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人助けの前に、まず自分を愛することの大切さ【後編】

人助けの前に、まず自分を愛することの大切さ【前編】はこちら

2024/04/20/Sat
Photo : Yasuko Fujisawa Text : Hikari Katano
吉田 翔平 / Shohei Yoshida

1990年、東京都生まれ。感受性が強く感覚が敏感な気質や、早生まれなどの理由から劣等感を抱いて育つ。大学で英語を学んだあと、20代半ばでキリスト教会のボランティア活動のため渡米し、2年間滞在。コロナ禍をきっかけに不安障害に陥るも、自分と向き合うことでアメリカ人の同性パートナーと出会う。

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INDEX
01 周りと違う自分
02 学校とは、そういうもの
03 飼育員が難しいなら英語を
04 恋愛できるはずがない
05 コミュニケーションできるじゃん!
==================(後編)========================
06 キリスト教会という ”ふた”
07 どうせならオープンリーゲイに
08 それでも一人
09 デートしよう!!
10 個々のストーリーを広める大切さ

06キリスト教会という ”ふた”

英語を使う仕事に就きたかったはずが・・・

大学卒業後、ペットショップに就職した。

「会社が海外進出する予定だったので、英語が使える人材が必要だってことで採用されたんですけど、入社したらその話はなくなっていて・・・・・・」

入社してわずか数カ月で店長に昇進。

真面目で責任感の強い性格も相まって、だんだん仕事がつらいと感じるように。

「人にものを売る仕事は苦手だなと気づいて・・・・・・」

店舗経営を任せられている重圧を一身に受けながらも「石の上にも3年」となんとか耐えしのいだ。

キリスト教会の救い

大学卒業前から、自分は人助けが好きだと自覚するようになっていた。

そんな矢先に、道端であるキリスト教会に出会った。

「外国人ボランティアが多かったので、英語を使えるってこともあって入りました」

「社会人になってからは、救いが欲しくてボランティアに参加してた側面もあったと思います」

マイケル・ジャクソンをはじめとする海外アーティストが慈善活動に取り組む姿勢を見ていたこともあり、自分自身も仕事より教会ボランティアとしての活動に傾倒していく。

セクシュアリティを受け入れられていなかった

所属しているキリスト教会は、現在でもLGBTQには基本的に否定的な立場を取っている。

そんな教会に所属することは、自分の内なるセクシュアリティを否定することにもつながる。

「LGBTQ当事者だと自覚はしていても、自分で自分を受け入れたくなかったからこそ、教会でのボランティアにのめり込んでいったんだと思います」

かつて漠然と思い描いていた結婚という将来も近くなってきている。

教会のコミュニティに属していれば、自分のセクシュアリティに向き合わずに済むかもしれないと、淡い期待を抱いていた。

07どうせならオープンリーゲイに

母親へのカミングアウト

20代半ば、ペットショップを退職して教会のボランティア活動に専念するため、渡米を決意。

その前に、母親にセクシュアリティをカミングアウトした。

「最初に知ってほしかった存在は、やっぱり自分とも似てる母でした」

「そのころはまだ女の子にも興味がないのか明確じゃなかったので、バイセクシュアルかもしれない、って話したと思います」

今まで溜まっていた不安と、当時叶わないと思っていた失恋への悲しみが重なり、泣きながら打ち明ける。

母親は静かに受け止めてくれた。

「それまで女の子との浮いた話がまったくなかったからか、驚きもせず、すぐに受け入れてくれましたね」

「当時はLGBTQって言葉も少しずつ社会に認知され始めてたころだったので、母もバイセクシュアルの意味は知ってました」

弟にはメールで伝えたが「全然いいと思う」とあっさりした反応。

父親も「お母さんがいいなら」と受け入れてくれた。

それまで家族にカミングアウトできていなかったのは、自分自身がLGBTQや同性愛に対する嫌悪感を抱いていたからだと、今は思っている。

「家族に受け入れてもらえたことは、恵まれてたなと思います」

突然、オープンリーゲイに

アメリカで2年間のボランティア活動を経て帰国したときには、28歳になっていた。

「周りの友人は続々と結婚し始めてました」

「僕も、周囲から『この子どう?』とか『デートしてみたら?』って、女の子を紹介される機会が増えて・・・・・・」

教会本部としてはLGBTQに否定的なものの、教会のなかにはLGBTQ当事者であることをカミングアウトしている人もいた。

「ゲイであることを周りに打ち明けたうえで、女性と結婚して家庭を持てて幸せです、これが神の道です、っていう人もいたんですけど・・・・・・」

「すごいことだなと思いますけど、自分にはできないなと思ってました」

女性との縁談を持ち掛けられるたびに、ゲイであることを隠しながらお断りし、気疲れすることが続く。

周りからは「あなたはボランティア精神のある誠実な人なのに、どうして女性とお付き合いしないの?」とますます怪しまれる。

「周りにカミングアウトするなら今だ、って思いました」

思い切って、ゲイであることやこれまでの思いをFacebookにつづって投稿した。

周りからの反応は、すべて肯定的だった。

「もらったコメントや連絡は、どれもサポーティブなものでした」

Facebookでカミングアウトすることは大きな勇気が必要なものだった。

でも、実際に行動に移してみると「意外とこんなもの」という結果だったのだ。

08それでも一人

教会のコミュニティに属しているけど・・・

Facebookでのカミングアウトも無事に終え、一安心かと思いきや、これまでにない不安が襲ってきた。

「今まで一緒にいた仲のいい人たちが結婚して、いなくなっていくっていうことが何回か続いたんです」

たしかに、自分は教会のコミュニティに属している。周りの人たちは、自分のセクシュアリティも受け入れてくれている。

だけど、結局独りぼっちではないか。

「みんな、口では受け入れてるような言葉をかけてくれてたとしても、本当のところはどうなんだろうな、と感じてしまって・・・・・・」

そんな矢先、コロナ禍が世界中を襲う。

自分と向き合うなかで

新型コロナウイルスが蔓延したことで、教会に集まれない期間が約2年間続いた。

内省の時間が増えたことにより、将来への不安がより増していった。

「そのときには今の英会話教室の講師としての仕事を始めていて、仕事面では順調だったんです。なのに、漠然とした不安が消えなくて・・・・・・」

精神的に不安定な状態に至ったのは、セクシュアリティをオープンにしても、まだ自分に “ふた” をしていたからだと、今は考えている。

「ゲイだとカミングアウトしてはいましたけど、パートナーはいなかった。要は、同性愛 “行為” はしてなかったわけです。でも、教会はあくまで同性愛を禁じている。その葛藤に苛まれてたんだと思います」

2020年の終わりごろから心療内科に通い始め、不安障害だと診断を受けた。

09デートしよう!!

やっと自分の心の声を聞いた

通院により、精神状態は少しずつ落ち着きを取り戻した。

「2021年が、人生で精神的に一番つらい年でした。自殺願望も正直ありました・・・・・・」

「あの “どん底” には絶対に戻っちゃいかん! どん底に戻らないためなら、なんだってする! って決めたんです」

何をすれば、自分を取り戻せるのか?

「教会、家族、周りの意見じゃなくて、本当に自分がしたいことってなんだろう? って突き詰めて考えたときに、デートがしたい!! って思ったんです(笑)」

周りの目を気にして自分をないがしろにし続けてきた僕が、初めて自分の本当の想いに向き合えた瞬間だった。

キリスト教というバックグラウンドも共有できるパートナー

「デートをしたい!!」と相手を探して4か月。

マッチングアプリで出会ったアメリカ出身のパートナーと、現在もお付き合いしている。

「短期間で、奇跡的に素敵な人に出会えました(笑)」

パートナーは、キリスト教の教えが忠実なエリアで育っている人だ。

そのため、僕がキリスト教に関わっていたことから生じた葛藤も、よく理解してくれている。

パートナーと出会ってから、毎日の生活がカラフルになった。

「料理とか、今まで何とも思っていなかったことが、二人でやると楽しいんです(笑)」

「カフェめぐりやディズニーとか、新しいことにも興味を持てるようになりました」

自分の想いに “ふた” をする癖からはまだ完全には抜け出せていない。

でも、パートナーの性格がよい影響をもたらしてくれる。

「パートナーは、やりたいことはやればいいっていう考えなんです」

「『これ買いたいなぁ、でもお金が・・・・・・』って僕が迷っていると、買っちゃえばいいじゃん! って背中を押してくれるんです。おかげでお金が貯まらないんですけどね(苦笑)」

貯金ができないという悩みも、うれしい悲鳴だ。

10個々のストーリーを広める大切さ

コミュニケーションへの苦手意識を克服

英会話教室講師の仕事は、勤め始めてから4年半ほど経っている。

「マンツーマンで、生徒さんの目的や目標に合わせた指導を行ってます」

「生徒さんのほとんどは、20代以上の社会人ですね。40代から50代の層が一番多いですが、なかには70代の方もいます」

効率重視の時代ではあるが、僕は生徒さんに、楽しく続けられることを一番に考えるべきだと伝えている。

「教える分野はビジネス英語が多いですけど、楽しく会話できる授業をすることに重きを置いています」

生徒が個人で学んでいるからこそ、従来の学校での英語教育ではなかなか選択できない、思い切った提案をすることもある。

「生徒さんが、このプログラムは楽しくなさそうだなってときには『これは、やらなくてもいいんじゃないですか?』と言うときもあります」

「モチベーションが長く続くようにシフトしたほうが、結果としてレベルアップにもつながりますからね」

自分自身も、日々勉強の毎日を送っている。

「生徒さんの要望に合わせて、自分もその分野の英語の勉強をしないといけないんです。医療用語を覚えなきゃいけなかったときは、結構大変でした(苦笑)」

かつては苦手としていた、人との密接なコミュニケーションを主とする仕事。

今後も続けていきたいと思えるほどに成長できたのは、英語との出会いなくしては考えられない。

結婚したいけれど

パートナーと付き合って約1年半。結婚の話も出ている。

「まだ日本では同性婚が認められてないので、もし結婚したいならアメリカでしないといけません」

「僕たちには、アメリカで結婚するという選択肢がある。日本人同士の同性カップルよりは、恵まれてるんだと思います」

ただ、アメリカへの移住は今のところ考えていない。

「パートナーが、日本のほうがいいって言うんです。でも、パートナーとの会話は英語オンリーですけど(苦笑)」

外国人の同性カップルをきっかけとして、いずれ同性婚が法制化されるだろうと考えている。

「僕たちと同じような外国人と日本人の同性カップルが訴訟を起こして、外国籍のパートナーに『特定活動』の在留資格が与えられる動きが出たんです」

この判決をきっかけに、同性婚法制化に向けて本格的に日本社会が変わっていくはずだ。

つらい思いをしているLGBTQ当事者に手を差し伸べたい

現在、教会からは距離を置いているが、慈善活動そのものへの興味は途絶えていない。

「まだ具体的じゃないんですけど、前の自分と同じように、セクシュアリティで葛藤を抱えてる人たちの力になれる活動をしたいです」

きっかけは、2023年の初めにアメリカに訪問したときのこと。

「ユタ州で、LGBTQ当事者が集まって、落ち着いた雰囲気で語り合うencircle っていうグループを見学したときに、日本にもこういう場所があってもいいんじゃないかなって思ったんです」

自分と同じセクシュアリティの友人を見つけたいときには、新宿二丁目に出向かないといけないのか。SNSやマッチングアプリ頼みになってしまうのか。

「お酒を飲んだり、はっちゃけられる場も大事だけど、ボードゲームでもしながら健全に語れる居場所も必要だと思うんです」

LGBTQの認知度や理解は広まっているものの、まだ他人事のように感じている人も多い。

「知ってるLGBTQ当事者がテレビのタレントだけだと、別世界の話のように感じてしまう。タレントでも活動家でもない、個人個人のストーリーを知ることが大事だと思うんですよね」

LGBTERへの応募も、そうした思いを抱いた結果だ。

「顔を出していくことは身を削ることにもなるかもしれないですけど、パートナーは今回の取材も応援してくれました」

実は、パートナーは必ずしもオープンリーゲイというわけではない。

「パートナーは、質問されれば同性のパートナーがいることは伝えるけど、ゲイだとは言いたくない。自分は自分だから、というスタンスなんです」

パートナーのように「自分は自分」という考え方が広まることが、だれもが生きやすくなる道だと思っている。

そのために、自分が「本当の意味で」人助けをしていくのは、まだまだこれからだ。

あとがき
寒い時期の撮影だったのに、翔平さんの笑顔は爽やか。初夏のようだった。真心をもって人や物事に対する人間性は、話しのすみずみまで行きわたり、大きな安心感をくれる。仕事で得られる信頼も納得だ■「パートナーと出会ってから、毎日の生活がカラフルになった」。翔平さんが感じた天然色の日常が、特別な世界でなくなるように・・・。誰かへのおもいに名前もフタもいらない。恋愛なのか、憧れなのか、どんな好きでもいい。誰を好きになってもいい。(編集部)

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