INTERVIEW
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自分の心に誠実に向き合い、最善の答えを出していきたい【前編】

白いTシャツと黒のパンツのシンプルな服装を、センス良く着こなす井上優希さん。スタイルが良くカッコイイ、飄々としたイマドキの若者というのが第一印象だったが、インタビューを通して自分の考えを持ち、母親想いのやさしい人間性だとわかった。そんな井上さんの性自認はFTX。そう認識するに至った経緯や幼少からの道のりをたどってみたい。

2018/12/15/Sat
Photo : Mayumi Suzuki Text : Mayuko Sunagawa
井上 優希 / Yuki Inoue

1993年、埼玉県生まれ。幼少期から母親ととても仲が良くお互いを大切に想い合いながら、寄り添って暮らしてきた。高校を卒業後から接客業に従事している。性自認はFTX。両親や友人、職場にはカミングアウト済み。

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INDEX
01 幼少期の自分と家族
02 大好きで尊敬する母親
03 育まれた対人感受性
04 性別への違和感
05 初恋のケジメ
==================(後編)========================
06 男性的な自分になろう
07 自分はFTX
08 社会人、新たな悩み
09 カミングアウトのコツ
10 自分らしく慎重に、今、最善の結果を

01幼少期の自分と家族

あまりわがままを言わない子

自分の幼少期は、母親から「聞き分けのいい子」「でも、我が強いところもある」と聞かされている。

「あんまり何か物をねだったり、わがままを言ったりしない子だと言われていました」

「でも、我は強くて(笑)」

「自分のゆずれないポイントというのがあって、それは絶対に曲げないから、そこに母親は手を焼いていたみたいです」

一人っ子。

母親が二度再婚したため父親がいたこともあったが、基本的には母親と二人家族。

「ずっと片親だったから、『心配かけたくないな』という思いがあって」

だから、あまりわがままを言わなかったのかもしれない。

スカートが嫌で大号泣

赤は女の子の色だと思っていた。

だからなのか、自分は青のほうが好きだった。

自転車もギア付きで、泥除けが付いているものがカッコイイと思った。

「小学校低学年の時、スカートを履くのが嫌で大号泣したのを覚えています」

「何が嫌だったか覚えていないんですが、とにかく嫌で」

「でも、履かないと学校に行けなかったから、スカートの上から上着を腰に巻いていました」

そんな自分を見て、母親は無理にスカートを履かせることはしなくなった。

「『こんなに泣くんだったらズボンでいいよね』って」

母親は「女の子だからこうしなさい」と言うのが一切なかった。

小学校の時は、男の子が好むものを好きになる、ちょっとボーイッシュな女の子。

それほど、他の女の子と違いがあるようには思わず、自分が「女子」の集団に属していることに違和感や抵抗を覚えることもなかった。

ただ小学校高学年から胸が膨らみ始め、自分の身体が変化していくのを自覚した時、嫌悪感があった。

胸が膨らむ自分は嫌だったし、胸が邪魔だと思うようになった。

02大好きで尊敬する母親

名前で呼び合う密な関係

小さい頃から母親のことを、「お母さん」や「ママ」と呼んだことがない。

ずっと下の名前で、呼びすてにしている。

「母親が、『お母さん』と呼ばれることがあまり好きではなくて」

「『私はお母さんっていう名前じゃない』って」

「自分も確かにそうだなって思います(笑)」

母親とはすごく仲が良い。

時々ケンカもするが、母子のケンカというよりは、兄弟姉妹のような他愛のないケンカばかりだ。

世間で俗に言う一卵性親子のようだし、マザコンだとも思う。

人からも「マザコンだよね」と言われる。

そんな母親は、今独身。

寂しがり屋だから、早く再婚してほしいと思っている。

「人間だから寂しくなる時もあるだろうし、将来的なことも考えると誰か一緒になってくれる人がいたらいいなって」

早くいい人を見つけて、自分を安心させてほしい。

母親は、尊敬するカッコイイ人

母親は今48歳。

スタイルが良く、若い服装も着こなせる自慢の母親だ。

「いまだに毎年夏はショートパンツを履いて、海に行きます」

「自分や自分の友だちと普通に遊ぶこともあります。友だちみたいなノリで参加してくるんです(笑)」

性格はハッキリしていて、誰に対してもひるむことなく意見ができる。

良くも悪くも周りに流されることがない。

「『嫌だな』と思ったことはそのままにせず、学校の先生やママ友にもハッキリ意見していました」

「子ども心に、『ちょっと言い過ぎだよ』『もう少しおしとやかにして』って思うこともありましたけど」

「でも、自分の考えを言えない人よりはカッコイイなって思っていました」

周りの友だちの母親とは少し違ったが、それがまた特別でうれしかった。

「一人の人間として好きだし、カッコイイと思います」

一人で子どもを育てるのは難しいことだっただろう。

それに加えて、母親には持病があった。

それを抱えながらの子育て・仕事・家事はとても大変だったと思う。

「買い物を一人でいけないくらい重い症状が出た時もあって」

「それでも、子どもを育ててきたのだから、強い人だなって思います」

03育まれた対人感受性

病気の母を気遣ってきた幼少期

自分が産まれた時から母親はうつ病に苦しんでいた。

「母は病気のこともあって、苦手なことやできないことがすごく多かったんです」

電車も乗れないし、車も人の運転だと乗れない。高所にも行けない。

遊園地に行っても、乗り物は何も乗れない。

体調が急に変化してしまうことがあったから、出かけるのはいつも近場で
行ける場所も限られていた。

もし出先で母親の体調が悪くなってしまったら、車が運転できない自分はどうすることもできない。

「小さかった自分は、母親の体調の変化にすぐに気付かないと生きていけなかったんです」

「『大丈夫?』『少し休もうか?』っていつも声かけて」

「だから、今でも母親の体調のことが気がかりですし、なんだかんだといろいろ心配になっちゃいます」

昔から母親の体調をずっと気遣ってきた。

だから、自然と相手の表情や雰囲気から気持ちを汲み取ったり、相手の立場になって物事を考えたり行動したりすることが得意になった。

我が道をいくスタンス

「集団の中にいる子で、どちらかといえば人に合わせているような子に自然と目がいくような子でした」

「本当は右に行きたいのに。みんなが左って言っているから『そうだね、左だね』って言っているのがわかります」

「人に合わせている子の表情が曇っていることがあって」

そういうのを見ているのがつらい。

だから、自分は無理に集団の中にいて、みんなに合わせるようなことはしない。

どこの集団にも入っていて、どこの集団にも入っていない。

そんな子どもだった。

クラスでは、ボス的存在、中心人物、リーダーという立ち位置ではなかったが、目立つ存在だった。

「物を壊したりとか問題児的な行動をしていたわけじゃないんですけど、同窓会で先生に会うと『印象に残っている』って言われます」

多くのクラスメイトがいつも同じ集団で行動していたから、逆にそうではない自分が印象に残っているのかもしれない。

「特定の人と仲良くする、グループで行動するということはしていませんでした」

「自分がその時にしゃべりたい人と話して、その時に一緒にいたい人といました」

特定の人、特定のグループに縛られるのが嫌だった。

「一緒に〇〇しよう」=「一緒にいなきゃいけない」と拘束されているようで嫌だったのだ。

また、当時からボーイッシュだったから、特定の女子グループに所属するというのにも抵抗があったのかもしれない。

「みんなが左に行っても自分は右に行く。いつか途中で合流できたらいいね、みたいな感じです」

「そのほうが自分をつぶさずにいられるから」

合わせようと思えば人に合わせることもできるけれど、それはしなかった。

04性別への違和感

無理して合わせた女の子との会話

クラスのグループのどこにも属さない自由なスタンスは、小学校高学年になってから、顕著になった。

周りの女子たちとの会話が、好きな男の子や自分たちの身体の変化についての内容になり、自分も無理してその会話に参加した。

だから、それ以外の部分では自由な自分でいたかったのだ。

「『ブラジャー買ってもらったんだ』とか、『もう着けたほうがいいよ』とか」

ブラジャーはつけたくないし、そういう話もしたくない。

好きな男の子もいないし、そういう話題も興味がない。

「でも、女の子の話題に自分も合わせないといけないと思っていました」

「自分は女の子の身体なのだから、やろうと思えばできるだろうって」

女の子の話題に応じるのがしんどくなってきたのは、自分が女の子が好きだと自覚した中学生になってから。

初恋が女の子

中学1年の時、恋をした。
初恋の相手は、女の子。

同時に自分の性別に違和感を覚えるようになる。

「当時は性同一性障害とかレズとか何も知らなかったから、これはなんだろうって」

好きになったのは、自分と同じ身体の女の子。

恋をするのは普通は男と女だから、この恋を成立させるためには、「自分は男にならないといけないのかな」と思った。

「身体って変えられるのかな」

そう思いインターネットで調べた。

同性愛者、同性間の恋愛、性別適合手術という言葉が次々と出てきて、どんな意味なのかを知った。

「(性別適合手術について)ないものをつけるって、どうすればいいんだろう」

「そんなの上手くできるのかなって」

ただ、そういう言葉を初めて知って、自分だけじゃないということがわかったのは良かった。

「胸が邪魔だと思っていたので、本当は男性なのかもしれないと思うようになりました」

それで、一時期、自分のことを「僕」「俺」と言うようになったり、男子を真似て男性っぽく振る舞ったりするようになった。

男性っぽく振舞ってみたものの、そんな自分にも違和感を覚える。

「ちょっと無理があるなって」

「好きな子と身長も同じくらいだし、筋肉もないし」

初めてのカミングアウト

その時期ぐらいに、テレビドラマ「ラストフレンズ」を観た。

「自分もこれなのか!」

「自分もゆくゆくは手術をしないといけないのかなと思いました」

「でも、よく調べてみると手術には同意書が必要だし、まだ親にも言えてないのに無理だなって」

その時は、「自分の身体が嫌で変えたい」というよりは、初恋の相手に振り向いてもらいたい、という気持ちのほうが大きかった。

だから、自分の身体についてそれ以上は深く考えることはしなかった。

カミングアウトは、中学2年の時。

女の子が好きだということや、胸がある自分の身体が嫌なことを同級生に話した。

初めてのカミングアウトだ。

そこまで仲が良い子ではなかったが、あまり人に干渉しない子だったから言いやすかった。

カミングアウトした時の反応は、あっけないほど普通。

友だちの反応に自分自身が驚いたほどだ。

カミングアウトをしても意外に大丈夫なんだなと、その時思った。

05初恋のケジメ

切ない恋心

初恋の子は同じ学年で、同じバスケットボール部の子だった。

自分の意見をハッキリ言えるサバサバした性格で、小柄な可愛い子だった。

バスケをしている姿を見てカッコイイとも思った。

「部活でいつも会えるのが楽しかったし、どうにかもっと仲良くできないかなと思っていました(笑)」

部活以外でも、一緒に遊びに行くこともあった。

「手をつなぎたいとは思っていましたけれど、一緒にいられればそれだけでうれしかったです」

中学1年の時は仲良くできていたが、中学2年になってその女の子と仲違いしてしまった。

突然、その女の子が口をきいてくれなくなってしまったのだ。

「なぜそうなってしまったのか、今でもよくわからないんですけど・・・・・」

「当時、部活内で『誰々が好き』って話を友だちとしていて」

「私はその女の子の恋愛話は聞きたくなかったので、その話題にはあまり入らなかったんです」

「でも、他の女子との恋愛話の時に、私もそこそこ人気のある男の子の名前を挙げていたら、自分の好きな女の子の好きな男の子と一緒だったみたいで」

「『なんで言ってくれなかったの!』って怒られて」

「それきり、同じ部活だけど話せなくなりました」

好きな女の子と3年間ほとんど話さないまま、一方的に片想いしていた。

何度も関係を改善したいと思い試みた。

でも、シャットアウトされてまともに話すことができなかった。

好きだという気持ちを出して接すればいいのか、わからない。
友だちとして接すればいいのかも、わからなくなっていた。

部活仲間と好きな子にカミングアウト

中学の卒業式の2日前に、好きな女の子を除いた部活の同級生にカミングアウトをした。

「『実は好きな子が女の子で、同じ部活の〇〇が好きなんだ』って」

嫌な反応をする同級生は、誰一人なかった。

「『ボーイッシュだったのはそのせいか』とか、案外普通の反応でした」

部活の同級生に話せてスッキリした。

好きなものを好きだと言えたこともうれしかった。

自分の恋心にも踏ん切りをつけたくて、卒業式1日前に同じ部活の友だちに呼び出してもらい告白した。

「『多分わたしのことは嫌いだと思うけれど、私はずっと好きだった』って伝えました」

「『付き合ってほしいって訳じゃなくて、ただただ伝えたかった。言うだけ言わせてほしい』」

彼女はちゃんと聞いてくれた。

「『どうやって関係を改善したらいいかわからなくて、ここまで来ちゃった』」

「『好きっていう感情はないから付き合うことはできない』と、言われました」

初恋は実らなかったが、自分の気持ちを伝えられてすがすがしかった。

「2年半ほとんどしゃべらなかった好きな子に告白するのが、怖くなかったわけではないです」

「でも、違う高校に行くことがわかっていたので、この先、会うこともないと思えば、そこまでハードルは高くありませんでした」

もし嫌われても、気持ち悪いと思われてもいいから、自分の気持ちにケリをつけたいと思っていた。

元々自分は超慎重派で、石橋を叩いて叩いてから渡るタイプ。

「考えに考えた末に、もう思い切ってやってもいいかなと思えるタイミングがきました」

「友だちや初恋相手へのカミングアウトは、そういうタイミングだったんだと思います」


<<<後編 2018/12/17/Mon>>>
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06 男性的な自分になろう
07 自分はFTX
08 社会人、新たな悩み
09 カミングアウトのコツ
10 自分らしく慎重に、今、最善の結果を

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