02 トキメキがなかった最初の交際
03 カッコいい男の子に、初めて胸キュン!
04 SNSで知った、性欲とゲイ
05 鉄道会社からテーマパークへ。接客のキャリアを積む
==================(後編)========================
06 ああ、これがトキメキだ!
07 カミングアウトで気持ちが楽になった
08 輝く姉の姿を見て、キャビンクルーを目指す
09 会えばときめく、またも遠距離恋愛
10 LGBTの活動も視野に入れている
06ああ、これがトキメキだ!
初めての相手は岡山の人
初めて、男性が集まる場所に足を踏み入れたのは、19歳のときだった。
「鉄道会社に勤めているときでした。県の条例で、18歳までは性行為は禁止されているんです。だから、それまでは我慢していました」
“解禁”と同時に博多界隈にデビューし、大阪の堂山町にも足を伸ばした。
そうこうするうちに、SNSを通じて、ある人と出会った。
「岡山に住んでいる21歳の人で、頻繁にメッセージを交わすうちに、会ってみたいと思うようになりました」
初デートは、広島の厳島神社へのお泊まりコース。デートの楽しさを初めて知った。
「これだったんだ! と思いましたね。どうしても分からなかったトキメキを実感しました(笑)」
しかも、相手は性的な欲求が強い人だった。
「自分が相手のものになった、相手が自分のものになった、と感じました。幸せでしたね」
束縛、嫉妬が重荷になって破局
前の職場にも一人、ゲイと分かる先輩がいた。その人から、「藤崎君もそうなんでしょ?」と聞かれたことがあった。
「ぼくは、恥ずかしいときに、顔を隠すクセがあったんです。そういう女性っぽい仕草から勘づいたみたいでした」
「そのときは、『違います!』と、即答しました。認めたら、犯されてしまいそうだったんです(笑)」
岡山の人との関係は、誰にも打ち明けることなく続いた。
しかし、蜜月の関係は次第にほころび始める。
相手が会社員だったため、一緒にいられる時間を作るのが、お互いに苦痛になってきたのだ。
「それと、彼の束縛が重荷になってきました」
嫉妬深く、「どこに行ったんだ、誰と一緒だったんだ」と、友人関係にも目を光らせるようになった。
初めての本格的なおつき合いは、2年ほどで終止符が打たれた。
07カミングアウトで気持ちが楽になった
店子のバイトにも挑戦
テーマパークに勤めているときは、バーの店子のバイトも経験した。
「お金も欲しかったし、LGBTの人ともっと交流を持ちたいと思って働きました」
「夜更かしが好きだったので、ただ起きているのももったいないし(笑)」
店員はみんなゲイだったが、お客さんはいろいろな人が来た。下ネタばかりが飛び交う、楽しい店だった。
「最初に驚いたのは、知らされるまでは、LGBTだと分からない人が多いということですね」
たくさんの出会いに恵まれたが、バイトは1カ月半しか続かなかった。
「ぼく、ジュースみたいなお酒しか飲めないんです」
あるとき、お客さんが20万円以上するシャンペンを開けて、飲ませてくれた。
「それがお酢の味しかしなくて(笑)。これはダメだ、と思って辞めました」
キャストの同僚に次々とカミングアウト
最初のカミングアウトは、テーマパークでの同僚だった。
「とても仲良くしてくれた女の子で、こんなに親しくしてくれるなら、本当の自分を知ってほしいと思って話しました」
ところが、彼女のリアクションは、「何をいってるんですか、気がついていましたよ!」。
「知っているうえでの友だちですよ、ともいってくれました」
その一言で、気持ちが一気に楽になった。
「理解してくれそうな人には、カミングアウトができるようになりました」
職場の環境もおおらかで、心を開くにはうってつけだったのだ。
なかには気になる男性も・・・・・・。
「カッコいい人もいましたけど、つき合うまでにはいきませんでしたね」
問題は家族にどう打ち明けるか
友だちや同僚にはオープンでいられるようになった。しかし、難しいのは、家族へのカミングアウトだ。
「正直なところ、家族以外は、関係が悪くなれば縁を切ればいいじゃないですか。さすがに家族は、そうはいきません」
母親に「彼女はできないの? いつごろ、結婚するつもりなの?」と聞かれたことがあった。
「そのときは、まだ家族を持つ責任も能力が足りないから・・・・・・。とごまかしました」
一言いってしまえば終わる、と分かっていても、ショックを受ける姿を想像すると決心がつかない。
少しの勇気が沸かないというのが本心だ。
SNSなどで、「あんたが本当にゲイだったら、もううちの子じゃない、といわれた」などの書き込みを読むと、さらに気持ちが重くなるばかりだ。
08輝く姉の姿を見て、キャビンクルーを目指す
憧れだった航空業界
楽しく勤めたテーマパークでの仕事だったが、約1年間で次のステージへ進む決心をする。
「子どもの頃から憧れだった、飛行機に関わる仕事をしたくなったんです」
思えば、高校へ進むとき、自分の学力では航空関係は無理、と諦めた経緯があった。2つの職場でキャリアを積み、社会人としての自分に自信もついた。
もうひとつ、きっかけとなることがあった。
「大阪から仙台行きの飛行きに乗ったとき、すぐ上の姉がクルーとして勤務していたんです」
まったくの偶然だった。
姉は乗客名簿を見て、ぼくが乗るのを知っていたが、声をかけられたときはびっくりした。
「そのとき、初めて姉をきれいだと思いました」
キャビンアテンダントのユニフォームを着て、颯爽と働く姉は輝いていた。その姿を見て、諦めかけていた夢にチャレンジする意欲が沸いた。
電車と違って、飛行機は乗務中がサービスの見せどころだ。磨いてきた接客力をキャビンクルーとして発揮する決意を固めた。
緊張感が求められる職場
求人に応募し、あるLCCに採用が決まった。勤務地は成田だった。
「上の姉が成田でアパートを借りていたので、少しの間、居候させてもらいました」
トレーニングを受けてみると、乗客の命を預かる、責任ある仕事と痛感する。
「訓練のときは、失敗すると流れが止まりますけど、実際の緊急時ではそうはいきません」
実際、トレーニング期間に、自社のフライトが緊急着陸するアクシデントもあった。
「まだ独り立ちして半年弱。緊張感を持って乗務しています」
もうひとつ感じているのは、キャビンクルーが女性社会であるということだ。男性のスチュワードが増えたとはいえ、まだまだ女性が多い。
「合わせなければいけないことも多いですね」
生まれ育った家庭も、テーマパークも、やはり女性社会だった。うまく適応する自信はある。
「与えられた環境に順応して、常にフレンドリーな接客を提供できるように心がけています」
今は、国際線、国内線を問わず乗務している。さらに経験を積んで、信頼感あるアテンドをすることが目標だ。
09会えばときめく、またも遠距離恋愛
新しい恋人は年下の子
最初の相手と別れてから、しばらくいい相手に恵まれなかったが、昨年、ようやく素晴らしい人に巡り合うことができた。
「20歳の学生です。ツイッターで知り会いました」
今度は、5歳も年下。体格がよくて、マイペースだ。
「前の人のときは、自分が甘えていましたけど、今度は逆に、彼を甘えさせてあげなくてはいけません」
社会人と学生という、社会的立場の違いもある。
ところが、彼はリーダーシップを取ることができる人物だ。
「製菓の学校を出て、将来はフランス料理のデザート担当を志すといってます。お菓子メーカーに勤めるがゴールではないみたいです」
自分の意志もしっかりと持っている。
「気がついたら、最近、立場が逆転して、自分が甘えちゃっているんですよね(笑)」
ふたりが居心地のよくいられる関係を模索中だ。
「お互いに影響されにくいところは似ているかもしれませんね」
彼とは、またも遠距離恋愛だ。
「一度、失敗しているので、お互いに束縛するのはやめようと約束してあります」
今は、安心感よりトキメキ
学校を卒業したら、彼は神奈川の会社に勤める予定だ。そうなれば、遠距離恋愛は解消される。
「つき合い出してすぐのころは、一緒に住みたい、と思いましたけど、今は会いたいときに会える距離にいるのがベストかな、と思っています」
一緒に暮らしてしまったら、トキメキがなくなるのが怖い。
「今、メチャときめいてます!(笑)」
今は会えるチャンスが限られている。せいぜい月に1回のペースだ。
それだけに会えたときのうれしさは格別だ。
「将来的に、家族はほしいと思いますが、今すぐじゃなくてもいいかな」
家族として育む愛情、信頼感が大切なことは分かる。でも、今、体が求めているのは燃える恋愛感情だ。
10 LGBTの活動も視野に入れている
オープンにしたほうが楽
最近、積極的にLGBTに関する活動をしたいと思うようになった。
「LGBTの仲間を集めて、YouTubeでいろいろなことを発信していきたいと考えてます」
現在、4人の仲間がいる。観てくれた人が笑えるような、面白いトークショーを企画中だ。
「今は男ばかりなんですけど、できれば女性も仲間に入れたいですね」
今年、東京レインボープライドのボランティアにも、初めて応募した。
「徐々にセクシュアリティをオープンにしていきたいと思っています。LGBTERに応募したのも、そんな気持ちからです」
「自分でいうのもなんですが、人に愛してもらえるキャラなんですよ(笑)」
「だから、ゲイとバレたからといって虐められたり、変な目で見られたりはしないと確信しています!」
「オープンにしていれば、彼氏のことも話せるし、のろけることもできるでしょ。そのほうが楽だし、楽しいですよね」
これまで、セクシュアリティに関して、悩んだり苦しんだ経験はほとんどない。オープンにするハードルは、とっても低いと考えている。
カミングアウトのチャンスを逃す
他人に話すことに抵抗は感じなくなった。残る課題は、やはり家族へのカミングアウトだ。
「一度、成田の家に男友だちを連れてきた後に、『あんた、本当は男が好きなんじゃないの?』とお母さんにいわれたことがあったんです」
そのときは、食事の準備をしているときで、まさに不意を突かれてしまった。
「心の準備ができていなかったので、『何いってんの、違うよ!』と即座に否定してしまいました」
思い返せば、あのときが、「実は・・・・・・」と告白するチャンスだったのかもしれない。
そんなことをいうくらいだから、お母さんは薄々、気がついているのかもしれない。
「カミングアウトしても、『やっぱりそうだったのね、あんた』という程度かもしれませんね」
お母さんは、もともとフランクで、はっちゃけた性格だ。きっと、あっさりと理解してくれるだろう。
お父さんの反応は・・・・・・。
「分かりませんね。ショックを受けて、むすっと黙り込んじゃうかな」
いずれにしても、将来、正式に結婚かパートナーシップの申請をするときには、きちんと話す覚悟はできている。
ふたりの姉も、まだ気がついていないはずだ。
「LGBTERに出たら、姉たちは記事を見るかもしれませんね。でも、それならそれでいいかと・・・・・・」
何かのきっかけで知ってもらうのも悪くない。
「仕事のキャリアアップも考えています。すべての面で前向きに進みたいですね」
仕事、彼氏との将来、LGBTの活動。目の前に開けている道は明るい。