02 アジア人というマイノリティ
03 日本で感じたカルチャーショック
04 難民問題からNGOの活動へ
==================(後編)========================
05 LGBTの人たちの声を届ける
06 根底にあるジェンダー差別
07 市民の意識と法整備
08 大切なのは想像力と共感力
05LGBTの人たちの声を届ける
想いを理解すること
「現在アムネスティでは主に私が担当していますが、LGBTと人権の問題は日本支部全体で力を入れて取り組んでいる問題のひとつです」
「キャンペーンで大切なのは、なかなか声が上げられない人たちの声を政府に届けること」
「そのためには、LGBTの人たちがどんな環境に置かれているのか知ることが第一です」
さらには、いろんな人と個々に接して、彼らの想いを理解することも大切にしている。
「これはキャンペーナーとしてという以前に、人として大切なことだと思っています」
キャンペーンを始めるにあたっては、専門の調査員とともに綿密な状況確認が行われる。
LGBTに関しても、都会と地方、団体に属している人と属していない人、さまざまな人の話を直接聞いた。
「大切なのは、直接聞くということ」
「誰かから聞いた情報を引用するようなことはしません」
当事者の生きた声を聞いて、理解を深めることに重きを置いているのだ。
レズビアンやゲイ、当たり前にいた人たち
そして、それらの調査を通じて、見えてきた現実がある。
「日本にはLGBTに関する制度が、そもそもないんです」
「だからこそ、被害を受けても声が上げられない・・・・・・。声を上げたとしても救済を得られない人もいます」
家族と一緒にアメリカに暮らしていた頃は、実は女の子が好きなのだと女友だちから打ち明けられたことがあった。
国際情勢を学ぶため、マンチェスター大学大学院に通っていた頃は、同じ寮にゲイのルームメイトがいた。
大学のあったマンチェスターにはゲイビレッジがあった。
友人と一緒に行ったこともある。
レズビアンやゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーという言葉は知らなくても、当たり前に周りにいた人たちだ。
彼らが直面している問題を、彼らだけの個人の問題とは捉えられなかった。
やはり社会全体の問題なのだと実感した。
06根底にあるジェンダー差別
性に対する偏見や性役割
「当事者も、差別があまりにも日常的に起こりすぎていて、差別を差別として認識していないことさえあるんです」
「さらには、日本ではLGBTや性的マイノリティという言葉が先行してしまって、その根底にあるジェンダー差別が見逃されがちなんですよね」
「女性はこうあるべき、男性はこうあるべきだ」
「そういった偏見や性役割が、LGBTへの差別に影響を及ばしています」
そもそも日本にはLGBTに関する制度が存在しなかった。
いないものだとされていたのだ。
「だからと言って私たちは新しい法律を求めているわけではありません」
「あらゆる個別法を、LGBTを含む内容に変えていきたいんです」
「そして、その大前提として差別を禁止する法律をつくることを訴えていきたいです」
人権保障においては、その法整備は国として当然のことだと考えている。
ジェンダーに寛容ではない社会
アムネスティによるLGBTのキャンペーンは、海外では随分前から行われていたが、アジアには焦点が当てられていなかった。
ようやくアジアに焦点が当てられ、日本支部が動いたのは3年前。
その理由として、日本がLGBTに関する問題が見えづらい国であったことが挙げられる。
その根底にはやはり根深いジェンダー差別がある。
「日本のジェンダー差別は社会の問題として、なかなか認識されません」
「程度の差はあれども、女性に比べて男性は優位な立場にあります」
「女性が活躍できる社会にするために、男性も育児に関わる時間を増やそうと制度を整える前に、ジェンダー差別に目を向けなければ」
「女性の管理職比率を2020年までに30%に引き上げることが目標にされていますよね」
「数値目標をかかげることは大切ですが、数値には内実というか、実質がともなわないと、と思うんですよね」
「ジェンダーに寛容ではない社会でLGBTを含む多様性を広げようとしても、新たな差別を生むだけだと思っています」
社会の寛容や法的保障という点では、残念ながら日本はまだまだという状況だ。
07市民の意識と法整備
自治体レベルから国レベルへ
国を動かすのは難しい。
個人が動いて自治体が動き、国を動かす波になれば。
「LGBT支援の前向きな動きは、自治体レベルでは増えています」
「2015年に世田谷区と渋谷区から始まった同性パートナーシップ制度は、三重県伊賀市や兵庫県宝塚市、福岡市や札幌市など全国に広がっています
」
「声を上げられなかった人たちが、上げられるようになってきた表れだと思います」
「少しずつ、LGBTの人たちが直面している問題は、個人ではなく社会全体で取り組まないといけない問題だと、捉えられるようになってきました」
支援団体も、個別支援や意識啓発など、さまざまな目的やテーマをもった活動や事業が生まれている。
「いろんな支援団体が多様に増えていくことも、社会を動かす力になると思います」
海外では、自治体レベルの動きが波及して、国レベルで法整備へと進んだケースもある。
アライが声を上げて
「LGBTに限らず、どんな人権問題にも共通することですが、前向きな動きは本当に見えにくいんです」
「一歩前進したら、一歩後退することも」
「でも、問題に対して共感して、一緒に社会を変えていこうと声を上げ、動いてくれる人たちを増やしていくことを続けなければ」
誰も声を上げなければ、問題はそのままだ。
「当事者だけでなく、アライである私たちこそがきちんと声を上げていかないと、なかなか進まない問題なんです」
「でも、本当は、マイノリティとかマジョリティとか関係なく、人権保障は国が責任をもって行うべきだと思います」
「でも、それがなかなか通じない」
動かない国に対して、苛立ちを感じる。
世界にはLGBTの人権問題において、日本より前進している国があれば、後退している国もある。
「市民の意識と法整備は、両輪で進まなければいけないものだと思います」
「例えば、南アフリカ共和国の憲法では性的指向による差別を禁止し、同性婚を認めています」
「でも、大統領が差別的な発言をしたり、トランスジェンダーの人が歩いていて石を投げられたりということが起こっています」
「法整備が進めば、市民の意識も変わっていくとは思うんですが、それでも、同時に進むことが理想的です」
08大切なのは想像力と共感力
友だちが、家族が
誰かの個人的な問題ではなく、自分が属する社会の問題だと、誰もが思うこと。
問題解決の糸口はそこにある。
「隣にいる友だちが、あなたの家族が、その問題に直面していたらと、ちょっと想像力を膨らませるだけでいいんです」
問題に直面したことのない人なんていないはず。
「誰もが、問題に直面している人の苦しみに共感できると思います」
想像力と共感力。
それは自分自身に対しても、いつも問いかけている言葉だ。
「私自身が、同性愛者だからトランスジェンダーだからと差別を受けた経験がないので、その苦しみを想像しにくい時もあります」
「そんな時は、時間はかかるけれども、話を聞いて、理解しようとする努力は決して怠りません」
人権が守られた多様性ある社会
理解は共感につながる。
自分はLGBT当事者ではないが、マイノリティとして差別を受けた記憶がある。
その記憶が、さらに強い共感となる。
「アジア人で、顔が平たくて、髪が黒いのは、両親から受け継いだ個性です」
「生まれもってのものだから私にはどうにもできないし、むしろアイデンティティとして大切に思っています」
「でも、そのことで嫌なことをされたり言われたりした記憶があるからこそ、自分と同じような経験は誰にもしてほしくないんです」
「日本にLGBTに対する差別があるなら、きっと他者に対する別の差別も存在すると思います」
ひとつの差別を許せば、日本はどんどん閉鎖的で差別的な社会になってしまう。
「私はそんな社会には住みたくないし、みんなにも住んでほしくない」
「LGBTの人や外国籍の人、いろんな人がいることが当たり前の社会」
「そんな多様性ある社会が、すべての人の人権を守る社会となることを目指したい」
「これからも、多くの人に分かりやすい言葉で伝えることを意識しつつ、少しずつでも実現に向けて動きたいと思っています」