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バイセクシュアルで、人づき合いが苦手な私だから、描ける物語がある。【後編】

バイセクシュアルで、人づき合いが苦手な私だから、描ける物語がある。【前編】はこちら

2019/10/26/Sat
Photo : Mayumi Suzuki Text : Ryosuke Aritake
貴田 明日香 / Asuka Kida

1994年、兵庫県生まれ。幼い頃から「物語」に強い関心を抱き、中学生で小説を書き始める。高校では演劇に傾倒し、演劇部部長や合同公演の演出チーフを務め、大学でシナリオ制作と映像作品の面白さに魅了される。大学卒業後は、制作会社で働きつつ映像作品を撮る日々。現在は、トランスジェンダーをテーマにした映画『受け入れて』を撮影中。

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INDEX
01 レズビアン寄りのバイセクシュアル
02 愛情を教えてくれた大好きな家族
03 男の子への無関心と女の子への興味
04 “依存” というコミュニケーション法
05 自分の存在が求められる場所
==================(後編)========================
06 明らかすぎる “恋” の感情
07 気持ちを受け入れてくれた恋人
08 強く心惹かれた「映像」の世界
09 親が導きたかった道と本当の言葉
10 肯定し続けてくれた人と好きになれた自分

06明らかすぎる “恋” の感情

「好き」の気持ち

「演劇部の先輩のことが、なんかわからないけど好き、って状態でした」

朝会った時の「おはよう」のひと言、表情、目線、声の出し方、そのすべてが好きだった。

「金曜日の部活終わり、帰り際の先輩の顔が元気そうだったら、週末の間、ずっと楽しかったです」

「でも、先輩が落ち込んでたり悲しそうだったりすると、週末中、悩み続けてました」

「何か辛いことがあったのかな、私のことあんまり好きじゃないのかな、って」

「先輩と会ってる時間だけが色がついていて、それ以外はずっと灰色みたいな感じでした」

3年生のスパルタ指導がきつく、気づけば2年生は先輩1人だけになっていた。

「3年生が引退すると、先輩は必然的に部長になって、周りに頼れる人がいない中で、1年生を回していかなきゃいけなかったんです」

「だから、私は毎日『大丈夫ですか?』『辛いことないですか?』って、話しかけ続けました」

女性の自分が、女性に好意を抱いていることは、すごく些細なことに思えた。

「相手が困るかもしれないけど、それも含めて全部がどうでもいいくらい、好きって気持ちが大切でした」

「周りの人たちがこの恋をどう思うかなんて、どうでも良かったんです」

唐突すぎる失恋

2月頃、先輩がツイッターに恋愛の話題を書き始める。

「一瞬、相手は私かなって思ったんです」

2人で部活を支え、誕生日にはプレゼントを贈り合うほどの仲になっていたから。

「でも、違ったんです。その頃、先輩に彼氏ができて『大好きだよ』とか書いてて(苦笑)」

「ショックを受けすぎて、すぐ先輩に電話をかけました」

「先輩、彼氏いるんですか?」と聞くと、「うん、おるよ」と返される。

思わず「私、先輩のことすごく好きなんです」と口走るも、「私もあなたのこと好きだよ」と言われてしまう。

「おつき合いしたいとかの好きなんです」と食い下がると、「それは無理だな」とあっさり振られた。

その電話で、「ちゃんと告白するんで、『諦めてください』って言ってください」と懇願。

先輩は告白を聞いた上で、改めて「諦めてください」と言ってくれた。

「胸が張り裂けるってこういうことか・・・・・・って感じるくらい、辛かったです」

キス以上のこと

それから2カ月後、進級した頃に、先輩のケータイの画面が彼氏の写真からキャラクターものの壁紙に変わる。

「『別れたんですか?』って聞いたら、『別れた』って言ってて、そこからまた猛アタックしました(笑)」

「先輩も猛アタックされすぎて、訳がわからなくなってて、5月頭ぐらいにつき合えたんです!」

初めての彼女との日々は、人生で一番幸せだと感じられた。

ファーストキスも経験する。

「でも、5月終わりくらいに別れたんです」

先輩から「あなたに対して、キス以上のことをしたいと思えないから、つき合っていけないと思う」と、告げられる。

別れてしばらく経つと、先輩は部活を引退し、自分は部長になって、別々の時間を歩むことに。

「その恋は終わったけど、先輩とはいまだに仲良しですよ」

07気持ちを受け入れてくれた恋人

「すごく会いたかった」

「高校2年の3学期、合同公演で人生最高の恋をするんです」

演出のチーフを任され、役者を決めるオーディションに立ち会うことに。

「その年は時代劇の『真田風雲録』に決まっていたので、男の子の役者が必要だったんですよ」

「特にケンカのシーンが多い登場人物は、男の子にお願いしたい、って考えてたんです」

演出陣の意に反して、オーディションに現れたのは、小柄でかわいらしい女の子。

「でも、その1年生はすごい気迫で、男役にぴったりハマってて、満場一致でその子に決まりました」

「その子は、コンクールでの私の芝居を見てくれてて、『すごく会いたかった』って、言ってくれたんです」

メールアドレスを交換すると、稽古の後に必ず「ダメ出しがあったら教えてください」というメールが届く。

「家の方向は違ったんですけど、いつも遠回りして一緒に帰ってました」

「後々考えると、その子にとっても遠回りだったんですよ。青春じゃないですか(笑)?」

いつしか後輩の女の子に、恋心を抱いていた。

冗談半分で重ねた手

高校が違う彼女とは、合同公演が終われば、離ればなれになってしまう。

「合同公演が終わる日、2人でバスに乗って帰ってたんです」

「何気なく、その子の手に自分の手を重ねてみたんですよ」

手を重ねるぐらいのスキンシップであれば、友だち同士の冗談として許してくれると期待した。

「予想に反して、その子は重ねた手を握ってくれたんです。恋人つなぎで」

バスが目的地に到着し、2人で降りる。

「なんでだろう、離れがたいね」と、互いに名残惜しさを感じつつ、帰路に就く。

「家に帰ってから電話をかけて、『女の人を好きになったことなんてないけど、君のことはいいと思ってる』って、ウソを交えて伝えました」

「その子も『私も初めてです』って、言ってくれて、つき合うことになりました」

振り回したくない彼女の将来

それから1年半、高校を卒業してからも2人の関係は続いた。

自分は東京の大学に進学し、まだ高校生だった彼女とは遠距離恋愛。

「彼女はもともと地元の大学に進もうとしてたんですけど、急に『東京の大学に行きたい』って、言い出したんです」

「その理由は、『私がいるから』っていうだけ」

困り果てた彼女の母親が、彼女と口を利いてくれなくなったと聞いた。

「彼女が親とうまくいかなくなってまで、つき合う意味ってなんだろう、って思っちゃったんです」

「しかも、私が東京に飛び出してきたことが原因で、そうなってるわけだから」

「だからといって、私は東京を諦められなかったし・・・・・・」

大好きな彼女のためを思えば、別れを決意するしかなかった。

08強く心惹かれた「映像」の世界

演劇サークルの洗礼

「本気で演劇に取り組んでたので、東京に行っても続けようと思ってました」

進路は、心理学部。

「映像や演劇、ダンス、それぞれがどう心理に働きかけるか、勉強できるところでした」

「演劇サークルに入ったんですけど、ちょっとヤバいところで・・・・・・(苦笑)」

かなりのスパルタで、少し休憩するだけで怒鳴られるような環境。

娘役でキャスティングされたはずが、「やっぱり息子役をやってくれ」と、ムチャ振りされることもあった。

「いろんな状況が重なって、演劇をやめることにしました」

役者が想像を超える瞬間

演劇をするために進んだ大学で、演劇以外に何をすればいいかわからない。

「とにかくいろんな授業を受けて、一番褒めてもらえたのが、脚本の授業だったんです」

女の子同士の同性愛の物語が、講師から高く評価される。

「純粋な恋愛のつもりで書いたんですけど、先生の理解は『SMの関係が表現されているって』」

「『MがSに対して無意識にサインを送ってるところがいい』って、言われたんです」

「私が書いた脚本は、その後の教材として配られているみたいです」

脚本の面白さを実感したのは、自分の書いた台詞を役者が口に出した瞬間。

「自分の想像とは全然違う形で役者が演じたりするんですけど、それがいいんですよ」

「全然違うのに、私はこれが見たかったんだ、って涙が出そうなくらい感動します」

「自分が描きたい絵を、役者が超えてくる瞬間が楽しくて、やめられないんです」

心に働きかけるメディア

映像に興味が湧いたのは、大学時代に誘われたある公演がきっかけ。

プロジェクターで映し出した景色の前で、女性が朗読するというもの。

「その景色の1つに、炭酸の泡がコップの中で、しゅわしゅわ上がっていく映像があったんです」

「それを見た時に、映像じゃないとできない表現だ! って思いました」

目線を一点に集中させる演出は、映像だからできる手法。

「あと、大学2年の時に、妻夫木聡さん主演の映画『悪人』を見て、5時間泣き続けたんですよ」

「主人公の成長が描かれていて、強く働きかけてくるものがあったんです」

「こんなに心を揺さぶるものがあるのに、他のことをやるなんて馬鹿げてるんじゃないか、って思うくらい」

映像の世界、映画監督としての道が広がっていく。

09親が導きたかった道と本当の言葉

大好きな両親の “否定”

「両親にカミングアウトしたのは、高校1年生の時でした」

演劇部の先輩に初めて告白し、振られた時のこと。

「ショックを受けてめちゃくちゃ落ち込んでた私を見て、両親が『どうしたの?』って、声をかけてくれたんです」

「明日香がそんなに落ち込んでるところを見て、何もしないなんてできないよ」と、言ってくれた。

「『どんな話をしても受け止めてくれる?』って確認してから、『実は先輩が好きで』って、話したんです」

「お母さんに『女の人じゃないの?』って聞かれて、お父さんに『私にはわからない世界だ』って言われました」

「その時は、完全に否定されたと思ったんですよね」

それから何度か、同性に恋心を抱くことを受け入れてもらおうと試みた。

そのたびに「わからないことを言うのはやめて」「理解できない」「それじゃ幸せになれない」と、拒否されてしまう。

「大好きな両親だったから、受け入れてもらえないことがすごく辛かったです」

「私の言うことややりたいことは、全部認めてくれると思ってたから・・・・・・」

「誰に何を言われても曲げないで」

「最初に受け入れてくれた人は、おばあちゃんでした」

昔気質で厳しい祖母のことは、昔から苦手だった。

20歳を過ぎ、祖母の家に泊まりに行った日、「あんたもいつかお嫁さんになるんだから」と、話しかけられる。

「つい、『お嫁さんにはならないよ、女の子が好きなんだもん』って、言っちゃったんです」

「その後、2日間くらい、ずっとケンカみたいな状態でした」

そして、祖母の家から帰る日、こう言われた。

「あなたが本当に女の人を好きって言うんだったら、きっといっぱい傷つけられることがあるけど、誰に何を言われても曲げないでほしい」

誰よりも厳しく、堅物なイメージだった祖母の、意外なひと言だった。

傷つかない平らな道

2019年春、AbemaTVの企画で、FTMをテーマにした自主制作映画『受け入れて』の予告編を撮影した。

「脚本を書く時に、お父さんやお母さんの発言も台詞に起こして、客観的に見たんです」

「否定の言葉だと思い込んでたのは自分で、すべてが否定の感情ではなかったんじゃないか、って感じました」

たった3分の予告編を見た父が、感動した様子で「受け入れたわ」と、呟いた。

「『私が女の人を好きになってもいいの?』って聞いたら、『もう大人になったんだから』って、言ってました」

予告編を見た父は、娘はちゃんと成長している、と感じたという。

「正しいかどうかよりも、子どもにはなるべく平らな道を進ませてあげたい、って思っていたみたいです」

「だから、矯正しようとしてたんですね。でも、今は『もうあなたの人生だから』って、見守ってくれてます」

「お母さんからも、あんまり否定されなくなりました」

10肯定し続けてくれた人と好きになれた自分

穏やかな安心感

「私の人生に、一番大きな影響を与えてくれたのは、今の彼です」

大学卒業後、テレビ番組の制作会社に入社。

職場の懇親会で「できるディレクターさんだから」と、別の会社の男性を紹介された。

「割と顔がかっこよくて、背も高くて、仕事ができる人だったから、絶対自分とは仲良くならない、と思ってすぐその場から逃げたんです」

「逆にそれが良かったのか、めっちゃごはんに誘われたけど、1年半くらい振り続けました」

「年上の人だから、つき合ったら結婚とか考えないといけないだろうと思って(苦笑)」

「でも、一緒にいると、安心感があったんですよね」

「女の子に対する『好き』みたいに、燃え上がる感じはないけど、結婚するなら安心して一緒にいられることの方が大事なのかなって」

彼と人生をともにすることを決める。

表現したいと思うもの

「小さい頃から、人に迷惑をかけたり、人から嫌われたりする自分がすごく嫌いでした」

「まっすぐにしか生きられなくて、いろんな人を傷つけてきたと思います」

「ずっと変わろうと思ってきたし、死のうと思って海に飛び込んだこともありました」

「でも、彼は『そんなまっすぐなところがいいんだ』って、私を肯定し続けてくれたんです」

彼と出会うまでは、自分なんてどうなってもいい、と思っていた。

“物語を作る” という使命を全うするため、いい作品を作ることだけを考えてきた。

「だけど、彼のおかげで、自分は大切に思われていい存在だったんだ、って気づけたんです」

「自分の嫌いなところも大事な一部なんだ、って思えたら、自分を好きになれる気がして」

作品への向き合い方も、変わってきたように思う。

「『しなきゃ』じゃなくて『したいな』と思うものを、作るようになってきました」

世の中に評価されるものではなく、自分が表現したいと思うものを、優先できるようになった。

「『映画を撮る』『物語を作る』って使命だけじゃなくて、自分を生きる時間があってもいいんだなって」

「彼に肯定してもらえたことで、やりたいと思うことを自分で肯定できるようになりました」

人から否定されることの多い人生だったかもしれない。
でも、今は、全力で肯定してくれる人が隣にいる。
だから、私は自分の思いを信じ、思い描く理想を目指すことができる。

あとがき
明日香さん、なぜかしら? が浮かぶ不思議な魅力。大人の顔色をうかがう子どものような目線がとんだと思えば、しっとりとした色気ただよう視線を流す■ただいまクランクアップに向けて奮闘中。物語を創り、映画を撮る。それはどんなプロセスなのか、とても興味がわいた■嘘と本当、光と影も・・・ 脚色せずにつかむ? 明日香さんにとっては、どちらも同じ?? きっとこうかな??? 誰かの気持ちを気にしながら、ただの一日もどの一瞬も見過ごさない。(編集部)

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