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アセクシュアルの私が、恋をする日が来るかもしれない。【後編】

アセクシュアルの私が、恋をする日が来るかもしれない。【前編】はこちら

2019/07/14/Sun
Photo : Tomoki Suzuki Text : Ryosuke Aritake
金井 美希 / Miki Kanai

1998年、新潟県生まれ。父・母・2人の妹との5人家族で育ち、小学校から高校まで地元の学校に通った後、カウンセラーを目指して新潟県内の大学に進学。19歳の時に「アセクシュアル」を知り、自身のセクシュアリティを認識する。現在は、県内のLGBTサークルに参加しながら、大学院への進学を目指している。

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INDEX
01 地元を離れずに成し遂げたい夢
02 互いに補い合うような家族の関係
03 好きなものを気ままに楽しんだ時代
04 友だちに合わせ始めた思春期
05 「好きな人とつき合いたい」という感情
==================(後編)========================
06 認められなかったアセクシュアル
07 周囲に打ち明ける覚悟と意味
08 可能性に賭けた “おつき合い”
09 セクシュアリティは変化していくもの
10 これからの自分にできること

06認められなかったアセクシュアル

セクシュアルマイノリティサークル

大学1年の夏、ある授業をきっかけに、世界が開ける。

「担当の先生が以前、LGBTに関する卒論を担当されたそうなんです」

授業内で、その卒業生が主催しているセクシュアルマイノリティの団体を紹介していた。

「私もその団体に参加してみたいと思って、すぐに探しましたね」

これが能動的に動き始めた最初かもしれない。

それまでは、インターネットなどでLGBTについて調べたことはなかった。

この授業に出ていなければ、いまだに当事者と交わっていなかっただろう。

アセクシュアルという性質

セクシュアルマイノリティサークルに参加するようになり、メンバーには自分の悩みを打ち明けた。

「大学に入ってからも、誰かとつき合いたいと思わないことに、悩んでました」

「団体の幹事の方に『アセクシュアルなんじゃない?』って、言われたんです」

“アセクシュアル” とは、恋愛感情や性的欲求が少ない、または存在しない人の呼称。

「それなのかも、って感じましたね」

いままで抱いていた “好き” という気持ちは、恋愛感情とは違ったのかもしれない。

振り返ると、親友としての “好き” や “尊敬” に近い感情だったように感じる。

「だからといって、すんなり受け入れられたわけではなかったです」

恋愛できない自分を、認めたくない気持ちも芽生える。

信じたくない気持ち

「恋愛をしてる人って、すごく楽しそうなんですよね」

つき合っているカップルを見ると、普段とは違うキラキラとしたオーラが見えた。

友だちといる時よりも、楽しそうな雰囲気をまとっていた。

「たまにはケンカをする時もあると思うんですけど、すごく輝いてるんです」

「私には、恋愛で得られる楽しさを感じることはないのかな、って思ったら寂しかったですね・・・・・・」

「恋人とかおつき合いとか経験してみたい、って気持ちがありました」

恋愛ができないことも、人と違うことも、否定したかったのだ。

「自分は本当に恋愛ができないかな、って半信半疑でしたね」

それでもセクシュアルマイノリティの団体には、参加し続けた。

「他のセクシュアリティの方と話す中で、徐々に自分を認められるようになってきました」

さまざまなセクシュアリティがあるように、考え方も人それぞれ違うことを知る。

恋愛ができないという性質も、違和感を抱くことではないように思えた。

「少しずつ、落ち込むこともなくなっていきました」

07周囲に打ち明ける覚悟と意味

初めてのカミングアウト

アセクシュアルだと自認してすぐ、高校時代から仲良くしていた友だちに打ち明けた。

「恋愛の話が出た時に誤解されるのも嫌だったし、伝えておいた方がラクかなって」

「説明が難しいセクシュアリティなので、伝え方は苦労しましたね」

「友だちとしては好きになるけど、人より恋愛感情が少なくて、恋愛の話もついていけない」と、話してみる。

伝えきれていないと感じ、「気になったら調べてみて」と、補足した。

「友だちはびっくりする感じもなくて、『そうなんだ』って言ってました」

「わかってんのかな? って、感じはありましたけど(笑)」

初めて打ち明けることができたが、正確に伝わった実感が持てず、すっきりするまでには至らなかった。

「だけど、これから人に話していくだろうな、っていう感覚はありました」

アセクシュアルであることを、その友だち以外の身近な人にも、カミングアウトしていく予感がした。

打ち明けられない存在

友だちに打ち明けた後、2人の妹にもカミングアウトした。

「妹たちは、保健体育の授業とかでLGBTを学んでいたので、すんなり受け入れてくれました」

上の妹からは「LGBTとはどこが違うの?」「どういう感じなの?」と、質問された。

質問されれば、自分が持っている知識の中で答えるだけ。

下の妹は「そうなんだ」と、あっけらかんとしていた。

「親には、なかなか説明しにくいですね」

「LGBTすら難しいのに、アセクシュアルなんて言ったら、どういう反応をするんだろうって・・・・・・」

20歳を過ぎてから、家族の中で結婚の話が出ることがある。

「同い年の友だちが結婚した時に、親が『孫の顔が見たい』って言ったりするんですよね」

「『いい人いないの?』とか言われるたびに、いつ本当のことを打ち明けようかな、って考えます」

セクシュアルマイノリティのサークルに参加していることは、両親も知っている。

「ただ、『ボランティア活動に参加してくる』って、話してます」

両親は「勉強の一つとしていいことだし、そういう人たちもいるしね」と、言ってくれた。

その反応を見る限り、当事者に対してマイナスな印象は抱いていなさそうだ。

「いずれは言いたいんですけど、なかなかタイミングがつかめなくて」

「否定はしないでほしいな、って思いますね(苦笑)」

「恋愛感情がまったくないの?」

学校の友だちや教師には、必要だと感じた時にアセクシュアルであることを伝えている。

「恋愛の話になって、相手が気になってるようだったら話しますけど、自分からは言わないですね」

伝えた友だちからは、「恋愛感情がまったくないの?」と、確認されることが多い。

「私自身を受け入れつつ、『まだ出会ってないだけじゃない?』って、言ってくれることもありますね」

しかし、質問や意見を投げかけられることは、嫌ではない。

「理解しようとしてくれている証拠だから、ありがたいです」

「気になったことを聞いてくれた方が、私も話しやすいし」

「恋愛感情がまったくないの?」と聞かれた時は、こう答えている。

「今はないよ」

08可能性に賭けた “おつき合い”

初めての恋人関係

自分がアセクシュアルだと認識してからも、 “恋愛” に対する興味がなくなったわけではない。

大学2年の時、男性から告白された。

「その人には、もともと自分のセクシュアリティを伝えていたんです」

「だから、『私はあなたを好きにならないかもしれない』って、改めて言ったんです」

その男性は、自分の返事を承知した上で『つき合いたい』と、言ってくれた。

「私も、つき合ってみたら好きになるかもしれない、と思って、告白を受け入れました」

しかし、2人の関係は2カ月ほどで終わってしまう。

「相手が恋人として求めてくるものに、応えられなかったんです」

「別れる時には、私から『やっぱり無理だから、別れてください』って、言いました」

手をつなぐ理由

恋人との関係でもっとも違和感を抱いた部分は、身体的な接触。

「一緒にいるとか、隣に座るとかは良かったんです」

「でも、手をつなぐ、ハグをするっていうことが受け入れられなくて・・・・・・」

恋人同士として当然の行為だと思っていたため、決して拒絶はしなかった。

生理的に無理だと、感じるわけでもなかった。

「ただ、気持ちが理解できなかったんです」

「相手に『手をつなぎたいな』って言われても、したいと思わなかったし、する必要性を感じなくて」

「一緒にいて楽しくても、手をつなぎたい、って気持ちにはならないんです」

だから、我慢して受け入れていた。

「求められるならやってみようかな、みたいな感覚でしたね」

しかし、何度経験しても、「手をつなぎたい」「ハグしたい」という気持ちは、理解できなかった。

「実際に拒否はしなかったから、相手の男性は、別れる理由がわかっていなかったかもしれません」

「ちゃんと話し合ったこともなかったし、私も受け入れちゃっていたので」

初めてのおつき合いに少しだけ期待していたが、やはり恋愛感情は湧かなかった。

自分のセクシュアリティを確かなものにする経験となった。

09セクシュアリティは変化していくもの

当事者に出会えた驚き

大学1年で通い始めたセクシュアルマイノリティのサークルには、今も変わらず参加している。

その中には、あらゆるセクシュアリティの人が参加している。

「初めて参加した時は、新潟にもこんなに当事者がいっぱいいるんだ、ってびっくりしました」

「それまではLGBTに関して調べたことがなかったし、どれぐらいの割合でいるかも知らなかったんです」

「LGBT当事者と知り合うこともほとんどなかったので、うれしさより驚きの方が大きかったかもしれません」

団体に参加している中高生を見ると、10代のスピードの速さを感じる。

「最近の子は、ネットとかで情報を得ているんだろうな、って感心しちゃいますね」

硬すぎる定義

団体を通じて、アセクシュアルの人とも知り合うことができた。

同じセクシュアリティの人と出会い、気づいたことがある。

「セクシュアリティの定義を、決めつけてる人が多いように感じたんです」

「恋愛感情がゼロじゃない人は、アセクシュアルではないって」

「ちょっと好きになることもあるけど、これはアセクシュアルなのかな?」という相談を受けたこともある。

「自分の居場所がどこにあるのか、悩んでいる人がたくさんいました」

「定義に当てはまらない自分を、否定しちゃってる人もいるんですよね」

「私は、もっと自由に考えていいと思うんです」

レズビアンだと自認していても、男性に惹かれることはあるかもしれない。

Xジェンダーの中には、昨日は男性、今日は女性と、性別に揺らぎがある人もいる。

同じようにアセクシュアルも、恋愛感情がゼロでなければいけないわけではない。

「そう思えるようになったのは、いろいろなセクシュアリティの方、アライの方と話せたからです」

「性別も感覚も違う人に出会えたから、私自身も思考や視野が広がりました」

「変わってもいいかな」

自分自身の恋愛感情も、この先まったくないものとは考えていない。

「アセクシュアルの中でも、恋愛感情がゼロの人がいれば、30ぐらいある人もいるんですよね」

「 “好き” の感じ方は人それぞれ違うし、変わってもおかしくないな、って思います」

「私は積極的に変わりたいわけではないけど、変わってもいいかな」

アセクシュアルだと自認しているが、そのうち恋愛感情を抱く相手が現れるかもしれない。

「そうなった時に変化を受け入れるというか、これもありかな、って思える自分でいたいです」

セクシュアリティを表す言葉は、自分の性質を表現しやすいが、そこに捉われなくてもいい。

「すごく自由だし、いろいろな可能性が楽しみです」

10これからの自分にできること

理解し合える場所

「今は、自分に関する悩みは、特にないです」

「アセクシュアルがまだ浸透していないので、理解されにくいところは、社会的な部分での悩みです」

LGBT当事者ではないマジョリティの人に理解されづらいことは、予想していた。

実際は、当事者にも理解してもらいにくかった。

「居場所を求めて当事者の団体に参加しても、理解してもらえないと、寂しいですよね」

アセクシュアルであることを話すと、「それっておかしくない?」と、言われることもある。

以前、アセクシュアルの友だちが「LGBTの会に参加するか迷ってる」と、話していた。

自分のセクシュアリティを理解してもらえないために、足が遠のいてしまったのだ。

「その子の気持ちはわかりました。だからこそ、理解し合いたいと思ったんです」

「そもそもアセクシュアルを知らない人もいるので、まずは説明する機会が必要だと思ってます」

「固定概念に捉われず、もっとやわらかく考えられるように、話し合いの場も増やしたいんです」

当事者同士で集まれる場所を設けようと、企画中だ。

そして、アセクシュアルの人たちの意識も変えていきたい。

「まずは、自分自身が変わっていくことを、前提にしたいと思ってます」

「異性愛者の人でも同性愛者の人でも、『今は恋愛しないでいいや』って、考える時期はありますよね」

「アセクシュアルも同じで、その時々で感覚が変わってもいい、って伝えたいです」

「私が動かなきゃ」

LGBTに関する活動は、新潟で進めていきたい。

「マジョリティの方にもっと知ってもらいたいし、LGBT当事者の方とも情報共有したいんです」

横に長い新潟では、中心地だけで活動していると、両端の人に届きにくい。

その状況を打破するため、県内のあらゆる場所に情報を届けられる仕組みを作りたい。

「自分の地元で悩んでいる人がいるなら、固定概念を見直してもらいたいんです」

「そのためにも、変えていきたいと思ってる私が動かなきゃって」

友だちの後をついて回っていた自分が、今は人の前を歩こうとしている。

それは、自分自身を受け入れ、周りの人も受け入れようと思えているから。

今はまだ道の途中。

これからの自分は、もっと変わっていくはず。

あとがき
「・・・いろいろな可能性が楽しみです」。その時の美希さんの顔が忘れられない。取材終わりに着地した言葉は、要約のようにも、未来のようにも感じられた■性愛感情の有無について、美希さんは「今はね」と友だちに答えた。問いが異なっても、ほとんどのことは[今はね]だとあらためて思う■ときには、善・悪、高・低よりも、手前・奥、左・右で考えたら奥行きがある? どんな会話にも[今はね]が含まれているのなら、広々した明日をむかえらる。(編集部)

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