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“クィア” で “ポリアモリー”、そんな私のアイデンティティ【後編】

“クィア” で “ポリアモリー”、そんな私のアイデンティティ【前編】はこちら

2017/05/22/Mon
Photo : Taku Katayama Text : Hensyu-bu
キニマンス 塚本 仁希 / Nikki Tsukamoto Kininmonth

1985年、東京都生まれ。9歳までを日本、その後23歳までをニュージーランドで過ごす。オークランド大学で映像学と社会学を専攻し、卒業後日本へ単身帰国。人権擁護団体、動物保護NPO、フェアトレード啓発、美術モデルなど様々な職業を経て、現在は英語翻訳・通訳業を中心にフリーランスで活動中。

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INDEX
01 ハーフというだけで目立ってしまう
02 ニュージーランドの多様性
03 社会や政治に対する関心
04 ポリアモリーとの出会い
05 日本の空気に馴染めない
==================(後編)========================
06 “クィア” が一番しっくりくる
07 ふさぎ込んで、自分を見失って
08 アメリカを旅して
09 自分を偽らずに生きる
10 私みたいな人間だって、ちゃんと存在してるんだ

06“クィア”が一番しっくりくる

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女性に対する恋心

「帰国して最初に働いていた職場に、イギリス人のかっこいいレズビアンの女性がいたんです」

「彼女と仲良くなるにつれて、憧れと恋心が半々で芽生えてきました」

これまで恋愛対象はずっと男性だったが、以前から女性に対する興味もうっすら意識していた。

彼女は自分の気持ちに気づいていたが、「あんたはレズになりたがりなだけで、レズではない」とバッサリ切り捨てられてしまった。

「反論したかったけど、その通りだよなって思いました。彼女ともっと近づきたかったけど、これが本当に恋なのかどうかはハッキリわからなかったんです」

「これまでずっと恋愛対象は男の人だったし、ストレート寄りのバイセクシュアルなのかなって思いました」

だけど、そもそも「ストレート寄りのバイセクシュアル」ってなんなんだろう?

白黒つけるのはめんどくさい!

「バイセクシュアルって、男女どっちも好きになる人のことじゃないですか?でも、ジェンダーっていうのは男と女以外にもトランスジェンダーやXジェンダーの人もいるし」

自分自身、Xジェンダーという言葉はしっくりこないが、男性性も女性性も持ち合わせている。

「だから、○○セクシュアルとか、男か女かって線引きをはっきりするのがめんどくさくなったんです」

セクシュアリティ以外にも、幼い頃から「日本人か、ニュージーランド人か」と線引きを迫られる場面が多かったこともあるだろう。

振り返れば、いつも周囲から「あなたはどっち?」と問われていた。

「日本人っぽさとニュージーランド人っぽさ、どっちが強いの?」、「英語と日本語、どっちが得意?」、「夢をみる時はどっちの言葉?」。

私はどこに行っても、「普通ではない人」。

あらゆる面で、自分は “クィア” なんだと思った。

「クィアとは、セクマイを包括した総称だと、私は思っているんです」
「自分にとって、クィアが一番しっくりくるなって思ったんです。『LGBTのうちのどれですか?』って選ばされたくないし、クィアでいいや!ってね」

人から認めてもらうために、苦しむのは嫌だ。

自分は「フツーじゃない」ってことを素直に受け入れよう。

そう思ったら、ずっとモヤモヤしていた心が晴れた気がした。

07ふさぎ込んで、自分を見失って

仕事だけの人生でいいの?

前向きで社交的な性格が自分のデフォルトだけど、ふさぎ込んでいた時期もある。

「ひとつの組織に所属するのは抵抗があって、しばらくはバイトを掛け持ちしていたんです」

「でも、英語の仕事をやってみたいと思って、フリーランスで翻訳通訳業を始めました」

翻訳の在宅ワークが増えたことで、外界と接触する機会が激減。なんだか孤立しているようで、気分も後ろ向きになってしまった。

家でひたすら仕事をしていればお金は入ってくるけど、私がしたいことってなんだったっけ?

「ただ外から入ってくる仕事をこなしているだけじゃ、社畜と変わらないじゃんって思っちゃいました」

「それまでは、どれだけストレスが溜まっても気合で乗り越えていたんです」

「でも、初めて『ああ、これが生きづらさってやつか』って自覚しました」

保守的な母との不和

「その頃住んでいた家の裏から、子どもを大声で叱るお母さんの声がしょっちゅう聞こえてきたんですよ。それで、自分の過去がフラッシュバックしてしまったり・・・・・・」

長年じわじわ蓄積されていた、母への不満と怒り。

「母は恋愛やセックスに対して特に保守的で。『結婚前に子どもができたら勘当するからね』と、幼い頃から言われていました」

高校生の頃、親に内緒で付き合っていた彼との関係がバレて、一晩中怒られたこともある。

日本に帰国してからも、仕事や生活に干渉してくる母への不満は募るばかり。

「自己表現をしたいと思って、美術モデルの事務所に入ったんです」

美術学校などで、裸体モデルとしてポーズを取る仕事が中心だった。

「母に言うつもりはなかったんですけど、色々詮索された時にカッとなって言っちゃって。もちろん喧嘩になりました」

「荒波を立たせないように嘘をつけばよかったのかもしれない。でも、自分のことを丸ごと受け入れてほしいっていう気持ちが根っこにあったから、正直に言っちゃったんだと思います」

現在、母親とはほぼ疎遠状態にある。

08アメリカを旅して

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ポリアモリストとの出会い

波乱万丈の人生。

再び転機が訪れたのは、26歳の時だった。

「ピッツバーグに住む友達の結婚式に行くついでに、アメリカを3ヶ月間旅したんです」

「ずっと前から興味があったバーニングマンというフェスにも行ってきました」

そのフェスで出会った男性と意気投合。

「このまま旅を続けるならうちにおいで」と誘われ、アリゾナに立ち寄った。

「最初は3日の予定だったはずが10日間居着いちゃって。で、なんかこう、恋が芽生えまして(笑)」

お互いの恋愛観について深く話し合ったところ、彼も以前ポリアモリーの関係を持っていたとわかった。

もちろん、ポリアモリーについても肯定的だった。

「それから1年半、彼とお付き合いしましたが、そのあいだはずっと1対1の関係でした」

リベラルな街、サンフランシスコ

バーニングマンやアリゾナのほかに、サンフランシスコでの滞在も記憶に色濃く残っている。

「サンフランシスコってめちゃくちゃリベラルな街なんですよ。セクシュアリティをはじめ、人間の多様性にとても寛容な文化を感じました」

「たまたま知り合った人がクィアだったりポリアモリーだったり。本当に驚くくらい、人間の多様性を目の当たりにしました」

「そうした出会いやバーニングマンのおかげで、もっと自分を許そう、受け入れようと思えるようになったんです」

09自分を偽らず生きる

三角関係再び

アリゾナの彼と別れて日本に戻ってきてからは、今後について考えながらしばらく時間を持て余していた。

「帰国して入居したシェアハウスが、すごく居心地のいい場所だったんです」

シェアハウス内のコミュニティでは、素の自分でいられる。

現在交際しているパートナーとも、シェアハウスで出会った。

「彼を好きになり始めていた頃、シェアハウスに住む別の男性に対しても、ほぼ同時に恋心を持つようになっていたんです」

今回も、まったくタイプの違う2人。

2人には、自分がポリアモリーでクィアであることは付き合う前から伝えてあった。

「意図せず、連鎖反応みたいに2人とも好きになっていて(笑)」

しかし、その2人は性格も異なり、あまり仲が良くなかった。

「ニュージランド時代の修羅場ほど苦しくはなかったんですけど、それなりに複雑でしたね・・・」

「仁希がポリアモリーだとはわかっていたけど、自分のほかに同時進行の相手がいると複雑な気持ちだ」とも言われた。

「2人同時に恋愛関係がはじまってしまったのは、いいこともあったけど悪いこともいっぱいありました」

「でも、2人とも正面から向き合ってくれる人たちだったのは、すごく恵まれていました」

毎晩のように語り合い、ぶつかり合って、それぞれの気持ちを理解しようと努めた。

その三角関係は半年ほど続いた。

しかし、片方の男性が海外へと旅立ったため、今は残ったもう1人の男性と1対1の交際をしている。

「他にパートナーがほしいって気持ちは、今の時点ではほぼありません」

「彼は最初の頃『俺は仁希にとって何なのかわからない』って言っていたけど、今は私なりの真剣な気持ちが伝わっていると思います」

「あなたとこれから人生をわかち合いたいけど、同時にほかの人を好きになる可能性もある。そしてもちろん、あなたにも他の誰かと親密な関係を持つ権利はある」

「そうなった時はまたじっくり話し合おう」と、合意の上で交際を続けている。

たとえ非難されても

「別に、どうしてもパートナーが複数いなきゃダメっていうわけではないんです」

「でも、もし今のパートナー以外に惹かれることがあるなら、そのときは自分の気持ちにも、愛するパートナーにも正直でいたいと思っています」

サンフランシスコで出会った人たちのように、好きな人と自由にパートナーシップを結べたら、自分の世界がもっと広がるんじゃないだろうか。

「でも、どんなに超越した思想論を話したとしても、どうしても受け入れられないっていう人もいますよね」

「私も昔は、なんとかしてパートナーに自分の気持ちを理解してもらいたい、ポリアモリーを受け入れてほしいって願っていました」

「でも、それは相手のニーズを尊重していなかったんです」

自分のことを、「ただのビッチじゃん」と思う人もきっとたくさんいるだろう。

「わがままだ」、「本当の恋愛をしたことがないのでは」と言われるかもしれない。

「けど、私は自分のニーズを大切にしたい」

「自分が本当に求めているものとひきかえにしてまで、1対1の恋愛にしがみつくことが大事とは思えないんです」

好きな人のために自分のニーズを犠牲にすることが、愛情の証明だとも思いたくない。

「ひとことではとても言えないけど、複数のパートナーとの恋愛は、多様な自己表現を可能にしてくれるってこと。相手が異なれば、会話や時間の過ごし方も違うし、自分からあふれてくるものも違うと思います」

10私みたいな人間も、存在してるんだ

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自分の中にいろんな色があってもいい

多様なアイデンティティを有している自分のニーズを、1人の人間に丸々押し付けることが、いささか暴力的にも感じられる。

かと言って、大切な人と共有できない自分のアイデンティティがあるのも、なんだか淋しい。

「LGBTの象徴といえば、レインボーですよね。でも、あれって必ずしも『あなたは黄色の人、あなたは紫の人』って6色を振りわけるんじゃなくて、ひとりの中にいろんな色があっててもいいと思うんです」

「私は、綺麗に線引きされたレインボーじゃなくて、いろんな色がまだらに混じりあったレインボー」

「それを丸ごと受け止めて、すべてをわかち合える人もいるかもしれない。だけど、いろんな人と人生を共有しながら、自分の様々な面を表現していけたらいいなって思っています」

存在証明は自分との対話

公のメディアでカミングアウトしたのは、今回がはじめてだ。

「本当に仲のいい友達やパートナー以外に自分のセクシュアリティの話をしたことって、今までほとんどなかったんですよ」

今回、メディアでカミングアウトするリスクも考慮して、1か月ほど悩み続けた。

「カミングアウトはそれぐらい大きなことだけど、同時にたいしたことでもない」

「これまで歩んだ道を隠す必要もない。だって、今までこうやってちゃんと生きてきたわけだから」

だからと言って、公にカミングアウトすることで、認知度の低いポリアモリーやクィアの概念を世間に浸透させたいというわけではない。

ただ、「こんな人間もいるんだよ」と、声に出してみたかった。

自分のような存在を、ないことにされたくなかった。

「カミングアウトは、自分との対話を深める機会になりました」

「あなたは何者?」なんて不躾な質問をしなくても、その人の生き様を見ていればわかることだってあるだろう。

だけど、自分のことでもわからないことがたくさんある。

これから先に起こること。待ち受けている変化。

「今後、また考え方を変える可能性だってもちろんあります。選択肢はまだたくさんあるって思って生きていくのが、私らしさなのかもしれないな」

あとがき
文字から伝わる読者への温度や感覚をとても大切にしてくれた・・・。撮影時、のびやかに見える思うままのポージングも、原稿の行間に込める緻密なおもいも、どれもニキちゃんの表現だ■この取材を通して、何度も自分と対話しているニキちゃんが見えた。それは、我が身を通して他者のこと、他者がおもうことを誰よりも知ろうとするプロセスであったのかもしれない。生きている人は皆「クィア」だと感じる機会にもなった。(編集部)

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