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FTMとの結婚は超えなきゃならないものも多いけど、好きだから一緒にいたかった。【後編】

FTMとの結婚は超えなきゃならないものも多いけど、好きだから一緒にいたかった。【前編】はこちら

2019/03/02/Sat
Photo : Tomoki Suzuki Text : Ryosuke Aritake
多和田 帆乃香 / Honoka Tawata

1991年、栃木県生まれ。父、母、姉との4人家族に生まれ、幼稚園時代に大阪に引っ越し、小学校に上がるタイミングで栃木に戻る。大学卒業後は、看護師として千葉の病院に就職。職場でFTMの理学療法士と出会い、交際の末、2017年に結婚。

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INDEX
01 FTMと結婚したから知れた世界
02 無償の愛を注いでくれた家族の存在
03 トラブルとは無縁の恋人との日々
04 なんとなく嫌だった “同性愛”
==================(後編)========================
05 1人の男性と生きていく選択
06 2人の恋愛を認めてもらいたい人
07 新たなステップを踏む期待と不安
08 将来の目標と乗り越えるべき壁

05 1人の男性と生きていく選択

同僚の理学療法士

大学を卒業し、看護師として病院で働き始めた最初の年。

職場で、理学療法士の男性と知り合った。

「同じ患者さんを担当する人で、2年目のスタッフでした」

「第一印象どころか、なんとも思ってなかったです」

しかし、2人は初対面ではなかった。

「大学時代のレズビアンの友だちに『同じ病院にあの先輩がいるんだよね』って聞いてたんです」

“あの先輩” とは、男の子っぽさを極めすぎているように見えた、あの先輩だ。

「後々、その理学療法士が、あの先輩だったって知ったんです」

トランスジェンダーの先輩は会っていない間にホルモン治療を始め、外見が男性になっていた。

「言われてみればあの先輩と顔が似てるかも・・・・・・みたいな感じ」

「再会した時には男にしか見えなかったから、大学時代みたいな否定の気持ちは湧かなかったんです」

近くなっていく距離

同じ患者を受け持つようになり、理学療法士の男性と少しずつ話すようになった。

「出会って半年後ぐらいにその人が職場を離れることになって、送別会をしたんです」

「その時に急激に仲良くなって、職場が分かれてから2人で会うようになりましたね」

何度か会っているうちに、自然と恋人同士のような距離感になっていた。

「その時は、大学生の頃からつき合っている彼がいたんです」

「FTMの先輩とは、お互いに遊びでつき合ってる感じでしたね」

彼には「仲良くしてる人がいる」と話していた。

「でも『元女性だから、そういう関係にはならないよ』って誤魔化してたんですよね」

「今思うと、最低なことをしてたなって思います(苦笑)」

さよならの瞬間

いつしか、2つの関係を平行することにも限界が訪れる。

「隠していることに疲れちゃって、彼に『実は、あのFTMの人と一緒にいた』って話したんです」

彼から「それでもいいから一緒にいてほしい」と言われたため、FTMの先輩と別れる決意をした。

「私はずっと子どもが産みたかったんです」

「FTMの人とは想像していたような将来を送れないと思ったから、彼に戻るって決めたんです」

先輩に連絡し「別れたい」と告げると、「最後に会いたい」と言われた。

けじめをつけるため、2人で会うことに。

「その時に『俺は元女だから、子どもを産みたいって夢を叶えてあげられない』って言われたんです」

「別れる流れだったんですけど、いざ離れるって思ったら嫌だったんですよね」

「遠距離の彼と職場が近いこの人では、一緒にいる時間の長さが全然違ったんです」

「だから、気づかないうちに、FTMのこの人の方が好きになってたんだと思います」

4年間連れ添った彼に別れを告げ、FTMの彼と正式につき合い始めた。

06 2人の恋愛を認めてもらいたい人

戸惑いのカミングアウト

元カレと別れ、新しい彼氏ができたことは、すぐ両親に報告した。

「でも、彼がFTMだってことは言わなかったです」

「彼が『自分で言いたい』って、言ってたから」

つき合い始めて2~3カ月が経つ頃、彼と一緒に実家に帰った。

一泊した日の帰り際、彼が「僕は元女性で、戸籍は男性に変わってます」と打ち明けた。

「お父さんは飲み込みが早くて、『そう、いいんじゃない』みたいな感じだったんです」

「でも、お母さんが『どういうこと? 女の子なの?』ってパニックになってしまって」

母から「帆乃香が男の人を好きになったら、あなたたちはどうするの?」と質問された。

父が「違うよ。彼は男の子で、ちゃんとつき合ってるんだよ」と、母をなだめてくれた。

「その時は、彼がひたすら『今は手術して、性別を変えました』って説明をしてましたね」

「お母さんは腑に落ちない顔をしてたけど、その日はそのまま帰りました」

「きっとその時お母さんは、私たちがレズビアンだと思ったんじゃないかな」

共感できた母の気持ち

母から「前の彼に戻りなさい」と言われたことがある。

「お母さんは元カレを気に入ってて、結婚するものと思ってたから、そう言ったんでしょうね」

そんな母を説得することが、自分にはできなかった。

「私ももともとレズビアンが苦手だったから、お母さんの気持ちがすごいわかっちゃうんですよね」

「それに、私自身も結婚とか出産とか、彼がFTMであることに不安があったんです」

「だから、お母さんの言うことには『そうだよね』しか言えなかった」

それでも彼と別れようと思わなかったのは、父が受け入れてくれたから。

「お父さんにもお母さんにも反対されてたら、別れたかもしれないです」

姉も「帆乃香が選んだ人ならいいんじゃない」と言ってくれた。

「お父さんとお姉ちゃんがわかってくれたから、それで良かったんだと思う」

自分自身が変わっていった経験も、彼との関係を続ける一つの理由になった。

「LGBT当事者を否定的に見てた私が当事者の彼を好きになれたから、お母さんも変わってくれるんじゃないかなって」

性別を抜きにして彼自身のことを気に入ってもらえたら、母の気持ちも変わると考えた。

彼と一緒に、何度も実家に遊びに行った。

「最初は気まずかったけど、拒否されるようなことはなかったです」

「だんだん『来ていいよ』って言ってくれるようになりました」

07新たなステップを踏む期待と不安

ロマンチックなサプライズ

FTMの彼とつき合って、すぐに同棲を始めた。

「小さい時からずっと、25歳までに結婚したかったんです」

「ただ、彼と結婚するとなると引っかかることもありましたね。お母さんも賛成ではなかったから」

「それでも、一緒にいてラクだったし、やっぱり彼なのかなって思いもありました」

「25歳までに結婚したいなぁ」と、結婚願望をチラつかせたこともあった。

つき合い始めて1年が経つ頃、デートで東京ディズニーシーに遊びに行った。

「七夕の時期で、2人で短冊を書いたんですけど、彼は見せてくれなかったんです」

1日遊んで日が暮れ、園内の豪華客船・S.S.コロンビア号のデッキで話していると、彼からプレゼントが。

「1年間を振り返るようなアルバムを渡されたんです」

「最後のページに『帆乃香と幸せな家庭を作りたい』って書かれた短冊が貼ってあったんですよ」

「隣のページに『俺の手の中に』って書かれていて、彼の方を見たら・・・・・・」

指輪を持った彼から言われた「結婚してください」。

「気分が盛り上がっちゃって、すぐにOKしました(笑)」

「隠れていた彼の友だちが出てきて、『おめでとう』って言ってもらえたのはアガりましたね」

忘れられないサプライズだ。

不安を抱えた報告

プロポーズを受けたものの、喜びと同じだけ不安も感じていた。

「お母さんになんて言われるかな、友だちが応援してくれなかったらどうしよう、って考えましたね」

「不安というか、世間体を気にしちゃってるのかもしれない」

自分がLGBT当事者に対して否定的だったからこそ、同じように感じる人もいると思ってしまう。

しかし、大好きな友だちに隠したまま、結婚するわけにはいかなかった。

「周りの友だちに『プロポーズされた』って連絡するとともに、『彼はFTMで』って話しました」

「応援してもらえないかもしれないけど、一応報告しようと思って」とつけ加えた。

予想とは違い、ほぼ全員が「応援するよ」と言ってくれた。

「プロポーズOKして良かったな、ってホッとしましたね」

両親の許し

プロポーズを受けたことを、両親にも報告した。

「お母さんには『ダメ』って言われるかもしれない、って思いましたね」

「でも、『良かったね。おめでとう』で終わったんです」

あまりにもあっさりと受け入れられ、驚きを隠せなかった。

その後、彼から「帆乃香へのプロポーズの前に、ご両親に会いに行ったんだ」と聞かされた。

自分が母を気にしていることを察した彼は、先に母に認めてもらわなきゃいけないと思ったという。

彼はこっそり両親に連絡し、1人で実家に赴き、「プロポーズしようと思ってます」と伝えた。

「お父さんもお母さんも『いいんじゃない』って言ってくれたみたいです」

自分の決断より先に、家族は祝福してくれていた。

08将来の目標と乗り越えるべき壁

子どもの授かり方

現在の目標は、子どもを産み、育てること。

「ただ、両親から『子どもは作らないでね』って言われてるんです」

「どちらかといえば、反対してるのはお父さんかな」

父は「自然に妊娠することが望ましい」と考えているようだ。

「私がストレートの男性と結婚して不妊治療を選んだとしても、お父さんは止めると思います」

「『無理して子どもを作る必要はない。それが運命なんだよ』ってタイプですね」

「あと、彼のことも心配してくれているみたい」

「彼が子どものプレッシャーに勝てないんじゃないか、って不安なのかも」

血がつながっていない子どもの一生を背負う彼の精神面を、父は危惧している。

親になる幸せ

母に子どもの話をすると「その話はしないで」と言われてしまうが、反対ではない気がしている。

「結婚する前、『帆乃香にも親になる幸せを味わわせてあげたい』って言われたんです」

「母親だからこその感情だと思うし、子どもを産むことには賛成してくれるんじゃないかな」

「ただ、意見が食い違ってるんですよね・・・・・・」

彼の意向もあり、「全然知らない人から精子をもらおうと思ってるんだ」と話したことがある。

すると、母から「何があるかわからないから、彼の親族からもらって」と言われてしまった。

「母の言い分もわかるけど、彼の気持ちもあるから、どうしようかなって・・・・・・」

トランスジェンダーの友だちからは「まずは、子どもを作って。両親のことは、あとでなんとかなる」と言ってもらうことが多い。

しかし、結婚を賛成してくれた親を、ここで裏切りたくはない。

「お母さんが彼を認めてくれた時みたいに、親と会う機会を増やして、話すしかないと思ってます」

「周りで子育てしている夫婦の話もしながら、生まれる子は不幸じゃないって伝えられたらな」

「本当は若いママになりたかったから、30歳までに結論を出すのが目標(笑)」

歩んできた道

FTMの彼と結婚したからといって、すべてが受け入れられるようになったわけではない。

大学時代と同じように、レズビアンの友だちには「別れて」と言ってしまうかもしれない。

ただ、その理由は少し変わってきた。

「彼と結婚して、人より越えなきゃならないものが多い、って身をもって感じるんです」

「私たちも偏見を持たれてるだろうな、って思いながら生活してます」

「だから、わざわざその道を勧めたりはしないかな」

単純な否定の感情ではなく、自分が経験してきたことだから、簡単に「いいんじゃない」とは言えない。

「今でも、自分が理解者(アライ)だとは思ってないんですよ(苦笑)」

ただ、彼という人を愛し、結婚の道を選んだだけ。

特別なことをしたとは思っていない。

それでも、乗り越えた壁の数だけ、2人の絆が固くなっていることは確か。

あとがき
総論賛成各論反対が少なくない、性的マイノリティの話題。[いいと思うけど・・・自分の家族だったら話は別]は、ままある。帆乃香さんは少し違う。世の中の向きは知っていても、率直に語る■ダイバーシティは「みんな違うよね」が前提。多くの違った意見が集まることで、ものごとへの理解が深まる、はず■インタビューに答えただけの帆乃香さん。理屈はない。心から愛する人と一緒にいたい、シンプルなおもい。飾らない笑顔が物語っていた。(編集部)

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