02 ミュージカルが大好き
03 ファッショはどんなものでも試してみたい
04 受け入れてもらった告白
05 お互いにXジェンダーだったのかな
==================(後編)========================
06 彼女はいつもそばにいてくれた
07 パンセクシュアルだよね?
08 目標はステージで表現をする仕事
09 自由な国、ニュージーランドへ
10 自分の体験を語りたい
06彼女はいつもそばにいてくれた
こころの不調と彼女への依存
高校生の頃、家庭内の雰囲気はさらに悪くなり、自分の立ち位置が分からなくなった。
「お母さんからは、お父さんやお兄ちゃんの色々で、『あなただけは普通でいて』と泣きつかれました」
母親の言葉の中に、「普通の女の子らしくして」という意味を感じた。
そして、だんだんと精神的な不調を感じるようになった。
「ひどいときは、文字を読むのにも苦労していました。帰り道が分からなくなって、立ち尽くしたりもしました」
教科書をいくら読んでも、内容が頭に入ってこない。英単語も覚えられない。
自分の悩みを相談できる相手は、ユウナだけだった。
「彼女がいないと不安。泊まらないで帰ると言われると寂しい。そんな状態でした」
ユウナとは毎日、会った。
「彼女に完全に依存してしまいました」
彼女は特別なことを言うわけでもなく、いつもそばにいてくれた。
実話を漫画アプリに投稿
学校では勉強もできる大人しい子を演じていた。
それが苦しさを助長した。
「ほかの人と関係を持つことが煩わしくて、自分自身をどんどんクローズしてしまいました」
そんな時、家に引きこもって、ユウナとの関係を漫画に描くことに喜びを見つけた。
そして、その作品を漫画アプリcomicoに投稿するようになる。
「読者からの反応があると、それなりにうれしかったですね」
高校を卒業。
大学は、自分が興味を持てるエンターテイメント系を選ぶことにした。
「パフォーマンスも裏方も勉強したいと思って、何でもできる学校を探しました」
メディアデザインを学べる大学に進んだ。
「高校が辛かったので、大学に入るときに、『このままじゃヤバい。変わらなきゃ』と、気持ちを入れ替えました」
それは、ユウナに依存していた自分を整理することでもあった。
別れる決心をする。
中学1年から大学2年の秋まで、6年半のつき合いに終止符を打った。
07パンセクシュアルだよね?
大学生活に生きがいを見つけた
メンタルも回復し、今は学校での自由な活動にやりがいを見出している。
「一学年に70人しかいない小さな大学なので、居心地がいいですね」
「今は、ライブステージの照明を学んでいます。大学にある機材を自由に使っていいよ、といわれているので、試行錯誤しながら勉強しています」
イベントでは、毎回、違うステージを設営するので、その度に機材を選んでセットを組み立てる。
「私もダンスや演奏をするので、自分自身でステージに立って、イベントに合わせたセッティングをしています」
パフォーマーも設営部隊も人数が少ないので、すべてを自分たちでやらなくてはならない。それが勉強になる。
学校の外でも楽しい経験をしている。
「コスチュームが着て接客がしたくて、コスプレオッケーのカフェ&バーでバイトをしたこともあります」
「自分で着たい衣装を持ってきていいという店だったんです。アニメが好きなお客さんが、グッズを一杯つけて来ていました」
そんな経験も舞台に役立ちそうだ。
私、パンセクシュアル?
実家を出て、生活の環境も変えた。
「大学2年生のときから親戚の家にお世話になっています」
「春日部から、安いルートで通学すると、1時間半もかかるんです(笑)。忙しい時期だと、夜11時まで学校にいることもあるので、ちょっと遠くて。練馬の親戚宅なら30分で帰れます」
新しいパートナーもできた。
「最初は恋愛対象ではなくて、ただ『好きです』と言っていたら、本気にしてくれたみたいで」
さばさばしたタイプで、ダンスがとにかく上手な女性だった。
「つき合ってはみたんですけど、あまりしっくりこなくて。中途半端もいやなので、区切りをつけよう、と思って、半年つき合って別れました」
その頃、同級生に「真子はパンセクシュアルだよね!?」と言われて、「そうなのかな」と気がついた。
「バイセクシュアルは、男性は男として好き、女性は女として好き。それで両方とも愛せるという人。パンセクシュアルは男女っていう性別を意識せずに愛せる人です」
そもそも性別って何なのか?
子ども心に最初に疑問に思ったのは、温泉に女性だけしかいない状況だった。
「あれ、女の人しかいないなあ・・・・・・」と。
それ以来、モヤモヤする気持ちがどこかにあった。
ときどきボーイッシュな服を着ていたのは、その疑問に対する「抵抗」だった。
「男か女かは、たまたまその人に与えられた器でしかなくて、その人の本質は器に入っている中身」
「中身は男か女かには関係ないんです。目の色、髪型と同じ。そのことをようやく、言葉で説明できるようになりました」
だから、一緒にいて安心できる人なら、外側が男でも女でもいいと思っている。
ダンスチームを結成
最近、仲のよい友だちの女の子4人を誘ってダンスチームを結成した。
なんと、5人のうち3人がバイセクシュアル、1人がパンセクシュアルだ。
「私、女の子とつき合ったことがあるんだ」というと、「私もよ」と答えが返る。
話が早い。
容易に分かり合える仲間たちだ。
「発表会もたまにあって、日々みんなと練習してます」
大学生活の居心地のよさは、先生との関係もある。
「小学校4年のとき、塾の先生に『お前は馬鹿だから勉強ができないんだ』と目の前でバンバン暴言を吐かれたんです。それ以来、先生という存在が嫌いになりました」
中学に「相談室」があったが、そこの担当の人も「先生」だったから、何も相談する気にならなかった。
高校は男女交際禁止で、「世の中には女同士でつき合っているヤツもいる」と笑い話にされたこともあった。
「心の中では、ここにいるんですけど、と言いたい気持ちでした」
教師へのそんな嫌な感情が、大学の自由な校風の中で払拭された。
「小さな大学で、いろいろとアドバイスをもらううちに『先生』のイメージも変わりました」
「照明の仕事が外であるけど、やってみる?」などと、気軽に声をかけてくれる。
一番若い先生は26歳。兄のような存在だ。
08目標はステージで表現をする仕事
将来のことは欲張りに考える
現在、大学3年生。
大学卒業後のことを視野に入れる時期になってきた。
「照明だけがやりたいわけではありません。ダンスとかパフォーマンスにも興味があります。裏方も覚えて、何でもできるようになりたいですね」
舞台で何かを表現をする世界に入ることが目標だ。
「まだ就職先は何も決めていません。ただ、自分のセクシュアリティを受け入れてくれる会社が希望です」
LGBT関連企業のインターンシップに参加してみたこともある。
「LGBTフレンドリーを謳っていなくても、オープンなところは多いと思います。プライベートを隠さなくていい居心地のいい環境で、自分らしいことを表現できればベストですね」
音楽も続けたい。
ダンスも続けたい。
裏方もやりたい。
英語もうまくなりたい。
自分でも欲張りだと思う。
「人の色に染まるよりは、自分の色を出せればいいなあ、と思っています」
ワーキングホリデーにも行ってみたい
「1〜2年くらい働いたら、ニュージーランドにワーキングホリデーに行きたいとも思っているんです」
ニュージーランドのワーキングホリデーは、両親が経験した道でもある。
「中学に上がるまでは毎年、両親と一緒にニュージーランドに行っていました。友人とふたりで行ったこともあります。もう1人でも行けるかな、と思って」
野菜やくだものを育て、羊を飼っている田舎の家庭。
そして、海軍の人なのにフレンドリーで堅苦しくない、素敵な都会の家庭。
「2軒のファミリーのところにいつも泊めてもらっていました。ニュージーランドでは、ホテルには泊まったことがないんですよ」
親しい人がいることは、心強い。のんびりとした雰囲気も気に入っている。
「親にも話したら、賛成してくれました」
英語も、子どもの頃から10年習った。
「今はまだ自由に話せないけど、相手が話している内容はだいたい分かります」
そんな自信も後押ししている。
09自由な国、ニュージーランドへ
日本とは違うルールがある国に行ってみたい
実は、ニュージーランドに行きたい理由は、もうひとつある。
「ニュージーランドは、同性婚が法律で認められているんです。きっと、私が行っても、窮屈な思いをしなくて済むんじゃないかと思って・・・・・・」
今まで、マイノリティであることが理由で辛い思いをしたことはない。
でも、おおっぴらに人に相談できなかったことも事実だ。
「一度、就職して日本の現状っていうか、社会を知ってから、ニュージーランドに行きたいと思っています」
日本では、SNSを公開するとヤジが飛んでくることもある。
直接、中傷されたわけではなくても、誰かの発言がどうしても気になる。
「この人はこう思う。あの人はこう思う。どれも間違いではないし、一理ある。どうしたらいいんだろう? そう悩むと疲れてしまうんです」
人目が気になる窮屈な世界を飛び出して、もっと視野を広げたい。
日本とは違うルールがある国に行ってみたい。
そんな想いが強くなっている。
「勝手なイメージですけど、海外では『私はこうだ!』と貫き通せるような気がしています」
「ニュージーランドに行ってから、2〜3カ国は別の国にも飛べればいいなと思っています」
広がる交友関係
今年の5月、初めて新宿二丁目に足を踏み入れた。
「ゲイの知り合いに、『行ってみる?』と誘われて、『連れていって』と頼みました」
そこでいろいろな仲間を見つけることの楽しさを知った。
「自分の細かいことを説明しなくていい。それが楽ですね」
自分のセクシュアリティを隠すこともなくなり、交遊関係が広がりつつある。
「隠したい人は隠せばいい。語りたい人は語ればいい。私も自分の体験を語ることができればいい、と考えています」
偏見を持つ大人たちに言いたいこと
みんなで集まってLGBTの権利を主張する必要はないと思っている。
でも、大人世代に対する不満はある。
「最初から偏見を持っていて、LGBTのことをよく知らないのに中傷するような暴言を吐く人がいます。知ってから言ってよ、って言いたくなりますね」
「世の中には女性同士でつき合うヤツもいる」と発言した高校の先生もそのひとりだ。
女性同士がキスをすることを想像するだけで気持ち悪い、と堂々と言う人もいる。
「漫画でも本でも読んでみてほしいですね。現実を知らないで否定しないで、という気持ちです」
10代、20代の若い世代は柔軟で、ネットでいろいろな情報を集めている。
「無理やり変えなくても、いずれいい流れはできていくと思います」
10自分の体験を語りたい
先輩としてアドバイスできることもある
同世代にも偏見を持っている人はいる。
幼稚園からの幼なじみから「気持ち悪い」といわれたこともあった。
「人それぞれの考え方がありますからね。分かってもらえないなら仕方がないです。怒ったりとか、悲しんだりとかはないですね」
「『一緒にいたくない』と言われれば、分かった、という感じです。実際に、そんなふうに言われたこともありました」
その子とは、もう遊ばないと決めたが、最近になってLINEでメッセージが送られてきた。
「もう忘れているのかもしれませんけど。それとも、軽い気持ちで言った言葉だったのかな・・・・・・。まぁ、いいかって感じです」
大学には、LGBTの当事者も多いと感じる。
ときどき後輩から、相談を受けることもある。
「その子は、男性とつき合ったことがあるけど、手をつないだだけで気持ち悪かった、っていうんです。じゃあ、女性とつき合うのかというと、そんなこともない。私って何だろう、と悩んでいました」
「答えは出せませんでしたが、『クエスチョニングってセクシュアリティもあるよ』と教えてあげました」
インターネットのサイトや役に立ちそうなSNSのアドレスも紹介した。
「相談されるのはうれしいですね」
自分の知っていることで、仲間が苦しさから解放されればいい。
「いろいろな人がいることを知ると、世界が広がって、自分が何なのが分かると思います」
頑張りたいことがたくさんある
つらかった高校時代から立ち直って、今は頑張りたいことがたくさんある。
「頑張り方は人それぞれだと思っています。私の場合は、本を読む。ダンスを見てもらう。自分の体験談を漫画にする・・・・・・。できることは、何でも試したいですね」
「人に刺さるものを表現できればと思います」
頑張ったら、認めてくれる人はきっといる。そういう前向きな考え方ができるようになった。
「でも、見返りを求めると苦しくなるから、それは期待しないようにしています」
「まずは行動を起こす。疲れたら休めばいい。自分が頑張れる環境を見つけて、精一杯やれればベストですね」
自分勝手にならないことも学んだ。
「演劇はみんなでみんなを支えていく作業です。だから余計に楽しい」
マイノリティの垣根を軽々と乗り越えて、新しい世界でステップを踏む。