INTERVIEW
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ありのままが、FTX。【前編】

「当事者が恐れずに発信していくことが大事」だと語る戸水万莉奈さん。「男にならなくては」という考えが、オブセッションと化した時期があったものの、恋人の「ありのままでいい」という言葉に救われた経験を持つ。以来、男、女にとらわれない「X」を自認しているが・・・・・・。

2018/07/15/Sun
Photo : Mayumi Suzuki  Text : Ray Suzuki
戸水 万莉奈 / Marina Tomizu

1997年、石川県生まれ。幼少期から陸上、サッカーとスポーツに親しみ、大学ではフットサル部で活躍。現在、IT企業を中心にした就活では、自身のセクシュアリティのことを隠さずにアピールしている。趣味はフリースタイルフットボール。念願の中型免許も取得し、バイクライフを楽しんでいる。ギターや英語も得意。

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INDEX
01 今は、「Xジェンダー」が自然体。この体と向き合って
02 性別にとらわれなかった子ども時代
03 放課後のさみしさをこらえて
04 小4で好きになった人は、女の子だった
05 このことは、言ってはいけない
==================(後編)========================
06 モヤることが増えてきて
07 自分はきっとFTMなんだろう
08 留学を経て学んだ「期待しすぎないこと」
09 ありのままでいいと言ってくれた彼女
10 お母さんにFTXをカミングアウト

01今は、「Xジェンダー」が自然体。この体と向き合って

バンドとスポーツに明け暮れる、活発な “女子”

「まだ始めたばかりなんですけど、日本のロックバンド、J-ROCKについての記事を、ネットメディアで書いてます」

中学時代から、いくつかのバンドで、ギターを弾いてきた。

大好きなミュージシャンやDJ、ラッパーのことを、記事に書く。
そんなアルバイトを始めた。

もともと、文章を書くのは大好きだ。

読書は、中学生以来の趣味だし、その頃から日記もずっと、欠かさずに書いてきた。

そして今年は就活の年。

この4年間、大学では経営組織論学を学んできた。

「就活を始めるまで、フットサル部にいたんです。今までがんばってやってきたことが終わってしまって」

でもここで、糸の切れた凧のように、なるわけはなかった。

「去年の秋から『フリースタイルフットボール』を練習してます」

「YouTubeで見つけて、さっそくボールを買って、見よう見真似でやってみて。今年は、選手権にもエントリーしました」

競技人口が増加中の「フリースタイルフットボール」とは、サッカーの基本技術であるリフティングに、ダンスの要素を取り入れた新しいスポーツだ。

魅せるリフティング、アクロバティックなパフォーマンスとして、ヨーロッパでは、大道芸として親しまれてきたというルーツがある。

「日本一を目指してがんばります!体育館や近くの公園で、練習してます」

「女子のフリースタイルは、まだすごくニッチなんですよ」

今は、この体と向き合っている

「中性的」だと、よく言われる。
女子でもなく、かといって男子でもない。

「付き合ってるの? 彼氏おるの? と聞かれたら、うん、彼女おるよ、と答える。そんな感じですね」

大学に入学して以来、性指向をオープンにしてきた。

「最近、筋トレにも力を入れてるんです」

取り立てて「女性としての体が嫌だ」というのでは、ない。

単に「ムキムキな人がかっこいい」と思うからだ。

自分は、Xジェンダーが近い。

あえてカテゴリーに入れるなら、それを選ばざるを得ない。

あくまでも、現在の性自認だ。

02性別にとらわれなかった子ども時代

写真の中の、ふてくされた顔

幼いころの記憶といえば、保育園のお遊戯会。
なんとも不愉快な思い出だ。

「スカートがめっちゃいやだったのを覚えてます」

「化粧もされて、スカートを脱ごうとして。写真が残ってるんですけど、ふてくされて写ってる(笑)」

でも、男の子の役をもらったときは、うれしかった。

「昔話かなにかの劇をやったとき、自分が主人公で、剣を持って。それはすごく楽しかったですね。写真を見ても、イキイキしてます(笑)」

人見知りな一面もあった。

「本当は、お兄ちゃんと同じように、サッカーチームに入りたかったんですよね」

ずっと、サッカーをやってみたかった。

でも、男子の輪の中に入っていくことは、意外にもなかった。

「ちょっと怖かったというか、なかなか踏み出せませんでした」

女の子だと自覚していた小学校時代

小学校にあがると、遊びはいつも男の子と一緒。

缶蹴りや、シャングルジムが好きで、外で駆け回って遊んでいた。
体を動かすのが、好きだった。

その頃、男の子のことが好きだったことを、はっきり覚えている。

「男の子とチュッチュしたり(笑)。たぶん、女子として男の子を好きだったと思う。男子も性的対象でした」

はたから見たらきっと、屈託のない、活発な女の子。

小学校という空間のなかでは、女性としての自分を受け入れていた。

「小学校は制服だったんですけど、スカートは嫌でしたね。でも、制服だからって思ってました」

仕方のないことだった。

家に帰ったら制服をすぐに脱いで、お兄ちゃんのお下がりを着て、外に遊びに行った。

髪型も、特に意識することなく、この頃までは、なんとなくロングにしていた。

03放課後のさみしさをこらえて

大好きなお母さんは、強い人

「挨拶をしなさい、人の目を見て話しなさい、靴はきちんと揃えて。そんなことを母にはよく言われました。礼儀を大事にする人なんです」

「あと、すっごいポジティブです。強いし、逃げないし」

そんなお母さんのことがずっと、今も、大好きだ。

J-ROCKが好きなのも、ロックやパンクが好きなお母さんの影響なのだ。

「自分が保育園の頃に離婚して、それ以来、十数年もひとりで子育てして。お母さんは強いな、という思いがあります」

仕事を掛け持ちしていたお母さんが、家で過ごす時間は短かった。

帰宅しても、家の中にお母さんはいない。
さみしい気持ちをぐっとこらえて、学童に出かけた。

「さみしかったですね。お父さんがいないさみしさじゃなくて、お母さんがそばにいないさみしさが強かった」

「一緒にもっと話すとか、出かけるとか、そういう体験をしたかったですね」

そんな思いを抱えていたが、それを口に出すことは、決してなかった。

強い女性への憧れ

母方の祖父母も、優しかった。可愛がってくれた。

特におじいちゃんが、本代にと毎月お小遣いをくれたのがうれしかった。
自分が本好きになったのは、おじいちゃんのおかげかもしれない。

好きな本はたくさんある。

あの頃に読んで、特に忘れられないのは『がばいばあちゃん』シリーズだ。

「おばあちゃんの強さって、すごい。素敵だな、と思ってはまりました」

「その頃は意識していなかったけど、今思えば『強い女性』への憧れだったのかもしれませんね」

さみしさを紛らわしてくれたのは、学童と読書。そしてスポーツだ。

「保育園のときは水泳やってたんですけど、小学校からは長距離走を始めました。走るのが大好きだったから」

おばあちゃんが車で、練習場への送迎をしてくれた。

地元のマラソン大会に初めて出場したのは、小学2年生のとき。

「小2、小3と連続して1位です。でも、4年生で2位になってしまったことが悔しすぎて、それ以来マラソンはやめましたけど(笑)」

これを機に、小4で地元の陸上クラブチームに入り、種目を短距離走に変更した。

そしてこの頃、「あれ、自分どうしたんだろう?」と思うできごとが起きる。

04小4で好きになった人は、女の子だった

あれ、自分どうしたんだろう?

小4になると、学校では委員会活動が始まった。

「音楽が好きだったから、放送委員になりました。給食の時間に、自分の好きな音楽をみんなに聞いて欲しくて」

「『ORANGE RANGE』とか『175R(イナゴライダー)』、森山直太朗なんかをよくかけてましたね」

気がつくと、同じ放送委員会をしていた1つ上の先輩、女性の先輩を好きになっていた。

「それが初めて女の人を好きになった経験です」

「この頃から、あれ、自分どうしたんだろうって」

自分自身への戸惑いもありながら、好きな気持ちは抑えられなかった。
それだけではなく、男性に嫉妬する気持ちも、抑えられなかった。

「先輩は『嵐』の松潤に夢中。その熱狂ぶりに、ものすごいヤキモチを焼きましたね(笑)。自分は、松潤にはなれないし」

毎晩、布団に入ると、涙があふれてきた。

「好きだけど、その気持ちも伝えられない。苦しかったですね」

男女問わず好きになる

先輩のことは、半年ほどの間好きだった。
その次には、小学校の別のクラスの女の子を好きになった。

「コロコロと、女の子を好きになっていました(笑)」

新しい恋が、苦い恋を忘れさせてくれる。
蝶々が、花から花へと飛び回るように、気になる人ができた。

「でもそれと同時に平行して、男の子も好きやったりして。どっちも好きやな、って思ってました」

女の子でも男の子でも、好きになったら、その人しか見えない。

その気持ちは、ひたすらにまっすぐだ。

「好きになったら自分のほうから行くタイプ。男女問わずです」

05揺れ動く小学6年生

揺れ動く小学6年生

学外では、陸上もさらに頑張っていた。
小学6年生で、4×100mリレーと走り幅跳びの石川県代表として、全国大会に出場したほどだ。

その陸上クラブでは、1個上の先輩を好きになっていた。
女子の先輩だ。

好きだけど、伝えられない片思い。もう1年近く、思いを抱えたままだった。

「女の子を好きになるっていう意味で、葛藤がありました」

意を決して、伝えようか。

迷いの末に決意を固めようとしていた矢先、先輩と共通の知り合いができた。
渡りに船とばかりに、思わず、その人に相談した。

しかし、これが苦い経験の発端となってしまう。

先輩たちの鋭い視線が突き刺さる

「バカやから、先輩の知り合いに相談しちゃって」

このときのことをうかつだったと、後悔している。

「伝えたいけど伝えられない」という思いを、共通の知人に吐露した。

次の日、練習場に行ったら、自分を取り巻く空気がすっかり違っていた。

「いろんな人に白い目で見られて。それも、先輩と同じ1個上の人たちから」

あからさまな指摘や非難があったわけではない。
だが、先輩たちからの、鋭い視線が突き刺さるのが、よくわかった。

「明らかに自分を見て、ごにょごにょと。まったく関係ない人たちが、『あの人だよ』って感じで」

共通の知人に話したときは、受け入れてくれたように見えたのに。

「わかってくれるかなと思ったんです」

「言わないで」という口止めまでは、しなかった。
まさかバラされるとは、思いもしなかったから。

そして、悟ったのだ。

「これは、言っちゃいかんのだ、と思うようになりました」

 

<<<後編 2018/07/17/Tue>>>
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06 モヤることが増えてきて
07 自分はきっとFTMなんだろう
08 留学を経て学んだ「期待しすぎないこと」
09 ありのままでいいと言ってくれた彼女
10 お母さんにFTXをカミングアウト

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