01強くて優しいお母さん
── まずは結婚一周年おめでとうございます。記念日はどんな風に過ごしたんですか?
ありがとうございます。ふたりで京都を散策して、夜はフレンチレストランでお祝いしました。
すごくおいしかったし、何よりサービスが素晴らしくて感動しました。
── 京都は大久保さんの出身地でしたね。どんな子ども時代を過ごされたんですか?
長い間、双子の姉と9歳年下の妹と、母の4人で暮らしてました。
3歳の時に両親が離婚したあと、小学校3年生の時に新しいお父さんができて妹が生まれたんですが、すぐに別れてしまって。
母は、私たちを育てるために仕事を3つも掛け持ちしていて、一緒に住んでいるのになかなか会えないような状態でした。
そしたら、ある日、母が交換日記を用意してくれて。親子の会話は交換日記でしてました(笑)。
それでも母は、いつも夕ご飯をつくるために帰ってきてくれてたんです。
朝の仕事のあと、昼の仕事をして、また仕事に出かける前に。
学校から「ただいま」と帰ると、ご飯をつくり終えた母が「行ってきます」と出て行くという感じで。
忙しくて会えなくても、せめてご飯だけは、とがんばってくれてました。・・・・・・母は、すごく強い人です。
── 仕事で疲れているのに、さらに食事の支度なんて。お母さんは、家族をとても大切にされていたんですね。
何かあったら必ず守ってあげるって、いつも言ってくれてました。
そんな母を守ってくれる人が、私が中学生の時に現れて、今ではその人が私たちのお父さんです。
最初は人見知りしていたし、思春期だったこともあって「別に、お父さんなんかいらん」って思ってたんですが、父が母に言った言葉を聞いて考えが変わりました。
もちろん母のことが好きだから一緒にいたいけど、私たち姉妹を幸せにしたいから一緒になってほしいと。
それを聞いて母も、この人なら家族を守ってくれそうと思ったそうです。
── 歯科衛生士のお仕事もお母さんの勧めだったとか。
そうなんです。
母が忙しかったので、祖父母と一緒にいることが多かったこともあって、もともとは介護士になりたかったんですが、将来のことを母に相談している時に「歯科衛生士がいいんちゃう?」と言われて。
実は、母は若い頃から歯が悪かったので、私が歯科衛生士になったら治してあげられるな、と思ったこともあって。で、専門学校に行ったんです。
小さい頃から相談相手は、いつも母でした。
02ボーイッシュな親友を理解したくて
── 最初に出会ったLGBTの人は?
高校の同級生です。バスケ部で一番仲がよかった子。
出会った時からボーイッシュな子やなって思ってました。通っていた女子校には、ボーイッシュな子もいっぱいいたし、女の子同士で付き合っている子もいたし、その子もそうなんかなと思ってたんですが、本人が私に何も言わないので、私も何も言いませんでした。
実は、女の子と付き合ってるのも知ってたけど、周りに隠しているようだったので、気づかないふりをしていました。
言いたくなったら言ってくれるやろなって。
で、言ってくれた時に自分がちゃんとその子を理解できるように知識があったほうがいいやろなって思って、同じバスケ部だった姉と相談して、いろいろ調べました。
姉は、LGBTの人がどんな気持ちでカミングアウトするのかを理解するために、大学では心理学を専攻して、学んだことを私に教えてくれました。
私は、高校の同級生に男の子も女の子も好きな子がいたので、その子にどんな感じか聞いてみたりもしました。
そんな感じで準備をしつつ、親友からのカミングアウトを待っていました。
── そして、カミングアウトはありましたか?
はい。
高校を卒業してから、一緒にご飯を食べてる時に。
「もしかしたら気付いてるかもしれんけど、男の子になりたくて、実は彼女もいて・・・・・・」て。
知ってたよ、いつ言ってくれるんやろって待ってたんやで、て言いました(笑)。
やっと言ってくれた。めっちゃうれしかったです。本人もすごく緊張してたみたいで、言った途端にほっとしてました。
友達はすでにホルモン治療を始めていたみたいで、少し声も変わってきていました。
そして、これから手術する予定なんやって教えてくれました。
── 高校では身近にオープンなLGBTの人がいたようですが、戸惑うことはなかったですか?
一番最初は、そういう人がいるっていうのも知らなくて、ちょっとびっくりしました。
仲のよかった同級生から告白されたこともあったんですが、普通に友達やと思っていた人が突然恋人になることがイメージできなくて、戸惑いました。
その子に告白されて、自分がどんな気持ちやったか、今でもよく分からないんですが、決していやな気持ちではなかった。
男の人としか付き合ったことがなかったので、それが普通やと思ってたし、その子は友達やったし・・・・・・。
「でも、女同士だから無理、男の人とじゃないとあかんって感じではなかったんです」
03一緒にいて不思議なほどラクな人
── そのカミングアウトしてくれた親友から紹介されたのが、旦那さんなんですよね?
そうなんです。
関西レインボーパレードのあとの打ち上げで、友達と彼が出会ったそうで、ある時、「いい人おるんやけど、紹介してほしい?」って連絡があって。
その時は、私も2年くらい彼氏がいなかったし、紹介してくれるんやったら会ってみようかなと思って、「どんな人?」って聞いてみたんです。
そしたら、「お兄さんぽくて優しい感じやで、どう?」って、写真が送られてきて。
それから連絡先を交換して、ラインでやりとりするようになったんです。
── 彼がFTMだということは、いつ聞いたんですか?
ラインでやりとりしている時に、実はって。
「聞いてると思うけど」って言われたけど、聞いてなかった(笑)。
でも、聞いてもなんも思わなくて。あ、そうなんだって感じで。
聞いたあと、実際に会ってみたんですが、会ってもやっぱり違和感はなくて。第一印象は、優しそうな人やなって思いました。
私、すごく人見知りをするんですが、彼には不思議なくらいぜんぜんしなかった。変に気を遣うこともなく素でいられるしラクやな〜って。
それで、付き合いたいなって思いました。
彼も、付き合って割とすぐに、結婚を考えてるって言ってくれて。
── なかなかスピード感のある展開ですね!
そうですね(笑)。
でも、さすがに早すぎると思ったので、結婚に対しては友達にも相談したりしながら少し慎重に考えるようにしました。
── デートではどんなところに行ってたんですか?
最初は居酒屋に行きました(笑)。
ふたりともお酒が好きなので。会うたびに仲が良くなって、急速に距離が縮まっていきました。
当時は展開が早すぎて焦ったりもしましたが、私は自分で物事を決めて進めていくタイプじゃないので、彼に決めてもらって引っ張ってもらったことは、今となってはよかったなと思います。
04恋人の紹介は性同一性障害の説明から
── 家族のなかで、旦那さんを最初に紹介したのは誰ですか?
母だったと思います。
付き合ってる人がいるんやけどって言ったら、「そんな気がしてた」って言われました。なんか顔に出てたらしくて(笑)。
結婚したいと思ってて、FTMの人だということも言いました。
驚くかなと思って緊張しながら言ったんですが、母は「そんな予感がしてた」って。逆にこちらがびっくりしました。
── FTMの人と結婚する予感がしていたということですか? 高校時代から希望さんの身近には、自然にLGBTの人がいたから不思議じゃなかったということですかね。
そうかもしれません。
母は、「苦労するかもしれないし、周りの人みんなからおめでとうって言ってもらえへんかもしれへんけど、あんたがしたいんなら応援する」って言ってくれました。
緊張しながら伝えたんですが、いつも私を守ってきてくれた母だったので、認めてくれる自信もありました(笑)。
さらに、私たちふたりの子どもは難しいけど、どういったかたちでもいいから子どもはほしいと思っている、と伝えました。
そしたら母は、「うまくいかへんかったら、養子という手段もあるよ」って言ってくれて。
子どものことは将来に向けての不安要素のひとつだったんですが、割と早い段階で母の言葉のおかげで解消されました。
── 他の方にはどんな風に紹介していったんですか?
姉と妹には母が伝えてくれました。
友達にも、結婚式に来てほしいと思う人には「こういう人です」と伝えました。
でも、伝えることに不安はなかったですね。「LGBTとか、こういう人もいるんやで」ってことを周りの人に知ってもらう機会があったらいいなと思っていたくらいなので。
友達に伝える時には、まず「FTMって知ってる?」ってところから始めます。
そしたら、だいたいの人が知らないので、性同一性障害のことを説明してから、実は結婚しようと思っている人がそうなんやけどって話をします。
みんな、それを聞いてびっくりしますが、最後には私が幸せならと納得してくれます。
でも、ひとりだけ、わたしが周りに何かを言われるのが嫌だと言ってくれた子がいました。
きっと私のことを心配してくれた正直な気持ちです。
その友達の気持ちも大事にしたいと思います。
── お父さんや、相手のご両親からどんな言葉がありましたか?
お父さんは、旦那さんに「大事にせな許さんぞ」って言ってました(笑)。
旦那さんのお母さんからは「こんな子でごめんね、ほんまにいいの?」って・・・・・・。
私にとって、彼と結婚するのは全然特別なことではなく、当然のことだったので、そう言ったら「選んでくれてありがとう」って言ってくれました。
泣いて喜んでくれはったのを見て、私たちが幸せになって、旦那さんの両親も安心させてあげたいと思いました。
05旦那さんの力になりたい
── FTMやMTF、トランスジェンダーの方との結婚はさまざまなハードルがあると言われています。結婚に向けて悩んでいる方も多いと思うのですが、そんな方々に向けて伝えたいことはありますか?
私は、反対されて当たり前って思っています。
分かってくれる人もいれば、分かってくれない人もいる。でも、絶対ひとりは分かってくれるはずだと。
今は分かってくれていない人も、いつかは分かってくれるかもしれないので、私たちみたいな夫婦がいるって、FacebookとかSNSなどで伝えていけたらいいなと思います。
実は、祖母は結婚式に来なかったんです。
ふたりで挨拶に行った時は普通に話をしてくれていたのに、後日、母が祖母を訪ねた時に「なんで相手がFTMの人なんやろう」って言っていたらしいんです。
それで母が「ほんまに心から祝えへんのやったら結婚式に来んといて」と。ショックかもしれんけどって前置きしてから母が教えてくれました。
寂しかったけど、逆にトントン拍子でうまくいき過ぎていたから、反対されることも大事にしないと、とも思いました。
反対されることもあるってことを分かっておかないといけないし。
きっと祖母も、私のことを心配してくれているだけで、いつかは分かってくれると思うから。
今も、ふたりで会いに行ったら普通に話をしてますし、いつかはきっと。
── 旦那さんはLGBT当事者としてセミナーなどもされているそうですね。
そうなんです。
だから、これからは旦那さんをサポートしたいと思っています。
セミナーに顔を出して、たとえばトランスジェンダーの方と結婚を考えている人の話を聞いたりとかできたらなって。
なかには、相手がトランスジェンダーだということを周りに言えないで悩んでいる人もいるだろうし、普通に恋バナもしたいだろうし、結婚の相談もしたいと思うんです。
そんな人たちの力になれたらいいなと思ってます。
── 他に、今後の目標はありますか?
やっぱり、子どもがほしいです。
旦那さんとは双子がほしいねって話しているんですが、そうすると、私たちの時みたいに一気に2倍お金がかかっちゃうのが悩みどころです。
私もがんばりますが、旦那さんにはがんばってもらわないとですね(笑)。