02 性別にとらわれなかった子ども時代
03 放課後のさみしさをこらえて
04 小4で好きになった人は、女の子だった
05 このことは、言ってはいけない
==================(後編)========================
06 モヤることが増えてきて
07 自分はきっとFTMなんだろう
08 留学を経て学んだ「期待しすぎないこと」
09 ありのままでいいと言ってくれた彼女
10 お母さんにFTXをカミングアウト
01今は、「Xジェンダー」が自然体。この体と向き合って
バンドとスポーツに明け暮れる、活発な “女子”
「まだ始めたばかりなんですけど、日本のロックバンド、J-ROCKについての記事を、ネットメディアで書いてます」
中学時代から、いくつかのバンドで、ギターを弾いてきた。
大好きなミュージシャンやDJ、ラッパーのことを、記事に書く。
そんなアルバイトを始めた。
もともと、文章を書くのは大好きだ。
読書は、中学生以来の趣味だし、その頃から日記もずっと、欠かさずに書いてきた。
そして今年は就活の年。
この4年間、大学では経営組織論学を学んできた。
「就活を始めるまで、フットサル部にいたんです。今までがんばってやってきたことが終わってしまって」
でもここで、糸の切れた凧のように、なるわけはなかった。
「去年の秋から『フリースタイルフットボール』を練習してます」
「YouTubeで見つけて、さっそくボールを買って、見よう見真似でやってみて。今年は、選手権にもエントリーしました」
競技人口が増加中の「フリースタイルフットボール」とは、サッカーの基本技術であるリフティングに、ダンスの要素を取り入れた新しいスポーツだ。
魅せるリフティング、アクロバティックなパフォーマンスとして、ヨーロッパでは、大道芸として親しまれてきたというルーツがある。
「日本一を目指してがんばります!体育館や近くの公園で、練習してます」
「女子のフリースタイルは、まだすごくニッチなんですよ」
今は、この体と向き合っている
「中性的」だと、よく言われる。
女子でもなく、かといって男子でもない。
「付き合ってるの? 彼氏おるの? と聞かれたら、うん、彼女おるよ、と答える。そんな感じですね」
大学に入学して以来、性指向をオープンにしてきた。
「最近、筋トレにも力を入れてるんです」
取り立てて「女性としての体が嫌だ」というのでは、ない。
単に「ムキムキな人がかっこいい」と思うからだ。
自分は、Xジェンダーが近い。
あえてカテゴリーに入れるなら、それを選ばざるを得ない。
あくまでも、現在の性自認だ。
02性別にとらわれなかった子ども時代
写真の中の、ふてくされた顔
幼いころの記憶といえば、保育園のお遊戯会。
なんとも不愉快な思い出だ。
「スカートがめっちゃいやだったのを覚えてます」
「化粧もされて、スカートを脱ごうとして。写真が残ってるんですけど、ふてくされて写ってる(笑)」
でも、男の子の役をもらったときは、うれしかった。
「昔話かなにかの劇をやったとき、自分が主人公で、剣を持って。それはすごく楽しかったですね。写真を見ても、イキイキしてます(笑)」
人見知りな一面もあった。
「本当は、お兄ちゃんと同じように、サッカーチームに入りたかったんですよね」
ずっと、サッカーをやってみたかった。
でも、男子の輪の中に入っていくことは、意外にもなかった。
「ちょっと怖かったというか、なかなか踏み出せませんでした」
女の子だと自覚していた小学校時代
小学校にあがると、遊びはいつも男の子と一緒。
缶蹴りや、シャングルジムが好きで、外で駆け回って遊んでいた。
体を動かすのが、好きだった。
その頃、男の子のことが好きだったことを、はっきり覚えている。
「男の子とチュッチュしたり(笑)。たぶん、女子として男の子を好きだったと思う。男子も性的対象でした」
はたから見たらきっと、屈託のない、活発な女の子。
小学校という空間のなかでは、女性としての自分を受け入れていた。
「小学校は制服だったんですけど、スカートは嫌でしたね。でも、制服だからって思ってました」
仕方のないことだった。
家に帰ったら制服をすぐに脱いで、お兄ちゃんのお下がりを着て、外に遊びに行った。
髪型も、特に意識することなく、この頃までは、なんとなくロングにしていた。
03放課後のさみしさをこらえて
大好きなお母さんは、強い人
「挨拶をしなさい、人の目を見て話しなさい、靴はきちんと揃えて。そんなことを母にはよく言われました。礼儀を大事にする人なんです」
「あと、すっごいポジティブです。強いし、逃げないし」
そんなお母さんのことがずっと、今も、大好きだ。
J-ROCKが好きなのも、ロックやパンクが好きなお母さんの影響なのだ。
「自分が保育園の頃に離婚して、それ以来、十数年もひとりで子育てして。お母さんは強いな、という思いがあります」
仕事を掛け持ちしていたお母さんが、家で過ごす時間は短かった。
帰宅しても、家の中にお母さんはいない。
さみしい気持ちをぐっとこらえて、学童に出かけた。
「さみしかったですね。お父さんがいないさみしさじゃなくて、お母さんがそばにいないさみしさが強かった」
「一緒にもっと話すとか、出かけるとか、そういう体験をしたかったですね」
そんな思いを抱えていたが、それを口に出すことは、決してなかった。
強い女性への憧れ
母方の祖父母も、優しかった。可愛がってくれた。
特におじいちゃんが、本代にと毎月お小遣いをくれたのがうれしかった。
自分が本好きになったのは、おじいちゃんのおかげかもしれない。
好きな本はたくさんある。
あの頃に読んで、特に忘れられないのは『がばいばあちゃん』シリーズだ。
「おばあちゃんの強さって、すごい。素敵だな、と思ってはまりました」
「その頃は意識していなかったけど、今思えば『強い女性』への憧れだったのかもしれませんね」
さみしさを紛らわしてくれたのは、学童と読書。そしてスポーツだ。
「保育園のときは水泳やってたんですけど、小学校からは長距離走を始めました。走るのが大好きだったから」
おばあちゃんが車で、練習場への送迎をしてくれた。
地元のマラソン大会に初めて出場したのは、小学2年生のとき。
「小2、小3と連続して1位です。でも、4年生で2位になってしまったことが悔しすぎて、それ以来マラソンはやめましたけど(笑)」
これを機に、小4で地元の陸上クラブチームに入り、種目を短距離走に変更した。
そしてこの頃、「あれ、自分どうしたんだろう?」と思うできごとが起きる。
04小4で好きになった人は、女の子だった
あれ、自分どうしたんだろう?
小4になると、学校では委員会活動が始まった。
「音楽が好きだったから、放送委員になりました。給食の時間に、自分の好きな音楽をみんなに聞いて欲しくて」
「『ORANGE RANGE』とか『175R(イナゴライダー)』、森山直太朗なんかをよくかけてましたね」
気がつくと、同じ放送委員会をしていた1つ上の先輩、女性の先輩を好きになっていた。
「それが初めて女の人を好きになった経験です」
「この頃から、あれ、自分どうしたんだろうって」
自分自身への戸惑いもありながら、好きな気持ちは抑えられなかった。
それだけではなく、男性に嫉妬する気持ちも、抑えられなかった。
「先輩は『嵐』の松潤に夢中。その熱狂ぶりに、ものすごいヤキモチを焼きましたね(笑)。自分は、松潤にはなれないし」
毎晩、布団に入ると、涙があふれてきた。
「好きだけど、その気持ちも伝えられない。苦しかったですね」
男女問わず好きになる
先輩のことは、半年ほどの間好きだった。
その次には、小学校の別のクラスの女の子を好きになった。
「コロコロと、女の子を好きになっていました(笑)」
新しい恋が、苦い恋を忘れさせてくれる。
蝶々が、花から花へと飛び回るように、気になる人ができた。
「でもそれと同時に平行して、男の子も好きやったりして。どっちも好きやな、って思ってました」
女の子でも男の子でも、好きになったら、その人しか見えない。
その気持ちは、ひたすらにまっすぐだ。
「好きになったら自分のほうから行くタイプ。男女問わずです」
05揺れ動く小学6年生
揺れ動く小学6年生
学外では、陸上もさらに頑張っていた。
小学6年生で、4×100mリレーと走り幅跳びの石川県代表として、全国大会に出場したほどだ。
その陸上クラブでは、1個上の先輩を好きになっていた。
女子の先輩だ。
好きだけど、伝えられない片思い。もう1年近く、思いを抱えたままだった。
「女の子を好きになるっていう意味で、葛藤がありました」
意を決して、伝えようか。
迷いの末に決意を固めようとしていた矢先、先輩と共通の知り合いができた。
渡りに船とばかりに、思わず、その人に相談した。
しかし、これが苦い経験の発端となってしまう。
先輩たちの鋭い視線が突き刺さる
「バカやから、先輩の知り合いに相談しちゃって」
このときのことをうかつだったと、後悔している。
「伝えたいけど伝えられない」という思いを、共通の知人に吐露した。
次の日、練習場に行ったら、自分を取り巻く空気がすっかり違っていた。
「いろんな人に白い目で見られて。それも、先輩と同じ1個上の人たちから」
あからさまな指摘や非難があったわけではない。
だが、先輩たちからの、鋭い視線が突き刺さるのが、よくわかった。
「明らかに自分を見て、ごにょごにょと。まったく関係ない人たちが、『あの人だよ』って感じで」
共通の知人に話したときは、受け入れてくれたように見えたのに。
「わかってくれるかなと思ったんです」
「言わないで」という口止めまでは、しなかった。
まさかバラされるとは、思いもしなかったから。
そして、悟ったのだ。
「これは、言っちゃいかんのだ、と思うようになりました」
<<<後編 2018/07/17/Tue>>>
INDEX
06 モヤることが増えてきて
07 自分はきっとFTMなんだろう
08 留学を経て学んだ「期待しすぎないこと」
09 ありのままでいいと言ってくれた彼女
10 お母さんにFTXをカミングアウト