10 性別からの真の解放
06本当の自分を知ってほしい
親友へのカミングアウト
初めてカミングアウトした相手は、小学校時代から家族ぐるみで付き合いのあった、一番仲の良い友だちだった。
「その頃、TwitterでつながったLGBTの人たちがみんな続々とカミングアウトしてて、背中を押されました」
「自分も早くカミングアウトして楽になりたい、大切な人に知ってほしいなと思って」
面と向かって話すことはできず、親友にはLINEで伝えた。
「まず、Xジェンダーって性別がどんなものなのかと。自分がそのXジェンダーなんだよ、ってことを説明するところから入って」
「自分は何も変わらないし、接し方も変えないでほしい。ただ、自分がXジェンダーであることを知ってほしいって伝えましたね」
親友は、「Xジェンダーだからって、別に恵那が変わるわけじゃないじゃん」と受け止めてくれた。
母への告白
親友に打ち明けて1~2週間後、母にもカミングアウトした。
「いつ、どうやって言うかすごく悩んで、当時付き合った彼女にも伝え方を相談したりして」
「毎日、明日言おう、明日言おうって思い続けてたんですけど、あるとき『いや、今しかないやろ!』って思えたタイミングが来たんです。けど、それが朝のお互い出かける直前で(笑)」
その頃は、再び学校に通いだしていた時期だった。朝の支度を終えたあと、仕事に行く直前の母を呼び止め、カミングアウトする。
「実はずっと自分の性別のことについて悩んでて、Xジェンダーっていう男でも女でもない性別でね、って説明しました」
「母親はものすごく困惑していて。ゆっくり話す時間もなかったんで、とりあえずお互い学校と仕事に行きました」
帰宅後、改めて詳しく話をした。
反対も否定もされなかったが、母は動揺しているように見えた。
Xジェンダーについては知らなくても、たまたま母の周りにゲイやレズビアンの人がいたため、ある程度LGBTの知識はあると知る。
「だから自分も、『どう受け取られるだろう』ってドキドキはあったけど、反対される、否定されるっていう心配はしてませんでした」
「それでもやっぱり、『女の子だと思って育ててた自分の娘が・・・・・・』っていうショックはあったんでしょうね」
母はその後、しばらく悩んでいた。LGBTやXジェンダーについて、自分なりに調べてくれているようだった。
受け入れてくれた家族
カミングアウトから1週間ほど経った頃、再び母から「詳しく聞かせて」と言われ、自分のセクシュアリティや悩みについて説明した。
「母親は受け入れてくれて・・・・・・」
「『学校ではどういうふうに過ごしたいの?』とか、『将来どんなふうにやっていきたいの?』とか、いろんなことを気に掛けてくれました。ありがたかったですね」
父に直接言うことはできず、母が伝えてくれた。
「お父さんに言ったよ、って報告は受けたけど、怖くてどんな反応だったかは聞けなかったんです。いまだに、父親がどう思っているのかわからないですね」
今は両親だけでなく、いとこ家族もセクシュアリティについて理解してくれている。
「自分の周りは寛容な人が多いな、と思いますね」
07全校生徒の前でカミングアウト
制服を変えたい
「中3のときにまた学校に行くようになったんですけど、女子生徒の制服を着るのがすごく嫌で」
「セクシュアリティがはっきりわかり始めたのに、嫌な格好でいるのを我慢したくないなと思いました」
日に日に抵抗感が強くなり、「女子の制服から男子の制服に変更したい」という気持ちを抱くようになる。
「担任の先生はすごく良くしてくれる方だったんで、セクシュアリティのことを打ち明けて、制服を変えたいって言いました」
それでも、学校もまた一つの組織。担任の先生の判断だけで制服を変えることはできない。
学年主任の先生にも伝えたがやはり難しく、結局、校長先生や教頭先生、教育指導の先生にも報告することになった。
親と二人で校長室に呼ばれ、校長先生、教頭先生、教育指導の先生、担任の先生と話をした。
「まず、自分のセクシュアリティについて説明したんですけど、『白川さんはこの学校でどう過ごしたいんですか』『トイレは男女どちらを使いたいんですか』『体育は男女どちらに参加したいんですか』みたいにたくさん聞かれて」
「自分は、制服を変えるだけだから、そんなに難しいことじゃないかなと思ってたんですけど。大ごとになってびっくりしました」
校長先生の言葉に、さらに動揺は大きくなる。
「『いきなり制服を変えると混乱を招くから、他の生徒にもカミングアウトしてください』って言われて」
「制服を変更する事情を、全校生徒の前で説明することになったんです」
真っ赤な原稿
当初は教育指導の先生が話す予定だったが、LGBTのことをよく知らない先生に任せるのは嫌だった。
「それならいっそ自分の口から説明しよう」と覚悟を決めた。
教育指導の先生には、「集会で話すことを事前に紙に書いて提出するように」と言われた。
自分の性別について、世の中にはさまざまな性別の人がいることについて書いたら、戻ってきた原稿は真っ赤に訂正されていた。
「『全校集会はLGBTやXジェンダーについて広めるためのものじゃない。あなたの制服を変更するっていう報告なので、余計なことは省いてください』って言われました」
納得いかなかった。
でも、抵抗はできなかった。
全校生徒は450人。頭が真っ白になるような緊張の中、なんとか原稿を読み上げる。
終わったあとは感情があふれ、仲の良い友だちのところに駆け寄って号泣した。
08学校への不信感 再び不登校に
何の対応もしてくれない学校
全校生徒の前でのカミングアウトの末、制服は変更できたが、学校はLGBTに対して、それ以上の対応はしてくれなかった。
「LGBT支援をしているNPO法人の人が、LGBTに関する講演会を、校長先生に申し出てくれたんですよ。けど、それも断ったらしくて」
「学校に不信感を持ちました」
せっかく制服を変更したが、学校に行く気力はなくなってしまった。
反抗の意も込めて再び不登校になり、卒業式にも出なかった。
「ただ、担任の先生、学年主任の先生はすごく良くしてくれたんです。不登校の期間も、担任の先生が毎日、その日の学校の様子や次の日の時間割を書いたノートを持ってきてくれて」
「卒業式の日も二人が家まで卒業証書を持ってきてくれて、頑張ったねって言ってくれました」
もし学校がLGBTに関する活動をしてくれたら、学校がLGBTの存在を認めてくれたら、また登校できたかもしれないという思いはある。
「友だちは不登校の間も変わらず仲良くしてくれたし、担任の先生や学年主任の先生にはすごくお世話になったけど、学校に対してはいろんな感情があります」
「本当はバレーボールを続けたかったな、とも思いますね」
他の生徒に与えた影響
学校に不信感を持つ一方で、「山場をやっと越えた」という達成感も湧いていた。
「親は、自分が勇気を振り絞って学校側に告げたことを『よくやった』って褒めてくれました。学校に行きなさいって言われることもなかったですね」
嬉しい出来事もあった。
「自分のカミングアウトのあと、学校内でもちらほらカミングアウトする子がいたらしくて」
「Xジェンダーの子も、ゲイの子も、レズビアンの子も、MTFの子もいたみたいです」
高校に入ってYouTube動画の配信を始めてからも、同じ中学校に通っていた後輩から感謝のコメントをもらった。
「『学校は何もしてくれなかったけど、同級生の間では話題になって、自分の性別に気付けた子もいました。カミングアウトしてくれて、ありがたかったです』って言われて」
「勇気振り絞ったかいがあったなって、救われた気持ちになりましたね」
中学卒業後は全日制の高校に進学することも考えたが、自分の性別をどう扱うべきか悩んだ。
性別について説明するのも、制服の変更を求めるところから始めるのも嫌だった。
「どうせ同じ高卒の資格を取れるなら、学校に通う必要がなくて、制服もない通信制の高校でもいいかもな、と思いました」
そんな気持ちから、今の高校への進学を決めた。
09 YouTuber “ぺさ” としての活動
正しい情報を伝えたい
高1の6月から始めた“ぺさ” としてのYouTubeでの動画配信。
有名になってからも、登録者を増やそう、再生回数を伸ばそうという気持ちはあまりなかった。
明るくキャッチーな雰囲気を心がけながらも、観る人を傷つけたくなかった。正しく誠実に情報を伝えたかった。
どうすればそれが叶うかを必死で考え、細心の注意を払って動画を作ってきた。
「例えばゲイいじりみたいに、YouTubeでは人を傷つけるネタをやったり、炎上を狙ったりして再生回数を稼ぐ人もいます」
「でも、自分はそういうことはしたくない。観てくれてる人と誠実に向き合いたいです」
マジョリティの「わからない」もわかる
当事者以外の人にも、LGBTやXジェンダーについて知ってほしいという思いもある。
「LGBT当事者以外の人でも興味を持ちそうな動画をアップして、まずは自分の、“ぺさ” としてのキャラクターを知ってもらって、好きになってもらうことを目指してます」
「『Xジェンダーについて知りたいから、この動画を観る』んじゃなくて、『ぺさが動画を上げてるから見る』って感じになれば、自然とLGBTやXジェンダーについて知ってもらえると思うんですよね」
時には否定的なコメントが来ることもある。でも、「むしろチャンス」だ。
「Xジェンダーって、マジョリティの人にとっては想像しにくいから、よく知らないと『そんなの勘違いじゃん』と思っちゃうのも仕方ないのかなって」
だが、Xジェンダーは実際に存在している。
「今までよく知らなかった人が、自分の動画を観て、『そういう人がいる』ってところまででも知ってくれたら嬉しいですね」
10性別からの真の解放
自立への道
「今年の6月に愛媛を出て、今は東京近郊で一人暮らししてます」
YouTube動画を配信する会社で動画制作スタッフの募集があり、応募したところ、見事採用され上京した。
今は一人暮らしをしながら週に5日働き、合間に勉強している。
時間を見つけて自分の動画を作ったりもする、忙しくも充実した日々を過ごしている。
「会社の人はみんな自分のセクシュアリティを理解してくれてて、すごく働きやすいです」
「個性的な人ばっかりで刺激になるし、トップクリエイターの人と接することもあって、勉強になることが多いですね」
「上京して一人暮らしをしたい」と両親に告げたとき、母は「あなたの好きなことをやって」「せっかくの機会だし、世の中を知って自分の視野を広げるためだから」と応援してくれた。
父からは反対されたが、結局、母が父を説得してくれた。
「父親とは、上京する直前にやっと話ができました。『変な男にも変な女にも騙されるなよ』『自炊しっかりしろよ』『一人暮らしするからには、親に甘えず自立した生活を送りなさい』って言ってくれて」
「こんなに話すのは、めずらしいけど嬉しいな、ありがたいなって思いましたね」
実家を離れ、一人暮らしを始めて、親のありがたさがいっそう身に染みた。
Xジェンダーの枠にとらわれない
Xジェンダーについて知ったばかりの頃は、「男性でも女性でもない」という言葉に安心できた。
得体の知れない自分のモヤモヤに、やっと答えが出たと感じた。
「ただ、今度はLGBTとはなんだ、Xジェンダーとはなんだ、自分はXジェンダーとしてどう生きなきゃいけないんだ、って悩み始めて。Xジェンダーって枠にとらわれてましたね」
「『Xジェンダー』で検索すると、女性の戸籍で生まれた人はみんなボーイッシュな格好してて、メイクもしない人が多くて、中性的で」
「自分もこの枠に当てはまらないとXジェンダーじゃないのかな、Xジェンダーって名乗っちゃいけないのかなって悩みました」
だが、高校に進学し、上京して働き、いろんな人と関わる中で視野が広がる。
いつしか、悩みや迷いは薄れていった。
「そもそも性別にとらわれないのがXジェンダーだから、『あるべき姿』なんてものはないんだ、って気付きました」
「『Xジェンダーはこうあるべき』って枠に、自分からはまる必要はないなって」
「Xジェンダーなのに、メイクが好きなのはおかしいのかな、って悩んだこともあったけど、メイクも自分の見せ方の一環」
「セクシュアリティと好きなものはまったく関係ないし、どんな性別であっても、好きなものは好きでいいと思うんです」
ありのままの自分を見てほしい
たくさん考え、たくさん悩んで、「Xジェンダーも、男も女も所詮は同じ人間。根っこはみんな変わらない」という答えにたどり着いた。
「今でもふわっと『自分はXジェンダーだ』って意識はあるけど、性別の枠に自分を無理やりはめ込むことはもうないですね」
「ありのままの自分でいたい、ありのままの自分を見てほしいと思ってます。実際、本質は昔から何も変わってないんです」
幼少期から変わらず、人と真摯に向き合い、人を大切にしてきた。
今では他人だけでなく、自分自身の気持ちともまっすぐ向き合っている。
今後はYouTubeで発信するだけではなく、もっとマルチに活動したい。
「LGBTやXジェンダーへの理解も広げたいし、Xジェンダー向けのリクルートスーツを作りたいって夢もあって」
性別から解放された先に、真の「自分らしい人生」が広がっていた。
小学生の頃と変わらない。
心の中は夢いっぱいだ。
「やりたいことはたくさんあります。思ってるだけじゃ何もできないんで、とにかく行動に移したいです!」