02 心を開けば一直線
03 学生時代は部活と恋愛
04 出会いと別れ、そして上京
05 ひたすら働いて
==================(後編)========================
06 運命の出会い
07 セクシュアリティという障壁
08 今までとは違う
09 ふたりで描いた未来は
10 最後はどれだけ好きか
01 FTMパートナーとの結婚
彼の “陽” に引っ張られてきた
「たぶん私、変わったと思う。考え方は変わったと思います。昔は、すっごいネガティブ人間だったんです(笑)」
「自分でも考え方を変えようとしてたんですけど、難しくて。彼と出会ったおかげで、だんだん変わってはきましたね」
2019年5月に結婚した彼は、私を変えてくれた人でもある。
FTMである彼が性別適合手術を決意したのは、つい2017年のこと。
2019年の5月26日、晴れて入籍を果たした。
「ずっと一緒に住んでいたので、結婚してもあまり環境は変わらなかったけど・・・・・・。幸せすぎて怖いくらいです」
これもふたりで歩んできた過程があるから。
「婚姻届けを提出した時すごく嬉しかったのと、やっと! っていうのもあったし、でも今までずっと同棲してて一緒にいるから、苗字が変わっただけかな、っていうのも」
色んな気持ちがある。
「プロポーズは2回くらい? してくれたんですよ。飲んだ勢いで言ってくれました(笑)」
職場の声も今は気にならない
戸籍を変えるまで、彼と付き合っていることを職場の人には黙っていた。
「付き合ってる人がいる、っていうのは言ってたんですけど、それが誰なのかは話してなくて、ずっとはぐらかしてました」
「戸籍を変えて結婚の話が出てから、彼が誰なのかと広めて。でも職場の人は、彼が戸籍を変えたところまでは知らないんです」
「あえて私も言わなかったし」
元々自分のことをあまり知られるのが好きではなかった。自分がしたいようにしているだけなのに、色々言われるのが嫌だから。
彼との付き合いについて、職場で噂されることもあった。
「レズなんでしょ、とか。私には直接言ってこないけど、気づいてました」
一方で彼は、そんな状況にはあまり動じない。
むしろ私がプラスに考えるよう仕向けてくれるのだ。
彼に引っ張られるように、今は周りの声が気にならなくなった。
「知られたら知られたで良いかな、っていう感じですね。言う人は言うだろうけど、気にしなければ良いし」
02心を開けば一直線
女性が強い家庭だった
歳の離れた姉がふたりいる。
自分は末っ子とあって、姉にはとても可愛がってもらった。
「2番目の姉とは、一回り違うんです。で、一番上とは14歳も違うので、もうすごい可愛がられて」
「喧嘩もなかったですね。どっちかというと、私がわがままを言って終わりみたいな(笑)」
自分の名前は姉がつけてくれた。
母親が3人いるような環境で育ち、姉たちが大学に進学し家を出てからは、ほぼ一人っ子のような生活。
「私がどっちかというと母っ子だったので、父とはあまり接点がなかったというか。あんまり母と父も仲良くなかったので」
「家庭内別居でもないけど、どっちかというと父はひとりでいて、私と母が一緒にいるみたいな感じでした」
女性が強い家庭だった。
両親の仲はあまり良くなかったものの、姉妹の間には喧嘩もなく、のびのびと育った自覚がある。
「母はすごいきっちりした人。見た目はそうでもないんですけど、芯がすごい強くて頑固で」
「すっごいきっちりしてるから、常に掃除をずっとしてたりとか。あと食べ物のこだわりも結構強くて、これがいいって医者とかテレビで言われたら、そればっかりみたいな(笑)」
「色々食べてもいいんだよ、って言っても、自分が仕入れた情報を頼りにしてましたね」
一番上の姉は、母親以上に几帳面だった。そんな生真面目な家族だったが、それを私に押し付けることはしない人たちだった。
「学生の時ってたまに家に帰らなかったりして、でもまあ許してくれるような優しい部分もあって」
「私のことを信じてくれていた部分もあったんだ思います。それは今も変わらず、好きなようにしていいよ、と任せてくれます」
「私、反抗期が強かったんで(笑)。家族は、しょうがないかな、って思ったのかな」
友だちとは狭く深く
小学校には、1時間近く歩いて通っていた。
「結構、外で遊んでたことが多くて、家ではオママゴトとかリカちゃん人形。少人数で遊んでましたね」
どちらかと言えば内向的な性格。友だちは多い方ではなく、男の子よりも女友だちの方が多かった。
でも、昔から心を開いている相手とは、狭く深く付き合うタイプだ。
「どっちかというと受け身。周りには積極的な子が多くて、話しかけてもらう方がよかったんです」
「お手紙の交換してましたね、よく。あと交換ノートとか」
実家の裏は山。
家では犬やニワトリを飼っていたり、自然の多い環境だった。
「飼ってたニワトリを父がさばいちゃって・・・・・。知らないで食べてましたけど、唐揚げにされてたり(笑)」
「あとは野良猫が庭に入ってきて、ニワトリをガブって。見てショックでしたね。トラウマで、それから猫嫌いでした」
猫を克服したのは、現在のパートナーが猫好きだから。
彼のおかげで嫌いも好きに変わった。
同じ東北で育った私と彼だが、私は山側、彼は海側。性格も正反対のところがあるからこそ、お互いがいてこその変化はめまぐるしい。
03学生時代は部活と恋愛
だいたいのことは笑い飛ばせる
小学校では金管バンド部で、スネアドラムを叩いた。
中学時代には姉からおさがりのラケットをもらい、テニス部に入って毎日夜まで練習する。
小学校から中学校まで、放課後や休日は部活の練習をすることが多かったが、嫌ではなかった。
「部活がメインの毎日でした。休みも部活って感じでしたね」
「クラスでは結構いじめられてました(笑)。何が理由かはハッキリとわからなかったけど、その中でも仲良くしてる子はいました・・・・・・。小学校の高学年から中学校は、そんな感じでしたね」
いじめのターゲットは変わっていく。もちろん良い気はしなかったが、“そういうもの” として片づけた。
「まあ太ってたんで、それでいじめられてたのもあったかもしれないです。中学校でテニス部に入って、それでがっつり体重落ちました」
「テニス部は楽しかった記憶がすごい強いです。その中ではいじめもないし、のびのびとできました」
どんなことも、振り返る時にはたいてい笑い飛ばせるようになった。
「勉強はできなかったです(笑)。数学は赤点ギリギリくらいで。あとは全部同じくらいの平均でしたね」
中学生までの夢は、ケーキ屋さんやパン屋さん。
可愛いらしいイメージに惹かれていた。
好きと思ったら伝えたい
クラスでも目立つポジションではなく、何か考えを持っていても手を挙げて発言するタイプではなかった。
少し引っ込み思案なところがあるが、恋愛においてのアグレッシブな一面は自認している。
「小学校3年が初恋ですかね。3年から中学1年まで同じ人を好きだったんですよね」
「何回も告白したんですよ、でも何回もふられました(笑)。同じクラスの男の子でした」
「その男の子は、おとなしくて勉強ができる子でしたね。すごい優しくて、すごいおっとりしてました。そういう人が、好きだったのかもしれないです」
ふられたらどうしようとか、恥ずかしいとか、そんなことは思わない。
授業中に手を挙げられなくても、好きな相手に自分の想いを伝えたい時には、驚くほど積極的になれたのだ。
「周りに付き合ってた子が多かったんですよ、小学校3年生の時点で。私も波に乗りたいな~と思って」
「バレンタインの時にチョコを渡して、好きですって。で、何回もふられました。断られても雰囲気悪くなるとかじゃなく、その後も普通に話もしてて」
ふられても好きだった。
「クリスマスとか誕生日とか。ふられた時は悲しいんですけど、でもやっぱり好きだから」
人を好きになるパワーはすごい。悲しさも苦しみも、それだけで乗り越えられることがある。
「二十歳の時、片想いだった彼に告られたんですけど、私はふりました(笑)」
振り返れば、好きな人があらわれるといつも一直線だった。
04出会いと別れ、そして上京
今までの恋愛は男性と
7年間の片想いに終止符を打ったあとも恋愛している時期は多く、相手は全員ストレートの男性だった。
ひとりひとりとの付き合いは長いほうで、相手の浮気や暴力なども経験した。
「中1から中3は同じ人を好きで、付き合ったんですけど。高校が別だったんですよ、それでふられました。結構悲しかったですね」
手を繋いで下校しているところを父親に見られて、こっぴどく怒られたのも記憶に残っている。
「高1から4年くらい、中学校の先輩とずっと遠距離恋愛をしてました」
「先輩が神奈川の高校に通っていて、地元に戻って来た時、年に2、3回しか会えなかったです」
「好きでした。結構浮気はされましたけど(笑)。でもその度に許してました。私の友だちと浮気してたんです・・・・・・ショックで」
当時の恋人を追いかけ上京したが、いずれ別れが訪れる。自分の愛は重いのかもしれないと思った。
その後、5~6年付き合った男性は、お酒を飲むと暴力的になる人だった。それでも相手に尽くすことが多く、傷つくことも沢山あった。
「その人にも何回か浮気をされてたんですけど、結局最後は相手に子どもができたからって言われたんですよ」
「それに気づかなかった自分も悪いんですけど。友だちには、すごい笑われました」
ひとつひとつの恋がどんな終わり方でも、好きだった気持ちや悲しかった事実を受け入れて前に進んだ。
「学生時代、モテなかったですね。告白されたことないんです。だからたぶん、自分からいってたんだと思います(笑)」
広い世界に出てみたかった
中学生までの夢とは打って変わり、高校時代には将来を現実的に考えるようになった。
「商業高校だったんで、とりあえず働こうと。進学しないために商業科に入ったんです。家も裕福ではなかったので、上に行けばお金かかっちゃうから」
「それに自分がやりたいことがなかったんで、とりあえず働ければって。職種は接客業につきたいなって思ってたので、卒業してから接客の仕事をしました」
「居酒屋だったんです。事務とかはやりたくなかったんですよ」
接客業に興味を持ったのは、自分でも意外だった。何せ恋愛以外では割と受け身な方だったから。
「たぶん広い世界に出たい、青森を出てみたいって気持ちもあったと思います」
05ひたすら働いて
馴染めなかった東京
しばらく居酒屋で働いた。希望していた接客業ではあったけれど、とにかく忙しかった。
「ぶったおれちゃって。もう帰ろうかなと思って、青森に戻りました」
東京には、あまり楽しかった記憶がない。東京という街自体への印象も、良くはなかった。
「すごい冷たいイメージしかなかったです。職場で、全然教えてもらえなかったりとか。そういうのから始まって、そのころは、東京の人はあんまり好きになれなかったですね」
休みも遊びに出かけることはなく、一日中家で寝ていた。
介護職にやりがいを感じた
青森へ帰ると、現在の仕事でもある介護職についた。
「23、4歳のころ、叔母といとこが介護の仕事をしてて。青森は仕事が少ないんですけど、介護だったらいっぱいあって、とりあえずやってみようかなと」
人のためになる仕事をやってみたいと思った。
実際に仕事を始めてみると、介護の仕事にはやりがいを感じる。
「楽しいなって思いました。ご利用者さんと一緒になって歌ったりとか(笑)」
「すごい大変だし給料も安いけど、でもやっぱり介護の仕事が好きなので、変えられないですよね」
身体が続く限り、現場で介護をしていたい。
<<<後編 2019/11/23/Sat>>>
INDEX
06 運命の出会い
07 セクシュアリティという障壁
08 今までとは違う
09 ふたりで描いた未来は
10 最後はどれだけ好きか