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自分の心に誠実に向き合い、最善の答えを出していきたい【後編】

自分の心に誠実に向き合い、最善の答えを出していきたい【前編】はこちら

2018/12/17/Mon
Photo : Mayumi Suzuki Text : Mayuko Sunagawa
井上 優希 / Yuki Inoue

1993年、埼玉県生まれ。幼少期から母親ととても仲が良くお互いを大切に想い合いながら、寄り添って暮らしてきた。高校を卒業後から接客業に従事している。性自認はFTX。両親や友人、職場にはカミングアウト済み。

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INDEX
01 幼少期の自分と家族
02 大好きで尊敬する母親
03 育まれた対人感受性
04 性別への違和感
05 初恋のケジメ
==================(後編)========================
06 男性的な自分になろう
07 自分はFTX
08 社会人、新たな悩み
09 カミングアウトのコツ
10 自分らしく慎重に、今、最善の結果を

06男性的な自分になろう

性自認の揺れ

中学1年の時に、保険体育の教科書に「だんだんと異性にひかれていく」という言葉が載っていた。

自分は病気なのではないかと思った。

「自分はぜんぜん異性にひかれていってないから、もしかしたらこれは病気なのかもって」

「でも、病気ならどう治っていくんだろうとも思いました」

中学生から高校生にかけて、自分の性自認はなんであるのかを悩み、コロコロと考えが変わっていった。

女性のことが好きだし、女性に見栄をはりたい。

では、自分は男性なのか。
でも、自分の身体は女性だから自分は女性なのか。
やっぱり胸は邪魔だと思っているから男性なのか。

高校1年で女の子と付き合うようになってからは、より性自認に対して悩む。

自分の身体にコンプレックスを抱くようになった。

「やっぱり胸があると、自分の隣を歩いていて恥ずかしいと思わないかな」

「自分の身長が低いのも嫌じゃないかな、とか」

特に彼女に求められているわけではなかったが、男性的にふるまうようになっていった。

「彼女の前では、『俺』と言ってみたり股を開いて座ってみたり、デートではおごってあげたり」

初めての彼女との恋

高校は、女子校に進学した。

「どうせ制服でスカートを履かなきゃいけないなら、女子がいっぱいいる
ところに行こうって考えがあって(笑)」

女子にもてたい、ちやほやされたいという気持ちも少なからずあった。

「冬はスラックスも履ける学校だったというのもあります」

その高校で、初めての彼女ができた。

同級生だった。

彼女は男性と付き合っていたが、別れたのでそのタイミングでアプローチし始めた。

まずは、女性同士が付き合うことに抵抗がないか探りを入れ、抵抗がないことを確認した。

それから頑張ってアプローチを続けた。

たぶんOKをもらえるだろうという段階で告白をした。

「夏休みに入る前で、もし告白を断られても夏休み中会うこともないので冷却期間を置けていいかなと」

「付き合えれば、夏休み中に遊ぶことができますし」

告白はメール。

「LIKEじゃなくてLOVEだよ」と送ったが上手く伝わらず、電話で話してもまだ伝わらなかった。

結局、会いに行って直接告白。
付き合うことができた。

カラオケ行ったりプリクラを撮ったり、家にも遊びに行ったりと、彼女と一緒にいるのは楽しかった。

別れがおとずれたのは、2年間付き合った頃だった。

「『親に言えない』『いつか子どもがほしくなったときにどうすることもできない』と言われました」

学生の今はそう問題はないが、もっと年齢を重ねた時にどうにもならない時が来るだろう。

そう考えた時に、お互いの未来を考えて別れることにした。

07自分はFTX

FTMとは違う・・・FTX

高校生になってから、FTMやXジェンダーのオフ会に行くようになる。

「足を開いて座っていたり、自分のことを『俺』と言っていたりしましたが、オフ会で出会ったFTMの方たちはもっと男性性を意識している感じで」

「自分とは違う格好だし、考え方も違う」

「『毎日トラシャツ着て、胸をつぶしてるんだぜ』っていう人がいたけれど、自分はそこまでしなくてもいいな、って思いました」

彼らを見ていて、自分はそこまで男性を意識しているわけではなく、男性になることを目指しているわけではないことに気づいた。

その頃から「俺」「僕」という一人称をやめて、「私」と言うようになった。

そんな経験もあり、現在の性自認はFTX。

「今まで付き合ったのは、ほぼ女性だし」

「でも、男かと言われたらそれは違うし・・・・・・」

「めんどくさいから、もうどっちでもいいよ、っていう感じでもあるんですけどね(苦笑)」

「いろんなオフ会に参加して、いろんなセクシュアルマイノリティの人たちと出会うにつれて、自分は無理して男にならなくてもいいんだ、って思うようになりました」

自分はこのままでいいかなと思うようになってから、自分の性をより肯定的に捉えられるようになったと思う。

性的な役割への苦手意識

以前の自分は、男性らしくあろうとして、男性的な役割を担うことにこだわっていた。

今は、それは違うと思っている。

「男性だからって、男性らしくいなきゃいけないわけじゃない」

「女性だって化粧しなきゃいけない、スカートを履かなきゃいけないってことはないと思うんです」

男性と女性というだけで、その振る舞いや役割が決められてしまうことに、苦手意識がある。

「『重い物を持つのは男性』ではなくて、持てる人が持てばいい」

「男性だから、女性だからというカテゴライズが嫌ですね」

08社会人、新たな悩み

性別にこだわらずにできる仕事を

本当は大学に進学して、心理学の勉強をしたかった。

母親の病気のこともあって、人の心を癒すセラピストのような仕事に就きたかったのだ。

でも、大学に行くお金がなかったため、断念した。

だから、高校を卒業して、美容院に就職した。

美容業界を選んだのは、制服もないし、あまり性別にこだわらずに仕事ができそうだと思ったからだ。

「社会人になったら、OLの人が着るような制服は絶対に着たくなかったし、化粧をするのも嫌だったんです」

でも、実際は違った。

美容院でも、女性は化粧して女性らしい格好をするように言われた。

就職して数ヵ月はなんとか頑張って化粧をしていたが、我慢しきれず女性の先輩に相談した。

「自分の性についてカミングアウトをして、化粧をしたくないし、スカートも履きたくないことを相談しました」

「そしたら『じゃあ、もっと男性みたいな髪形に寄せれば』と言われて」

「・・・・・・美容業界も自分らしい格好、自分らしい髪形ができる環境ではなかったんです」

「それでも、女性の先輩に相談したことで、化粧せずに働くことができるようになりました」

その後、スタッフには全員カミングアウトした。

より自分らしく働くことができるようになった。

就職活動の難しさ

今の仕事は接客業だ。

人としゃべるのは好きだし、人が喜んでいる姿を見るのはうれしい。

「自分の感情を表に出すのが得意ではないので、自分の接客でお客さんが喜んでくれるのを見ると、写し鏡のように自分も喜んだ気持ちになれる気がします」

「大人になってから人から感謝されることってあまりないので、『ありがとう』って言われると素直にうれしいですね!」

ただ、立ち仕事は正直つらい。
いつまで続けられるかなと思っている。

また、他の仕事にも興味があり、就職活動も始めている。

就職活動で難しいと思うのは、自分のセクシュアリティに対する説明だ。

「男性、女性のどちらかに心の性が定まっていないと、社会に出た時に自分のことをどう表現すればいいのか困ります」

まだまだセクシュアルマイノリティが浸透していない社会だと痛感する。

「スカートも化粧も応じられないことを企業に納得してもらうには、『自分は男なんです』と説明するのが手っ取り早い」

「でも、それは実際とは違うし」

「じゃあ、我慢して制服を着て化粧して女らしく振舞わなきゃいけないのかといえば、それも違うし嫌だし」

今は、面接の時に、化粧やスカートを求められても、セクシュアリティの問題で、それに応えることはできないとはっきり伝えている。

そう伝えると、「前例がないからどう扱っていいかわからない」という理由で落とされることがある。

落とされるのはセクシュアリティの問題だけではないかもしれないし、企業の判断がそうならば仕方がないと思っている。

ただ前例がないと言っている企業のなかにも、きっとセクシュアルマイノリティの人はいるはずだ。

09カミングアウトのコツ

母親へのカミングアウト

学生の時から彼女を家に連れてきていたので、母親はなんとなく気付いていただろう。

でも、きちんと改まって言わないといけない時があると思った。

19歳の時にカミングアウト。

「前に家に来ていた女の子いたじゃん。その子が彼女だったんだよね」

「『子どもを求められても困る。出産したい気持ちがないから、孫を期待しないでほしい』とも伝えました」

母親が驚くことはなかった。

「あれだけ(彼女が)家に来てれば、そうだよね」と冷静だった。

「『男の子っぽい物を好んだのも、スカートが嫌だったのも』と合点がいったようでした」

母親は自分が離婚したことが原因なのではないかとも言っていたが、
「それは違う」と伝えた。

「両親が離婚している子どもがセクシュアルマイノリティになるのなら、もっと多くの人がそうなっていますよね」

男性になりたいのかとも聞かれたが、「そのつもりはない」と答えた。

「自分のしたい服装をする上で胸が邪魔にはなっていますが、『今のところ手術しようとは考えていない』って伝えました」

「親へのカミングアウトが済んだら、もう無敵ですね(笑)」

「誰にでも言える気がします」

親へのカミングアウトをしてから、カミングアウトのハードルが下がったように思う。

誰にでも言うわけではないが、「この人ならいいかな」と思ったら、言えるようになった。

カミングアウトの指南

自分はカミングアウトをして、一度も不快な思いをしたことがない。

「面と向かって気持ち悪いとか、言われたことがないです」

「恵まれていますよね、本当に」

「中学の友だちも高校の友だちもみんな今でも仲良しで、一緒に新宿二丁目に行くこともありますし、好きな人の話も普通にします」

みんな自分のことを受け入れてくれている。

自分にとってそれほどハードルが高くないカミングアウトだが、それでも気を付けていることがある。

それは、男性に言う時だ。

「『俺が直してやる』という考え方をする人がいるようです」

「自分は直接言われたことはないけれど、そういう話を耳にしたことがあります」

「やっぱり男性に力づくで来られてしまうと、どうにもならないので。そこだけ注意しています」

「男性を信用していないわけではないんですけど、誰にでも言えるものではないな、って思っています」

だから、男性にカミングアウトするのは、本当に必要に迫られた時か、信頼できてセクシュアルマイノリティに対して嫌悪感のない人だけにしている。

自分なりのカミングアウトのコツは、カミングアウトをしようと思っている相手に探りをいれてみること。

「例えば、会話の中で『マツコ・デラックスって面白いよね』とか言ってみて、それに対しての反応がどうなのか」

「否定的な意見だったら、言わないほうがいいだろうし。肯定的なら少し期待が持てると思います」

実際に自分も母親や友人にカミングアウトをする前に、会話の中で何度か探りを入れた。

会話を通して相手の考えを知ることで、カミングアウトをしても大丈夫かどうかが少し見えてくる。

10自分らしく慎重に、今、最善の結果を

セクシュアリティのことで悩んでいる人へ

セクシュアルマイノリティの存在が、もっと世間に浸透していくことを願っている。

「現在住んでいるさいたま市も、同性パートナーシップ制度の導入を始めています」

「結婚とは違うものですからまだまだな面もありますが、こうした動きが広く浸透していくことで、もっと開かれた社会になっていくんじゃないかと思っています」

今セクシュアリティの問題で悩んでいる人に伝えたいことは、どこかに逃げ道を作っておいてほしい、ということ。

「一つの道だけだと、それがだめだった時につらくなってしまいます」

「誰かに頼りすぎてしまうと、その人がしんどくなってしまうこともあるでしょう」

「今はSNSもあるし、様々な人と交流して、いろんなところに自分のコミュニティを作っていったらいいんじゃないかと思います」

一人で抱え込まずに、視野を広く持って、今ある問題と向き合っていってほしい。

これからも自分らしく

自分の性格は心配性で、石橋を叩いて渡るタイプ。

悩んで、相手の気持ちを推し量って、考えて考えた末に行動に移している。

これまで考えに考えてきたことで、自分のセクシュアリティはFTXだと捉えることができた。

行動に移してきたことで、多くの人にカミングアウトし受け入れてもらうことができた。

今はセクシュアリティに対する悩みはないが、自分が一生付き合っていくもの。

「将来、結婚について悩むかもしれないし、もしかしたら胸を取る手術をしたいと思うようになるかもしれません」

今までもセクシュアリティに対する認識が移り変わってきたように、今後ももしかしたら変わる可能性もある。

「今後もっと男性に寄っていく可能性がないわけじゃないです」

これからどうなるかはわからない。

自分らしく慎重に、計画的に考えて、その時の最善の結果を出していきたいと思っている。

10年後に目指すのは、子どもっぽい大人になっていること。

「しっかりしているところはしっかりしていて、楽しむところは楽しんで生きていきたいな(笑)」

あとがき
「親へのカミングアウトが済んだら、もう無敵(笑)。誰にでも言える気がします」は、優希さんの印象的なひとこと。家族の受容は、自分の今へ、これからへ、大きな自信になる。勇気凛凛とはこのことだ ■不安より少し多い明るさで「これからどうなるかは分からない」と、未来を語れたらいいな・・・優希さんのように。今日と明日は連なってはいなくて、どんな一日にするのかを決めることができる。せめて[私]くらいは、[私の未来]に期待しよう。(編集部)

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