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性的指向がゆらいでもいい。今のわたしはクエスチョニング【後編】

性的指向がゆらいでもいい。今のわたしはクエスチョニング【前編】はこちら

2019/04/23/Tue
Photo : Tomoki Suzuki Text : Sui Toya
笠倉 真貴 / Maki Kasakura

1989年、茨城県生まれ。要領のいい兄3人に囲まれ、中学・高校時代は兄との違いをコンプレックスに感じたこともあった。農業科のある高校に進学し、初めて女性を好きになったことからセクシュアリティを自覚。現在はアルバイトとして働く傍ら、友人とユニットを組み、写真を通して地元を盛り上げる活動を行っている。

USERS LOVED LOVE IT! 4
INDEX
01 末っ子長女
02 本の虫だった小学生時代
03 見えないヒエラルキー
04 1週間の冒険
05 私はレズビアン?
==================(後編)========================
06 予想外のシナリオ
07 突発的なカミングアウト
08 男性との恋愛
09 1万円のニコン
10 無限のグレーゾーン

06予想外のシナリオ

友だちへの告白

この子のことが好きかもしれない。

恋愛感情に気づいたのは、相手ともっと深い関係になりたいと思ったからだ。

話したい、手をつなぎたい。
この人となら、その先のこともしてみたい・・・・・・。

最初のうちは、この気持ちは忘れよう、自分の中だけにとどめておこうと思っていた。

しかし次第に、思いを抱えきれなくなっていく。

「中学から仲が良かった友だちにだけ、打ち明けることにしたんです」

「この子なら、否定せずに受け入れてくれるだろうと思ったから」

「『女の人を好きになってしもたんやー』って、冗談みたいな感じで話しました」

予想していたとおり、友だちからは「いや、ありじゃない? 別にそんなおかしいことじゃないと思うし」と言われた。

「あなたは変じゃないよ」と肯定してもらえたことが嬉しかった。

一線を超えた関係

好きな子とはバイト先が一緒で、休みの日を合わせて、よく遊びに出かけていた。

愚痴や家族の悩みも、黙って聞いてくれる。一緒にいて楽だった。

「周りからは、親友みたいな感じで見られてたかもしれないですね」

「高校を卒業してから知った話だけど、『あの2人付き合ってるの?』っていう噂はあったみたいです(笑)」

相手に思いは伝えなかった。

相手が自分をどう思っているかもわからなかった。

しかし、ある提案をきっかけに、一線を超えた関係を持つようになった。

「そういう行為に興味があるって、軽く提案してみたら、『いいよ』って言われたんです」

「その子のことが好きだからしたいっていうのが、私の本音だったんですけど」

「自分のことが好きだからしてくれるのか、興味があるだけなのか、わからないな、と思いながら関係を持ってましたね」

その子とは、大人になった今も仲がいい。

彼女はバイセクシュアルで、10代の頃から男女どちらとも付き合っていたという。

「最近、話をしていたときに、そのことを知ったんです」

「『当時はお互いに好き合ってると思ってたけど、どうなの?』とも聞かれました」

「なんであのとき言わなかったんだろうね、って2人で笑いました」

漠然とした不安

高校生のときから、ゲイやレズビアンという言葉は知っていた。

携帯電話でいろいろ検索もしてみた。

「自分と同じような人に出会いたかったんです」

「恋人を探したいというより、気持ちを共有できる友だちが欲しかった」

「『レズビアン 茨城』というふうに、漠然とワードを打ち込んで検索してました」

自分のセクシュアリティに悩んだことは、あまりない。
初めから、案外素直に受け入れることができた。

しかし、将来に対してだけ少し不安を感じた。

「子どものころは、大人になったら結婚して、勝手に子どもが産まれるんだろうって思ってたんです」

「でも、高校時代に女の子を好きになって、『あれ? 結婚できなくない?』 って思ったんですよ」

「大人になって結婚して子どもを産むっていうシナリオはどうなるんだろう・・・・・・」

「そんなふうに、不安なのか悩みなのか、よくわからないモヤモヤは感じましたね」

07突発的なカミングアウト

遠距離恋愛

高3のとき、ネットで知り合った女の子と付き合うことになった。

「2歳違いの子で、会いたいねってやりとりをしてるうちに、付き合うことになったんです」

「愛知に住んでる子で、高校卒業間際に、1人で愛知まで会いに行ったこともあります」

片思いだった相手にも、彼女ができたことを報告した。
それによって、今までのような関係は終わった。

学校では変わらず話をするし、お互いの悩みも相談し合う。
休日には、2人で遊びに行くこともあった。

けれども、以前のように、お互いを求める関係ではなくなっていた。

「周りからは、相変わらず仲のいい2人だと思われていたと思いますよ。関係が終わったっていうのは、私たちしか知らないことでした」

母のリアクション

高校を卒業した後は、進学も就職もせず、フリーターになった。

専門学校に行きたいという気持ちもあったが、自分に何が向いているかわからなかった。

自立したいという思いだけが漠然とあった。

「中学から仲の良かった友だちが、千葉にある大学に通うため、1人暮らしをすることになったんです」

「自分も家を出たいと言って、ルームシェアをして暮らし始めました」

実家には、数ヵ月に一度の頻度で帰省していた。

あるとき、実家から千葉の家へと戻る車の中で、「いま女の子と付き合ってるんだよね・・・・・・」と母に打ち明けた。

カミングアウトしようと計画していたわけではない。

実家に帰るたびに「彼氏できたの?」と聞かれるのが面倒くさく、フラストレーションが溜まっていたのだと思う。

「正直に話しちゃったほうが、変に嘘をつくより楽かもしれないなって」

「それで、突発的に打ち明けたんですよね」

母からは「うわ、気持ち悪い」とリアクションされた。

「そんなくだらない冗談言ってないで」といなされ、何事もなかったように、別の話題を振られた。

「母にはそれきり話してません」

「母にも言ったらダメなのか、ってショックでしたね」

「その後も、実家に帰ると、相変わらず『彼氏できたの?』って聞かれます」

「母の中で、あの話はなかったことになってるんでしょうね」

やっぱりそうだったんだ

それ以来、家族には、自分のセクシュアリティを打ち明けていない。

しかし、高校時代のほとんどの友だちは知っている。

「千葉に引っ越す前、みんなで遊んだときに、『実は女の子が好きなんだよね』って話してみたんです」

「茨城にはほとんど帰って来ないし、否定されてもいいやっていう気持ちでした」

その場にいた友だちからは「やっぱりそうだったんだ」と言われた。

特に突っ込んだ質問をされるわけでもなく、否定もされない。
今までと変わらず接してくれることが、ありがたいと感じた。

家族にも、友だちと同じように受け入れてほしいと思うのは、エゴだろうか。

「カミングアウトをしても、以前と同じ関係性を保っている親子って、すごくうらやましいんです」

「ないものねだりみたいな感じですよね」

「とはいえ、父や兄にカミングアウトして、波風を立てるようなことはしたくない」

「このままでいいかな、っていうのが今の私の気持ちです」

08男性との恋愛

男らしさとは?

20代前半のころ、観光地の売店で販売の仕事をしていた。

その会社で出会った男性に惹かれ、付き合うことになる。

「自分の中では葛藤がありました」

「高校のときは女の子が好きだったのに、男の人と付き合うなんて、矛盾してるなと思って」

「女の子への気持ちは、思春期特有の迷いだったのかもしれないとか、いろいろ考えましたね」

付き合った当初は新鮮で、うまくいっていた。
優しい人だったし、大切に思ってくれていることがわかった。

けれども、次第に不満を感じるようになる。

「この人、男らしくないなって思ったんですよね」

「決断力がないし、自分のほうが男らしいと感じる場面が多々ありました」

「周りからは『男女逆転してるけど、それはそれで面白いんじゃない?』って言われてましたけど・・・・・・」

「思い描いていたイメージと違うなと思って、別れることに決めました」

男とはかくあるべし、という理想像が自分の中にあったのだろう。

その像は、3人の兄の姿に結びつく。

「兄たちは、話をしても面白いし、優しいし、決断力もあるんです」

「ここに行きたいと話したら、すぐに連れて行ってくれるとか、そういう部分を、無意識のうちに比べていたんでしょうね」

関係は終わってしまったが、男性を好きになれたという事実は、大事にしようと思った。

それと同時に、自分のセクシュアリティに対する疑問が、首をもたげてきた。

女の子の手触り

彼と別れた後、次に好きになったのは女性だった。

その子と付き合い始めたときに「そう、これこれ」と、ピースがはまる感覚を覚えた。

「女の子特有の柔らかさに触れたときに『ああ、いいな。やっぱり女の子だな』って思ったんです」

「男性と付き合っていたときにはなかった、安心感がありました」

彼と付き合っていたときは、かわいらしさを演出しなければいけない、とプレッシャーを感じていた。

男性と体の関係を持ったときも、正直、早く終えてしまいたかった。
行為をしなくていいのであれば、極力避けたいと、常に思っていた。

「でも、女の子に対しては、自分を演じなくていいんです」

「私が求めていたのはこの感じだな、って思いました」

09 1万円のニコン

おじいちゃんのカメラ

観光地の売店では、その後もしばらく働き続けた。

お客さんの中に、毎日のように通ってくれるおじいちゃんがいた。

「顔を合わせているうちに、仲良くなっていきました」

あるとき、そのおじいちゃんから「お前、写真好きか?」と聞かれた。

意図がつかめず、「写真いいですよね」と当たり障りのない返事をする。

すると、「俺の使い古しの一眼レフ、1万で譲ってやるから買うか?」と言われた。

「その場で1万円を払い、カメラを譲ってもらったんです。調べてみたら、20万円近くする、性能のいいカメラでした」

すぐにおじいちゃんに連絡し、「こんなに高いカメラ、本当に1万円でいいんですか?」と訊ねた。

おじいちゃんは、「本当だったらあげてもいいんだけど、人からもらった物は、大事にしない。だから買ってもらったんだ」

「俺はもう一生使わないから、いいカメラでもガラクタと一緒なんだよ」

お店の壁を飾る写真

カメラを譲り受けたときは、何を撮ればいいかわからなかった。

写真に関する知識もなく、せっかくのいいカメラを持て余していた。

カメラを譲ってもらったという話を会社の人にすると、「お店の壁が寂しいから、写真を撮って飾ればいいんじゃない?」と言われた。

「最初は、会社の周りの景色から撮り始めたんですよね」

「その写真をお店の壁に飾ったところ、『いいね』って言ってくれるお客さんがけっこういたんです」

「そんなに気張って撮らなくていいんだ、って肩の力が抜けました」

売店の仕事を辞めた後、2〜3年のあいだはカメラを寝かせていた。

その頃は実家で暮らしていたが、何度か転職を繰り返した後、再び一人暮らしを始めることになった。

「そういえば一眼レフを持ってたなって、そのときに思い出したんです」

「友だちと遊んだときに、今度一緒に写真を撮りに行こうという話になりました」

「ここ数年は、早朝や休みの日に、2人で撮影に行っています」

大洗海岸の虹

写真の醍醐味は、パソコンにデータを取り込んで、撮れた画を確認する瞬間にある。

最初に「撮れた!」とガッツポーズしたのは、大洗海岸で虹の写真を撮ったとき。

「すごくきれいな虹が出てたんです」

「すぐにシャッターを切ったけど、どうせ写ってないんだろうなと思ってたんですよね」

「家に帰って、パソコンにデータを取り込んだら、ディスプレイいっぱいに虹の画がバッと出てきて・・・・・・」

「見た瞬間、『うわ、やべー!』って叫んじゃいました(笑)」

現在も、週3〜4日アルバイトをしながら、友だちと2人で写真の活動を続けている。

生まれ育った茨城の魅力を伝えるというのが、いまの2人のテーマだ。

「茨城県は、全国の魅力度ランキングで最下位なんです」

「嘘でしょって思いつつ、うなずける部分もあって(笑)」

「でもね、ナビで入れても出てこないところに、いいお店があったりするんですよ」

「山の中で、個人でひっそりやってるお蕎麦屋さんとか」

地元には、江戸時代から続いている酒蔵や、無形文化財に指定されている家屋などもたくさん残っている。

自分たちが写真を撮って発信することで、魅力に気づいてくれる人が増えたらいい。

「SNSや市のホームページなど、情報を逃さないようにして、友だちと休みを合わせて撮影に行ってます」

「いろいろ悩みは尽きないけど、撮りたい写真があるから、明日も頑張れるって思うんです」

10無限のグレーゾーン

29歳の焦り

昨年、29歳になったとき、今まで感じたことのなかった焦燥感にとらわれた。

パートナーもいないまま、一生1人で過ごすんじゃないか、という焦り。
バイセクシュアルなのか、レズビアンなのか判然としない、という焦り。

「自分は自分でいい」と割り切れればいいけれど、所属がないという感覚は心もとない。

セクシュアリティについて友だちに話すと、「それってバイセクシュアルじゃない?」と言われることも多い。

「そう言われたときに、否定も肯定もできないんです」

「腹落ちしない、もどかしい感じ・・・・・・」

「ずっとこの人と一緒にいたいと思える人と出会えたら、性別はどちらでもいいかな、とも思ってます」

コンプレックスの氷解

今年1月に30歳を迎え、気づいたのは、いつの間にか兄の後ろ姿を追いかけなくなったということだ。

「3人の兄は、私にとって、今でもうらやましい存在です」

「家庭を持っていたり、仕事に打ち込んでいたり、私のずっと先を歩いてる」

「でも、学生時代のように、その道を同じように歩く必要はないんだなって、今はわかります」

「道は1つじゃないし、荒れ地を自分でならしていってもいい」

「自分のセクシュアリティに対しても、いつかそう言ってあげたいですね」

気分によって服装のテイストが変わるように、性的指向もその時々で変わっていい。

「人生をいかに楽しく過ごすか、その選択肢を自ら狭める必要はない」

「決めないという楽しみ方を、しばらくは続けてみようかなと思ってます」

白と黒のあいだには、無限のグレーゾーンがある。
今はただ、そのグレーゾーンの中を漂っていたい。

あとがき
気取りのない笑顔で待合せ場所に現れた真貴さん。ひょうきんな雰囲気さえ感じたけど、正体不明のモヤモヤを抱えていたと知る■カウンセリングの頻出ワード「どうすればいいですか?」。正解はないのだ。無視も体当たりも、続けると疲弊してしまう[わからない]。だから、なんとか上手く付き合いたい■距離を保つ? わからないまま? はどうだろう。決めないということは、どこへでも向かえる。取材後、真貴さんの足どりが軽やかに見えた。(編集部)

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