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モノガミーだからって、ポリアモリーのパートナーに対して我慢してるわけじゃない。【後編】

モノガミーだからって、ポリアモリーのパートナーに対して我慢してるわけじゃない。【前編】はこちら

2018/12/28/Fri
Photo : Rina Kawabata Text : Ryosuke Aritake
市川 満 / Mitsuru Ichikawa

1972年、千葉県生まれ。小学校まで地元で過ごし、群馬にある全寮制の中高一貫校に進学。大学卒業後、鉄道工事会社、人材派遣会社などに勤め、後にフリーランスで人とビジネスをつなげるコーディネーター業を開始する。2016年にポリアモリーの女性と出会い、現在交際中。

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INDEX
01 ポリアモリーの彼女と決めたルール
02 本音をさらけ出せない子ども
03 結婚生活が続かなかった理由
04 コミュニティツールとしてのサバゲー
==================(後編)========================
05 未知のライフスタイルと壊された常識
06 言いたいことを我慢しない関係
07 誤解されても批判はされない環境
08 感じたことを素直に出す必要性

05未知のライフスタイルと壊された常識

とらわれていた規範意識

2016年、秋。

友だち主催のサバイバルゲームの場で、1人の女性と知り合った。

「友だち経由でツイッターの投稿を見ていたので、ポリアモリーであることは知ってました」

「自由に生きてるロックな姉ちゃんだな、っていうのが最初の印象(笑)」

ポリアモリーという言葉を知ったのは、彼女の存在を知ってから。

そのライフスタイルに、嫌悪感は抱かなかった。

「自分が実践したいか否かじゃなくて、その生き方に興味が湧きました」

「同時に、自分の中の常識が壊された感じがしたんです」

自分が、1対1の男女で愛し合わなければいけない、という規範意識にとらわれていたことに気づいた。

「婚姻制度は、政府が人口を管理するために開始したものなんですよね」

「男女じゃなきゃいけない恋愛観も、メディアの刷り込みによるものが大きいかもしれない」

「彼女と出会って、そう考えるようになって、規範意識に縛られる必要はないって思うようになりました」

ふと過去を振り返れば、幼少期は “男らしさ” という言葉に興味がなかった。

社会人になってからも、「今日は男飲みだ」と言われると、妙に気持ち悪かった。

「女の子と飲みたいわけではなくて、わざわざ “男” で括ることに嫌悪感があったんです」

知らず知らずのうちに、枠で括られることから逃れたいと思っていたのかもしれない。

“告白=交際スタート” の意識

ある日、彼女から「好き」と言われた。

「まだ規範意識が抜けなかった僕は、好いてくれているならつき合おう、って思ったんですよ」

「どうやら、彼女の中では、告白する=つき合うではなかったみたいですけど(苦笑)」

後に彼女から「『好き』って言うことで、ひとまず決着をつけたかっただけ」と聞いた。

「でも僕は、尊敬しているこの人とつき合いたい、って思っちゃったんですよ」

互いの認知のズレはあったものの、パートナーとしての日々が始まる。

「ポリアモリーとつき合うことに不安はなかった、と言ったら嘘になります」

「ただ、彼女が『困ったら話し合う』って言ってくれたから、信じるだけでしたね」

逐一話し合うことに、手間は感じなかった。

彼女の生き方に対して、好奇心があったからかもしれない。

「彼女のことも知りたかったし、そのために話そうと思えました」

06言いたいことを我慢しない関係

正反対の2人のパートナー

つき合い始める時には、彼女にはすでにもう1人のパートナーがいた。

彼の存在は、つき合う前から知っていた。

「先のパートナーさんは、僕とは正反対の人だと感じていました」

「僕が持っていないやさしさとかやわらかさを持ってるから、納得したんですよね」

彼女が正反対の2人を平等に思う気持ちは、理解できた。

「僕はどう頑張ったって彼にはなれないから、焦りはなかったです」

「その分、僕と一緒の時間は楽しんでもらいたい、って気持ちも強くなりましたね」

たまたま2人とも仕事終わりがヒマになり、会える時間ができたとする。

その時間に何をして、いかに楽しく過ごすかを考えていきたい。

「彼女は片方を忘れて、片方のところに行くわけじゃなくて、いつも平等に考えているんです」

「そのことは理解しているから、僕も常に気を向けてくれないと困る、ってことにはならないです」

時には嫉妬することもあれば、「なんでこっちに時間使わないの?」と訴えることもある。

「嫉妬から発展したケンカだって、普通にしますよ」

「ポリアモリーは戒律でも宗教でもないから、こっちが口出しちゃダメってことはないんです」

認識がズレないよう、それぞれのパートナーとの予定は、Googleカレンダーで共有している。

「検査を受けてほしい」のひと言

性生活に関しても、彼女のスタイルに口出しはしない。

つき合ってそれなりの時間が経過した頃、彼女から「セックスしてもしなくてもいいスタンスを持ちたい」と言われた。

「言われた時は、モヤッとしましたよ」

「でも、僕が忙しくて時間が作れない時に、彼女に我慢させるのは違うと思ったんです」

自分が仕事で相手をできない時に、彼女は彼女で楽しんでくれているなら、それでいい。

「ただ、何でも許すわけじゃないですよ」

「ほかの人とのセックスで体を傷つけて、僕とできなくなるとかは嫌ですよね」

「少しでも心配だと思ったら、検査を受けてほしい」と伝えている。

言いにくいことも口にすることが、2人の関係を良好に進める秘訣だ。

運命と思える恋愛

過去の恋愛と比べると、今はすごく自由。

「フリーランスになったタイミングで、彼女に会えたのも良かったと思います」

「僕がサラリーマンで、規範意識の強い人間であれば、彼女は興味を持ってくれなかったでしょうね」

「逆に、僕も彼女に興味を示さなかったと思います」

出会うタイミングは、早くても遅くてもダメだっただろう。

2人は、会うべくして会ったのだと感じている。

07誤解されても批判はされない環境

優劣のない交際

彼女との共通の友だちは、つき合っていることを知っている。

ポリアモリーだと知っている友だちからは、「市川さんは何番目なの?」と聞かれることも。

「優劣があると思われがちですけど、パートナーの扱いは一緒なんですよ」

「聞かれた時は『順番というか、僕がそこに入っただけ』って答えます」

そう言えるのは、彼女がパートナーに順番をつけていないと、実感できているから。

「自分が2番手だと思ったら、やっていけないです(苦笑)」

「ポリアモリーを受け入れつつ、悩みながらつき合っているパートナーもいると思います」

「ただ、僕は知った上で交際に踏み込んだから、後で悩んだりはしないですね」

彼女の生き方が好きで、その中にポリアモリーがあっただけだから。

変化しなかった人間関係

つき合っている彼女がポリアモリーだと人に伝えて、批判的な言葉をかけられたことはない。

「Twitterに『ポリアモリーの方とつき合ってます』って書いたら、離れたフォロワーはいましたね」

「それも、600人近くいた中の4~5人でしたけど(苦笑)」

関係性を築いてきた人たちは、急に手のひらを反すようなことはしないと信じている。

「驚かれることはあっても、『ありえない』とか言ってくることはないかなって」

ただ、家族には話していない。

「つき合ってることは知ってますけど、ポリアモリーのことは知らないと思います」

「難解なことだし、わざわざ火を点けることはないと思って」

彼女の母親は全部を知った上で、受け入れてくれている。

「彼女の実家の福岡にも、たまに遊びに行くし、いい関係だと感じています」

08感じたことを素直に出す必要性

少数派だって幸せでいい

彼女と出会ったことで、ポリアモリーだけでなく、LGBTについても深く知るようになった。

「彼女と出会う前、興味本位で新宿二丁目に遊びに行ったことがあるんです」

今から10年以上前の出来事だ。

連れていかれたゲイバーで、マスターやゲイのお客さんと話した。

彼らなりの性指向や生き方はあっても、出会う人全員がまっすぐ生きていた。

「普通に生きている人同士で、差別や区別する意味はないって感じましたね」

「楽しく飲んで、しゃべって、色物を見るような感覚は少しもなかったです」

そう感じられたのは、学生時代の経験によるものかもしれない。

中高の寮では、軽度の身体障がい者の子も、同じように生活していた。

「寮生活の中で差別は一切なかったから、その環境にいたことで土台ができたのかもしれませんね」

だから、LGBT当事者を前にしても、特別な感情は抱かなかった。

「ポリアモリーというライフスタイルもLGBTも、生き方を否定するつもりは少しもないです」

「むしろ、少数派だからといって、不幸や苦労を背負い込む必要もないと思います」

彼女にも伝えたことがある。

「僕とつき合って楽しいなら、ハッピーなポリアモリーで胸張っていいでしょ」と。

「当事者もそうじゃない人も、みんながそう思えたらいいんじゃないかな、って思います」

人と関わって生きていくこと

東京オリンピックが近くなれば、セクシュアリティも含め、世界からは様々な人が日本に来るだろう。

「日本人って世界のものを拒絶しがちだけど、もっと自由でいいと思います」

外国人に道を聞かれると、苦手意識から避けてしまう日本人は多いように思う。

しかし、外国で道に迷った時、外国人は言葉が通じなくても、身振り手振りで教えようとしてくれる。

「今ならスマホですぐに翻訳できるし、日本人はもうちょっと頑張っていいんじゃないかな」

「日本人はつつましいとか控えめとか、きれいな言葉で国民性を表しますよね」

「でも、恥ずかしいだけだと思うんです」

外国人に限らず、自分の意思を言葉にして相手に伝えること。

これはどんな人間関係においても、重要ではないだろうか。

「嫌だ」と言える自分

幼い頃の自分は、言いたいことを我慢していた。

今は、気持ちを言葉にしていいんだ、と思えている。

「人と関係を築くには、素直さがすごくいるなと感じます」

「素直さって、従順であることじゃなくて、感じたことを表に出すことですね」

嫌だと思うことがあれば「嫌だ」と言った方が、関係はスムーズに進む。

感謝の言葉も謝罪の言葉も、いいことも悪いことも表に出すことが大切。

「ポリアモリーだから、モノガミーだから、ってことではないんじゃないかな」

「どんな形のカップルであっても、話し合うことは必要ですよ」

彼女と重ねた話し合いの経験が、仕事や友だち関係に生きることもある。

「彼女と出会ったことで “素直に言う” という感性を磨かせてもらいました」

「無駄なことが1個もないんです」

40歳を過ぎても、まだまだ学ぶことはたくさんある。

パートナーが違う考えを持っているからこそ、気づけたことも多い。

母の後ろで我慢していた自分は、素直に「嫌だ」と言える自分に変わることができた。

感じたことを言葉にし、彼女と正面から向き合っていきたい。

あとがき
サバゲーのイメージか? 挑み顔に見えて、満さんはちゃんと優しい。その中身は、対する人を一度受けとめる柔らかさ。新しい恋愛が教えてくれた「素直に伝え合う」も、同じベースに在るのかもしれない■自分の気持ちを率直に表現することは、大事。ただ、さえない結末を想像すると、話し出すことすらためらわないか?(・・・ためらう。) でも来年は、伝わらなくて当たり前を前提に、何度も何度でも。相手をおもうように、自分の気持ちも大切にしたい。(編集部)

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