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乗り越えられたのは、自分の苦しみが誰かを救えるかもと思えたから。【後編】

乗り越えられたのは、自分の苦しみが誰かを救えるかもと思えたから。【前編】はこちら

2023/09/02/Sat
Photo : Miho Eguchi Text : Kei Yoshida
永田 滉 / Akari Nagata

1994年、北海道生まれ。保育園に通っていた頃から自分の性別に違和感をもち、14歳のとき母親にカミングアウト。神奈川大学外国語学部に在籍中、文法に性をもつ言語のひとつとしてスペイン語に注目し、言語における性一致の傾向が性的少数派に与える影響などについて卒業論文を執筆した。25歳のときにホルモン治療を始めたが、数回行ったのちに中断。性別適合手術も改名も性別変更もせず、自分の思うままで生きていくことを選んでいる。

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INDEX
01 「女の子らしくしなさい」
02 男友だちと一緒がいい!
03 TVドラマで知った「性同一性障害」
04 昭和のアイドルに救われた
05 性別適合手術はしないという選択
==================(後編)========================
06 オープンに過ごした女子寮生活
07 LGBTQ当事者として言語の性に向き合う
08 さまざまな苦しみを抱えた仲間とともに
09 LGBTQである前にひとりの人として
10 生きやすい社会に重要なのは教育

06オープンに過ごした女子寮生活

「生きたいように生きられるのが一番いい」

高校卒業後は自分の視野を広めるため、生まれ育った北海道を出て、神奈川大学へと進学した。

「大学では、留学生と一緒の女子寮で生活してました。最初はすごいイヤだったんですけど、家賃も安いし、仕方なく(苦笑)」

「でも、やっぱり自分は周りに恵まれるのか、寮はいい人たちばっかりで」

「4階に住んでたんですけど、4階だけめっちゃ仲良かったんですよ。ほかの階からうらやましがられるくらいでした(笑)」

同じフロアの友だちには、全員にカミングアウトした。

「8人いたんですけど、全員の前で、っていうよりは、個別に伝えました」

「みんな『生きたいように生きられるのが一番いいと思うから』とか、『別に気にしない。知り合いにもいるから』とか言って、あまり抵抗がなかったのかなって思います」

「お風呂が共同だったのが困りましたけど(笑)。まぁ、もういいかなって感じになってました。幼馴染み感覚というか」

「それくらい仲良かったんです。ほんと、周りに恵まれました」

ボクシング全日本大会で準優勝

寮では、初めての恋人もできた。

「韓国からの留学生。あれが、初めて、ちゃんと実った恋でした(笑)」

大学では、部活動にも力を入れる。

「15歳からボクシングをやってたんです。単純に、強くなりたいって気持ちもありましたけど、昭和のアイドルもそうですが、周りがあまりハマらなさそうなことをやるのが好きで(笑)」

大学のボクシング部は男女合同で活動した。

「体格とか、男女で全然違うから、『うわ、自分めっちゃヨワ』ってヘコむことはありました。思い知らされた感じです(苦笑)」

「なので、自分はパワー派じゃなくて、頭脳派にシフトチェンジしました。あとは、やっぱり基礎をしっかり身につけようとしましたね。練習は、男性部員に追いつくために人一倍やったと思います」

「せっかくの一度きりの人生なので、思いっきりやってみようと思って」

「ボクシングって楽しいんですよ。自分が打たれないように、どうやって相手を制すか、考えるのがおもしろい」

「結構、奥が深いんですよ、ボクシングって!」

大学3年生のとき、全日本女子ボクシング選手権大会に出場。
シニアライトウェルター級で準優勝を果たした。

07 LGBTQ当事者として言語の性に向き合う

言葉は自分の性別に合わせたい

神奈川大学外国語学部ではスペイン語を専攻。
もともとはトルコ語を学びたいと思っていた。

「興味があって、独学でトルコ語を学んでいたんですが、トルコ語を専攻しようとすると大学が限られることもあって、大学入試の際にはスペイン語も選択肢に入れました」

「スペイン語をしゃべれたらカッコいいし、なんかモテそう、って下心もありました(笑)」

「いざ勉強していくと、男性名詞と女性名詞というものがあって、生徒が2人1組になって会話の練習をするときに、自分が男性名詞を使うと先生から『あなたは女性でしょ』って言われて・・・・・・」

「残念ながら、生徒の名簿は男女で分けられていて、自分は女性のところに名前があったので。スペイン語を話すのって、なかなか大変だなと」

「学んでいる立場でさえ大変なんだから、ネイティブはもっと苦労しているはずだと思いました」

その自らの大変さを、大学内のスピーチコンテストで発表した。

自分が思う性別で話したい。
言葉は、自分が思っている性別に合わせたい、と。

そして、『言語における性一致の傾向が性的少数派に与える影響と可能性』というテーマで研究を進めた。

LGBTQもそうでない人にも、言葉の正誤を決めつけるべきではない

「スペイン現地では、もちろん人によりけりなんですが、例えばFTMだと名詞は男性形を使うことがあるようです」

「MTFの場合だと、さらに大変そうで、女性形が使える場面がかなり限られると聞いてます。差別的な目で見られてしまうから使いづらい、と。とはいえ、男性形を使うと自分が思う性別との不一致で苦しいし・・・・・・」

「それからXジェンダーなど、男女どちらでもない、どちらかわからないって人たちが、男性形でも女性形でもない新たな形をつくっているケースもあるようです。中立的な形というか」

「でも、その新たな形がまだ浸透していないから、気軽には使えないそうで・・・・・・。SNSなどで広まっていくといいんですが」

そもそもLGBTQか否かに関わらず、その人が話す言葉に対して、正しい、あるいは間違っていると決めつけるべきではないと考える。

「確かに文法上のルールというのはあるんですが、それはあくまで便宜上のルールってだけなので。ルールどおりに使いたい人は使えばいいし、たとえばトランスジェンダーだったら、自分が使いたい文法で話せばいいと思うんです」

「この文法を使いましょう、ではなく。こんな表現も使えますよ、って選択肢があるといいなって考えてます」

08さまざまな苦しみを抱えた仲間とともに

「LGBTQの支援団体で働けばいい」

男として生きていくと決意し、いま性別適合手術は受けない生き方を選んでいる。

生き方は人それぞれだが、トランスジェンダーFTM(トランスジェンダー男性)同士であれば共有しやすい悩みというものもある。

「ホルモン注射を打つ前は、やっぱり心配なこともあったし、当事者だからわかることもあるので、SNSとかで当事者コミュニティを介して、FTMの人と知り合うことができました」

「当事者の知り合いがいるだけで、安心するっていうのはあります」

大学卒業後も「男として」働こうと思っていたが、戸籍は女性のままだったため、理解を得られないこともあった。

「最初の就職先は、インターンをしていたときに『もしかして、そうなの?』ってきかれたので、『あ、そうです』って答えて、それで済んだのでかなりラクでしたね。そのまま、男性という扱いで働けました」

「ただ、別の会社で面接したときに、性同一性障害のことを話したら、『それなら、そういう人たちの支援をするところで働けばいいじゃん』と言われたことがありました」

「その会社とは、縁がなかったんだと思います」

仲間がいたから生きてこられた

「いま働いている会社も、環境は恵まれてます」

「自分は、オープンになんでも話します、なんでもきいてくださいって感じで言ってますし、理解もしていただいてます」

いまも昔も、周りには理解をしてくれる人がいて、いつも支えられてきた。

それでも、思い返すとやはりつらい時期はあった。

「女の子らしくしなさいって言われたときも、生理がきたときも、なんで自分は生まれてきちゃったんだろう、ってつらくなりました」

「でも自分は、たとえば生理がきたとき、どれだけしんどいかを体が覚えています。だからこそ、ほかの女性に対しても思いやる気持ちが芽生えたりするんだと思うんです」

「だから、自分の苦しみが誰かを救えるかもって思うと、なんとか乗り越えられたっていうのはあります」

「苦しいとき、自分だけ追い込まれて終わるんじゃなくて、追い込まれたときに、ほかにも苦しみを抱えている仲間が周りにいっぱいいて、そういう人たちと一緒にがんばってきたから・・・・・・。そこまでひどく自分を責めることもなく、生きてこられたのかなって思います」

これからは、そんな想いをいろいろなかたちで発信していきたい。

09 LGBTQである前にひとりの人として

「LGBTQ」より「自分自身」を

自らの体験から紡ぎ出された想いについて、ぜひ伝えたいことがある。

「性別がどうこうよりも、まずは自分を大切にすることがすごい大事!」

「自分は “永田滉” というひとりの人として、周りと接してきたからこそ、いまの自分があると思うんですよね」

「自分を受け入れる・・・・・・これがなかなか難しいですけど(笑)」

どうせ周りはLGBTQのことなんて理解してくれないだろう、と決めつけない。

「まずは自分自身を理解してもらう努力をしないと。これはもう、性別とか関係なく、生きていくうえでみんなに共通して大事なことだと思います」

「あと、自分を理解してもらいたいなら、相手を理解しようとする。相手がどうやったら理解しやすいかを考える」

そうした配慮があるだけで、だいぶ人生が変わると気づいた。

「まずは自分を受け入れて、周りにも受け入れてもらって、それから徐々に、カミングアウトできるなって思ったらすればいいし、したくなければしなくていいと思うし」

「そんなふうに、自分を大切にするっていうのは、すごい大事だと思います」

カミングアウトされたときのNGワード

そしてもうひとつ。
カミングアウトされる側に立って思うことだ。

「自分もカミングアウトされる側に立つことはあるので、されたときに自分はどう思うかな、どう対応するかなって考えることが、実際に自分がカミングアウトするときに重要になると思います」

「あと、カミングアウトされたときにどう答えたらいいかって、よくきかれるんですけど、言っちゃいけないことがいくつかあって。たとえば『そういう人と友だちになりたかったんだよね』とか。これは絶対にNG」

相手との関係性や言い方もあるかもしれないが、実際に言われたときには、自分の存在が軽く見られたように感じられて、深く傷ついた。

「そう言った人も、悪気はなかったかもしれないんですが、この人とはおそらくいい関係にはなれないなと思ってしまいました(苦笑)」

そのほかには、打ち明けてくれた相手が自分と同じセクシュアリティだったとしても、いろんなケースがあるので、まずは相手の話を聞きたい。

10生きやすい社会に重要なのは教育

当事者の視点や語学を活かして社会に貢献

現在は、製薬会社に勤めながら埼玉県に暮らしている。
北海道に帰りたいとも、語学力を活かして海外移住をしたいとも思わない。

「いまはこのままで。海外とは日本国内で交流すればいいかなって」

「転職したばかりっていうこともあるので、ここで、自分の得意なものを活かして、社会に貢献できたらって思っています」

「語学とか、性別のこととかは、自分の強みだと思っています」

まずは県内のLGBTQの当事者支援団体にアプローチしたいという考えもある。

そして今後、LGBTQに対する社会の理解を広めるには教育が重要だと考え、子どもへの教育支援なども視野に入れている。

「これまで自分が生きやすい環境をつくろうと思って、かなりエネルギーを費やしました。生きやすい環境をつくりやすい社会にするためにも、教育って重要な役割を果たすのかなって思います」

「学校教育もそうですが、家庭でも。あらゆるところが教育の場です」

生まれたことに誇りを

教育のひとつの有用な情報となるように、自らの体験や想いを発信することが必要だと思うのだ。

「子どもたちのほうが柔軟で、周りへの関心度も高いと思うので。自分の考えが役に立つといいなって思ってます」

LGBTQが生きやすい社会は、きっとすべての人にとって生きやすい社会。

「特別な環境を新たにつくるってことではなく、LGBTQの当事者を特別扱いするってことでもなく、ただ、ふつうに暮らしていけるようにするだけだと思うんです」

「そういう社会になってほしい。なっていくには教育は欠かせないです」

「そうして、生まれたことに誇りをもちたいですね。自分も、こんなふうになるには、時間がかかりましたよ(笑)」

「なるべくポジティブな人と一緒にいるようにしたり。人を選んで、環境をつくって・・・・・・そうして生きてきたのかも」

そうして得ることができたこの環境を守っていくこと。

そして、この環境に生きられるように自分を支えてくれた人たちの顔を思い浮かべながら、これからも生きていく。

あとがき
この笑顔のまま! 穏やかな人、滉さんだ。ボクシング、スペイン語、ホルモン療法・・・体験してみたからこその気づきがあり、そのつど選択してきた。誰かから聞いたことは、どこまでいっても他人事。自分の中のゆずれないものを滉さんはきっと知っている。■ 新学期が始まったね。自分自身の味方でいよう。人に合わせることや我慢に慣れてしまうと自分の本音がわからなくなるかな。「私はどうしたい?」と問いかけて。相手を大切にすることは、その先に生まれるよ。(編集部)

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