02 自由にさせてくれる優しい両親
03 一人で過ごす大人しい子
04 お父さんがコーチの地元野球部に参加
05 アニメの声優を志して養成学校に入門
==================(後編)========================
06 アマチュア劇団で役者として舞台に立つ
07 卒業式の直前にカミングアウト&告白
08 タイプの人は年上のショートカット
09 彼女を作って、結婚式を挙げたい
10 メンタルヘルスのカウンセラーを目指す
06アマチュア劇団で役者として舞台に立つ
1年に一度、文化祭で演じる
中学3年生の春、劇団に入門。発声法を学んだことはあったが、本格的な演技となると新しいチャレンジだ。
「団員の8割は大人です。数人ですけど、小学校低学年の子役もいて。ぼくは、その中間という立場です」
毎年、11月に松戸市と柏市が合同で行う文化祭があり、市民ホールで芝居を披露する。それが一番の目標だ。
「6月か7月ごろに演目を決めて、脚本がまとまります。そして、夏休みから練習を始めて、本番にのぞみます」
出し物は50分くらい。しっかりとした準備と練習が求められる。もちろん、指導する先生がきてくれる。
「これまで2回、舞台に立ちました。最初はモブキャラ(脇役)でしたけど、去年はセリフが多い役柄を演じました」
主人公の血縁関係にあたる人物で、主人公に悪い影響を与える重要な役回りだった。
「本番のときは、家族や友だちが観にきてくれましたね」
他人になり切ることが魅力
演劇の楽しさは、他人になり切ることだと感じている。
「趣味でコスプレなんかもしますけど、それに似ているかな・・・・・・」
文化祭に向けた練習がない時期でも、毎週日曜は劇団に通っている。
「主に基礎練習や発声練習をしてます。あとは、ほかの劇団の演目を観て、勉強会をしたりもします」
自分たちの過去の舞台を振り返って、反省会も行う。
「合宿を兼ねて、山登りに行ったこともあります」
劇団のなかでは、「年下の子」という印象がついている。
「みんなにかわいがってもらえて、居心地もいいです。みんな、趣味の仲間ですから、気楽につき合えるのが性に合っています」
07卒業式の直前にカミングアウト&告白
男女分けに違和感を感じる
中学に入っても、ぼっち生活は変わらなかった。
「友だちは2、3人ですかね。それでもいいやっていう感じで・・・・・・」
会話をしない代わり、人の話を盗み聞きする能力が高かった。
「こっそり聞いて、一人でニヤニヤしていました(笑)」
セクシュアリティについて、違和感を感じ始めたのもこのころだ。
「最初に『あれっ?』って思ったのは、クラスの男女分けですね」
体育の授業の前の着替えや修学旅行の部屋分け。そのほか、男子と女子が分けられることがある度に、違和感を覚える。
「小学校のときは、あまり男女分けがなかったので『こんなものか』で済んでいたんですけど、中学に入ったら、気になってしまって」
しかし、そのときは自分の「あれっ?」がなんなのか、分からなかった。それを知るまでには、あと2年ほどの時間が必要になる。
「よく制服が嫌だ、スカートが嫌だ、という人がいますけど、ぼくはスカートもズボンも履くので、その悩みはありませんでした」
髪型は小4で野球を始めて以来、ショートカット。そのせいか、ボーイッシュなイメージは定着していた。
「今日の髪が今までで一番短い、ベリーショートです(笑)」
アニメの話で意気投合
初めて人を好きになったのも中学1年生のときだ。
「美術と体育を教えていた20代後半の先生でした」
顔が小さくてショートカットにした、美人さん。とても人気がある先生だった。
「ジェンダーレスというか、ボーイッシュな人でした。先生も趣味がアニメだったので、話をすると、すぐに意気投合しました」
もし、先生が美術部の顧問だったら入部したかったが、陸上部の顧問。
「走るのは、死にたいほど嫌いなんで・・・・・・」
先生のいる職員室と教室が同じフロアだったため、たまに会いにいってアニメの話をするようになる。
それが楽しかった。
「誕生日やバレンタインにプレゼントをあげたり、旅行のお土産を渡したりしてました」
勇気を出して告白
「先生は優しい性格で、最初はlikeの好きだったんですが、だんだん惹かれていきました。恋愛半分、憧れ半分ですかね」
そして、好きになった気持ちを、いつかは告白をしたいと思うようになった。
気持ちを伝えて、もし、うまくいかなかったら気まずくなってしまう。告白は卒業式の直前にすることにした。
「部活がない日を見計らって、ちょっと話があるので、生活指導室に来てください、と頼みました」
「実は、自分はこういう感じの人で、恋愛対象として先生とつき合いたい。そういいました」
勇気を出して、カミングアウトと告白を同時にしたのだ。
「ドキドキでしたね。先生は、やっぱり、驚いたみたいでした」
先生の口から出た言葉は、「へぇー、そうなんだ。そういうのもあるんだね」。
「こういう関係(先生と生徒)だから、これからは友だちとして会いましょう、といってくれました」
結果はともかく、3年間、思い続け、「いつかは、いおう」と決めていた気持ちを伝えることができた。
「実らなくても、いえればいいや、と思っていたので、すっきりしましたね」
LINEを交換し、今もときどき連絡を取り合っている。
「いつか、ご飯、行きたいね、と話してます」
08タイプの人は年上のショートカット
新しい友だちができた
中学のときに知り合った先輩に教えてもらって、現在の定時制高校に通っている。
「アニメの趣味が合う先輩でした」
「定時制の高校に合格したよ」といわれ、話を聞くとよさそうだった。
「ぼくも同じ学校に行きます、という感じで。親に相談したら、『いいんじゃねぇ』と軽くいわれました(笑)」
午後部なので、授業は午後1時から4時半までだ。
年上の人、働いている人、障害がある人、病気がある人など、いろいろな人が同級生だ。
「多種多様なものが見えてきて、世界が広がりました」
もともと得意な国語に加えて、日本史、世界史の授業に興味を持つことができた。
「新しい友だちもできました。クラスメイトの女の子です」
入学式の日、お母さん同士が、たまたま保護社会の会合で隣の席になり、たまたま一緒に役員に立候補し、たまたまアニメの趣味も一緒だった。
「そんな縁で娘同士も仲良くなりました」
その子と話をしてみると、好きなキャラが同じで、話題が合うことが分かった。
「これまでは “ぼっち派” だったけど、一人、ふたりは信頼できる友だちがいてもいいかな、と」
休みの日には、アニメショップやイベントに一緒に出かけることもある。
化学の先生が気になる
その友だちには、自分のセクシュアリティをカミングアウトした。
「分かってもらったほうが、つき合いやすいですからね」
彼女の反応は、「へぇー、そうなんだ」。
「引かれることもなく、突っ込まれることもなく、自然に受け入れてくれました」
「つき合っているボーイフレンドののろけ話を聞かされます」
自分にも気になる人がいる。
先生だ。
「とてもかわいい人で、髪型はショートカットです」
考えてみると、好きになるタイプははっきりとしている。
「年上で、ショートカット、性格はおっとりした人がいいですね。包容力のある人がいいのかな」
気になる先生も、おっとりとした穏やかな性格だ。先生のおかげで、一生懸命に勉強するようになった。
「年下で、かわいいな、と思う子も、たまにいますけど・・・・・・」
09彼女を作って、結婚式を挙げたい
家族にはユルくカミングアウト
中3のときに、ズボンの制服を買って欲しいとお母さんに頼んだ。
「そのとき、お母さんとセクシュアリティの話をしたんです。『セクシュアリティって何?』って聞かれたので、いろいろと話をしました」
「今から考えると、それがカミングアウトでしたね」
今、彼女が欲しいと切実に思っている。
「正直なところ、誰かとつき合うことに憧れています」
弟にも、「彼女が欲しい」といったことがある。
「じゃあ、早く作ればいいじゃん、といわれました(笑)。そういわれても、困るんだけど・・・・・・」
お母さんに、「彼女が欲しいんだ」というと、「へぇー、そうなんだ」と軽く流された。
お母さんはLGBTという言葉は知っているし、理解しようともしてくれている。
「最近、Xジェンダーについて、くわしく説明しました」
「危ないイベントには行かないで」「新宿二丁目には行かないで」などと心配するが、「危険なことがなければいい」と、認めてくれている。
「お父さんには、まだカミングアウトできてません。帰りが遅いから、あまり話すチャンスがないんです」
でも、お父さんもユルいから、「へぇー」というだけだと思っている。
交流会で世界を広げたい
「18歳になったら、LGBT系の交流会にすぐに参加したいと思ってます」
運営団体によっては、オフ会に年齢制限を設けているところも多いのだ。
「今のところ、年齢制限には抗えません」
2020年は、年齢制限がない東京レインボープライドに参加するつもりだった。
「残念ながら、コロナで中止になってしまいました。来年は、ぜひ参加します!」
交流会にいって世界が広がれば、彼女ができるチャンスも多くなる。
「もし、彼女ができたら夢があります。結婚式を挙げたいんです」
タキシードを着るか、ウエディングドレスを着るか。頭の中でイメージが膨らむ。
「コスプレ的な気分ではくスカートも好きなので、どっちがいいかな、と悩んでいます」
そして、ルームシェアをして、一緒に暮らしたい。
「結婚はできなくても、パートナーシップ制を利用することも考えたいですね」
子どもを生むことは100%あり得ないが、相手が子どもを育てたいといえば、その気持ちは尊重したいと思う。
「養子縁組とか、いろいろ道はありますから」
体に対する嫌悪感はあるが・・・・・・
高校へは、制服を着て通っている。
「スカートに抵抗がないのは、コスプレをするからだと思います」
ウイッグをつけて、ちょっと化粧をして、女装をする感覚だ。
一方で、体に対する嫌悪感はある。
「胸を取りたい、子宮を取りたい、とは思いますね」
ただ、現実的には無理だと思う。
「お金もかかるし、痛いし、精神的にも勇気が出ないし・・・・・・」
嫌なのは、女として区別されて扱われること。女という性に耐えられないわけではない。それがFTMとの違いかもしれない。
「かと言って、男に見られてもうれしくないんです。女にさえ見られなければ、何でもいいんです」
10メンタルヘルスのカウンセラーを目指す
女子トイレには絶対に入らない
日常生活で困っていることといえば、トイレだ。
「女子トイレには絶対に入りたくありません。世の中に多目的トイレをどんどん増やして欲しいです」
高校に入学してから、学校のトイレは一度も使ったことがない。
「トイレが遠い人なんで、平気です。どうしてもというときは、駅前のコンビニのトイレを利用してます」
「コンビニのトイレは天国です(笑)」
イベント会場でも、一切、トイレは使わない。必要なときは、一度退場してコンビニに行く。
「本当にどうしょうもないときは、『はーっ』という感じで使いますけど」
トイレのほかにダメなものは、温泉、銭湯だ。
「修学旅行のときは、一人だけ部屋のお風呂に入りました」
そして、女子更衣室。
「体育の授業があるときは、家からジャージを着て登校しています」
SNSでカウンセラーの練習
高校卒業後の進路は、すでに決めてある。
「カウンセラーになりたいんです」
LGBTのほかにも、いじめ、虐待、セクハラ、災害後のPTSDなど、心の悩みを抱える人は多い。
「悩んでいるたちにメンタルヘルスケアをして、助けてあげたいんです」
以前から、人の悩みを聞いてあげるのが好きだった。
「友だちではなくても、『聞いてー』といって、ぼくのところにくる子がいました」
今は、TwitterなどSNSへの書き込みで、困っている人の悩みに答えている。
「解決まではいきませんけど、その人の悩みを軽減できればいいかな、と思って続けています」
コロナの影響で今年は6月から学校が始まった。制服が嫌だ、親に理解してもらえない、などセクシュアリティに関する相談が増えている。
「理解してくれない親に、完全に理解してもらうのは無理だと思うんです」
「そういう人には、カウンセラーなどのプロに、お金を払っても相談したほうがいいよ、とアドバイスしてます」
何度かメッセージをやりとりして、「ありがとうございました」と感謝されることもある。
MTFなど、違うセクシュアリティとの情報交換も楽しい。
「ますます、LGBTのオフ会に行きたくなります」
今後は、動画の配信にもチャレンジしたいと思っている。
夢に向かって走り始めた
カウンセラーを目指して、進学したい専門学校も、もう決まっている。
「入学金や授業料など、全部で300万円くらいかかるので、今、貯金をしているところです」
学校が終わって、夕方5時から9時30分まで、ファストフード店でアルバイトをしている。
「受験に向けて勉強も始めました」
意中の専門学校に入って資格を取れば、就職先を紹介してもらえる。
「10年後は、絶対にカウンセラーになっていたいです」
10年後でも、まだ26歳。そのころには、社会の仕組みも見方も大きく変わっていることだろう。
「好きな人と一緒に暮らして、好きな仕事をしていられれば最高です」