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セクシュアリティは変わってもいい、って思ってる。【後編】

セクシュアリティは変わってもいい、って思ってる。【前編】はこちら

2019/01/02/Wed
Photo : Taku Katayama Text : Ryosuke Aritake
佐久間 雄太 / Yuta Sakuma

1997年、新潟県生まれ。高校生まで生まれ育った新潟で過ごし、青森の弘前大学に進学。現在3年生。女性に恋心を抱く一方で、男性にも好意に近い感情を覚えてきたため、今はバイセクシュアル、女性に対してのみノンセクシュアルだと自認。学業のかたわら、学生限定無料フリースペース「賢者屋」のインターンシップに参加している。

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INDEX
01 自然に囲まれて育った人見知りの少年
02 自分を変えてくれたチームプレイ競技
03 ほろ苦くあどけない恋心の思い出
04 ずっと続くと思っていた恋人との時間
05 本物に思えなかった「好き」という感情
==================(後編)========================
06 バイセクシュアルであることの葛藤
07 留学先で肯定してもらえた自分
08 カミングアウトする意義のある人たち
09 仕事選びの軸は “人と密に接すること”
10 セクシュアリティは揺れ動くもの

06バイセクシュアルであることの葛藤

バイセクシュアル・ノンセクシュアルの自分

中学時代、男の先輩に恋愛感情に近い気持ちを抱いた。
自分はゲイなのかもしれない、という考えがよぎる。

しかし、それ以降、男性に興味を持つことはなかった。

「中学の終わりから高校までは、つき合っていた女の子のことで頭がいっぱいだったので(笑)」

「だから、ゲイじゃないとは思うけど何なんだろう? って考えてました」

大学1年生の時、差別・共生を専門にしている講師の授業を受けた。

差別や偏見を扱う内容だ。

「授業の中では、子どもや障がい者に加えて、LGBTのことにも触れていたんです」

「そこで初めて聞いて、気になって調べました」

LGBTの “B” バイセクシュアルというセクシュアリティを知った。

男女どちらも好きになれる自分は、バイセクシュアルなのだと実感。

「どっちも好きになれる性があることを知って、さらにLGBTを深掘りしたんです」

「調べていくうちに、ノンセクシュアル(非性愛者)の存在を知りました」

恋愛感情はあるが、性的欲求を持たないノンセクシュアルは、自分自身にぴったりハマるように感じた。

「ノンセクシュアルは、女性に対してだけなんですけどね」

割り切れない自分

自分がセクシュアルマイノリティだと自認することに、抵抗感は抱かなかった。

「自分に一番合っているものがいいな、って考えなんです」

自分自身に葛藤してきたからこそ、しっくりきたセクシュアリティを受け入れられた。

しかし、心のどこかで、男女どちらも好きという割り切れない自分に葛藤していた。

「本当にバイセクシュアルでいいのかな、って自問自答していました」

「女の子が好きだから、やっぱりストレートなんじゃないか、って認めたくない自分もいて・・・・・・」

07留学先で肯定してもらえた自分

新鮮さしかない初海外

大学2年生の夏、1カ月間だけニュージーランドに留学した。

「もともと海外に行きたいな、って願望があったんです」

「学校が費用を出してくれる制度があったので、いい機会だと思って面接を受けました」

面接に合格し、オークランド工科大学への留学が決まる。

「初めての海外だったんですけど、何もかも新鮮でしたね」

「ニュージーランドって、よく雨が降るんですよ。晴れてても5分後には雨が降ったりするから、傘は必需品でした」

「あと、路線バスに『○○行き』みたいな表示が出ないんですよね」

「アナウンスもないから、最初は乗り過ごさないように、ずっと外を凝視してました(笑)」

「You are you」

ニュージーランドでは、同性婚が認められている。

「知っていたから、面接の時も『ニュージーランドでLGBTに関して調査したい』って話しました」

いざ訪れると、国籍も宗教もセクシュアリティも違う人たちが、普通に街を歩いていた。

「ゲイカップルが手をつないで歩いてて、なんていい国なんだ、って思いましたね」

「障がい者にもやさしい国で、車いすの人もよく見かけました」

現地で仲良くなったニュージーランド人の友だちに「LGBTについてどう思う?」とインタビューをした。

「僕はクリスチャンだから宗教的にはダメだけど、個人的にはいいと思うよ」と返ってきた。

「キリスト教の割合が多い国だけど同性婚が認められてるって、すごいことですよね」

「宗教と自分自身を分けるって、面白い考え方だなって」

「その友だちに言われた『You are you(あなたはあなたでしょ)』って言葉は、忘れられません」

葛藤している自分を、少し解放してくれた気がした。

LGBTの認知度

オークランド工科大学には、LGBTサポートセンターが存在する。

「大学側が積極的にLGBTの啓発活動を行っていて、ブースを開いてるんです」

教育機関が取り組むからこそ、社会全体に広がっている気がした。

「ニュージーランドに渡った後に、弘前大学でアンケートを取ったんですよ」

LGBTの認知度に関する調査を行った。

LGBTという言葉を聞いたことがある人は、ほぼ100%。
しかし、そのほとんどが意味までは理解していなかった。

「ニュースとかで聞いたことがある人は、多いと思うんです」

「でも、アルファベット1つ1つが何を意味するか、調べる人は少ないんですよね」

調査後、大学側に「ワークショップを開いたらどうですか?」と掛け合った。

「ニュージーランドと日本では、LGBTの認知度に明らかな違いがあることを知りました」

08カミングアウトする意義のある人たち

あっさりとした結末

留学を終え、日本に帰ってきた時、気持ちがオープンになっていたのかもしれない。

大学で仲良くなった男友だち2人と、飲みに行った日のこと。

2~3軒はしごし、酔いも回ったところで、友だちから「最近隠してることない?」と聞かれた。

「多分、友だちは深い話をするつもりじゃなくて、冗談っぽい軽いノリだったんですよ」

「でも自分は、カミングアウトする意義がある人たちだと思ったんです」

それまで3人でコイバナをすることもあったが、自分を偽っているような気分だった。

本当の自分を知ってほしいと思った。

携帯電話に「バイセクシュアル」と打ち込み、「これなんだよね」と画面を見せた。

友だちの返事は、「へぇ、そうなん?」。

「『まじで!?』みたいに驚かれると思ったら、あっさりしていて、逆に驚かされました(笑)」

「2人ともめちゃくちゃサバサバしていて、『いいじゃん別に』って感じでしたね」

「打ち明けたら離れちゃうんじゃないかって不安だったから、そのリアクションはうれしかったです」

打ち明けた後も、友だちから特別視されることはなかった。

むしろ「どういう人が好きなの?」「最近いつやったの?」と、話の内容は以前と変わらなかった。

「セクシュアリティを知った上で、同じ土俵で恋愛の話ができることがありがたいですね」

近い存在だから言えないこと

大切な友だちにはカミングアウトできたが、家族には伝えていない。

家族や親戚からは、厳しい反応が返ってきそうだから。

「留学から帰ってきた時に、伯母にニュージーランドの話をしたんですよ」

「『同性婚が認められてて多様性があるし、みんなフレンドリーだったよ』って」

「伯母は『雄ちゃんはそうじゃないよね?』って、確認されたんです(苦笑)」

セクシュアルマイノリティについて、知らないからこその反応だったのかもしれない。

それでも、自分のセクシュアリティのことを話そうとは思えなかった。

「両親も、自分が打ち明けたら『女の人と結婚できるんでしょ』って縛られるかもしれない(苦笑)」

今後どうなるかはわからないが、離れて暮らす今は現状維持でいいと思っている。

09仕事選びの軸は “人と密に接すること”

本当にしたい仕事

現在大学3年生、就職活動を目前に控えている。

「高校生までは、学校の先生になりたかったんです」

「大学生になって、先生に限らずに、人に何かを教えられるような仕事をしたいと考えるようになりました」

人材育成・教育方面の仕事を視野に入れて、授業を取ってきた。

大学3年生になり、将来を真剣に考え始めた。

学生向けの無料フリースペースを運営している賢者屋、そのインターンシップに参加。

「今年の8月に、賢者屋の古谷美桜さんと話させてもらったんです」

「いままで何をやってきたの?」「何が好き?」「居場所って何?」と、さまざまな質問をぶつけられた。

「その質問に、全然答えられなかったんですよね(苦笑)」

「自分の中で芯になるような、固まってるものがなかったんです」

古谷さんから「自分が何を大切にしたいのか、考えた方がいいよ」という助言を受けた。

改めて、自分が本当にしたい仕事、やっていきたいことは何か、考える日々が続いた。

ブレない芯

「考える中で見えてきたものは “人と密に接すること” だったんです」

「大勢を相手にするんじゃなくて、1人ひとりに寄り添える仕事がしたいなって」

自分の中の芯が見つかった。

同時に、大きな気づきがあった。

「人と密に接するって、教育系の仕事に限ったことではないんですよね。そこに気づいてから、一気に視野が広がりました」

「業界にこだわることはないから、今はいろんな企業を見ているところです」

「選択の幅が広がったことで、どの企業を受けるか、余計に悩むんですけど(笑)」

しかし、見つけた芯がブレることはない。

上から教えるのではなく、相手と同じ目線に立って伝える仕事がしたい。

言葉に説得力を持たせるため、現場に立つ職に就きたい。

「現場を知らない人に何を言われても、うざいだけじゃないですか」

「そういう人にはなりたくです」

「やりたいことができるなら、場所も給料も業種も関係ないですね」

芯をブレさせずに追い求めれば、進むべき道が開けるはず。

いろんな人が集まれる場所

「30歳には、どういうことをしていたい?」と聞かれたことがある。

ふと思い浮かんだことは、居場所作りだった。

「バーとか居酒屋みたいな、人が集まれるような場所を提供していたいです」

セクシュアルマイノリティに限った空間にはしたくない。

「自分はLGBTより、SOGIって言葉の方がいいなって思うんですよ」

ゲイもバイセクシュアルもストレートも、すべてセクシュアリティの一部でしかないから。

「ミックスバーみたいに、いろんな人が来られる場所にしたいです」

「特に、地元の新潟とか、居場所が少ない地方に作っていきたい、って思ってます」

10セクシュアリティは揺れ動くもの

否定されやすいセクシュアリティ

大学1年生で「バイセクシュアル」という言葉を知った時から、約2年。

自分を取り巻く環境は、変化した。

「特に、大学2年の後期から今年にかけて、すごく大きく変わりました」

「今はゲイアプリとかインターンで、当事者と知り合う機会が増えました」

「悩んでいる人は、たくさんいるんですよね」

互いに共感し合うだけでなく、思いがけない差別的な発言を受けることもある。

「同じインターン生でバイセクシュアルの女の子と、よく話すんです」

「『バイセクシュアルって、当事者からも否定されやすいセクシュアリティだよね』って」

ゲイの人に話すと、「女の人と結婚できるからいいじゃん」と言われることがある。

「女性に対してノンセクシュアル」と話せば、当事者からも「ゲイじゃないの?」と聞かれる。

「ちょっと壁を感じますね」

「結婚がすべてじゃないし、一緒にいたい男の人が現れたら一緒にいるつもりだから」

「自分が生きたいセクシュアリティが否定されるのは、すごく悲しいです」

移り変わっていく性

人に否定されても、自分の生き方を変えようとは思わない。

「ただ、セクシュアリティが揺れ動く時はあるんです」

「自分のことを何て表現したらいいか、いまだに悩む時もあります」

「それに、『ゲイじゃないの?』って言われた時、抵抗は感じなかったんですよ」

今、一番しっくりきているセクシュアリティがバイセクシュアルというだけ。

「暫定的にこれっていうだけで、決定的なものではないです」

明日になったら、自分はゲイだと自覚しているかもしれない。

男性を恋愛対象から外すようになるかもしれない。

「現時点でこれだと思ってるだけで、正直言うと何でもいいかなって」

「変わってもいい、って思っているから、クエスチョニングに近いのかもしれないです」

「女性だから、男性だからって切り捨てるのは、もったいないと思うんですよ」

「人の魅力って、性別だけじゃ測れないものだから」

自覚していなかった自分

賢者屋に参加してから、LGBT当事者に限らず、交流の幅が広がっていった。

「社会人の方も学生も、遠方から来てる人も多いんですよ」

「東大とか京大から来ている学生もいるんですけど、話すと普通なんですよね」

名門大学の学生も、自分と似た悩みを抱えていることを知る。

「その事実を知った時に、学歴で評価していたのは自分だったことに気づきました」

差別的な言動には敏感だったが、自分が差別をしている意識はなかった。

「セクシュアリティも学歴も、そこだけを見て判断するのはもったいないです」

「その判断基準が外れて、今はすごく楽しいですね」

新たな場所に踏み出すたびに、新たな自分に気づくことができた。

その積み重ねで、今の自分が存在している。

近い将来、自分が何をしているかは、まだわからない。

それでも希望にあふれているのは、揺れ動く自分を受け入れられたから。

あとがき
純粋な雄太さんの言葉には、どこにも嫌味がない。一途なおもいは、人への疑いも生まれにくい? 良からぬ人に遭っても、何か事情があるのかも? と考えそうだ ^_^ ■「どれだけ人に恵まれて生きてきたのか、考えさせられた時間でした。一生大事にしたい友だちにめぐり会えたのだと思います」。取材後の雄太さんからのお礼メールは、幸せを運んでくれた■取材=情報収集ではなくて「LGBTERなら・・・」と、贈りものを頂いている気持ち。今年も真っ白な気持ちでたくさんの人と出会いたい。(編集部)

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