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LGBTが生きやすい社会は、アライにとっても生きやすい社会【後編】

LGBTが生きやすい社会は、アライにとっても生きやすい社会【前編】はこちら

2017/09/16/Sat
Photo : Rina Kawabata Text : Mana Kono
山梨 純佳 / Ayaka Yamanashi

1992年、神奈川県生まれ。中学を卒業後、アイルランドの高校へ留学。帰国して慶應義塾大学総合政策学部を卒業したのち、東京モード学園で1年間ファッションを学ぶ。現在は、株式会社バイリンガルゲートにて、LGBTを含むセクシュアルマイノリティ向けポータルサイト「Rainbow Life」の運営に携わる。

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INDEX
01 “女の子らしさ” は意識していなかった
02 アイルランドの高校に留学
03 日本と異なるアイルランドのジェンダー観
04 日本のファッションを海外に広めたい
==================(後編)========================
05 長い目で見たキャリアプラン
06 仕事を通じてLGBTと関わる
07 アライにだって、“伝えること” はできる
08 届かない場所にあるものをつなぐことが、私の使命

05長い目で見たキャリアプラン

憧れの専門学校に入学したものの・・・・・・

就職活動も一切せず、大学卒業後は東京モード学園に入学。

慶應卒の中では珍しいタイプかもしれないが、迷いはなかった。

「専門に入学するまでは、デザインの道に進もうとざっくり考えていたんです」

「でも、型紙を作るパタンナーなど様々な職業があることを知って、自分は海外で販売展開さえできれば、別にデザイナーじゃなくてもいいかなと思うようになりました」

課題も多く、入学してしばらくは忙しい毎日を過ごす。

周囲も、本気でファッション業界を目指している真面目な生徒たちばかりだった。

しかし、徐々に学校の教育制度に疑問を覚えるようになっていく。

「専門学校は、就職率が高いことを売りにしていたんです。正社員じゃなくてアルバイトでもいいからとにかく就職させる、という校風でした」

「そうやって就職がゴールになっているから、その後のキャリアプランや、10年後20年後にも通用するようなスキルは身につけられないだろうと思ったんです」

このまま学校に通ってどこかに就職したとしても、きっと上にうまいこと使い捨てられるだけの人材になってしまうだろう。

「そうなってしまうと、私のやりたい海外展開とかは一生できないですよね」

「だから、もともと2年コースで入学したんですけど、最初の1年で学校を辞めることにしました」

IT系のベンチャーに入社

専門学校を中退後、就職活動をスタート。

しかし、志望先はアパレル系企業ではなかった。

「ひとまず、英語を使う仕事に就こうと思ったんです」

「そこで数年働いて海外でも通用するようなスキルを身につけたら、30歳を過ぎたあたりで独立しようと考えていました」

今の時代、ネットに精通していた方が強みになるだろうと思い、IT系ベンチャー企業の面接を受けることに。

「今働いている会社では、面接の段階で『ファッションの道を諦めていないし、いずれ独立するつもりだ』とも話していたんです」

社長はそうしたスタートアップ志向にも理解があり、無事内定をもらうことができた。

「むしろ、社長に『そのアパレル事業、うちで展開してもいいよ』って言われてます(笑)」

しかし、その後内定先で新たにグループ会社を立ち上げることが決定。

内定先の会社に入社後しばらくたったある日、「面接を受けた会社ではなく、新しい会社の方で働かないか?」という誘いを受ける。

「その時点では、事業内容もまったく決まっていない白紙の状態でした」

「だけど、この年齢で一からの事業立ち上げに参画できるなんて、なかなかない機会だと思ったんです」

当初志望していた英語関連の仕事とは異なる可能性が大きかったが、このチャンスを活かすほかに道はないと思った。

「それで、新しい会社への移籍を決めました」

06仕事を通じてLGBTと関わる

LGBT事業の立ち上げ

入社1年目ながら、新規事業の企画会議でも積極的に意見を出した。

ウェブサイトを作る、ということは決まっていたが、どんな内容にするかはまだまだ検討中だった。

「ふとした時に、たまたま社長の口から『LGBT』という言葉が出たんです。それで、これだ!と思いました」

一から事業を興すのであれば、社会のためになるような、誰かから本当に求められるような取り組みにしたい。

そう思っていた。

「LGBTだったら、絶対に情報を必要としている人がいると思ったんです」

「そういう人たちに届けたいと思って、LGBTに関するポータルサイトを運営することになりました」

とはいえ、その時点ではLGBTに関する知識が豊富だったわけでもない。

「アイルランドに住んでいた頃から身近にゲイやレズビアンの子もいたから、そういう存在を認知はしていましたし、珍しいとも思っていませんでした」

「ただ、彼らが『LGBT』と呼ばれていることを、それまで知らなかったんですよね」

自分としては、あくまで言葉の定義の問題。

「LGBT」という言葉を知ったからといって、特に大きな発見や変化があったわけではない。

「だから、ネットとかで専門用語を調べることもあんまりなかったです」

「それより、とにかく当事者に会って直接話を聞こう!と思っていろいろ動いていました」

海外のレインボープライド

現在では、仕事だけでなくプライベートでも、LGBT関連の集まりに積極的に参加している。

海外のレインボープライドに赴いて、激しいカルチャーショックを受けたこともあった。

「日本だと、パレードでもアライの人たちは友好的で、全体的に平和な空気じゃないですか?でも、海外はヘイトがすごく多かったんです」

「特に、韓国のヘイトはすごかったですね」

韓国には、クリスチャンが多い。

キリスト教の教義では「同性愛は罪」となるため、熱心なクリスチャンからの反発が大きくなってしまうのだ。

また、韓国には2年間の徴兵制度も存在する。

LGBTを社会的に認めてしまうと、軍役から逃れる隠れみのになってしまうのではないかという懸念の声もある。

「だから、ヘイトの理由は生理的な拒否ばかりではなく、むしろそれぞれが、それぞれの信念を掲げあって戦っている感じでしたね」

どんな理由があろうとも、ヘイトは決していいものではないし、見ていて心苦しい部分もあった。

「でも、猛烈にヘイトを唱える人たちって、LGBTについてものすごく勉強していて詳しいんです」

知識があるからこそ、批判できる。

日本人はある意味LGBTに無関心だから、ヘイトを唱えることすらしないのだろう。

否定もせず、肯定もしない。

実は、そうやってうやむやにしてしまうのが一番まずいんじゃないだろうか?

「海外と比べて、日本は遅れてるなって思いました」

日本でももっと、LGBTの存在が可視化されていかないと、状況は変化しないだろう。

07アライにだって、“伝えること” はできる

セクシュアリティは関係ない

「当事者がもっと可視化されたらいいとは思うんですけど、LGBTにまったく興味がない人を無理に説得しようとは思っていません」

年齢層によっても受け入れ方に大きな違いがあると、これまでに痛感してきた。

「特に、年配の方々だと、ここにきて意見を変えにくいっていう気持ちもわかるんです」

「そういう人たちが今まで正しいとしていた考え方を、無理に根底から覆すべきではないなと思っています」

それと同様に、あまり波風を立てないでほしいと考えている当事者に対しても、無理強いをすべきではない。

「当事者は全員カミングアウトすべきだ!みたいにも考えていません」

「カミングアウトもそれぞれの権利ですから」

とはいえ、当事者のカミングアウトに触れ、考え方を変えるストレートが少なくはないのも事実だ。

「だから、『あまり触れないでほしい』と考えている人とは別の場所で、賛同してくれる人を集めていくのが一番いいのかなと思っています」

「当事者自身が活動しないといけないものでもないですし、それをマジョリティ側である私たちが伝えていくことも可能だと思うんです」

“無意識” という暴力

「きっと周囲にセクシュアルマイノリティはいないだろう」と、無意識に決めつけてしまう行為はとても恐ろしい。

たとえば、知人同士の集まりで「ここにいるのはストレートだけだろう」と思いこんで、LGBT当事者に攻撃的な発言をするのは危険だ。

カミングアウトをしていないだけで、実は知人の中に当事者がいる可能性だって十分にありえる。

それなのに、多くのストレートたちが、LGBTを「いないもの」として最初から排除している。

そういった無意識の行動で、傷つく人たちだって確実に存在するのだ。

「13人にひとりがLGBTだと言われていますが、それってすごく身近な数字ですよね」

自分が気づいていないだけで、周囲には当事者がいるかもしれない。

なんの気なしで言った一言が、誰かを傷つけているかもしれない。

08届かない場所にあるものをつなぐことが、私の使命

やりたいことはずっと変わらない

現在はLGBTにまつわる仕事に取り組みながらも、いつかアパレル事業に携わりたい。

夢は変わらない。

「アパレルとLGBTはまったく別ジャンルに見えるかもしれないですが、私はつながる部分もあると思っているんです」

トランスジェンダーからは、「自分に合うサイズの服がなかなか見つからない」という声もよく聞く。

それは、海外生活で感じていた不便にかなり近いものだと思う。

合うサイズの服を見つけられない残念さは、よくわかる。

だからこそ、いつかその不自由を解消したいのだ。

「今後ファッション事業を展開するとして、『商品をより多くの人に届ける』ということを最終的なビジョンにしています」

「それが、国境を超えるのかセクシュアリティを超えるのかの違いなのかな、って自分では思ってるんですよね」
 
人種の違いによる体格差はもちろん、FTMや MTFでも困らないような、多種多様な洋服のサイズ展開ができたら理想的だ。

当事者の利益は、アライの利益にもつながるはず

現在、便宜上LGBTを取り上げて言及しているが、その活動の源にあるのは、必ずしもセクシュアリティに限った問題ではない。

「セクシュアリティに限らず、誰だって少なからずマイノリティの要素は持っていると思うんです」

「私自身にもそういう部分は絶対にあると思っています」

アライはもちろん、LGBT当事者だって、セクシュアリティ以外の悩みを抱えて苦しんでいる人たちも多い。

「セクシュアルマイノリティが抱える問題を掘り下げていった先には、ストレートの人たちにも関係のあるようなテーマがたくさんあると思うんです」

LGBT問題に取り組むことで、LGBT問題だけが解決される、というわけではないだろう。

「だから、『当事者じゃないから』と一切興味関心を持たないのではなく、
自分にとってもきっと素晴らしい未来があるんだということを、ストレートの人たちにも知ってほしいですね」

その先にあるのは、きっと、セクシュアルマイノリティでない人にとっても魅力的な社会だと思うから。

あとがき
「LGBTを知ったのは少し前なんです」と、山梨さん。初めての気負いも、始めて間もない不安感も見えない。それは、事象をあるがままの「事実」としてキャッチできる、公平でまっすぐな視線でもあった■自分が決めた道を歩く山梨さんには、言い訳もない。横顔はイサギヨクテ、カッコイイ。■どこかで定められた答えに合わせるよりも、自分で決める。それが、何かのきかっけや影響であっても。自分で選択した、と心に決められることを増やすのが、大切なのかな・・・。(編集部)

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