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夫がいる家、妻が待つ家。ポリアモリーという生き方【前編】

夫がいる家と妻がいる家、ふたつの家庭で生きるという生活に行き着いた。複数の人と同時に、それぞれが合意の上で性愛関係を築くライフスタイル「ポリアモリー」だ。中学のときは演劇部の男役で校内の人気は極まり、周りの女の子からは大いにもてた。高校では男性との恋愛も体験。現在は、男性として充実した社会生活を送っている。

2024/06/11/Tue
Photo : Tomoki Suzuki Text : Shintaro Makino
篠崎 駿 / Shun Shinozaki

1972年、静岡県生まれ。中学で「わしは女子のほうが好きだ」と、セクシュアリティを宣言。若い頃は男女を問わず恋愛を謳歌し、28歳で結婚。45歳のとき、ネットで出会った女性と恋に落ち、もうひとつ別の家庭を持つ。2023年に性別違和(性別不合/性同一性障害)の診断が下りた。

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INDEX
01 友だちのような母娘関係にはならなかった
02 演劇部の男役でモテモテ
03 「わしのカノジョ」に囲まれた中学時代
04 同人誌を作り、漫画制作に注力
05 幹に複数の枝が生える恋愛観
==================(後編)========================
06 婚約破棄。そして、別の相手と結婚
07 週末にしか会えない結婚生活
08 大阪の女性とときめく出会い
09 家族へのカミングアウト
10 ポリアモリーというライフスタイルとこれからの未来

01友だちのような母娘関係にはならなかった

軽い気持ちでカウンセリング

「病院でカウンセリングを受けたのは、2年前の2022年です。長く勤めた会社を辞めることになって、ついでに性別も変えようかなって(笑)」

「ちょっと占いでも受けてみようか、みたいな、本当にそんな軽い感じだったんですよ。自分にとって、もともと診断を受けることはあんまり重要じゃなかったのかもしれません」

社長を信頼し、不動産建築関係の会社で20年以上勤務した。会社に告げた辞める理由は、「性別を変えるから」だった。そのほうが、みんなが納得すると思った。

「本当の退職理由は、社長が変わることになったからでした。この人じゃないんなら、もういいかなって。円満退社して、この間も遊びにいってきました。雰囲気がだいぶ変わってきたなって、元の同僚に声をかけられました」

埼玉県の持ち家には、22年前に結婚式を挙げた夫がいるが・・・・・・。

「もうひとり、今、一緒に暮らしている女性がいます。彼女のことは、自分の妻だと公言してます」

性別を変えようと思ったのは、彼女に対して男でいたい、と思う気持ちが強くなったからだった。それまでも、自分を “男” と自認していたが、専門家である第三者の認定がほしいと思った。

「はっきりさせたいっていう気持ちですね。はっきりと男になることで、すっきりする気がしたし、実際に性別違和と診断されて安心感を得ることができました」

退職して、病院で診断が下りるまでに1年間。そのブランクを経て就職した新しい職場では、現在、男性社員として働いている。

「前の職場では総務など管理部門の “女子” 社員でしたが、今は男性として得意なコンピューターの知識を生かして、社内のIT化を進める仕事をしてます」

どうしても相入れなかった弟

生まれも育ちも静岡県清水市。今は、静岡市に清水区として統合されている。

「父と母と3つ下の弟の4人家族です。経済的にも不自由のない、ごく普通の家でした」

母はポリオという小児麻痺の一級障害者で、右半身が不自由だった。

「障害はありましたけど、日常生活も家事もちゃんとしてました。でも、右足が特に動かなくて、自転車に乗れないんで125ccのバイクに乗ってパートや買い物にいってましたね」

考え方は保守的で、ちょっと古いタイプ。父の仕事が忙しかったので、家の仕事や子育ては、ほぼ母のワンオペだった。

「本当は友だちみたいに娘と仲良くしたかったんだと思います。でも、自分がベタベタするのが好きじゃなかったので、そういう関係にはなりませんでした」

父はクールな人だった。

「冠婚葬祭業をしていて、仕事の話はよくしましたね。仕事ができる人として、素直に尊敬してました」

弟は見栄っ張りで、自分がカッコいいと思うタイプだった。

「自分はアニメや漫画が好きだったんですが、彼はそれを反面教師にしてました」

「得体のわからない人物で(笑)、大人になってからはお互いの結婚式以外、ほとんど会っていません。一緒にどこかに出かけたこともありません」

9歳のときに、第三者から性的ないたずらを受けたことがある。

「父や弟の体は見てましたけど、自分と違うものがある、というくらいで何もわかりませんでした。それを第三者から見せられたことで、保健体育的な理解がちょっとできたんだと思います」

初めて、男と女の違いを知り、自分は女だと認識する機会になった。

02演劇部の男役でモテモテ

周りに女子を侍らせた

「小学校のときからインドア派でしたね。絵や漫画を描いたりするのが好きで、漫画は短大にいくまで続けてました」

5、6年生のときに、部活に入らなければいけなくて、なんとなくバトン部に入ったことがあった。それが唯一の体育系だ。

「でも、特に好きというわけでもなくて。よく、見た目は足が速そうだっていわれましたけど、本当に見た目だけで、走るのははっきりいって、かなり遅かったです(笑)」

しかし、成績はそこそこよかったし、学級委員の常連だった。

「ヒエラルキー的には、クラスのなかでいつも上位でしたね」

「ほかのFTM(トランスジェンダー男性)の話では、子どもの頃の遊び相手は男子ばかりだったとよく聞きますが、自分はそうではなかったです」

「逆に女の子を周りに侍らせているタイプでした(笑)。クラスのなかで身長も高くて、女子に人気があったんです」

漫画の世界から情報を仕入れた

中学では美術部に入りたかったが、それは叶わなかった。

「理由はわかりませんけど、美術の先生に嫌われてたんです」

「小学校のとき、5段階の5しか取ったことがなかったのに、中学では美術の成績が10段階の1か2なんですよ。その先生が美術部の顧問なんで、これは無理だなと思って入部を諦めました」

その代わりに選んだのが、演劇部だった。

「共学の中学でしたけど、演劇部は女子だけでした。そのなかで、男役しかやりませんでしたね」

「今は身長が高いほうじゃありませんが、そのときにはもう今くらいあったんです。自分のキャラクターからしても、女役をやるとは誰も思わなかったでしょうね」

男役はもちろん主役だ。

実生活でも女の子からモテモテで、バレンタインデーのチョコレートはどの男子よりもたくさんもらった。

「その頃から自分のセクシュアリティについて自覚していましたね。みんなにも、『女の子としかつき合わない!』って公言してました(笑)」

とはいっても、まだLGBTなどという言葉は知らなかった。

知識として役に立ったのは、漫画からの情報だ。そこには、性別を超えた恋愛の世界が生々しく描かれていた。

「BLはよく見てました。当時、オタクの世界では、『やおい』って呼ばれてました。自分でも、男同士、女同士の恋愛を描いて、平気で友だちや親に見せてました。でも、ドラゴンボールのBLが見つかったときは、ちょっと気まずかったですね(笑)」

03 「わしのカノジョ」に囲まれた中学時代

不良グループのトップが知り合い

「中学校は、人生のなかでも全盛期といえるほど楽しかったですね」

入学するときに、同級生から「お前は生意気だ。オレの姉ちゃんは、有名なスケバンの長なんだ。お前のことをシメておくようにいっといたから」と、脅かされた。

すると、しばらくして、ツッパリの一団から体育館の裏に呼び出される。

「『ビー・バップ・ハイスクール』の時代で、漫画に出てくるみたいにスカートを長くしたスケバンが現れたんですよ」

ところが、そのグループのトップのひとりが小学校のときによく面倒を見てくれた、仲がいい人だった。

「この子はいいから、放っておきましょうっていうことになって。助かったうえに、不良グループにもコネができて、すっかり学校のなかで居心地がよくなりました(笑)」

演劇部では男役の主役でモテモテ、オタク仲間とは同人誌を作って漫画制作に没頭、おまけに不良グループには顔が効く。

中学生活は、まさにスタートからいいポジションを取れた。

「男子と拳を交える喧嘩もしましたけど、バックがついてるから怖くなかったです(笑)。スカートから脚を出すのが嫌だったので、自分もスカートを長くしてました」

ときどき、先生にも楯を突いた。

「どこか人と違うほうがカッコいい、ちょっと悪いほうがカッコいいという意識はありましたね(苦笑)」

「わしのカノジョ」がいっぱい

中学生の頃から、自分を「わし」と呼んでいた。

「田舎のおばあちゃんが、自分のことを『わし』っていってましたから、方言もあるのかもしれませんね。でも、自分のなかでは『わたし』の『た』を抜かしただけだと思っているんで、『オレ』よりはマシかな、と」

とにかく女の子が寄ってくるので、カノジョを作るのは簡単だった。

「同級生のカノジョ」「年下のカノジョ」「ほかの学校のカノジョ」など、複数のカノジョとつき合うようになる。

「そのなかでも、特に好きな子がいました。かわいそうに、その子の人生を狂わせることになっちゃいましたね」

クラスのなかで、ふたりがつき合っていることは知られていたが、まさか肉体関係であるとは思われていなかっただろう。その子との関係は、卒業した後も長く続く。

「今はほとんど会いませんけど、『地元のカノジョ』です。あるとき、最初で最後の恋だから、否定しないで、といわれました」

当時、セクシュアリティに関する知識はほとんどなかったが、不安になるとか、悩むということもなかった。

04同人誌を作り、漫画制作に注力

漫画じゃ食っていけないぞ

中学では漫画を描く友だちと同人誌を作って、その活動にも力を注いだ。

「みんな本気で描いてましたね。プロになった子はいませんけど、いまだにSNSにアップしている子はいます」

みんなで同人誌の即売会にも出かけた。

「将来はデザイン関係に進みたい、という希望がありました。でも、『漫画じゃ食っていけないぞ』って親からいわれて、そうなのかぁってすぐに諦めました。その程度のこだわりだったんでしょう」

その後、声優になりたいと思い、オーディションを受けるまでになったが、そのときも親の反対で断念する。

「結局、静岡学園という進学校の普通科に入学することになりました。でも、実は制服で選んだんです。もうセーラー服は嫌だったんで、ブレザーの学校を探したら、そこしかなかったんです」

男尊女卑の校風

静岡学園といえば、サッカーが有名。カズがいたことでも知られる。

しかし、部活で名を上げるのは商業科の生徒たち。受験を目指す普通科は、部活禁止だった。

「演劇部も見にいったんですが、あんた、普通科でしょって門前払いされてしまいました」

生徒の8割が男子。“女子は男子の足を引っ張るな” というのが学校の方針だった。

女子は髪を伸ばしちゃいけない、肌を出してはいけない、という今では信じられない校則があった。

「首筋を出しちゃいけないっていうんで、女子はみんな同じおかっぱなんですよ。校則に楯突くのも面倒なんで、そのまま従ってました」

高校時代、一番力を入れたのは漫画だった。

「友だちと自費出版で本を作ったり、雑誌に投稿したりしてました。でも、プロになるつもりはなかったので、ワイワイやることで満足してましたね」

勉強も一生懸命、頑張った。特に数学は、いつも一番だった。

「でも、英語はビリだったんで、ならすと真ん中ぐらいでした(苦笑)」

05幹に複数の枝が生える恋愛観

幹が本命、枝は浮気相手

性別違和の診断書をもらうために通った病院で、自分の恋愛観を木にたとえて先生に説明した。

「本命が木の幹で、誰にでも紹介できる相手です。浮気相手は幹から生える枝で、枝は何本でも生える。枝は幹がいることを知ってつき合っているけど、幹は枝が生えていることを知らないわけです」

幹は中学から続いているカノジョで、枝も女子だった。しかし、高校生になると、枝のなかに男子の枝も混ざるようになった・・・・・・。

自分の説明に先生は興味を示した。

「『わしのカレシ』もできました(笑)」

「相手の性別が、“男だ” “女だ” という感覚はありませんでしたね。今にして思えば、バイセクシュアルですね。男女混合なら、鉢合わせても友だちだと紹介できるからバレにくいという利点もあったと思います」

男子との交際からは、女子のエスコート法を学んだ。

「そうか、こうやってリードするのか! って勉強になりました」

幹に枝が生える交際は、短大に進む頃には六股ほどになっていた。

「その頃は幹が男でした。枝の男には本命のカノジョがいたんですが、浮気がバレてしまって、そのカノジョから話がしたいっていわれたんです」

ところが、会って話すうちにそのカノジョも枝になった。

「若い頃には、いろんなことがありました。罪悪感ですか・・・・・・あまり感じたことがありません。ひどいですね(笑)」

遊んで、飲んで、バイトして

短大に進学し、経営情報学部を専攻した。数学が得意で、パソコンも好きだった。

「短大時代、何をしていたのかなぁ。あまり覚えていないんですよね。パン屋でバイトをしてましたね」

サンドイッチを作ったり、販売をしたり。多いときは、月に30日働いて、親の扶養から抜けたこともあった。

一方で、漫画制作のペースは落ちていった。

「遊びまくって、飲みまくって・・・・・・。遊ぶお金が必要だから、バイトを一生懸命して。そんな生活でした」

しかし、時代は就職氷河期。希望する企業の求人は軒並みゼロ。面接は受けたが、一社からも内定をもらうことはできなかった。

 

<<<後編 2024/96/18/Tue>>>

INDEX
06 婚約破棄。そして、別の相手と結婚
07 週末にしか会えない結婚生活
08 大阪の女性とときめく出会い
09 家族へのカミングアウト
10 ポリアモリーというライフスタイルとこれからの未来

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