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「本当にほしいもの」を見つけることが、これからの僕の課題。【後編】

「本当にほしいもの」を見つけることが、これからの僕の課題。【前編】はこちら

2025/07/06/Sun
Photo : Tomoki Suzuki Text : Ryosuke Aritak
寺田 健吾 / Kengo Terada

1994年生まれ。幼い頃から自身のセクシュアリティを自覚し始める。小学生時代は空手、中学・高校生時代は卓球に打ち込み、大学卒業後は商社に入社。営業マンとして1年8カ月ほど勤務した後、独立。現在は商品プロモーションの支援やアパレルブランド、セレクトショップの運営など、複数の事業を経営している。

USERS LOVED LOVE IT! 3
INDEX
01 大らかに包んでくれる家族
02 小学生でつかんだ栄光と恐怖
03 中学時代に生じた「黒い点」
04 「苦しみ」に耐え続ける毎日
05 ゲイとしての恋愛感情
==================(後編)========================
06 世界が変わったキャンパスライフとゲイライフ
07 自分自身で動かし始めた事業
08 大切な人に打ち明ける意味
09 成功したからこそわかった事実
10 抱きしめてあげたい自分の過去

06世界が変わったキャンパスライフとゲイライフ

平穏すぎる日々

高校を卒業し、進学した大学では、ようやく平穏な毎日を送ることができた。

「いじめは一切なくて、安全地帯すぎましたね。自分が人を茶化す側に回ることもあって、自分でもびっくりしました」

「大学デビューっていうほど派手なものじゃないけど、陰キャなりに明るさを演出してました(笑)」

誰かに暴力を振るわれることのない日々は、淡々と過ぎていく。

「中高のつらい毎日が本当に終わったんだ、って実感しました」

球技系のサークルに入り、アルバイトも始め、キャンパスライフを満喫する一方で、何もできていない気もした。

「中高の記憶に引っ張られすぎて、のんびりしすぎてるような気がしたんです」

「でも、今振り返ると、4~5人のグループでゲームセンターに行って遊んで、ごはん食べてワイワイする毎日って、くだらないけど幸せですよね」

初めてのゲイコミュニティ

大学1年生の頃、新宿で開催されたゲイが集まるイベントに参加した。

「その頃からゲイ専用のネット掲示板を見るようになって、そこにイベントの広告が出てたんです」

「20歳未満は入れないイベントだったんですけど、なんとか乗り切って入りました(笑)」

初めてゲイの世界に飛び込み、安心感とも高揚感ともいえない感情を味わう。

「妙にゾワゾワして、自分の人生が動き出すような感覚がありました」

「そのイベントで初めてゲイの友だちができて、ゲイ向けのマッチングアプリを始めたりして、じわじわと変化し始めましたね」

「ただ、その時点でも、自分自身がゲイであることが腑に落ちないというか、漠然とした不一致感があったように思います」

それでも、友だちの紹介で知り合った男性に恋をした。

「その人とはうまくいかなかったんですけど、その後に出会った男性とつき合いました」

初めての交際は遠距離だったが、4年ほど関係が続いた。

「初めて男性と恋愛をして、お互いが好き同士でいられるって幸せなことなんだ、ってようやく感じられましたね」

生きている間に作品を残す

本を読むことが好きで、大学では文学系のゼミに入った。

SNSで何気ない言葉を綴っていると、自費出版の話が舞い込んでくる。

「不思議なご縁で自費出版することになり、大学4年生で小説を書いたんです」

「ゲイやレズビアンをテーマにしたフィクションで、ちょっとだけ実体験も入れました」

その小説は、渋谷スクランブル交差点にある大盛堂書店に並べられ、初版完売となった。

「人間はいずれ死ぬじゃないですか。だから、何かしらの作品を残しておこう、って気持ちが前々からあったんです」

「中高でずっと悔しい思いをしてきたから、人と違うことをして見返したい、みたいな気持ちもあったのかもしれません」

07自分自身で動かし始めた事業

営業マンの経験

大学卒業後、年商1兆円を超える大手商社に入社した。

「大手であれば家族も自慢できると思ったし、いままでつらかった人生をやり直すきっかけにもなるかなって」

コピー機やプリンター、LEDライト、コンピューターシステムなどを販売する営業部門に所属した。

毎日のように飛び込み営業を行い、製品を販売し、若手社員の中で北関東部門トップの成績を収めた。

「そんな生活の中で思っちゃったんです。なんで苦手な上司には毎日会わなきゃいけないのに、遠距離の恋人には全然会えないんだろうって」

入社して1年8カ月がたった頃、退職を決意し、フリーランスの道に進んだ。

「まだ20代前半だったので、失敗してもいいや、って感覚でした」

「飛び込み営業で製品を売ってきた経験もあったから、自分なら何でも売れる、って自信もあったのかもしれないです」

独立してからの仕事

独立して最初に始めたのは、世界中のさまざまなニュースをまとめて記事化するトレンドブログ。

「3カ月で600以上の記事を書いて、月間50万PVくらいいったんですけど、あまりお金にならなかったんです」

その後はライターとして、クラウドワークスなどで地道に営業活動を行った。

「仕事をやめちゃって後がないので、やらざるを得ないって気持ちで、できることを死ぬ気でやってましたね」

ライター業を行うかたわら、海外で仕入れた商品を日本で販売する事業なども行った。

「不意に、言葉で商品の良さを説明したり、販売を支援したりできるんじゃないか、と思ったんです」

「そこからセールスコピーライターみたいな形で、商品を売るためのテキストの代筆や販売促進支援などをスタートしました」

企業を支援しながら、自身のノウハウを教材にして販売する事業も始め、数年で年商1億超えを達成。

「今はアパレルブランドやセレクトショップも運営していますが、核にあるのは “書く仕事” だと思ってます」

負けたくないという思い

自分のノウハウを提供し始めてから、同じように起業した人の話を聞くことが増えた。

「多くの人が『起業してからがつらい』と話すけど、僕としてはとても平和だと感じるんです」

「企業であれば上司から、フリーランスであればクライアントから文句を言われることはあっても、殴られることはないから、平和だし楽だなって(苦笑)」

中高生の頃を思い出すと、今の生きやすさを実感する。

「同時に、絶対に見返したい、というエネルギーも湧いてきます」

「多分、当時から、いじめてきた彼らより稼ぎたい、って気持ちがずっとあったんだと思います」

「人生は勝ち負けではないけど、逆境をバネにして強く生きて、突き抜けることが勝ちだと思ってたんです」

そうすることでしか過去を受け止められないと思ったから、会社をやめて起業した。

「独立や起業といった未知のことでも、生命の危機があるわけではないので、恐怖は感じないんですよね。ワクワクのほうが大きいです」

08大切な人に打ち明ける意味

受け止める側のショック

起業して1~2年がたった頃、一時帰国中、母と車で出かけている時にカミングアウトした。

「実は今つき合ってる人がいて、同性なんだよね」と。

「なんとなく、今日言おうかな、って思ったんですよね」

「『ゲイだよ』ってことよりも、『いろいろあったけど、今幸せだよ』って伝えたかったんです」

母は「そうなんだ。彼女の話とかしなかったし、そうなのかもってちょっと思ってた」と、言っていた。

「お母さんの声から、ちょっとショックを抱えているような雰囲気が伝わってきました」

「多分、僕がいないところで泣いてたかもしれないし、『友だちに相談した』って話も後で聞いたことがあります」

その後、母からセクシュアリティについて聞かれることはない。

「『いつからゲイなの?』『つらくなかった?』って質問されたことは、一切ないです」

「恋人と同棲してることは知ってるので、『仲良くしてるの?』みたいなことは聞いてくれますね」

「多分お母さんの中で、まだ100%受け入れられてないんだと思います」

カミングアウトして良かったのか、今でもわからない。

「個人的にも、真実をすべて知る必要はない、と思ってるので」

「ただ、何も言わずに死なれてしまうのも違うのかな、とも思うんです」

正解はわからないが、言わないよりは言っておいたほうが良かった、と今は思っている。

自分から伝えたいこと

父にはまだ打ち明けていないが、いずれ話そうと思っている。

「もしかしたら、すでに知ってるかもしれないですけどね」

「兄弟にも今年中には話そうって決めてます。多分、わかってると思うけど(苦笑)」

2年前、兄弟とヨーロッパを巡ったことがある。

オランダに到着した時「ここら辺に同性愛者の博物館があるらしいけど、行けば?」と、唐突に言われた。

「その時はあまりにも突然で、思わず『そうなんだ』って、受け流しちゃったんです」

「そんなことを言ってくるくらいだから、多分もう気づいてるんだろうなって」

カミングアウトがすべてではなく、知らなくていい真実もあると考えている。

「でも、本当に大切な人と誠実に向き合うという意味では、真実を言ったほうがいいのかな、と思う部分もあります」

「だから、兄弟に対しては言わなきゃな、みたいな使命感的なものがありますね」

09成功したからこそわかった事実

海外に出て気づいたこと

起業してからは、お金も時間も自由になった。

「恩返しも兼ねて、家族に海外旅行をプレゼントしてるんです。いままで11カ国は連れていったかな」

「自分1人で経験してもしょうがないから、経験をシェアするようなイメージで」

仕事で海外に行くことも多く、訪れた国は数十カ国に及ぶ。

「中高生の頃にひたすら我慢していた反動なのか、すごくアクティブになったかもしれないです」

「1人で海外に行くとか、新しい事業を起こすとか、フットワークが軽くなりました」

海外に出たからこそ見えたものは、自分がいかに恵まれているか、ということ。

「国によっては、子どもが物乞いをしてる姿を見たりするので、日本が安全でいい国だということを実感します」

「普段何気なく生きてるけど、それがどれだけ幸せなことなんだろう、って感じますね」

現状を振り返ると同時に、もうひとつ感じたことがある。

「知らない世界に行くことで、過去の捉え方も変わると思ったんですけど、特に変わらなかったです」

「旅の中で自分自身と向き合う機会が多かったけど、過去の事実もどうしようもない自分も、抱えて生きていくしかないんだなって」

本当にほしいもの

社会に出てからは、お金を稼ぐことに重きを置いてきた。

「稼ぐことでしか、自分を苦しめてきた彼らには勝てない、って思ってたところがあります」

懸命に仕事に打ち込み、年商1億円を達成した。

「それでも、本当にほしいものは買えないんですよね」

かつて好きな人を高級レストランに誘ったが、相手に響かず、その恋は実らなかった。

お金を持っているからといって、すべてが自由になるとは限らなかった。

「お金に余裕ができたので仕事をセーブすると、暇ができて、過去のことを思い返してしまうことも知りました」

稼げば彼らに勝てると思っていたが、いまだ過去に囚われている自分に気づいた。

「過去を受け入れて、昇華していった上で、新しい目標を決めて動き出さなきゃな、って思い始めました」

「さらに稼いでも終わりがないことはわかってるので、お金ではない幸せや目標を見つけないと、しんどくなりそうだなって」

「自分が本当にほしいものに気づくことが、今は重要なのかな、って思ってます」

10抱きしめてあげたい自分の過去

人生は “勝ち負け” じゃない

自分の人生を振り返ると、 “勝ち負け” が大きな指標になっていたのだと感じる。

「中高生の頃は負けたくなくて部活を続けたし、社会に出てからも負けたくなくて起業しました」

「でも、上には上がいて、勝ち負けだけを見てると負けてるって感じるし、つらくなっていくばかりだなって」

「金銭的に自由になっても、過去がちらつくし、自分の存在やセクシュアリティのことでつまずくこともあって、本当の意味で突き抜けてない感じがあるんです」

過去のさまざまな経験から、自分の力で状況を変えていけることは知っている。

ただ、 “勝ち負け” を軸にすると、いずれピリオドを打たなければならない時がくることもわかってきた。

「中高生の僕は負けないようにやり切ったけど、あそこで部活も学校もやめていたら、もっと幸せな道があったかもしれない、って今は思います」

「誰の心も傷つけずに、平穏な道を辿っていたかもしれないから、何が正解ってことはないんですよね」

今目指しているのは、自分のこれまでの軌跡と存在価値を認められる自分になること。

「過去は変えられないって諦めることも必要で、それができたらようやくスタートラインに立てるのかもしれませんね」

折れるのも1つの選択

かつての自分と同じように、つらい現状を前にじっと耐えている人がいたら、こう伝えたい。

「諦めずにもがきながら生きていけば、道は開けると思います」

「人間は現状を打開したり、変えていったりする力を持っているはずなので、未来に希望を持っていてほしいです」

「何かをきっかけに現状や過去と向き合って、受け入れることで、次の道が開く。その繰り返しの中で、葛藤しながらステップアップしていけたらいいのかなって」

子どもだった自分はやり切る方法しかわからなかったが、折れそうな時は折れてもいい。

「僕は変なプライドがあって、折れることができなかったけど、折れるのも強さであり、1つの選択だと思います」

「大人は『諦めるな』『やり続けろ』『負けるな』って言うけど、やり切るか折れるかは、自分で決めていいことですよね」

「僕は、『自分のためには折れないことが正しい』とは言えません。僕自身がまだ過去を受け止め切れていないから」

ただ、つらい経験を糧にスポーツや仕事に打ち込んできたからこそ、見えた景色がある。

その先には、まだまだ果てしない世界が広がっていた。

自分の過去を抱きしめ、新たな一歩を踏み出す時がきた。

 

あとがき
自信がない人、なわけではない。健吾さんは努力を重ねて、簡単にはたどり着けない成功を手に入れた起業家だ。「いじめてくる人のせいで人生を曲げられるのはイヤだ」。晴れやかには見えない表情の背景を知った■だれの心にも内なる批評家がいる。声の主は自分のように感じてしまうけれど、子どものころに聞いた他人の声であることが多い■本当にほしいものを見つけることは、勝敗でも比較でもなく、自分のしあわせを知っていることかもしれない。(編集部)

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