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みんなが自分の軸をもち、フラットに生きられる社会を目指して【後編】

みんなが自分の軸をもち、フラットに生きられる社会を目指して【前編】はこちら

2020/05/02/Sat
Photo : Mayumi Suzuki Text : Koharu Dosaka
榎本 知史 / Tomofumi Enomoto

1990年、秋田県生まれ。幼い頃は人目を気にしない子だったが、中学生ごろから「周りと自分が違うこと」に気付き、うまく自己表現できなくなる。大学進学で上京し、多様な生き方に触れたこと、社会人になって“居場所” と呼べる場所ができたことで、自分らしさを取り戻す。現在は “人間回帰” というミッションを軸にパラレルワーカーとして働くかたわら、自分らしく生きられる人を増やす方法を模索中。

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INDEX
01 自分らしい生き方
02 好きなものは好き!
03 初めて抱いた違和感
04 「僕はゲイだ」という自覚
05 鬱屈とした日々
==================(後編)========================
06 多様性が許容される世界
07 カミングアウトの決意
08 “人間回帰” を軸に生きる
09 みんなに伝えたいこと
10 誰もが “人間回帰” できる社会へ

06多様性が許容される世界

視野の広がり

18歳のとき、大学進学にともない上京する。
初めて住む都会で、自分の世界が大きく広がったのを感じた。

「いろんな人に出会えて、毎日楽しくて。人の目が気にならない環境でもあったし、幸福度が一気に上がりました」

「お酒は20歳を超えてから飲みましたが、“飲みサー(飲み会サークル)” に所属していました。同時に、他のさまざまなサークルにも顔を出してましたね」

「1、2年生の頃は、自分よりも “違う” 人に会ってみたいって好奇心で、とにかくいろんなタイプの人に会いました」

「それぞれ違うサークル活動やバイトをしてる人の話を聞くなかで、自分の知らなかった面白い世界があることを学べて、すごく楽しかった」

マイナーな趣味を楽しむ友だちとも多く知り合い、「自分の “好き” に正直でいい」と気付けた。

「『こんなに多種多様な価値観が許容される世界があるんだな』『みんな違った生き方してもいいんだな』って思えるようにもなりました」

「今は地元が大好きだけど、やっぱり、ずっと閉鎖的な世界にいると自分はダメになるって実感しましたね」

さらに、これまで周囲には理解してもらえなかった価値観や考え方を共有できる人々にも出会う。

「自分と同じ価値観の人がたくさんいるってわかって、憑き物が取れた感覚でした」

「やりたいように生きていこう」

地元にいた頃よりも自分らしく振る舞うことができていたが、大学の友人たちにはゲイであることを明かしていなかった。

「理系の大学なので男子が圧倒的に多かったんですけど、みんな彼女いなくて(笑)」

「彼女いない方がマジョリティだったから、『なんでいないの?』って追及されることもなくて、楽でした」

大学の外には、同じセクシュアリティの知人もできる。

「新宿二丁目にも行きました。自分とはなんとなくノリが違うなと思ったけど、それはそれで面白かったですね」

3年生になると東京にも慣れ、より “違い” の幅を拡げたくなり、海外留学を決める。行き先はロサンゼルス。

1年間、日本と海外を行き来した。

「LAに行っても、想像してたほどの大きな発見はなかったかな」

「文化や宗教、人種が違っても、『人に認められたい』みたいな本質的なところは同じなんだな、って気付けたのが一番の収穫かも」

「ウェスト・ハリウッドっていう、LAにあるLGBTフレンドリーの街はすごく楽しかったです(笑)」

留学のほか、日本では企業へのインターンも経験した。

「大学に入るまでは、そのときの気分に流されてぼんやり生きてたんです」

「上京したのもファッションが好き、大学で理系を選んだのも当時化学が好きだった、ってだけの理由で」

「けど、上京していろんな生き方してる人がいるって知れて、留学も行って、『自分のやりたいようにやっていこう』って初めてしっかり思えた」

理系の大学に進学した場合は、大学院に進んで研究職に就くのが一般的。
だが、あえてその道を選ばなかった。

大学を卒業したらすぐに就職し、主体的に生きていこうと決意する。

「やりたいことを模索するために、いろんなインターンに申し込んで、すっごく早く就活を始めました」

卒業後は、IT系のベンチャー企業に就職することを決めた。

07カミングアウトの決意

転職を通して掴んだ自分の輪郭

新卒で就職したITベンチャーは、入社してみるといわゆる “ブラック企業” だった。

「自分で『いろんな仕事を経験できるところがいいな』と考えたうえで選んだんですけど、結構キツい環境で」

深夜まで残業するのが良しとされる空気の中、ひとりだけ定時退社を貫く。

「仕事だけの人間は人間らしくないって気持ちと、『定時退社をしてはいけない』っていう不合理な制約に、納得できない気持ちでやってました」

「毎日オフィスに行かなきゃいけない、月曜から金曜の決まった時間にそこにいなきゃいけない、っていうのも合わないと気付きました」

「縛られるのが好きじゃなくて」

初めて主体的に選んで入社したITベンチャーだったが、価値観が合わず数年で退社。
その後も何度か転職を重ねた。

振り返ると、その経験が今のパラレルワーカーという生き方につながっている。

「毎回自分でしっかり考えて選択してたし、心の声に従おう、自分にだけはウソをつかないようにしよう、って思いながら進んでたんです」

「だから、だんだん自分の輪郭が明確になって、ミッションや軸が見えてきた。たくさん転職してよかったなと思ってます」

初めて見つけた “ゲイの僕” の居場所

社会人になってしばらくした頃、知人から教えてもらったゲイの卓球サークルに所属する。

サークルでは同じセクシュアリティの仲間に囲まれ、より自然体でいられた。

「ゲイとしての僕が、すごく安心して落ち着いて過ごせる場所で」

「そこで出会った人たちのおかげで、同じゲイでもいろんな生き方があるんだなってわかりました」

それまでは、ありのままで生きたいと願いながらも、どこか無理をしている部分があった。

自分がゲイであることについても周囲に打ち明けられず、「ゲイのことなんてわかってもらえない」と思い込んでいた。

だが、心を許せる仲間たちとともに過ごすうち、セクシュアリティについても「自分らしく生きよう」「主体的に生きよう」と思えるようになる。

「大学のときから座禅をやっていたおかげでもあるんですけど、人との違いを恐れず、違いにとらわれることを手放して、自己了解しようって思い始めて」

「今まで無理をしていたこと、本当はセクシュアリティも含めて自分だって認めてほしかったことに気付けたら、“降りられた” 感じがしたんです」

「幸せに生きてくれれば」

「そこから、両親にカミングアウトしました」

「なんだかんだで両親の存在って大きくて、その両親に自分の一部を隠して、認められないで自分らしく生きるのは難しいと思ったんです」

両親には、「僕はゲイだから孫の顔を見せてあげることはできない。ごめんなさい」と伝えた。

「そしたら、『幸せに生きてくれればいいよ』って言ってもらえて。すっごく嬉しかったです」

「両親へのカミングアウトを通して、本当の意味でつきものが取れた感じで、ゲイである自分を了解できたのかなと思います」
妹2人、祖父母にもセクシュアリティについて説明した。

「おじいちゃんおばあちゃんはよく理解してないかもしれないけど、受け入れてくれてます」

「妹たちは、『あ、そう』『そんな節あったよね』ってあっさりしたリアクションでした(笑)」

「そこから、周りの人にカミングアウトするのはスムーズでした」

家族や友人にカミングアウトしたら、気持ちがすっきりした。
本当の自分の人生がスタートしたと感じた。

「みんな受け入れてくれて、感謝してます」

08 “人間回帰” を軸に生きる

やっと気付けた思い

真の意味で自分らしくいられるようになり、過去の選択について振り返るうちに、「自分はずっと人間らしく生きたかったんだ」と腑に落ちた瞬間があった。

「その思いを『人間回帰』って言葉に変換したら、しっくりきて」

“人間回帰” というミッションを軸に生きようと決意する。

「実際に、『自分らしく』『人間らしく』って気持ちで生きるようになったら、すごく楽になりました」

「不思議ですけど、そう決めてから価値観が近い人と出会う機会も増えたんです」

「大切なご縁だし、嬉しいですね」

価値観の合致する複数の企業と一緒に仕事をするうち、いつしかパラレルワークという働き方に落ち着いた。

「人間らしい働き方を実現するうえでは、企業って枠組みはあんまり重要じゃないと思ってて」

「サークルみたいに、『AもBもCも、それぞれ自分の価値観に合うから一緒に活動する』ってあり方になっていいと思うんです」

価値観の合う企業との仕事を通して、自分のミッションもより明確なものになっていった。

人間らしい働き方

現在仕事をする会社のうち、4社は業務委託契約、1社では正社員契約で働いている。

「正社員してる会社も、元は業務委託契約だったんです」

「1年間お付き合いして、価値観が合うことがわかったうえで正社員っていう形式になったので、何事もスムーズですね」

「もし今転職するとしても、転職エージェントは使わないかな。業務委託である程度の期間仕事して、価値観の相性を確かめてから入りたいです」

仕事の関係では、価値観にミスマッチがないことを特に重視している。

「セクシュアリティも自分の個性のひとつなので、相手から質問されたらゲイだって伝えるようにしてます」

「自分が正直に伝えて、相手が嫌な反応をしたら、それはそれでミスマッチがお互いわかってラッキーって感じ」

「だから、お互いをよく知る期間って必要だなと思いますね」

就職の際も、企業と個人が対等な立場でいられるのが理想と考えている。

「企業が一方的に評価するんじゃなくて、面談の場でお互い率直に対話する形がベストだなって」

「企業って “法人” っていうくらいだし、個人の枠が少し広がっただけじゃないですか」

「雇用される側だって、企業の人格を見極めて選んでいいと思う。僕が人事をするときも、フラットにお互いのことを知ったり、率直に評価を伝え合ったりする形式にしています」

仕事の場面でも、みんながありのままの自分で、対等に対話できるようになってほしい。

09みんなに伝えたいこと

心の声に従うことの大切さ

現在は公私にわたって、キャリアやセクシュアリティに関する相談をよく受けている。

相談されたときに伝えるのは、「心の声に従うのが大切」ということ。

「まず、自分の『したい・したくない』をしっかり見つめて、それに従って生きてほしい」

「自分が何をしたいのかわからない、という人がほとんどですが、初めは当たり前だと思います」

そういった人には、「試しにやってみるとしたら何をやりたい?」と質問する。

「いつも我慢してる人、自分にウソをついてる人は、心の声が聞こえなくなってることも多いんです」

「だから、『まずは実験のつもりで試行錯誤して、結果を定期的に振り返りましょう』ってアドバイスしてます」

実際に行動すれば、良いことも悪いことも含め、いろんな結果が生じる。

「それをもとに、『本当は何をやりたかったのか』を逆算して考えれば、おのずと自分の輪郭が明確になっていくと思うんです」

安心できる居場所を見つけて

セクシュアリティについて悩んでいる人にとって、心の声に従うのと同じくらい大切だと考えているのが、安心できる居場所を見つけること。

「LGBTの人は、会社とか学校とかを居場所だと思えずに、孤独を感じてるケースが多いように思えて」

「セクシュアリティに限らずですが、自分の心の声を貫き通すのは大変だと思う」

「だから、ぜひ心の居場所を見つけてほしいですね。受容してもらえる環境に身を置くと、安心できるし、自信を持てるようになるので」

「そのためにも、自分の安心できる世界に閉じこもるのではなく、いろんな人と出会うことが大事だと思ってます」

セクシュアリティをカミングアウトすることには賛否両論あるが、個人的には「した方がいい」という考えだ。

「人間ってみんな、根本的には人から認めてほしいものだと思うんです」

「セクシュアリティを含めて、ありのままの自分を受け入れてもらえると、軸がしっかりしてくるので、僕はカミングアウトを勧めてます」

「ただ、まずは心から安心できる居場所をつくった方がいいと思います。そこで心が満たされた先のステップが、カミングアウトかなって」

10誰もが “人間回帰” できる社会へ

自分らしく生きる手助けをしたい

心の声に従いながら生き、居場所を見つけて、居場所の外の人にもありのままの自分を認めてもらう。

自分自身がそんなステップを経て、主体的に生きられるようになった。

今後は、そんな人をひとりでも増やしたい。

「LGBTの人に限らず、誰もが人間らしく、自分らしく生きる手助けをするプロジェクトを検討中です」

「実現したいミッションやビジョンを代わりに言語化して、コンセプトシートにまとめて、その人らしいカラーの名刺とかロゴを作りたいなって」

「ただ、現時点で心の声が聞けなくなってる人には、言語化してあげるっていうアプローチが通用しないんです」

「だから、そういう人がまずは試行錯誤できるよう、みんなで一緒に考えられるオンラインサロンをつくるのもいいなと考えてます」

試しにやってみよう!

「“人間回帰” っていうと大げさだとか、仕事のことについてだけ言ってると思われることもあります」

「だけど、奇をてらってるわけでも、仕事がすべてだと言いたいわけでもないんです」

「ただ、みんなに人間らしくあってほしいだけ」

「せっかく仕事するなら、『つらい』『つまらない』って言いながらじゃなく、自分の軸をもっていきいきと働いてほしい。それだけです」

みんなが自分の軸を持ち、対等に対話しながら、自分らしく生きられるような社会。

そんな理想の実現に向けて、これからもできることに挑戦し続けていく。

LGBTERに出ることを決めたのも、その一環だ。

「僕みたいにLGBTを “被害者” だと思ってない人、カミングアウトを『いいよ!』って人、もしかしたらあんまり多くないのかもしれない」

「だからこそ、あえて自分の意見を伝えたかったんです」

「権利を主張していくみたいなやり方ではなく、人間らしく愛と対話をしていきたいですね。セクシュアリティを本当の意味で一面と捉えて、こんな考え方、生き方もあるって知ることで、ひとりでも多くの人がより人間らしく生きられたらいいなって」

「みんなもっとカジュアルに、人生に対していい意味でビッチになって(笑)、『試しにやってみよう!』って思えるようになればいいですね」

あとがき
心の声に従いながら、居場所を見つけてきた知史さんだ。どんな言葉もまるでリボンのかかったプレゼントのように受け取る。極上の笑顔だから、みんなどんどん楽しくなった■「認められたい」は、誰もが持っている欲求。取材中の頻出ワードでもあった。認めて欲しいは、[必要とされている]と感じることでもあるかな。今、知史さんは、しあわを誰かにゆだねてはいない。あの頃を越えて、誰かを愛したり、必要としている。しあわせは手のひらの中に。 (編集部)

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