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ゲイとかストレートとか関係なく、違う考え方の人との出会いが糧になる。【後編】

ゲイとかストレートとか関係なく、違う考え方の人との出会いが糧になる。【前編】はこちら

2019/09/07/Sat
Photo : Rina Kawabata Text : Ryosuke Aritake
堀江 龍順 / Tatsumune Horie

1990年、石川県生まれ。両親の影響で幼い頃からファッションに興味を持ち、デザイン科のある高校に進学。服飾系の専門学校を卒業した後、アパレル企業に就職。23歳の時、転勤で東京に引っ越し、現在に至る。幼少期から同性に恋愛感情や性的な興味を抱き、さまざまな恋愛を経て、男性のパートナーと交際中。

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INDEX
01 「好き」と言えることの幸せ
02 自分を形作ってくれた両親の教え
03 「男の子が好き」という自覚
04 「好き」を表現しにくい年代
05 確信に近づく性的指向
==================(後編)========================
06 ゲイの自分を好いてくれた人
07 新たな出会いのための一歩
08 正反対の恋愛観が教えてくれたこと
09 正反対の恋愛観が教えてくれたこと
10 恋愛=1人の人と向き合うこと

06ゲイの自分を好いてくれた人

秀才のギャル男

「高校デビューしたんです(笑)」

中学校生活がひどかった分、同じ中学の人がいなさそうな高校を選んだ。

デザイン科のある高校に進学し、服装や髪形はいわゆる “ギャル男” に変えた。

「髪の毛を伸ばして、メッシュを入れて、胸元を開けて、とんがった靴をはいてました(笑)」

「人と違うことを大事にしていたし、自分がよりかっこよく見える武装をしていたかったんですよね」

「でも、先生から注意されることはなかったんですよ」

父の「点数さえ取っていれば、身なりはどうしたっていい」という教えに、従ったから。

「勉強はちゃんとしてて、学年10位くらいだったから、何も言われなかったんです」

「それに、高校では『堀江の服やべぇ』じゃなくて、『めっちゃオシャレだね』って、言われるようになりました」

初めての彼氏

過去を振り返ると、高校時代が一番楽しかったかもしれない。

「バイトしてたから、給料で服が買えたし、初めて彼氏もできたんです」

高校2年の夏頃、数人で友だちの家に泊まりに行った時のこと。
みんなが寝ている間に、柔道部の同級生男子といい雰囲気になった。

「その人は俺のことを性的な目で見てくれていて、その日にBくらいまでいったんです(笑)」

「でも、彼は男同士だったことに罪悪感を抱いたのか、その日から、普通に会話ができなくなってしまったんです」

「それなのに、俺はその人が好きになってしまったんですよ」

悩む彼に対して、「いつならつき合えるの?」と、結論を迫った。

その状態が半年ほど続き、高校3年の始め頃にようやく交際が始まる。

「今思うと、しつこかった自分は、本当にうっとうしかったと思います(苦笑)」

「彼とは23歳までつき合ったんですけど、大きく見守ってくれるような人でした」

「初めての相手が、ずっと俺だけを見ててくれる誠実な人で、自分は運が良かったです」

ゲイとしての未来

昼休みに、たった10分間会うだけで楽しかった。

コンビニに図書館、公園に行くだけで、幸せな気持ちになる。

「恋愛って楽しいんだな、って知りました」

「でも、頭の片隅に、どうやって生きていくんだろう、って漠然とした不安はありました」

「結婚できないし、子どもも持てないし、いつかは親に言わなきゃいけないよなって」

その反面、1日1日が楽しければそれでいいや、という気持ちもあった。

「中学の時より自分自身が強くなってたので、このままいけるかも、って思ってました」

「親にはいつか言えばいいか、って思っておいた方がラクだったし、深く考えてなかったですね」

07新たな出会いのための一歩

愛情深い完璧な彼

高校卒業後、自分は服飾系の専門学校に進み、彼は就職した。

「彼が免許を取ってくれたので、2人でいろんなところに行きました」

「車のナンバーも、つき合い始めた日の4桁にしてくれて、すごくうれしかったです」

専門学校を卒業し、石川県内のアパレル系店舗で働き始める。

「つき合いが3年も経つと、だんだん性的な行為がなくなってくるんですよね」

「この人とずっと一緒にいるのもいいけど、もっと恋愛したいな、って思い始めました」

「彼しか知らないから、他の人とも体を重ねてみたくて」

2人の関係に疑問を抱くとともに、彼に依存している自分に気づく。

「彼はやさしいし、愛情を注いでくれるし、きちんとした収入もあって、悪いところがなかったんです」

「だからこそ、この人と一緒にいたら、自分がダメになるな、って思ったんですよね」

彼に寄りかかっているだけではいけない、と別れを意識し始める。

別れを決意する時

働き始めて3年が経つ頃、東京への転勤の話が出た。

「もともとは会社を辞めて、留学しようと考えてたんです」

「そのことを人事の人に話したら、『東京の店に行かないか』って引き止められて(笑)」

ずっと考えてきた彼との別れを、決意する時なのだと感じた。

東京に行き、彼と別れることを決めた。

「彼と会う日に、ふと『伝えるなら今日だ』って思って、その日に別れを切り出しました」

コンビニの駐車場に止めた車の中。

突然の別れの言葉に、彼は驚いたようで、「好きな人ができたの?」と、聞かれた。

「知らないことが多すぎるから、もっといろんなことが知りたい、って話しました」

「嫌いになったわけじゃないけど何か違うな、ってことはうまく伝えられなかったです」

寂しさと希望に満ちた上京

前々から、東京に行きたいという意思はあった。

しかし、いざ上京するとなると寂しさが募る。

「それまで実家を出たことがなかったから、誰も知らない街で生活することは、不安でしたね」

「お母さんの大変さもわかって、ありがとう、って心から思いました」

東京の街に出ると、日本人だけでなく外国人もたくさん歩いている。
変な人がいようがいまいが、道行く人たちは気にしていなさそうだ。

「『堀江の服やべぇ』的なことはなさそうで、好きなように生きていける気がしましたね」

「何もない部屋を見ると寂しくなったけど、楽しくなりそうだな、って希望もありました」

08正反対の恋愛観が教えてくれたこと

体を重ねた回数

新しい職場の業務に慣れていき、同僚とも親しくなっていく。

「時間が経つと、東京にも知り合いが増えて、寂しさを感じることは減っていきました」

気の合う友だちも、徐々に増えていく。

「恋愛は常にしていたくて、恋愛命ぐらいのテンションだったから、出会いも求めましたね」

スマートフォンのゲイ専用アプリを通じて、いろんな人と知り合った。

「東京に来てから、人と体を重ねた回数はめっちゃ多いです」

「病気になるリスクはあるけど、責任感を持ってちゃんとしてれば問題ないかな、って思うんです」

「海外ドラマで性に奔放な子って嫌われがちだけど、意外と芯が通ってたりするじゃないですか(笑)」

日本以外の国で育った人

「そのうちに、日本人より外国人に興味を持つようになったんです」

ファッションスナップもヘアカタログもちょっとエッチな写真も、外国人が写っているものを検索していた。

「どんな写真も、外国人の方がキレイに見えたんです」

「こんなにキレイな人が世の中にいるんだ、と思ってたら、東京の街を普通に歩いてるじゃないですか」

「アプリを使って、外国人の方と知り合うようになっていきました」

外国人の友だちが増えていくと、国による文化の違いが、面白く見えてくる。

「日本以外の国で育った人たちは、どんなことを考えているのか、知りたくなったんです」

個々を尊重する恋愛

上京してから初めてつき合った相手は、フィンランド人の留学生。

「恋愛観も人生観も、180度変えてくれた人でした」

自分は常に恋人と一緒にいたいタイプで、当時は束縛もひどかった。

「メールの返信が10分ないだけで、『連絡が来ない』って、不機嫌になってたんです(笑)」

「フィンランド人の彼は真逆で、俺のことをほっとくタイプでした」

「自分の時間を大切にした上で、2人の時間もあったら、それがベストだよね」という、個々を大切にする文化の人。

「恋愛観が違いすぎて、『どうして?』『なんで?』って、かえってのめり込んじゃったんです」

「彼は日本語が6割ぐらいしかできなかったから、ケンカも時間がかかるんですよ」

互いの言い分を理解し合うまでに、4時間はかかった。

「でも、それさえも意味があることに感じました」

「自分は狭い世界で生きてきたから、いろんな話を聞いて、いろんなものを見て、いろんな情報が入ってくるのが楽しかったんです」

一緒にいる中で、彼の考え方は人として大事なことなのだろう、と思えていく。

「1人の時間を大事にする人だけど、俺がうっとうしく絡んでも別れようとはせず、何時間も話を聞いてくれたんです」

「人に愛を与えるって自分本位じゃダメなんだ、って彼が教えてくれました」

「性別とか国籍とかで人を見ないようにしよう、と思えたのも、彼のおかげです」

つき合って4ヶ月が経つ頃、彼は留学期間を終え、フィンランドに帰ってしまった。

09きっかけをくれた母と姉

逆カミングアウト

家族には、ゲイであることは打ち明けている。

・・・・・・思いがけないタイミングで。

上京する前の年のこと。

「22時くらいに仕事を終えて帰ったら、家の空気が変なんですよ」

「お母さんもお姉ちゃんも起きてるのに、会話があんまりないっていうか」

その空気の中で夕飯を食べていると、突然、母に「恋愛とか興味ないの?」と、聞かれた。

「それまで、恋愛の話を家族とすることはほとんどなかったんです」

「だから、自分もどぎまぎしつつ、『興味あるよ』って、適当に流そうとしたんです」

すると、姉が「もしかして男の人が好きなの? 男友だちがよく来るけど、彼氏?」と、追い打ちをかけてくる。

「こっちから言うんじゃなくて、そっちから聞くんかーい! って感じですよね(笑)」

高校からつき合っていた彼とは、家族ぐるみで仲良くしていた。

頻繁に遊びに来る彼を見て、母や姉は思い当たったようだ。

「ここで言わなかったらいつ言うんだろう、と思って、『そうだよ、大切な人なんだ』って、話しました」

「彼女できた?」

寛大な姉は、「恥ずかしいことじゃないし、あんたが楽しいならいいと思うよ」と、言ってくれた。

「『病気には気をつけなさいね』とだけ、言われました(苦笑)」

「お母さんは理解してるようでしてないっていうか、ちょっとズレてましたね」

上京してから少し経ち、母と連絡を取った時に「彼女できた?」と、聞かれた。

「だいぶ前に『ゲイだ』って話したのに、なぜ? ってちょっとイライラしましたね(苦笑)」

「お母さんが突然女の子のことを好きになるのと同じくらい、可能性が低いことなんだよ」と、説明した。

母はようやく「それは変だね」と、理解してくれたようで、それ以降は聞かれなくなった。

「わからないことを理解するのは時間がかかる、って今ならわかります」

「それでも否定せずに、受け止めようとしてくれた家族の存在は、ありがたいです」

思いがけない質問

専門学生時代には、友だちに打ち明けたこともある。

「その時に、無理に言わなくてもいいかな、って思ったんですよね」

拒否されたわけではないが、自分の中に恥ずかしさのような感情があった。

「わかってくれる人に伝えておけばいいものなのかな、って考えるようになりました」

現在の職場でも、全員に公表するつもりはなかった。

しかし、転職したばかりの頃の飲み会の場で、マネージャーに「ゲイなの?」と、軽い感じで聞かれた。

「マネージャーはLGBT当事者と関わった経験があるみたいで、普通に聞いてきたんです」

「あまりにも突然すぎる質問で、『あぁ、そうです』としか言えなかったですね(苦笑)」

同じ店舗のスタッフたちは、快く迎えてくれた。

「今は、仕事もプライベートもしっかりしてれば、オープンにしてていいんだ、って思えてます」

10恋愛=1人の人と向き合うこと

人それぞれ違う考え方

これまで続けてきたファッションの仕事と並行して、人に考えを伝える活動をしてみたい、と思っている。

「昔はシャイだった自分が、人前で話すことが得意になってきてるので」

「『自分みたいなポジティブな人もいるよ』って、知ってほしいんですよね」

自分の恋愛に関しても、「意味があるものだった」と、伝えていきたい。

高校時代の彼やフィンランド人の彼以外にも、さまざまな恋愛をしてきた。

「恋愛は、自分自身を豊かにしてくれましたね」

「1人の人と向き合うと、性格とか考え方、責任の取り方って人それぞれ違うんだな、って勉強になるんですよ」

「相手と自分の言い分に差がある時に、どこで折り合いをつけるか。そういうことも学びました」

「いろんな考えを知るうちに、自分の考え方も変わるというか、増えていくんです」

恋愛で学んだ人との関わり方は、仕事や友だち関係にも生きている。

「前職で人事的な業務もしてたんですけど、人はそれぞれのスタンダードを持ってるから、こっちが押しつけても支障が出るだけなんですよね」

「みんな違うことを知るためにも、若い世代には、いろんな人と出会ってほしいです」

「自分の殻を破るって大変だけど、閉じこもってないで、人と関わらないとダメ」

みんな同じ人間

いろんな人と関わって感じたことは、みんなに辛い経験があるということ。

「ストレートだろうがゲイだろうが、みんなしんどいけど、生きてるんですよね」

前までは、嫌なことがあると、寝ても覚めてもずっと考えていた。

しかし、みんな辛い中で生きてるんだ、と思うと、切り替えられるようになった。

「寝て起きたら、落ち込んでも昨日の半分まで、って考えるようになりました」

「それに、みんな同じ人間なんですよね」

「社会に出ると、LGBT当事者じゃなくても、変わった人はたくさんいる(笑)」

その中で、たまたま好きになった相手が同性だった、たまたまかわいいものが好きだった。それだけのこと。

「自分のことをちゃんと自分で責任を持てば、何をしても問題ないかな、って思います」

「だから、みんなでもっと前向きになっていきたいです」

「自分の好きなものに対して『好きだよ』って、言ってほしいな」

あとがき
龍順さんはどんな話もわずらいなく、笑いを誘った。体験のすべてには意味がある、たのしめると信じている。“人間” が好なんだと思う■「恋愛って楽しいんだな」と振り返った表情は、憧れの恋をつかんだ少年のようだった。思い切って生活の場所を変えてみたり、好きなファッションに身を包む龍順さん。恋愛もそう。[好き]は、自分らしさそのもの。やる気の源だ。自分の気持ちから目をそらさずに・・・ Be happy!(編集部)

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