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セクシュアルマイノリティだと打ち明けたその日、私は自由を手に入れた。【前編】

高校時代に挫折した話も、男性とのトラウマの話も、明るい口調で笑い飛ばす。一方で、音楽関係の仕事の話には熱がこもる古屋奈実加さん。赤いスニーカーにも、朗らかな笑い声にも、セクシュアリティの悩みを乗り越えてきた過程にも、すべてに好感が持てる人だ。話のなかで、「私は素敵な友だちに囲まれている」と繰り返した。素敵さは、きっと古屋さんも負けてない。

2018/04/22/Sun
Photo : Taku Katayama Text : Shinichi Hoshino
古屋 奈実加  / Namika Furuya

1988年、神奈川県生まれ。セクシュアリティは、パンセクシュアル。男性とも女性とも交際経験があるが、ここ数年は、女性に惹かれることのほうが多い。2015年にFacebookでセクシュアルマイノリティであることをカミングアウト。現在は、アパレル系のアルバイトをしながら、音楽業界でフリーのイベントオーガナイザーとして活動している。

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INDEX
01 ボーイッシュへの憧れ
02 中2で迎えた「人生最大のモテ期」
03 美術をあきらめたら何もなくなった
04 恋も仕事も未来が見えない
05 22歳でできた初めての彼女
==================(後編)========================
06 男と女を知った末に
07 仲良しの友だちにカミングアウト
08 お母さんに知ってほしかったこと
09 自分にしかできないことを
10 私の言葉が力になるなら

01ボーイッシュへの憧れ

おとなしくて手のかからない女の子

横須賀で生まれ、横須賀で育った。

家族は、両親と2個上のお兄ちゃん。

お母さんいわく、「手のかからない子」だった。

「おままごとをしたり、絵を描いたり、人形と遊んだり、一人で遊ぶのが大好きでした」

口数が少なく、「この子、ちゃんと喋れるのかな・・・・・・」と親を心配させた。

逆に、お兄ちゃんはやんちゃで手のかかる子。

「お兄ちゃんはお母さんによく怒られてたけど、私は怒られた記憶はほとんどないですね」

小学校のときは、イラスト研究部や手芸クラブに入る。

「イラストを描いたり、一人で夢中になれることが好きでした」

周囲と比べても、おとなしい子。

「クラスのやんちゃな子たちとは、関わりたくなかったです(笑)」

小学校2年生のとき、同じ横須賀市内だが転校を経験する。

1年生のときは、お姉ちゃんみたいに慕っていた仲のいい友だちがいた。

しかし、転校後は親友と呼べる友だちはできなかった。

「小学校の残りの5年間はずっと、1年生のときは楽しかったなーって思ってました」

短い髪が気持ちよかった

お母さんから、「子どもは二人欲しかった」と聞いたことがある。

「最初にお兄ちゃんが生まれたから、次は女の子っていう気持ちはあったと思います」

お母さんにとっては、待望の女の子。

「ずっと髪の毛は長くて二つ結びをさせられたり、髪飾りもボンボンとかキラキラしたのを着けられたり、洋服もピンクとか赤が多かったですね」

「そういう女の子っぽいのが嫌だ、って思ったことはありませんでした」

だが、7歳の七五三が終わったとき、ちょっとした “目覚め” があった。

「お母さんに髪を切りたいって言ったんです。お母さんも、七五三も終わったからいいよって」

長かった髪をバッサリ切った。

「ショートにしたとき、こっちのほうが全然いい!って思ったのをよく覚えています」

「すごくスッキリしたというか、自分にフィットした。とにかく気持ちよかったんですよね」

それ以来、ボーイッシュに憧れるようになった。

サッカーをしていたお兄ちゃんのユニフォームを勝手に着たり、男の子の服に興味を持った。

お兄ちゃんがサッカーをしている姿がカッコよかったから、自分もやりたいと親に頼んだ。

でも、「どうせ飽きるからダメ」と、やらせてもらえなかった。

男の子っぽいことに興味を持ったが、女の子であることに違和感はなかった。

「小さい頃は、普通に男の子が好きでした」

02中2で迎えた「人生最大のモテ期」

「クソ真面目」でいじめの標的に

中学時代はいじめに悩んだ時期がある。

当時のいじめは順番に回ってきた。

「中学のときって結局、何をやっててもいじめの標的になるんですよね」

「いつ来るんだろう・・・・・・って、毎日ビクビクしてました」

やんちゃな子たちが授業中に騒ぐ姿を見て、「静かにしてよ」と思うタイプ。

「私は “クソ真面目” っていう理由で、いじめられました(苦笑)」

「いじめっ子にとって、いじめる理由なんて何でもいいんですよね」

仲のいい友だちもいたが、相談はしなかった。

親に相談することもなく、いじめられていることに気づかれないようにしていた。

「自分の弱さを見せたくなかったんです」

いじめは3ヶ月くらいで終わった。

「次のターゲットを見つけたら終わるんです。ほんと、くだらないですよね(笑)」

好きな男子は「できあがってない人」

中学のときは、男の子が大好きだった。

「クラスの男子全員、好きになったくらい、男の子が好きでしたね(笑)」

小6から好きだったジャニーズは、中学に入ってさらにハマった。

「バックダンサーとか、結構マイナーで、みんなが目を付けていないような人が好きでした」

学校でも、モテる男子には惹かれなかった。

友だちから、「えー、嘘でしょ?」と言われるような人が好きだった。

「みんなが、好き好きって言ってると冷めちゃうっていうのもありますし、“でき上がってる人” って好きじゃないんですよね」

「仕上がってないほうがいい(笑)」

「友だちが、あの人は無いよねって言ってても、私はむしろ “ありがとう” って感じでした(笑)」

いつも相手には困らなかった

「中学2年が、私の人生のいちばんのモテ期です(笑)」

自分から告白しなくても、告白された。

自分が好きになったら、相手も好きになってくれた。

「中学時代って付き合うって言っても、一緒に帰ったり、出かけたりするだけだけど、いつも誰かしら相手がいました」

「同級生も先輩も、取っ替え引っ替えみたいな(笑)」

「恋愛には困らないモテ期でした(笑)」

一方で、女子はあまり気の合う友だちがいなかったが、中3で一人、仲良くなった子がいる。

体育祭の応援団をやったときに親しくなったギャルっぽい女の子だ。

「その子は私にべったりで、いつも “奈実加ちゃーん” って言って抱きついてきました」

「そんな戯れに、私はちょっとドキドキして、顔を赤くしてた記憶があります」

「全然、嫌だって思いませんでしたね。いい匂いもしたし(笑)」

付き合うことはなかったが、今振り返っても特別な存在の女の子だった。

03美術をあきらめたら何もなくなった

ジャニーズだけが楽しみだった

高校に入っても、あいかわらずジャニーズが好きだった。

ジャニーズがきっかけで「ダンスをやりたい」と思い、ダンス部に入った。

「でも、ダンスは楽しいっていう感じじゃなくて、本当に部活って感じでしたね」

「仲のいい子もいなかったし、いつも、学校早く終わんないかなーって思ってました」

学校が終わったら、急いで横須賀から原宿へ向かう。

「ジャニーズJr.が出るNHKの番組観覧に行ってたんです。一人で(笑)」

男性へのトラウマになった「テニスコート事件」

高2年のとき、中学時代の彼氏から「久々に会わない?」と連絡があった。

中学のテニスコートの裏で待ち合わせをした。

「テニスコートの裏って、なんかいい感じですよね」

「でも、そのとき体を触られたりして、気持ちわるっ!って思ったんです」

中学のときにも似たようなことがあった。

「男女大勢で、ある男子の家に遊びに行ったとき、ふざけて “体触ってみなよ” ってなったんです」

本当に嫌だったから拒否したが、無理やり、男子の体を触らされた。

「そういうこともあって、男性へのトラウマができていったのかもしれません」

テニスコートでの一件で、男性に触られるのが苦痛になった。

高校時代、付き合っていた彼氏がいたが、彼氏といるときもトラウマはぬぐえない。

「自分から、あんまり触んないでって言ってました(笑)」

「高校のときの彼氏とは、そんな深い関係にはならずに終わっちゃいましたね」

自分にできることなんて何もない

小さい頃から絵を描くのが好きだった。

絵の道に進みたいと思っていたから、美術のコースを選択できる高校に入った。

だが、待っていたのは挫折だった。

デッサンの授業で、周囲との実力の差に愕然とする。

「何でみんなこんなに上手いの?どっかで習ってたの?っていうくらい上手でしたね」

どれだけ頑張っても、付いていけなかった。

さらに落胆したのは、美大の体験入学に行ったときだ。

周りのセンスの良さに圧倒された。

「自分のレベルってこの程度なんだ」
「好きなだけじゃダメなんだ」
「私なんかが美大に行っちゃいけないんだ」

体験入学で大きなショックを受け、美術の道はあきらめた。

「好きだった絵がダメだって思った瞬間から、自分には何もないなって・・・・・・」

高3になると、周囲のみんなは将来の夢を語りはじめる。

「美容師になりたい子、モデルを目指す子、ヘアメイクの学校に進学する子、みんな夢がありました」

「でも私は、自信を持ってコレだって言えることは何もありませんでした」

周りのキラキラした友だちを見てるのがつらかった。

みんなが卒業後の話で盛り上がっているとき、ひとり疎外感を感じていた。

04恋も仕事も未来が見えない

無理やり決めたパティシエの道

進路に悩んでいたとき、パティシエを目指している友だちに「専門の体験入学、楽しかったよ」と聞いた。

体験入学を勧められて、行ってみた。

「パティシエも楽しいかも」と思い、「とりあえずコレでいいや」と進路を決める。

大学にも専門学校にも進学しない子は、クラスに一人もいなかった。

「だから、どこかしら学校に入らなきゃ “人生終わる” くらいに思ってたんです」

親にパティシエの専門学校に行きたいと伝えるが、中途半端な気持ちはすぐに見抜かれた。

「そんな気持ちじゃ行かせられない。奈実加、ずっと絵を描きたいって言ってたじゃん」

「そんなのもう無理だよ。付いていけないし、楽しくないし・・・・・・」

頑固だったから、何を言われても考えは変わらない。

無理やり選んだパティシエの専門学校へ進学した。

「親は美術系に進んでほしかったんだと思います。昔から絵が好きだった私を見てましたから」

男女の行為は「嫌じゃないけど、好きじゃない」

パティシエの専門学校では親友と呼べる子に出会ったが、よかったことはそれだけだった。

授業はつまらなかった。
パティシエになろうというモチベーションも湧いてこない。

専門学校に通っている頃、中学の同級生だった男子と駅でバッタリ再会した。

面影もないくらい別人のようになっていた彼に惹かれた。

「私の一目惚れっていうか、実際には昔の同級生だから一目惚れじゃないんですけど(笑)」

友だちづてに連絡をとり、彼と付き合うことになった。

手をつないで出かけたり、バイクに二人乗りしたり、楽しい時間を過ごしていた。

でも、昔のトラウマのせいで、男女の行為には進めない。

彼には正直に「昔、こういうことがあったから嫌なんだ。ごめんね」と伝えていた。

彼はしばらく待ってくれたが、「嫌な思いはさせないから」と言われて初体験。

「嫌じゃないけど、好きじゃない」というのが正直な感想。

「我慢してたわけじゃないけど、早く終われって思ってました(笑)」

彼のことはすごく好きだった。

だから、ずっと申し訳ないと思いながら付き合っていた。

専門高校を卒業してパン屋に就職すると、生活が一変した。

パン屋での仕事は想像以上に過酷で、自分の時間はほとんどなくなる。

彼とも会えなくなって、結局フラれた。

パン屋に勤めたのは半年だけ。

「私はこれじゃない!」と思って辞めた。

「これからどうしよう?ってことも考えず、ただただしんどかったから逃げるように辞めました」

0522歳でできた初めての彼女

高1の女の子からの告白

パン屋を辞め、「好きなことをやってやろう!」と思い、音楽のイベントに足を運ぶようになった。

音楽好きの発祥はジャニーズ。

そこからいろんな音楽を好きになり、いろんなイベントに行くようになる。

イベントに行くと、アーティストのファン同士のつながりが増えた。

22歳のとき、イベントで知り合った高校1年の女の子に「好きです」と告げられた。

「そのときは、“うん、ありがとう” って軽く返してたんですけど、“そういう意味じゃないんです” って言われたんです」

「どういうこと?って聞いたら、恋愛感情で好きなんですと」

「それ、違うと思うよ。友だち同士の好きでしょ?」

「違います、本気の好きなんです。人としてすごく魅力的だから好きになったんです」

「えー、こんなことってあるんだ!」「こういう人も実際いるんだ!」というのが最初の感想だった。

初めて女性と付き合うことに

「今までは普通に男の人に目が行ってたけど、その件があってから、私もその子を意識するようになりました」

昔から、好きだと言われると好きになってしまうことがあったから、付き合おうと決めるまで、それほど時間はかからなかった。

「彼女といると楽しかったし、居心地がよかったし、一緒にいたいって思ったから、女性同士ということに、それほど抵抗はありませんでした」

もちろん、女性と付き合うのは初めてだ。

「私もそうでしたが、彼女も、今まで女性を好きになったことはないって言ってました」

「こういうふうに、人って人を自然に好きになるんだなって」

「男だからとか、女だからとかじゃなく、その人の魅力で好きになるんだって思いました」

当時は、LGBTのことはほとんど知らない。

「まさか、自分がセクシュアルマイノリティだとは思っていませんでした」

「でも、彼女のおかげでそれに気づけました」

初めて女性と付き合うことにためらいはなかったが、そのことを周りには話せなかった。

男女で付き合うのが普通だと思っていたから。

「だから、一緒に歩くことはあっても、周りの目を気にして手をつなぐとかはダメだと思ってました」

彼女に「手をつなぎたい」と言われても拒否していた。

世間にも、友だちにも、家族にも、ずっと隠して付き合っていた。

「好きで一緒にいるだけなのに、どうしてこんなに周りに気を遣わなきゃいけないんだろうって」

好きだったけど苦しかった。

でも、周りに言いたいとは思わなかった。

「それを言ったら、二人の関係がおかしくなっちゃうと思ってたんです」

秘密は守り続けていたが、二人の別れは突然に訪れた。

 

<<<後編 2018/04/24/Tue>>>
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06 男と女を知った末に
07 仲良しの友だちにカミングアウト
08 お母さんに知ってほしかったこと
09 自分にしかできないことを
10 私の言葉が力になるなら

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