INTERVIEW
等身大の「私」を、まだ出会っていない人たちへ届けませんか?
サイト登場者(エルジービーター)募集

無知だった自分を省みて、LGBTを支援【後編】

無知だった自分を省みて、LGBTを支援【前編】はこちら

2020/01/25/Sat
Photo : Yoshihisa Miyazawa Text : Shintaro Makino
屋成 和昭 / Kazuaki Yanari

1974年、京都府生まれ。株式会社アウト・ジャパン代表取締役。小学校はサッカー少年、中学はビーバップを地でいくツッパリ、そして、大学では学生劇団で役者を目指した。人材ビジネス、コンサルティング事業の経験を経て、現在はLGBTの働きやすさをテーマに企業研修を推進している。

USERS LOVED LOVE IT! 8
INDEX
01 LGBTが働きやすい環境をサポート
02 やんちゃでモテた中学生
03 高校3年で芝居の魅力を知る
04 難関大学に合格! 目標の学生劇団に入団
05 演劇を中心に回った、充実した学園生活
==================(後編)========================
06 まだマイナーだった人材ビジネスを目指す
07 LGBTと向き合って知った、自分の問題点
08 3年連続で娘とレインボーパレードに参加
09 公開! 研修でウケる話
10 簡単に解決できることがある

06まだマイナーだった人材ビジネスを目指す

現実的な進路を選ぶ

大学生活で楽しんだのは、演劇だけではなかった。

「演劇部の先輩だった彼女とおつき合いしました。3学年上だったので、彼女はすぐに社会人になりました」

バイトにもガッツリと取り組んだ。

「公演を打つのに、一人3万円出さなくてはいけないんですよ。その分のチケットが渡されるので、売ればいいんですけどね」

バイトはデパ地下のハム売り場。役者の演技力を発揮して、売りに売った。

「それでデート代と演劇活動費をまかなっていました」

そうこうするうちに、就職活動の時期になる。

「演劇で生きていく気持ちは、まったくありませんでした」

自分の実力と照らし合わせて、現実的な就職の道をあっさりと選んだ。

「先輩たちも、現実路線とこだわり路線にはっきりと分かれていましたね」

現実派はいい企業に就職を決め、社会人として活躍していた。一方のこだわり派は・・・・・・。

「今でもブラブラとしている人もいます(笑)」

自分は、何かに熱中していても、どこか冷静に見極める性格だと思っている。

「法曹界ですか? それも早々に見切りをつけました(笑)。日本で一番難しい試験に合格するはずがありませんよ」

自分の存在感を示せる仕事

高校受験、大学受験で踏ん張りをみせたように、就職活動も頑張った。

「当時は、まだインターネットでエントリーする時代ではありませんから、一社一社にハガキを出すんですよ。これがけっこう大変でした」

就職活動を進めるうちに、いくつか気がついたことがあった。

「一部上場している大企業の面接にもいきましたけど、あまり魅力を感じなかったんです」

大きな組織のなかでは、ひとつのパーツにしかなれない。自分の存在感が発揮できて、目立てる職場のほうが向いているのではないか・・・・・・。

「メーカーの営業も違う気がしました」

メーカーの中心は物を作る部門。自分にはそれができない。では、他人が作った商品を、自信を持って売れるだろうか?

「そこで魅力を感じたのが人材ビジネスでした」

当時、リクルートが台頭してきたものの、人材ビジネスは、まだマイナーなジャンルだった。

「自分なりに将来性を感じたし、自分の存在価値を生かせるような気がしました」

年功序列のサラリーマンにはなりたくない、実力を試す職場に就きたい。
具体的な気持ちも芽生えていった。

07 LGBTと向き合って知った、自分の問題点

日本のビジネスは東京

1998年、大学卒業。社会人となる。

「職場は東京でした。日本のビジネスは東京、就職するなら東京の会社、と決めていました」

上京のモチベーションは、ほかにもあった。

「『あいつとララバイ』という横浜が舞台の漫画があったんですよ。それに憧れて、横浜に住みたい、と(笑)」

役者の道は選ばなかったが、演劇への興味はまだまだ旺盛だった。

「下北に行きたい。ああ、これが本多劇場か、と。最初はお上りさんみたいでしたね」

最初に就いた仕事では、営業をしながら講演もする、マルチな働きを求められた。

「自分で仕事を作っていく感じでしたね。実績を積み重ねるうちに、できるんじゃないか、という自信が沸いてきました」

演劇で培った、人前で臆せずに話す能力も役に立ったと思う。

知らなかったLGBTのこと

何度か転職を経験しながらキャリアを積み、2016年からサービス業に携わるようになる。

「この会社では、2015年からLGBTの人材紹介を新規事業として始めていて、自分もその部署に入りました」

LGBTに関わる仕事に就いて愕然としたことがあった。あまりに自分自身がLGBTについて何も知らなかったのだ。

「FTMの人が、突然、就職活動を諦めるというんですよ。どうして? と聞くと、パンプスを履くのが嫌だから、と。とても信じられませんでした」

逆に、「雇うほうは、男か女かなんて気にしていない。仕事をできる人を探しているんだから」と説明をすると、「本当ですか?」と驚かれることもあった。

考えてみると、これまで自分の人生の中でLGBTを意識したことはほとんどなかった。嫌悪感どころか、存在を認識した記憶すらない。

世の中に8%いると知って、またも愕然とする。

「何人もぼくの周りにいたはずでしょ。気がつかなかったことを恥ずかしいと思ったし、申し訳ないという気持ちになりました」

LGBT当事者と向き合うことによって、今の社会の問題点を明確に知ることができた。

「ぼく自身は、周囲の状況に鈍感なほうではないし、むしろ気がつくほうだと思っていました。ところが、何も見えていなかった」

ないものとして通り過ぎていた。
自分と同じ人たちが世の中にたくさんいる。

「現実を突きつけられたというか、衝撃でした」

08 3年連続で娘とレインボーパレードに参加

パレードの人気者

2016年、「横浜ダイバーシティパレード」に、まだ6歳だった娘とふたりで参加した。

「お父さん、あの人、ヘンだよ」
「なんで?」

「男なのにスカートを履いているじゃない」
「ヘンじゃないよ。いろんな人がいるんだよ」

「ふ〜ん」

娘は、頭では理解できなくても、きっと何かを感じているのだろうと思う。

「そのときに、パレードに参加していたLGBT当事者の人たちが、娘を見てとても喜んでくれたんです」

子どもが会場に来てくることは、まだ少ない。それだけに目立ったのだ。

「次の年には、ふたりで東京レインボープライドに参加しました」

カチューシャをつけ、虹色のマントを羽織り、レイを下げて行進する姿がかわいいと、たくさんの写真を撮られ、メディアにも露出した。

「それで気をよくしたみたいで、3年連続で参加しています。もう、すっかりベテランですよ(笑)」

自然な理解にまかせている

井上健斗さんの農業イベントにも一緒に参加したことがある。

「健斗さんはね、女から男に変えたんだよ」
「ふ〜ん、何で?」

「そういう人もいるんだよ。お絵かきが好きな人と嫌いな人がいるようなもんだよ。何で、自分がお絵かきを好きか、分からないでしょ?」

娘とは、膝を突き合わせてLGBTについて話したことはない。
でも、もう9歳。少しずつ性のことも気になってくる年頃だ。

「学校でも授業があるみたいですからね。自然と理解してくるでしょう。そのなかで父親としての助けが必要なら、説明をするつもりです」

09公開! 研修でウケる話

知らずに相手を傷つけてない?

2017年10月、アウト・ジャパンに転職した。

「前職でフレンドリー企業を訪問しているときに縁ができました」

同じLGBTを支援する活動であっても、就職支援と企業研修ではアプローチの方法が違う。

「経営コンサルタントをしていたこともあるので、どうすれば企業が動くか、ある程度、ノウハウは分かっていました」

セミナーへの参加者は、経営陣など同年代の人が多い。

「あえて、自分が『しくじり先生』を演じて、等身大の立場で説明をすることもあります」

ウケがいいのは、実際に自分が犯していた、こんな失敗談だ。

「新入社員が入ってくると、よく昼メシに誘っていたんですよ。親しくなりたいから、すぐに『彼女はいるの?』なんて気軽に聞いていたんです」

「あるとき、『どうですかね』と答えた新入社員がいて、『どうですかね』はないだろう、と叱ったんです。でも、今、考えると彼はそうだったのか・・・・・・。やっちゃった!」

悪気のない軽々しい質問が、LGBT当事者にしてみれば一番触れられたくないことだったのかもしれない。

「どうですか、みなさんも私と同じ失敗をしていませんか?」と、聞くと、「あっ!」と思い当たる人が多い。

気がつかないうちに相手を傷つける。そんなことは誰もしたくないはずだ。

「よかったですね、気がつくことができて。今日からは、もう大丈夫ですね。そういうと、みんな頷いてくれます(笑)」

分からないことが、よく分かった

LGBTの基礎知識がない人でも、レズビアンとゲイは何となく理解している。

「人を好きになる感情は分かるわけでしょ。その異性を同性に置き換えることはできるんでしょうね」

難しいのは、トランスジェンダーだ。

「理解できない、異次元の話、という人が多いんです」

「そんなときは、『何であなたは自分を男だと思うんですか』と、質問するんです」

多くの人は、『はあ?』と口を開けるか、体の性差を挙げる。

「じゃあ、事故や病気で男性のシンボルがなくなってしまったら、あなたは男ではなくなるんですか? そう聞くと、みんな『う〜ん』と唸りますね(笑)」

男か女かなんて、最初から曖昧なものなのではないか。そう考えると、トランスジェンダーは異次元の人ではなくなる。

むしろ、トランスジェンダーのほうが、自分をはっきりと理解しているのかもしれない。

「そうというと、『うん、分からないということが、よく分かった』と、納得(?)してもらえます」

10簡単に解決できることがある

日々、勉強。日々、発見

LGBTに関わる仕事について3年になるが、未だに勉強の連続だ。

「最近、ある人から、FTMは女子校を志望することが多いという話を聞いたんです」

自分を男だと思っている人が、なぜ女子校に行きたいのか、意外に思えた。

「自分の体がだんだん、女らしくなっていく。一方、男子はどんどん男らしくなっていく。その現実から目を背けるために女子校に行きたがるんですよ。そう説明されて、なるほど、と納得しました」

いろいろな人と話をするたびに発見がある。そんな毎日だ。

「逆に、自分には理解できないこともある、と認識しています」

間違いないのは、92%の側の無知が問題だということ。自分も無知のまま長く生きてきたら、とてもよく分かる。

「それは簡単に解決できることです。少しでも分かろうとすればいいんです。そのお手伝いをするのが、ぼくの仕事だと考えています」

冷静な目で見ていること

悩みは誰にでもあるものだ。

「ぼくも劇団で主役を張りたかったけど、その希望は叶いませんでした」

自分に実力がないから叶わない目標がある。それだって悩みだ。

「ストレートにだって悩みはある。LGBT当事者にもセクシュアリティと関係のない悩みがあるでしょう」

セクシュアリティの悩みは、全体の悩みのおそらくほんの一部だ。

「自分は今の仕事に就けてよかったと思っています。でも、熱く語りながら、冷静な目で見ている部分もあります」

ストレートの自分だからできることもある。

冷静な視点で、みんなが住みやすい世界の扉を開けていく。それが仕事をしていくうえでの目標だ。

あとがき
「毎日発見」。未知のことにワクワクできる人だ。屋成さんと話していると青写真がカラフルに変わる。できそうな気がしてくる■学生時代の[教えてもらう人]を卒業しても、自分は知らないことばかり、と考えるクセがあれば、不本意な出来事や人へのまなざしが柔らかくなりそうだ■屋成さんの探究心は、新しい知識やスキルを身につける原動力。知れば知るほど、自分が知っている世界の小ささがわかると、大きな笑顔で伝えてくれる。(編集部)

関連記事

array(1) { [0]=> int(5) }