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山形から発信し、LGBTの理解の輪を広げていく。【後編】

山形から発信し、LGBTの理解の輪を広げていく。【前編】はこちら

2024/03/10/Sun
Photo : Taku Katayama Text : Kei Yoshida
髙橋 明 / Akira Takahashi

1990年、大阪府生まれ。2歳まで児童養護施設で育ち、山形県の両親に養子として迎えられる。7歳のとき、クラスメイトの男子に恋愛感情を抱いたことから、自分の性的指向が同性であることに気づく。LGBTという言葉を知ってからは、自分はG(ゲイ)なのだろうと考えていたが、自分のなかに女性的な視点もあることから中性あるいは両性という立ち位置でのXジェンダーであると自認する。

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INDEX
01 優しい母、ちょっと怖い父
02 男の子が好きな男の子
03 部活の先輩に初めての告白
04 男だけど “僕” も “俺” も言えない
05 自分は本当にお母さんの子ども?
==================(後編)========================
06 BLで知った男性同士の恋愛
07 告白した相手から「うれしくない」
08 ゲイではなくXジェンダー
09 職場での思わぬカミングアウト
10 誰かの “勇気” になりたい

06 BLで知った男性同士の恋愛

男性の自分は恋を諦めるしかなかった

高校生になって、好きになったのはバドミントン部のOB。
よく部活の練習に来て、指導してくれていた。

「同級生の女の子が、その先輩のことを好きになって・・・・・・。私が先輩と仲がいいことを知って、自分では告白できないから、気持ちを先輩に伝えてほしいってお願いされたんです」

「私も先輩のことを好きだったけど、その子の気持ちを先輩に伝えました」

「後日、その子と先輩が電話番号を交換して、食事に行って、付き合うことになったと聞きました・・・・・・。悲しかったですね(笑)」

それでも、諦めるしかなかった。
男性の自分が告白しても、可能性はなかっただろう。

「先輩だって、女の子のほうが好きなはずだから・・・・・・」

男女の恋愛が一般的であると理解していた反面、同性を好きになる自分の気持ちは一体なんなのか、説明できずにいた。

その答えになったのがBL(ボーイズラブ)だった。

女の子になっちゃえばいいのに

「それまでは少女漫画を主人公の女の子の視点で読んでいて、恋愛の先に結婚があって・・・・・・という物語しか知らなかったんです」

「BLを読んで、同性でも好きになったらデートして、キスをして、それ以上の行為もあるってことを知りました」

これが、同性同士の恋愛なんだ。
大きな発見だった。

「高校生の頃は、カミングアウトという言葉を知らなかったんですが、周りからは『明くんは男の子が好きな男の子』と認識されてました。みんなもゲイという言葉を知らなかったので」

テレビ番組では “ニューハーフ” と呼ばれるタレントが人気だったこともあり、“男の子が好きな男の子” の存在は周知されていた。

しかし、タレントたちは女性の格好をしている場合が多く、彼らと自分の違いを説明するとなると、また困惑してしまう。

「友だちから『明くんはオカマさんになりたいの?』ときかれても、いや、ちょっと違うな・・・・・・・って」

「男のままで男の人を好きになりたいって気持ちを説明しても、『それだと相手の男の人から好きになってもらうのは難しいから、女の子になっちゃえばいいのに』とも言われました」

「そう言われても、どうやってなればいいのかわからないし、そもそも女の子になりたいわけでもないし(苦笑)」

友人たちに悪意はない。
恋愛がうまくいくように、本気でアドバイスしていたのだろう。

「男の子の友だちからも、女の子と試しに付き合ってみたら」
「女の子とキスしてみたら変わるよ」
「同性が好きだなんて、ただの思い込みだ」

率直に言う友だちもいた。

それでも、好きだという気持ちはどうしようもなく、変えようがない。
自分にとっての紛れもない真実だった。

07告白した相手から「うれしくない」

将来は真っ暗?

昼は働いて、夜は学校で勉強。
高校時代はそれで十分すぎるほど満たされていたせいか、未来はまったく見通せなかった。

「将来どうなりたいかってきかれても、全然思いつかなかったんですよね。結婚したい気持ちはあっても、相手が男性だから、いまの日本では結婚できないし・・・・・・・」

将来が真っ暗に思えた。

「高校を卒業して大人になっても、就職して、通勤して、ただ生活するってことしか思い描けなかったんです」

19歳上の男性に恋をして

高校時代はスーパーマーケットで品出しのアルバイトをしていた。
そこでは、19歳上の男性に恋をした。

「私が17歳のときだったので、そのかたは36歳。生肉担当だったので、私とは部門が違ったんですけど、よく声をかけてくださったんです」

「私が仕事で失敗してしまって、店長に怒られて、落ち込んでいるときも、その先輩はなにも言わずに肩をポンポンと叩いてくれたり」

さらに仲良くなりたいと思っていた矢先、先輩がカフェでスイーツを食べるのが好きだということを知った。

そこで、勇気を出して「今度一緒にカフェに行きたいです」と誘ってみた。

「そしたら断られてしまったんですよ(苦笑)」

「でも、パートのおねえさんたちが、私が断られているのを見ていて、『1回くらい行ってあげたら?』と先輩に言ってくださって」

「一緒に2回、カフェに行きました」

告白のあとも変わらない態度で

カフェに行った2回目、先輩が別店舗に異動になると知る。
ここで気持ちを伝えなくては、と勇気を振り絞った。

「面と向かって『先輩のことが、ずっと好きでした』って言いました」

しかし、「そんなこと言われてもうれしくない」と返される。

「あぁ、うれしくないか・・・・・・とショックでしたが、私は男の子だし、19歳も離れているし、断られてもしようがなかったと思います」

「バッサリと断ってくださったのも、優しさだったのかも。そのあとも、それまでと変わらずに接してくださっていたので」

そんな少し苦い思い出のある先輩と、ある日訪れたコンビニエンスストアで10年以上ぶりにばったりと遭遇。

顔を見た瞬間、すぐにお互いがわかった。

「あまりのうれしさに、握手しました!」

「先輩は『よう、元気してたか? いまなにしてるん?』って」

告白したあとも、久しぶりに会ったときも、変わらない態度で接してくれる先輩がありがたかった。

08ゲイではなくXジェンダー

告白したら「うれしい」と

高校を卒業して就職したのは、きのこの生産会社。
近所に住む顔見知りの人が働いていたので、安心感があった。

「あと、男の人は60歳以上のかただけで、ほとんど女性しかいない職場だったので、気がラクだったんです」

「恋愛感情を抱いてしまうような相手が職場にいたら、仕事に支障が出てしまうかも・・・・・・と心配していたので」

だからこそ、出荷係を担当することになったときは不安になった。

「出荷場には男性がいますし、どうしよう、って。でも、好きになるような男性とは出会えなかったので、逆によかったなぁって(笑)」

その後、出荷場で出会った人からの勧めで、農業塾に通うことになった。

「そこの面接に行った帰りに、車が故障してしまって・・・・・・。困っていたところを助けてくださった農業塾の畜産部長を好きになってしまいました。もう、この人がめちゃくちゃカッコいい人で」

「でも、部長は結婚して、お子さんも2人いらしたんで、付き合えないとわかっていたんですが、気持ちだけは伝えました」

「そしたら、『うれしい。ありがとう』って、言ってくださったんです」

「部長は男性からもモテるタイプだったみたいで、以前にも同性に告白された経験があるようでした。もちろん、バッサリ断られましたけど(笑)」

「でも、気持ちを伝えてすごくスッキリしました!」

ゲイでもトランスジェンダーでもなく、Xジェンダー

どうしても男性に惹かれてしまう自分は、ゲイなのだろう。

ずっとそう考えてきたが、LGBTQという言葉が広まってきて、さまざまなセクシュアリティが存在することを知った。

自分以外の当事者とも出会う機会を得て、本当に自分はゲイなのか? という疑問も浮かんできた。

「周りのゲイの人と比べても、私には女性らしい感性とか、言葉使いとか、仕草とか、どちらかといえば女性の要素が多いように思えたんです」

「とはいえ、はるな愛さんやカルーセル麻紀さんのように、女性になりたいわけではないので、トランスジェンダーではないなぁ、と」

「私は男性と女性のあいだにいて、私には男性と女性の両方の要素がある」

「そう考えたときに、Xジェンダーという性別がしっくりきました」

同時に、恋愛についても深く考えた。

「いままで、ずっと想いは一方通行で。それでは成立しないなと思って」

「これまで以上に、好きになった相手の気持ちを考えるようになりました。自分は好きだけど、相手が求める自分との関係性ってなんだろう、って」

「好きになっても、すぐに気持ちを押し付けず、ちょっと一歩おいて、相手は自分とどうなりたいのか、自分はどうなのか、考えるようになりました」

「でも、考えすぎて頭が爆発して、結局どうしたらいいのかわかんなくなってしまうこともあります(笑)」

09職場での思わぬカミングアウト

男と女、どっちが好きなのか

幼い頃から、誰に対してもありのままオープンにしてきた。
大人になって社会に出ても、Xジェンダーであることは周りに隠していない。

ある時、はっきりとしたカミングアウトを求められたことがあった。

「消防団の先輩に、男と女、どっちが好きなのか、はっきり言ってくれと言われたんです。ほかの消防団員のみんながいる前で」

たとえば好きな女性の話題など、通常なら男性が興味をもちそうなことに無関心であることが、以前から気になっていたらしい。

「どっちが好きなのか、はっきり言ってくれたら、俺たちもスッキリするから、って。はっきり言いました。男性が好きですって」

「そしたら、テレビで見たことはあるけど、身近にそんな人がいたなんて、と驚いたようでした(笑)」

「隠そうとは思わなかったですね。隠しているほうがつらいですから。先輩が直球で質問してくれて、周りに話すいい機会だったと思います」

結婚は諦めてください

両親には、カミングアウトはしていない。

「父は、私が30歳のとき、脳梗塞で倒れて72歳で亡くなってしまったんです。カミングアウトしていないまま・・・・・・」

「母は・・・・・・テレビなどでLGBTQの話題になったりしても、ちょっと理解できないようなそぶりなので、『いろんな人がいるんだよ』と言って、同性愛の話とか、同性婚のニュースとかを見せたりしてます」

多くの親と同じく、母も、息子が結婚して家庭をもつことを心待ちにしていると、口にすることもあった。

「それは無理です、諦めてください、ってはっきり言いました(苦笑)」

「親孝行はしますけど、私の奥さんやお子さんというのは諦めてくださいって。好きな子はいないし、出会いもないし、結婚はいいですって言いながら、母と一緒にテレビを観ているときに『あの俳優さんかっこいいよね』って言ったりして・・・・・・私は男性が好きなんだってことをコツコツと伝えているつもりです(笑)」

現在の仕事は、日によっていろんな現場に出向くため、日々新しい出会いがある。もしも、素敵な男性に出会ってしまったら?

「それが、いまの仕事のリスクなんです」

「職場ではカミングアウトしていて、理解していただいているんですけど、仕事に支障が出ないか心配で(笑)」

「でも、いろんな仕事ができるいまの職場は楽しいです!」

10誰かの “勇気” になりたい

いろんな人とリアルで会う

現在は、地元のLGBTQ関連イベントに積極的に参加している。

庄内レインボーマーチでは、テレビのインタビューにも応えた。

「Xジェンダーというセクシュアリティについて、山形県からもどんどん発信して、全国に理解の輪を広げていきたいです、と話しました」

「インタビューが放送された翌日には、職場の人に『昨日テレビに出てたね』って言われました(笑)」

パレードに参加した時は、沿道から笑顔で手を振ってくれる人がいて、とても勇気づけられた。

「意外に、こんな田舎でも、LGBTを受け入れてくれる人たちがいるってわかって、うれしかったです」

「次も参加したいですし、東京のレインボープライドにも来年は絶対に行こうと決めているんです」

「あと、いまはインスタグラムを通して、いろんな人たちと繋がらせていただいて、そのかたたちとリアルでもお会いするようにしているんです」

「リアルで会うってことが大切だと思うんで」

実際に会って、言葉を交わすことは、SNSやネット通話ではわからなかった発見や感動がある。

「想像してたよりも小柄な人だったんだ、とか。逆に、想像通りの人だった、とか。そうした発見もおもしろいです」

山形で発信することに意味がある

「奈良や大阪、名古屋・・・・・・いまはいろんなところに住んでいる人たちに会うようにしてるんですけど、奈良のトランスジェンダーのかたと話していて、『自分が住んでいる場所で認められたい』というおもいの強さを聞いて、すごく共感しました」

「私も山形で発信していくことにこそ、意味があると考えています」

その発信が誰かにとっての “勇気” になればいい。

「もしも、自分のセクシュアリティに違和感や疑問を感じて、つらいおもいをしている人がいたら、ひとりで悩まないで、なんでも話せるような信頼できる友だちを、ひとりでもいいからつくってほしい」

「そして、自分を絶対に否定しないで。自分自身をまず認めてほしい」

自分も、なんでも話せる友だちに救われたからこそわかる。

「小学校から仲の良かった3人の女の子友だちは、いまも繋がっています」

「友だちは、『明くんは、子どもの頃よりも堂々としていて、すごくいいね』『生き生きと、自分らしさが出せるようになってよかったね、おめでとう』って言ってくれています」

ときには頑固に自分らしさを守りながら、「ここで生きていく」という覚悟をもって、これからも山形から自分の生き方を発信する。

あとがき
「おはようございます」。日焼けしたお顔から笑みがこぼれる。「素敵な男性に出会ってしまったら(困る)」というときも、明さんはずっと笑顔だった。家族にも親しい人にも丁寧語。話しを聴くほどに、しっくりきた■考えが及ばなかったと非を認めたり、相手を許すこと。コミュニケーションは勝ち負けではないとわかっていながら・・・と思う人が少なくないのでは? 明さんは自然に身につけていった。それは、マイナス感情に支配されることなく生きることでもあった。(編集部)

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