02 ブラジャーは “エッチなもの” ?
03 恋にも性にも憧れる思春期
04 ボーイッシュ女子が好きな男っぽい自分
05 女性なのか? 男性になりたいのか?
==================(後編)========================
06 FTMではなく、レズビアンの「ボイ」?
07 ウェディングプランナーになって同性婚を
08 女として生きる道はない
09 たぶんFTXのゲイかパンセクシュアル
10 「これでいい」と自分を認める
01万里の長城のように大きく逞しく
ひとりっ子として愛されて
世界文化遺産にも登録されている中国の巨大な城壁「万里の長城」。
「万里」の名前は、そこからつけられた。
「両親が、近くのコミセン(コミュニティセンター)で名前の本を見て、『大きく逞しく育つように』『夢は万里を超える』って決めたらしいです」
「最初はマリにしようと思ったらしいんですけど、子をつけたほうが画数的によかったらしくて、万里子でマリコになりました」
生まれは愛媛県松山市。
国家公務員の父と専業主婦の母のもと、ひとりっ子として育った。
「父は、いろいろ物知りで、真面目で・・・・・・。堅いといえば堅いかも(笑)。でも、すごく自由な人で、よくひとりで旅に出かけてました」
「定年退職したあとは、警備員の制服が着たいって言って、警備のアルバイトを始めたんです。ほんと自由に生きてる人です(笑)」
心配性の母、自由人な父
「母はとにかくすごい過保護(笑)。ずっと家にいるからか、日々考えることが子どもである自分のことくらいだったんで、ほんと過保護でしたね」
「子どもの頃は、家に帰るのが遅くなったりしたら、自分がいるかもしれないからってスーパーマーケットの店内放送で呼び出したり(笑)」
「それがめっちゃ鬱陶しかったときもありましたね」
我が子かわいさからの過保護ではあったが、過干渉ではなかった。
「これしなさい、あれしなさい、とか言われなかったし。けっこう自由にさせてもらったと思います」
「あ、でも、自分が危なそうなところに行くってなったら『え、それ、大丈夫なの? やめときぃ・・・・・・』って止めてましたけど(笑)」
「父は、『そんなん、やったらええんちゃう?』みたいな感じです」
改めて自分を客観的に分析してみると、両親それぞれの特徴が「いいのか、悪いのか、ほどよくブレンドされている」と感じる。
「特に母の、人と話すのが好きだけど、たまに相手に失礼なことを言っちゃうところとか。母はチャーミングな人だとは思うんですけど・・・・・・。なんか、空気を読めていないというか」
「自分もそういうところがあります(苦笑)」
02ブラジャーは “エッチなもの” ?
イケメンに片想い
幼い頃は、家の中で遊ぶよりも、外で友だちと遊ぶほうが好きだった。
「ダンゴムシを捕まえて、うちのポストに入れたり、同じ団地に住んでた子たちと自転車でちょっと遠くまで出かけたり」
「あと、男の子のズボンを脱がしたりとかしてました。どっちかっていうと・・・・・・いやだいぶ、ヤンチャな子だったと思います(苦笑)」
と思えば、プリンセスに憧れていたこともあり、買ってもらったドレスを着て、女の子の友だちと “ごっこ遊び” をすることもあった。
初恋は幼稚園児のとき。
ボウズ頭の男の子だった。
「ボウズなのに、すごいイケメンの子がいたんです」
「小学生のときも、やたら片思いしてましたね。なんかずっと誰かしらに恋をしていた気がします(笑)」
「小1の頃だったと思うんですが、すごいイケメンの男の子いて、『めっちゃカッコいい!』ってずっと言ってたら、母がその子の住所とか調べてくれて、バレンタインの日に自分をママチャリの後ろに乗せて、チョコを渡しに行ってくれたんですよ。・・・・・・過保護ですから(笑)」
「その子とはそのあと家族ぐるみで仲良くなったんですよ」
「なんか、イケメンが好きでしたね・・・・・・。どの顔してイケメンが好きとか言うんだって感じですが(笑)」
ブラジャーを見て興奮する描写が
恋多き、ちょっと “おませ” な子。
少女漫画に性的な描写を見つけて、友だちと盛り上がることもあった。
「自分は人よりも発育がよかったみたいなんですよ。生理も小4のときにきて、ちょっと早かったんですよね」
「自分は血が出てきて、かなり引いてるのに、母が『あらっ、お赤飯炊かないと』みたいな感じだったのが、本当にイヤでした。胸の発育もよかったので、人より早めにブラジャーもつけなきゃいけなかったし」
それでもブラジャーをつけずにTシャツ1枚で近所を歩いていたら、見知らぬ成人男性に胸を触られたことがあった。
「ポンッて触って、走って逃げてったんですけど・・・・・・。びっくりしたのか、家に帰ってから号泣しちゃって。親が警察を呼んだりとかして、ちょっと大ごとになりました・・・・・・」
「そういうこともあったし、子どもの頃は、胸が大きくなるとか、生理になるとか、自分が大人になっていくのがイヤだったのかもしれません」
被害にあったあとからはブラジャーをつけるようにしたが、そのブラジャーに対しても、どことなく落ち着かない気持ちがあった。
「少女漫画で、ブラジャーを見て興奮する男の子とかが描かれていたので、ブラジャーをなんだかエッチなものとして捉えていたのかもしれません」
「ド変態みたいですよね(笑)」
03恋にも性にも憧れる思春期
友だちと一緒にラブレターを
父の仕事の関係で、子どもの頃は転校が多かった。
愛媛で生まれ、幼稚園まで神戸で過ごし、小学校2年生からは東京の渋谷区に住み、中学校1年生の夏から愛媛に戻った。
「愛媛へ戻るのがイヤで、すごく反抗してましたけど、転校した先で、隣の席のサッカー部のイケメンに恋をして、反抗をやめました(笑)」
「転校先で馴染むのに苦労したってことはあんまりなかったと思います」
「東京の中学校ではソフトテニス部に入ってたんで、愛媛でもソフトテニスを続けたんですが、『東京から来た』ってだけで、なぜかすごい上手いと勘違いされて期待されて・・・・・・」
「部活の初日の一発目でぜんぜんだめだ、ってわかって、なんか顧問から怒られて。勝手に期待されて怒られて、ナニコレって(苦笑)」
それでも部活の仲間とは仲がよく、クラスメイトと過ごす時間も楽しい。
中学での学校生活は充実していた。
「いっつも女友だちと恋愛の話をしてましたね(笑)」
「友だちの好きな子の家に一緒に行って、ラブレターを渡したりとか」
ボーイッシュな女子にドキッ
あるとき、自分も好きな男の子に電話で告白する。
「その結果、『白川は、なんていうか、男?』って言われて」
「その子とは、けっこう仲よかったんですよ。一緒にBLの小説を呼んだりとか・・・・・・。そういうところが引かれたのかも?(苦笑)」
「確かに自分は、女子って感じではなかったかもしんないですね」
クラスでの立ち位置は、どちらかというと “オモシロ系”。
廊下で踊ったり、変顔をしたりして、笑いを誘っていた。
「そのせいか、告白することはあっても、されることはまったくなかったですね。中学3年間、彼氏はできませんでした(笑)」
「でも、性に対する好奇心は強かったので、付き合ってみたいって気持ちはありましたね。友だちに彼氏ができたら、『やったの?』『どこまでやったの?』って盛り上がったりしてました(笑)」
「エッチな妄想も・・・・・・してました(笑)。相手は男子でしたね」
「あ、でもボーイッシュな女子とカラオケ行って、ドキッとしたこともありました。好きな男子がいたので、それ以上なにもなかったですけど」
04ボーイッシュ女子が好きな男っぽい自分
女子サッカー部のカッコいい先輩
「パティシエになりたかったんです。単純な理由ですけど、甘いものを食べるのが好きってだけで、なりたいなって(笑)」
進学した地元・愛媛の高校は共学だったが、パティシエを目指すために専攻したコースは女子のみのクラスだった。
「その頃から、いまの “原型” ができあがってきてました」
「髪も短くして、ボーイッシュな感じだったんで、自分で言うのもなんですけど、女子だけのクラスでは割とチヤホヤされていたと思います(笑)」
「女子が膝の上に乗ってきたりとか、抱きつかれたりとか」
「クラスでは、ボーイッシュな生徒って自分だけだったんで」
部活は女子サッカー部に所属。
中学3年生から、友だちとフットサルを始めたことがきっかけだった。
「女子サッカー部には、ボーイッシュな子はたくさんいました」
「FTM(トランスジェンダー男性)さんもいたと思います。ほんと、男にしか見えないような、カッコいい先輩とかもいました。カッコいい同級生も」
「そこでは、女子同士で付き合ってるとか、カッコいい先輩に憧れてますとか、好きですとか、そういうのがふつうでした」
サッカーを続けていくにつれて、日に焼けていくと、中学生の頃から着ていた服が似合わなくなっていくようだった。
ある日、部活の仲間が「こんなの着てみなよ」と全身をコーディネートしてくれたのだが、これが実にしっくりきた。
「それがメンズの服だったんですよ。ピンクと黒のパーカーみたいな。それに合わせて、さらに髪を短く切って・・・・・・」
「どんどんボーイッシュになっていきましたね」
自然にカッコいい女子を好きに
同時に、部活の仲間でもあるカッコいい同級生の女の子を好きになっていった。
「自分から告白して、付き合うことになったんですが、トータルで11日くらいしか付き合ってなかったですね(笑)」
「その子は、いろんな女の子からモテモテだったし、本当はかわいい系の女の子が好きだったみたいで、自分に対しても『付き合うなら女の子っぽくなってよ』って言ってきたんです」
「でも結局、『友だちにしか見えない』って言われて別れました」
その後も、別のボーイッシュな女子を好きになって、お昼休みのたびに会いに行くなど、熱烈なアプローチを繰り返した。
「その子は背が高くて、髪の毛が短くてツンツンしてて。もうすんごいすんごい好きになっちゃって、鍛えるためにジムに通ったりもしてたくらい自分磨きもがんばってました(笑)」
「で、告白して付き合ったんですけど、3日後には『やっぱり友だちで』って言われて別れました(笑)。そういうの多いです」
その頃は、レズビアンやトランスジェンダーといった言葉も知らず、「ボーイッシュな女子がカッコよくて好き」というだけの認識だった。
「すごく自然に好きになってましたね」
05女性なのか? 男性になりたいのか?
胸も子宮もいらない
ボーイッシュなカッコいい女子が好き。
でも、相手はかわいらしい女子が好きなことが多い。
自分もまたボーイッシュな女子のひとりだ。
つまり、このままでは両思いにはなりにくい?
・・・・・・そもそもなぜ自分はボーイッシュな格好をしてるんだろ?
「自分は、なんなんだろって悩んでしまって」
「体に対しても、胸はいらないからサラシを巻いたりしてて。子宮も・・・・・・いらないなって思ってました」
「なにより、周りから女子だと見られたくなかったんです」
周囲には、女子を好きな女子も、男子になりたい女子もいた。
「でも、その頃もまだトランスジェンダーとか性同一性障害とか、言葉として知らなかったんで、FTMの人のことは単純に『男子になりたい人』と認識してて、そういう人もいるんだって思ってました」
しかし、自分がその「男子になりたい人」とは思っていなかった。
男子になりたいボーイッシュな人は、かわいらしい女子が好きなはずだから、ボーイッシュな女子が好きな自分とは違うのかも。
「なんか、よくわからなくなっていて(笑)」
「明確に『男子になりたい』とは思ってなかったんですが、やっぱり女子には見られたくないし、高校を卒業して、大阪にある製菓の専門学校に入ったんですけど、その入学式にはメンズのスーツで出席しました」
男として見られたい
入学式に着る服は、両親と一緒に買いに行った。
女性用のスーツを買ってもらう流れになっていたが、男性用スーツを着たマネキンが目に入り、「自分、こっちのほうがいいわ」と言ってみた。
「母は『ええ?』みたいな感じだったんですけど、店員さんは『あ、そういうかたもいらっしゃいますよ、着てみます?』と言ってくれて」
「それでうまいこと買ってもらったんですよ」
その頃には、母から「ちょっと男の子っぽい格好しすぎじゃない?」と言われることもあったが、「こっちのがラクだから」と答えていた。
「自分としては、なんと言われても服は男性用がいいからって感じでしたし」
男性用のスーツを着て、初めて会ったクラスメイトたちは、特に服装に関して疑問をもつような様子はなかった。
「最初からオープンにしてたからですかね」
「男っぽくありたい、男として見られたい、と周りに伝えてました。あと、そのとき『女の子が好き』とも言っていたと思います」
身構えることなく、ありのままを伝えた。
<<<後編 2023/12/23/Sat>>>
INDEX
06 FTMではなく、レズビアンの「ボイ」?
07 ウェディングプランナーになって同性婚を
08 女として生きる道はない
09 たぶんFTXのゲイかパンセクシュアル
10 「これでいい」と自分を認める