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セクシュアルマイノリティだと打ち明けたその日、私は自由を手に入れた。【後編】

セクシュアルマイノリティだと打ち明けたその日、私は自由を手に入れた。【前編】はこちら

2018/04/24/Tue
Photo : Taku Katayama Text : Shinichi Hoshino
古屋 奈実加  / Namika Furuya

1988年、神奈川県生まれ。セクシュアリティは、パンセクシュアル。男性とも女性とも交際経験があるが、ここ数年は、女性に惹かれることのほうが多い。2015年にFacebookでセクシュアルマイノリティであることをカミングアウト。現在は、アパレル系のアルバイトをしながら、音楽業界でフリーのイベントオーガナイザーとして活動している。

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INDEX
01 ボーイッシュへの憧れ
02 中2で迎えた「人生最大のモテ期」
03 美術をあきらめたら何もなくなった
04 恋も仕事も未来が見えない
05 22歳でできた初めての彼女
==================(後編)========================
06 男と女を知った末に
07 仲良しの友だちにカミングアウト
08 お母さんに知ってほしかったこと
09 自分にしかできないことを
10 私の言葉が力になるなら

06男と女を知った末に

男性より女性ほうが好き

交際して1年半くらいの頃、彼女が父親の転勤で神戸に引っ越すことになった。

女性との初めての恋愛は、あっけなく終わりを迎えた。

当時23歳、男性とも女性とも恋愛を経験した。

「男性とも女性とも付き合った結果、女の子のほうがいいと思いました(笑)」

やはり、男性に対しては昔のトラウマが残っている。

「失礼かもしれないけど、男性にはちょっと抵抗があるんです」

もちろん、身近なところにも人として魅力的だと思う男性はいる。

でも、男女の行為のこととなると拒絶反応が出てしまう。

「いいなって思う人がいても、そういう行為になると思うと、引いちゃう自分がいるんです」

一方で、女の子といると「楽しいし、心地いいし、癒される」

「女の子って、あんまりそういうことはしてこないし、メリットしか感じないんですよね(笑)」

7つ下の彼女とも肉体関係はあったが、それを苦痛に思うことはなかった。

音楽の世界へチャレンジ

音楽への熱は高まる一方。

多いときは週に4回くらい音楽のイベントに行っていた。

あるとき、イベントを主催している人から、「キミ、よく見かけるよね」と声をかけられた。

「その人から、イベントの企画とかって興味ない?って言われたのが、イベントオーガナイザーの仕事をするきっかけになりました」

趣味が高じて、音楽の世界に飛び込んだ。

イベントオーガナイザーは、音楽イベントで、ダンサーやシンガー、DJなどのアーティストを集めて、イベントを企画したり運営する仕事だ。

イベントの企画や準備、当日の受付や物販も、頼まれたら全部一人で回す。

「特に事務所とかには所属していなくて、友だちや知り合いから頼まれてフリーとして活動しています」

ずっと音楽が好きで、華やかな世界に憧れていたが、ステージに立つことに興味はなかった。

「私は昔から、裏方が好きなんですよね(笑)」

音楽の世界に入り、交友関係はガラリと変わる。

今までは憧れの目で見ていた、シンガーやダンサー、アーティストの人たちと友だちになった。

「みんな芸能人みたいにキラキラしていて、見た目もカッコいいし、やってることもカッコいいんです」

彼ら・彼女らと一緒に過ごすようになってから、自分自身の変化を感じた。

「音楽の世界に入ってから、自分も、もっとこうしたいとか、もっとカッコよくなりたい、って思うようになりました」

自分なんかっていう、卑屈な気持ちは少しずつなくなっていった。

07仲良しの友だちにカミングアウト

こうなったら、もう言っちゃおう!

学生時代は、自信を持って親友と呼べる子はいなかった。

しかし、音楽の世界に入って、何でも話せる大切な友だちがたくさんできた。

特に親しくしていた女の子二人とは、よく集まり、家に泊まりに行くことも多かった。

いわゆる「宅飲み」では、決まって恋愛トークになる。

「こないだ彼氏とね~、みたいな話をしてると、やっぱり私にも振られるじゃないですか」

「そういや、奈実加の話って聞かないよね?最近どうなの?って」

「そういうときは、私は彼氏いないもんって言って、ごまかしてたんです」

あるとき、「奈実加って、どういう人が好きなの?」と聞かれた。

「そのとき、これだけ信頼してる友だちに言えない私って何なの?って思ったんです」

「この子たちに一生隠していたら、本当の自分がいなくなっちゃうんじゃないか・・・・・・」

「この先、ずっと自分一人の世界なんじゃないか・・・・・・」

「そう思ったとき、この流れだったら、もう言っちゃおう!って、話したんです」

「私、可愛い人が好きなんだ」

「ジャニーズみたいな感じ?」

「・・・・・・ジャニーズもそうだけど、二人みたいな人も可愛くて好きだよ」

「えっ、どういうこと?」

「実はね、私、女の子が好きなんだ」

予想していなかった反応

「奈実加らしいよね」

「てか、そうだと思ってたし」

返ってきた反応は、予想外のものだった。

「え!?私、出てた?」

「もろ、出てるよ(笑)」

「てか、まんまだよ(笑)」

言う前は、驚かれると思っていた。

変な空気になってしまわないかと心配していた。

でも、普通に会話は続いていった。

「こんなにすんなり受け入れてもらえるんだって。嬉しかったです」

話は、まだまだ終わらない。

「どういう感じなの?」「どんな女の子が好きなの?」「いつからなの?」と質問攻めに。

「私がそれまでずっと隠してたことを、もっと聞かせてよって(笑)」

「二人ともシンガーの子なんですけど、音楽をやってる人たちって独自の世界観を持ってるんですよね」

世界が広いから、人と全然違っていても、一つの世界として認めてくれる。

だから、音楽の世界は居心地がいい。

「今は、ここが私の居場所だと思ってます」

仲良しの二人にカミングアウトしてから、他の友だちにも徐々に話せるようになった。

「だと思ってたよ」とか、「見た目、そのまんまだよね」といった反応が多かった。

「私はずっとバレないようにしてたんだけど、出ちゃってたみたいです(笑)」

08お母さんに知ってほしかったこと

Facebookで全体公開

彼女がいた時期もあるが、親には隠していた。

もちろん、男より女のほうが好きだということも、言ったことはない。

でも、お母さんにふとこぼしたことがある。

「私、男に生まれたかったな・・・・・・」

7つ下の彼女がいたときのことで、そのときの本心だった。

「自分が男だったら、何も隠すことなく、彼女と普通に一緒にいれるわけじゃないですか」

「お母さんには、早く結婚して子ども生みなよって言われました」

当時は、親にはカミングアウトできないと思っていた。

「言ったら、傷つくんだろうなって」

だが、仲良しの友だちへのカミングアウトを経て、気持ちが変わった。

受け入れてもらって、自信が持てた。

「私はこれでいいんだって。だから、親にも知ってほしいと思いました」

でも、直接は言えない。

そこで、選んだ手段がFacebookだった。

「親とはFacebookの友達じゃないんですけど、お母さんが見てるのは分かってました(笑)」

「私がFacebookにしか上げていない写真のこととか知ってたりするから、絶対見てるなって(笑)」

2年半ほど前、Facebookの全体公開でカミングアウトした。

みんなに知ってほしいというより、実はピンポイントで親に向けた投稿だった。

この投稿には、「女性のほうが好き」ということを伝える以外の目的もあった。

それは、今の自分を知ってもらうこと。

「昔は親友とかいなかったけど、今はすごく素敵な友だちがたくさんいる」

「誇りだと思える友だちに囲まれて、毎日充実してるんだよ、ってことを知ってほしかったんです」

たったひと言に救われた

Facebookに投稿して2、3日後、ご飯を食べているときのことだった。

「『お母さん、見ちゃった』って言われたんです」

「絶対あれだ!って思ったんですけど、白々しく、はぁ?何が?って言いました(笑)」

お母さんには、普段どおりのドライな対応。

「まあ、いいんじゃない。奈実加が幸せなら」

そのひと言で会話は終わった。

でも、そのひと言で十分だった。

「お母さんは、きっと私に女の子らしく、可愛らしく育ってほしかったんだと思います」

「でも、私は見た目もこんなだし、女のほうが好きって公表しちゃったし、やっぱり普通にショックだったと思うんですよね」

でも、お母さんは受け入れてくれた。

「高校とか専門学校のときみたいに、人生つまんねーっていう感じだったら、認めてくれなかったと思います」

「でも今、素敵な仲間に囲まれて、やりたい仕事をしてて、毎日充実している私を見てくれて、初めて認めてくれたんじゃないかなって思います」

奈実加が幸せならいいんじゃない──

このひと言に、どれだけ救われたか分からない。

09自分にしかできないことを

最高の音楽イベントをつくりたい

「最初にカミングアウトしたときに、友だちが受け入れてくれなかったら、絶対親にも言えなかったと思います」

音楽の世界に飛び込んだのは、人生のターニングポイントになった。

そこで仲良くなった友だちは、かけがえのない宝物になった。

音楽の世界で出会った仲間たちは、尊敬できる人ばかり。

「みんな日々努力しているし、自分が好きなことに対してすごい頑張ってるんです」

ルックスがいいだけでなく、キラキラ輝いている。

「そういう輝きって、その人の日々の努力の賜物なんだろうな、って思います」

頑張って輝いている人たちの姿を見ていると、自分も頑張ろうと思える。

今は、アパレルのアルバイトと、イベントオーガナイザーの二足のわらじ。

いずれはイベントオーガナイザーの仕事を軸にしていきたいと思っている。

イベントオーガナイザーとして、最高の音楽イベントをつくりたい。

「好きな人たちと好きなことを本気でやったら、絶対すごいものが生まれるって思うんです」

私のやり方は間違ってなかった

イベントオーガナイザーの仕事は、順風満帆に進んできたわけではない。

好きなアーティストを集めて行うイベントに、「自己満だよね」という批判が聞こえてきたこともある。

「それって、興行的にどうなの?」「そんなんじゃ儲からないでしょ?」など、ビジネスとして厳しい評価も多かった。

「めっちゃお金かかってそうだけど大丈夫?とか、余計なお世話だって思ってました(笑)」

お金でプラスするのはもちろん必要だが、もっと違うところでのプラスを追求したいと思ってやってきた。

出てくれたアーティストから、「奈実加のイベントって、ちょっと違うよね」と言われることが多くなった。

Twitterでも、「またイベントやってほしい」とか、「今までのイベントでいちばん楽しかった」という、お客さんからの嬉しい反応が増えている。

「私のイベントでしか生まれないような一体感とか、つながりとか、他のイベントでは味わえない空間とか。そういうものを生み出せる手応えは感じています」

自分が貫いてきたやり方は間違ってなかった。

「アーティストが出てよかったって言ってくれたり、お客さんが来てよかったって言ってくれたり」

「やっぱり、イベントは喜んでくれる人が増えるのがいちばんだなって思います」

音楽のイベントは、お金さえあれば誰でも開催できる。

「だからこそ、自分にしかできないことって何だろう?って、いつも考えながらやってます」

10私の言葉が力になるなら

今まで隠してたのは何だったんだ

Facebookは親に向けてのカミングアウトだったが、別のところでも反応があった。

学生時代の友だちや会社の仲間など、音楽関係ではない人からもコメントをたくさんもらった。

「よく話してくれたね」とか、「素敵なことじゃん」とか、誰一人、否定する人はいなかった。

「今まで隠してたのは何だったんだろう?って思うくらい、周りのみんなが認めてくれました」

自由に生きられる喜び

今まで、どこかで「こうじゃなきゃいけない」と思って生きてきた。

お兄ちゃんが手のかかる子だったから、自分はいい子にしなきゃいけないと思っていた。

中学のときは、やんちゃな子が増える一方で、真面目にしなきゃいけないと思っていた。

女の子は女の子らしく、男の子を好きにならなきゃいけないと思っていた。

でも、音楽の世界に入り、カミングアウトしてすべてが変わったのだ。

「こうじゃなきゃいけない」っていう人生じゃなくなった瞬間、自由に生きられる喜びに満ちあふれ、やりたいことが増えていった。

「そういう自分って、端から見てもキラキラしてると思うんです(笑)」

見知らぬ誰かの力になりたい

「人を好きになるって、誰かに言われてすることじゃないし、好きだっていう気持ちに性別は関係ないと思います」

最近は、インスタでも自分のセクシュアリティのことやLGBTについての想いを投稿している。

ハッシュタグで飛んでくる人も多く、フォロワーが増えている。

「奈実加さんの姿を見て、勇気が出ました」

「自分らしくいようと思えました」

見知らぬ人が、こんなコメントを残してくれる。

「今までは、自分の言葉なんて何の力も持たないし、誰の力にもならないと思ってました」

「でも、会ったこともない人の勇気や自信につながるんだと思って、考えが変わりました」

学生のときは世界が狭かったが、音楽の仕事をするようになって世界がグンと広がった。

セクシュアリティのことをカミングアウトして、もっと世界が広がった。

「私は音楽がきっかけですが、これだけ変われた人がいるんだってことを知ってほしいなと」

「自分なんて・・・・・・って思っていたらそのままだけど、ちょっとでも行動したり言葉を発したりすれば、仲間が増えるし、世界が広がる。私自身の体験から、そう信じています」

友だちから、「奈実加らしいね」と言われる。

会ったこともない人から、「奈実加さんの姿に勇気づけられました」と言われる。

だから、これからも、自分の言葉で発信していこうと思う。

あとがき
「カミングアウトを続けていたら自信がついた!」と、奈実加さん。それは「いい友だちに囲まれていることもしあわせ」と語る生き方がもたらす言葉だ■[・・・包み隠さずに]は、推奨でも必須でもないし、自分にOKを出せるきっかけになるかもしれない。カミングアウトには、色々な可能性がある■お母さんの受容、友だちの共感、見知らぬ人からの勇気、そして音楽がくれた新しい人生。これからも自分への問いかけに、とことん向き合う奈実加さんが見える。(編集部)

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