02 好きなものは好き!
03 初めて抱いた違和感
04 「僕はゲイだ」という自覚
05 鬱屈とした日々
==================(後編)========================
06 多様性が許容される世界
07 カミングアウトの決意
08 “人間回帰” を軸に生きる
09 みんなに伝えたいこと
10 誰もが “人間回帰” できる社会へ
01自分らしい生き方
パラレルワーカー
「今、複数の仕事を同時にこなすパラレルワーカーとして、5社と並行してお仕事をしています」
主な仕事内容は4つ。
プロダクトマネジメント、プロジェクトマネジメント、分析調査、組織開発だ。
“人間回帰” というミッションを軸に、同じ価値観を共有できる企業と協働している。
「そのうち1社では、正社員として週5日働いてます」
「忙しいけど、リモートワークで融通も利くし、どの取引先とも価値観が合ってるので仕事しやすくて、なんとかやれてます」
「今は自分にすごくマッチした働き方ができてて、自分に嘘がなく働けてるなって思いますね」
“人間回帰” とは、「みんなが自分の軸を持って、その人らしくいきいきと生きられるようになること」。
今は、そんな人をひとりでも増やしたいと思いながら、さまざまな活動に取り組んでいる。
だが、かつては自分自身も人間らしく、自分らしくいられず葛藤した経験をもつ。
人間回帰というミッションが明確になるまでには、長い道のりがあった。
のびのび過ごした幼少期
ふるさとは秋田県。
田んぼと川に囲まれた、のどかな地方だ。
「ド田舎で何もないけど、雪がすっごい積もるんです。自然が豊かで、今でも大好きな場所ですね」
酒屋を営む両親と妹2人の5人家族。
初孫の長男として、近所に暮らす祖父母をはじめみんなから可愛がられた。
「父親はしつけに厳しい人で、家族の中心って感じ。小さい頃は『悪いことすんなよ!』って言い聞かせられたり、箸の持ち方を注意されたり」
「お母さんは優しさの塊みたいな人。大好きで、今でもおいしいもの食べると『お母さんにも食べさせてあげたいな』って思っちゃうくらい(笑)」
「妹2人とは、みんなにびっくりされるくらい仲良しです。大人になってからも、休みの日は一緒にダラダラ過ごしたり。お互い、何かあったときは相談しあってますね」
小さい頃から人見知りしない、明るい子だった。
「お母さんの影響で、ピンク・レディーが好きだったらしいです」
「親から聞いただけで記憶はないけど、2歳くらいの頃にはおばあちゃんが作ってくれたドレスを着て、ダンスを完璧に踊ってたみたい(笑)」
あたたかい家族に囲まれ、のびのびと自分らしさを表現していた。
02好きなものは好き!
マイペースを貫く小学生
小学生の頃も、自由に自分らしく振る舞った。
「今振り返ると、人の目をあんまり気にしなくて、興味があることに没頭する子でした」
「飽きっぽいから、対象はいろいろ移っていくんだけどね。ある程度やり込んだら次、みたいな」
当時好きだったのは、漢字辞典と算数、理科の勉強。
アニメやゲームにものめり込んだ。
「ゲームはただ操作するものよりも、ポケモンみたいに個性を活かせるものが好きでした。その頃から個性を大事にしてたのかも」
好きなことに没頭し、好奇心旺盛で、どんなことにも筋を通したがる性格。
当時は意識していなかったが、今振り返ると、友だちからは「ちょっと不思議な子」、先生からは「面倒な子」と思われていたと感じる。
「昔から、物事に筋が通っていると思えることがすごく重要で」
「少しでも疑問を抱くと、『どうして?』『なんでそうじゃないの?』って納得するまで理由を聞いてました」
議論好きだったこともあり、周りからは「将来は弁護士になりなよ」と言われるほど。
「弁護士にはならなかったけど、今でも物事に筋を通すっていう考え方は大切にしてるし、人とフラットに話し合えるのが好き」
友だちとの関係は良好で、男の子とも女の子ともよく遊んだ。
「男だ女だっていう意識はなくて、性別は全然気にしませんでした。同じゲームが好き同士なら、誰とでも遊びましたね」
男性キャラへの憧れ
高学年になると、自分が周りと違うという自覚をぼんやりと持ち始める。
「5年生くらいのとき、友だち数人と初めてエロ本を見たんですよ!」
「そのとき、他の子たちと見てるところが違うなって気付いて」
「周りが『これいいよな~!』って、言ってるのを理解できなかった。みんな女の人を見てたのに、僕だけ男の人を見てたんです」
男友だちに恋することはなかったが、アニメや漫画の男性キャラクターに憧れた。
「アニメキャラの話をしてても、みんなの言う『かっこいい』と自分の感じる『かっこいい』は種類が違う気がしてました」
だが、自分の感覚に大きな違和感を抱くことはなく、悩みには発展しなかった。
「周りの目を気にせず、好きなものは好きって口に出してましたね」
「それでも、『お前変だよ』とか言われることもなくて。人と違っても、あんまり気にしてなかった。というか、人と違うことを認識してない感じでした」
おおらかな環境が、ありのままの自分でいさせてくれた。
03初めて抱いた違和感
「こうあるべき」に縛られる日々
だが、中学校に上がると、教室の空気が一変する。
「みんなが急に、男らしさとか女らしさってものを意識するようになったんです」
仲の良かった女友だちと遊ぼうとすると、周りから「付き合ってるの?」と、はやし立てられるようになった。
「最初は不思議だなって思ってました。けど、だんだん僕も『男とか女とか気にしないのは、おかしいことなのかな』って考えるようになって」
「性別についてだけじゃなく、みんな『お前オタクっぽいな』『がり勉だな』とか、『この人はこういうキャラ』っていう意識も持ち始めて」
テストの順位や点数が貼り出されるようになり、「上を目指した方がいいのかな」と思うようにもなる。
「性別とか、キャラとか、順位とか。それまで意識したことのなかった枠を意識せざるを得なくなって、一気に息苦しくなったんです」
「意識するようになったら、自分らしく、思い通りに生きるのが難しくなっちゃって・・・・・・」
「幸福度がグッと下がりました」
他者的な生き方
自分の考え方や感覚が世間一般の “普通” ではないことを自覚しつつも、 “普通に振る舞う” ことは難しかった。
「器用な人なら、普通の振る舞いを学習して真似できると思うんだけど、僕には無理でした」
自分の行動を客観的に振り返れば、普通でないことはわかる。
正解がどんなものかも理解している。
だが、実際に行動するときには、自分のやりたいようにしかできなかった。
「行動することと、今の自分が普通に振る舞えてるのか、観察することを同時にこなすのは、不可能でしたね。一度にひとつのことしか集中できなくて」
ありのままの自分でいたいが、世間はそれを許容してくれない。
感情にうまく折り合いをつけられず、モヤモヤした状態で日々を過ごした。
ただ、周りの目に縛られる生活からは思わぬ収穫もあった。
「他者的な生き方を通して、初めて他の人のことを意識できるようになりました」
「昔はすごく自己中心的だったので、結果的には良かったなと思います」
「こんなこと言ったら、今の僕を知ってる人からは『今でも自己中心的だよ』って言われると思いますけど(笑)」
04「僕はゲイだ」という自覚
ゲイは “被害者” ではない
中学生の頃には、自分が周囲と違う性的指向を持っていることをはっきりと自覚した。
「男友だちがクラスの女子のことを可愛いって言ってても、僕はそんなふうに思えなくて」
「むしろそうやって騒いでる男子の方が可愛い、みたいな(笑)」
その頃から、オネエっぽい、女っぽいと言われることも増える。
「オネエっぽいって言われることに関しては、ポジティブにもネガティブにもとらえてなくて。そうなんだって腑に落ちてました」
「他の人が似たようなことをやってるのを見ると、『確かに、自分の振る舞いは普通じゃないな』と納得できたというか」
「だからオネエって言われても腹が立ったり、傷ついたりすることはなかったです」
物事を客観視し、ありのままを受け入れる性格のおかげで、性的指向自体について悩むことはなかった。
「今でも、ゲイってだけで一方的に “気持ち悪い” と判断されるのはすごく残念だけど、理解できない人がいること自体は全然いいと思ってます」
「LGBTを聖域化するというか、配慮してあげなくちゃいけないもの扱いするのも変だなって」
「だから、ゲイであることに関して被害者意識を抱いたりはしないですね」
初体験は「掲示板で知り合ったおじさん」
中3の頃には、ネットの掲示板を使ってゲイの男性たちと会うようになる。
自分を客観的に見て「普通とは違う」と感じていたため、自分と同じような “違う” 人と会ってみたかった、というのがその理由だ。
「どんな人が来るのか単純に気になって、実際に会ってみました」
「初体験は、掲示板で知り合ったおじさんでした」
「複数の人と会ったし、会ったらセックスして終わりだったので、どの人だったか正確には覚えてないけど・・・・・・」
当時から性行為をあまり神聖視しておらず、イベントごとのようにとらえていたと思う。
「ライブに行くみたいな軽いノリで、今日はこの人に会ってみようって決める感じ。知らない人に会うのも怖いとは思わなくて」
好奇心の赴くままに行動するなかで、危険な目に遭うこともあった。
「田舎だから車の中でするんだけど、人目を避けて山奥まで行くんです。そしたら、終わった後その場に置きざりにされたことがあって(笑)」
「知り合いのおじいちゃんがたまたまトラックで通りかかって、乗せて帰ってくれたので助かりました」
「どんなことも勉強になる」と考えていたため、好奇心が折られることはなかった。
05鬱屈とした日々
自意識の歪み
高校に進んでも、相変わらず世間と折り合いをつけることはできなかった。
「高校も全然楽しくなかったです。友だちはいたけど、浅い会話ばっかりしてて、本音は誰にも話せなかった」
自分らしく自由に振る舞いたいが、周りの目も気になる。
そんな葛藤の根底には、「認められたい」「共感されたい」という気持ちがあった。
「人間って結局、他の人に認めてほしいものなんだと思います」
「でも、ありのままの自分では認めてもらえなかったから、つらかったのかな、って」
葛藤は自意識の歪みを生み、自意識の歪みは奇抜なファッションという形で表れる。
「当時、髪をすっごく派手な色に髪を染めて、派手な服着てました」
「もちろん純粋にファッションが好きでやってる人もいると思うけど、僕の場合は歪みから取った行動だったと思います」
「『自分らしいことはできないけど、どうにかして認められたい!』って気持ちでした」
染髪禁止の校則に対する反抗心もあった。
「髪を染めちゃいけない理由がわからなかった。筋が通ってないことが嫌いだったので、反抗してました(笑)」
言葉にできない息苦しさを、ファッションを通して発散していた。
東京への憧れ
「歪みと言っておきながら、ファッションにすごく助けられたなって思うのは、東京に行きたいっていう目標ができたこと」
「東京にはよく雑誌に出てくるショップとかもあるし、やっぱりいいな、行きたいなって」
上京するという目標を持てたことで、勉強に打ち込むことができた。
センター試験の日に体調を崩し、思うように実力が発揮できないトラブルもあったが、無事、東京理科大学に現役合格する。
「二次試験の配点が高い茨城の公立大にも行けたんですけど、やっぱり東京がよかったんです」
「親は、子どもの頃はしつけに厳しかったけど、大きくなってからはあまり干渉してこなくて」
「進路に関しても、とやかく言われることはありませんでした」
ただ、父から言われた「家業を継がないなら、自分一人で飯を食っていけるようになれ」という言葉は、きちんと心に留めた。
まだ見ぬ都会に対する期待を胸に、新たな世界へと羽ばたいていく。
<<<後編 2020/05/02/Sat>>>
INDEX
06 多様性が許容される世界
07 カミングアウトの決意
08 “人間回帰” を軸に生きる
09 みんなに伝えたいこと
10 誰もが “人間回帰” できる社会へ