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モノガミーだからって、ポリアモリーのパートナーに対して我慢してるわけじゃない。【前編】

一見強面で寡黙そうだが、話し始めると口調は穏やかで、親しみやすい笑顔を浮かべてくれた市川満さん。「昔はおとなしい子どもでした」と話す市川さんが、自分の気持ちを表に出せるようになったのは、ポリアモリーの彼女の存在があったから。異なる考えを持つパートナーとの関係を続けていくために必要だったスキルは、素直になること。

2018/12/26/Wed
Photo : Rina Kawabata Text : Ryosuke Aritake
市川 満 / Mitsuru Ichikawa

1972年、千葉県生まれ。小学校まで地元で過ごし、群馬にある全寮制の中高一貫校に進学。大学卒業後、鉄道工事会社、人材派遣会社などに勤め、後にフリーランスで人とビジネスをつなげるコーディネーター業を開始する。2016年にポリアモリーの女性と出会い、現在交際中。

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INDEX
01 ポリアモリーの彼女と決めたルール
02 本音をさらけ出せない子ども
03 結婚生活が続かなかった理由
04 コミュニティツールとしてのサバゲー
==================(後編)========================
05 未知のライフスタイルと壊された常識
06 言いたいことを我慢しない関係
07 誤解されても批判はされない環境
08 感じたことを素直に出す必要性

01ポリアモリーの彼女と決めたルール

ポリアモリーとモノガミー

僕自身は、モノガミー(ただ1人と性愛関係を築くライフスタイル)を自認している。

今つき合っている彼女は、ポリアモリー(同時に複数人と性愛関係をそれぞれが合意の上で築くライフスタイル)だ。

「僕は、彼女がポリアモリーだと知ってて、好きになったんです」

出会いは、2016年の秋。

彼女はメーカーに勤めながら、LGBTの啓発活動を行い、ポリアモリーのイベントを主催していた。

さらには、書籍を出版。

自分にはとてもできそうにないことを、やってのける人だった。

「そんな彼女を、生き方も含めて尊敬しましたね」

「人としての尊敬から入って、後で恋愛感情を抱いたから、つき合うことに違和感はなかったです」

合意の上での複数交際

彼女は、自分以外にもう1人のパートナーとも交際中。

「僕はモノガミーだから、自分だけを見てほしい、って思う時もありますよ」

「ただ、1人の相手に日々の生活も会話もセックスも、すべての合格点を求めるって難しいですよね」

自分の気持ちに合わせて、帰るところを分ける彼女の生き方は、合理的だと感じている。

「それに、僕のためだけに全部の時間を割いたら、彼女は輝かないと思うんです」

今のライフスタイルだから、彼女はイキイキしているのだろう。

その生き方やはつらつとしたきらめきに、尊敬の念を抱いたのだ。

「我慢をさせたら、この人じゃなくなっちゃうだろうなって」

「彼女にお願いがあるとすれば、箸にも棒にもかからない人とはつき合わないでほしい、ってことです(苦笑)」

ポリアモリーは、恋愛関係にある全員の合意の上で複数人と関係を築く。

新たに好きな人ができた時は、彼女から「好きな人ができた」と言ってくれる。

「彼女には、『あなたも僕も納得できる人とつき合ってね』と伝えてます」

気持ちを口に出すことの意義

「よく『ポリアモリーのパートナーに対して、モノガミーは我慢しなきゃいけないの?』って聞かれるんです」

「僕は、彼女の言い分を黙って受け入れる必要はないと思ってるし、言いたいことは言います」

やきもちは焼くし、気分が悪いと思えばそのままを伝える。

事前に知らされずにほかの人とデートに行かれたら、怒ることもある。

「嫌なことがあった時には、すぐ話し合うことが大事だと思います」

つき合い始めた頃は、言葉ではなく態度で気持ちを伝えようとした。

その度に、彼女から「言ってくれないとわからない」と注意された。

「彼女とつき合って、自分は『嫌だ』って訴えることが下手だったって気づきました」

「つき合ったからって所有物になるわけじゃないし、気持ちを100%察するなんて無理ですよね」

「ちゃんと話さないと、不安な気持ちは消えないですから」

02本音をさらけ出せない子ども

聞き分けのいい幼少期

幼い頃は、「聞き分けのいい子」だと思われていた。

母と散歩に行き、近所の人と井戸端会議が始まると、黙って待っている子だった。

「『おとなしくていい子ね』って言われたけど、本当は『帰りたい』って言えないだけだったんです」

「無自覚で溜め込むから、我慢の限界が来ると突然泣くんですよ(苦笑)」

「それでも泣く理由は言わないから、親も困ったと思います」

両親から「泣くな」「男らしくしなさい」と言われた記憶はない。

「僕自身も “男らしい” みたいなことに興味がなかったかもしれない」

「スポーツが好きで野球部に入ってたけど、根性論とかもピンと来なかったです」

世渡り上手な思春期

地元の中学は不良が多く、評判が悪かった。

「暴走族がまだ少し流行っていた時代なので、親も行かせたらまずいと思ったみたいです」

生まれ育った千葉の船橋を離れ、群馬の中高一貫校に進んだ。

「そこは男女共学で全寮制。軽度の身体障がい者の子もいました」

「ひと学年20~30人しかいなくて、クラスは1つだけだったんです」

学校が終わっても、クラスメートと同じ寮に帰り、同じ時間を過ごした。

「今考えると、気が休まらないことをしてたな(笑)」

「どうしても、空気の読み合いみたいな感じになるんですよね」

「仲間外れにされるようなことは、避けたかったから」

どの先輩が、頼りになるか。
どの先生と仲良くすれば、イニシアチブが取れるか。

幼いながらに、うまく学校生活を送る術を考えるようになっていった。

無意識に磨かれた洞察力

「中高の経験のせいかわからないけど、変な洞察力は身につきましたね」

人と相対した時に、相手の言葉の真意がわかるようになった。

「本人も無意識で抱いている本音を、僕が先に言っちゃって、気味悪がられるんです(苦笑)」

洞察力が、うまく働くこともある。

「趣味でサバイバルゲームのイベントを開いてるんですけど、誘い方は人によって変えます」

この人はこの一言があれば来てくれるだろう、と自然と思いつく。

友だちに「あの人を誘いたいなら、こういう声かけをしたら喜ぶと思うよ」と助言することもある。

気を使いすぎてしまう少年は、人の気持ちを汲める大人になっていた。

03結婚生活が続かなかった理由

初めてできた彼女

中高生の頃、好きな子はいたが、想いは伝えなかった。

「つき合いたいとかセックスしたいって欲望は、人並みにありましたけどね」

初めての女性との交際は、大学1年生の時。

先輩から思いを告げられ、つき合うことになった。

「初めての交際は、普通に楽しかったです」

「僕はモノガミーなので、彼女が女友だちと出かけてる時も、早く彼女に会いたかったですね」

並列でほかの人ともつき合うなど、考えもしなかった。

大学生から社会人になっても、交際は続く。

つき合い始めて6年が経つ頃、結婚した。

籍を入れたことの安心感

結婚したことで、安心感を得られた気がしていた。

「単純に、帰れば家に人がいることに、安心しましたね」

「入籍したことで相手は僕のものになった、って思ってました」

「今みたいに、話し合うことが大事、ってマインドはなかったです」

その安心感が落とし穴となってしまったか、結婚生活は2年半で幕を閉じた。

「結婚っていう形に依存すると、話し合うことを省いちゃうのかもしれません」

「夫婦になったから大丈夫だろうって安心感が、互いを思い合う気持ちを殺しちゃうんじゃないかなって思います」

自分たちには、気持ちを言葉にして伝える努力が足りなかった。

「入籍したからって、相手を手に入れたわけじゃないんですよね」

「結婚って互いの得意、不得意を、一緒に背負っていくものの気がします」

結婚の必要性

今は、結婚はしない方がいいかもしれない、と考えている。

「結婚って枠組みに、縛られないでいいように思います」

「結婚したら楽しくなるかっていうと、そうとも限らないし」

「今は彼女と楽しい時間が過ごせてるから、どっちでもいいじゃんって」

だからといって、今のままずっと過ごしていきたい、と強く思っているわけではない。

「『内縁関係で子どもを授かってもおかしくないよね』って話はします」

「ポリアモリーとして、お父さんとお母さんが1人ずつじゃなくてもいいですよね」

「そもそも、彼女が一生ポリアモリーかどうかもわからないですから」

彼女も「生きてるうちに、モノガミーになるかもしれない」と、言っている。

今は結婚を必要としていないだけで、否定しているわけではない。

したくなったらすればいい。

そのくらい、ラフな気持ちになれている。

04コミュニティツールとしてのサバゲー

本当の自分と出会えるサバイバルゲーム

つい3年前、友だちにサバイバルゲームに誘われた。

勤めていた会社を辞め、フリーランスになった頃だった。

自陣と敵陣に分かれ、相手の陣地のフラッグを奪取するゲーム。

手や脚での暴力は禁止で、エアガンを装備して、敵陣へ乗り込んでいく。

「二つ返事で参加したら面白くて、その友だちを差し置いてハマっちゃったんです(笑)」

サバイバルゲームのフィールドに、通う日々が始まった。

「サバイバルゲームってやるとわかるんですけど、PDCAなんですよ」

状況を把握して、作戦を実行し、帰還したら、悪いところを次に生かす。

相手を倒すためには、目で見た情報を仲間に共有する必要もある。

「チームの結束力が高まるし、達成感も得られます」

「非日常の緊迫したシチュエーションだと、その人の素も出やすいんですよね」

「僕自身は、面と向かってぶつかっていける人なんだと気づかされました」

幼い頃は、自分の意思を隠すことしかできなかった。

しかし、本当は、気持ちを相手にぶつけたいと思っていたのだ。

仲間が増えやすいアクティビティ

一緒に参加する人の性格や性質も、ゲームの中から見えてくる。

「慎重な人とか無茶をする人とか、本質が出るなって思います」

「だから、相性の善し悪しも、如実にわかっちゃうんです」

「目標達成のベクトルが似ている人を、見つけやすいともいえますね」

その日に初めて会った人でも、打ち解けやすいアクティビティだ。

1ゲーム5~10分で、装備は貸してもらえるため、始めやすいところも魅力。

「勝つためにいい装備を揃える人がいれば、身体能力を鍛える人もいます」

「動画で研究してフィールドを攻略する人もいたり、楽しみ方の選択肢も広いですね」

人間性が見えるサバイバルゲームは、異業種交流の場に向いていると考えている。

「『サバゲーやりたい』って人も多いから、月1回くらいで主催してるんです」

「市川が開くサバイバルゲームだから『いちサバ』って名前をつけて(笑)」

好奇心や探求心が強い起業家や取締役クラスも、興味を持って集まってくる。

「仕事の話をするわけではないですが、自然と輪が広がって面白いんですよ」

ゲームの中で人間性が見えるため、仕事したいと思える人とも巡り会いやすい。

「自然と仲間が増えていくコミュニティルーツみたいな感じです」

そんなサバイバルゲームを通じて、現在のパートナーと出会った。


<<<後編 2018/12/28/Fri>>>
INDEX

05 未知のライフスタイルと壊された常識
06 言いたいことを我慢しない関係
07 誤解されても批判はされない環境
08 感じたことを素直に出す必要性

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