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「在日台湾人」で「ゲイ」という二重のマイノリティ、それでも日本で生きていく【後編】

「在日台湾人」で「ゲイ」という二重のマイノリティ、それでも日本で生きていく 【前編】はこちら

2017/07/22/Sat
Photo : Taku Katayama Text : Mana Kono
劉 靈均 / Ariel Ling-chun Liu

1985年、台湾生まれ。高校生の時に自身がゲイだということに気づく。27歳までを台北市で過ごし、国立台湾大学日本語文学系修士課程を修了後、高校と大学での非常勤講師を経て、2013年に日本へ渡る。現在は、神戸大学大学院人文学研究科博士後期課程に在籍。専門は台湾セクシュアル・マイノリティ文学や植民地文学。関西とアジアのLGBTを繋げる団体「関西同志聯盟」共同代表。

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INDEX
01 小さい頃から「ジャパオタ」だった
02 絵に描いたような文学少年
03 自分はゲイなんだ
04 いじめられっ子から一転して、学生のリーダーへ
05 大学院生と非常勤講師の二重生活
==================(後編)========================
06 日本への留学を決意
07 在日外国人として生きること
08 日本と台湾で、LGBT問題はどう違う?
09 マイノリティだからこそ見える社会
10 人種で差別され、セクシュアリティでも差別される

06日本への留学を決意

生徒たちへのカミングアウト

非常勤で教えている高校の生徒たちは、自分のことをとても信頼してくれていたし、なかなか人に言えないような悩みも話してくれた。

でも、自分は彼らにセクシャリティを隠したままだ。

フェアじゃない状態で、このまま接していていいのだろうか?

徐々にそう考えるようになっていった。

「それで、2012年のちょうどIDAHO(国際反ホモフォビア&反トランスフォビアの日)だった日に、学生たちにカミングアウトしたんです」

学校には事前の断りを入れず、ある種ゲリラ的に教壇に立った。

「多分、事前に言っていたら止められていたと思いますね」

思い切った決断だったが、生徒たちはごく当然のように受け入れてくれた。

もともと生徒たちとは仲がよかったからか、下手に気を遣われることもなかった。

逆に、「ゲイって、BL漫画の登場人物みたいにみんなかっこいいものだと思ってた。先生はかっこよくないけどゲイなんだね(笑)」と、いじられてしまったほどだ。

「それを言われた時は、さすがにショックでしたわ(笑)まあ、生徒とは距離が近かったし仕方ないですね」

カミングアウトから1週間、校内ではピンクのTシャツを着て過ごした。

また、「セクシュアリティに悩んでいて、もし相談したいことがあったら、いつでも話しにきていいからね」と伝えたことで、相談にやってくる生徒たちも増えた。

「LGBTの話に限らず、生徒からさまざまな相談を持ちかけられることが増えました」

「私がカミングアウトをしたことで、生徒たちも今まで以上に心を開いてくれたんだと思います」

不安定な仕事は続けられない

修士課程を修了してからも、1年ほどはそのまま非常勤講師として働き続けた。

「先生の仕事は楽しかったですけど、本当は文学関連の仕事、たとえばコピーライターになりたいと思っていたんです」

しかし、いくら文学が好きだからといって、それで生計を立てていくのは難しい。

だから、ひとまずは食ぶちを稼ぐために、教師の仕事を続けようと思ったのだ。

「その時は週30時間くらい働いていました。でも、結局体を壊して入院してしまったんです」

週30時間という数字だけでは想像しにくいかもしれないが、職場をいくつも掛け持つ非常勤からすれば、相当にハードなスケジュールだ。

生活のためとはいえ、こんなに無理のある生活を長くは続けられないだろうと思った。

「それに、常勤だったら体を壊して休んでも有給を使えたり手当をもらえたりするんですが、非常勤にはそういう保障もないんです」

入院中、一切収入がなかったことも身にこたえた。

「それもあって、余計にこのままじゃダメだと思いました」

修士止まりではなく、ちゃんと博士号を取ろう。

そのために、日本への留学を決めた。

2013年4月、晴れて神戸大学大学院に入学した。

07在日外国人として生きること

神戸で抱いた疎外感

日本には幼い頃から何度も旅行で来たことがあったし、修士時代にも資料集めで度々訪れていた。

「日本語もそれなりにできたので、日本をいわゆる『外国』だと思ったことはほとんどなかったです」

新宿二丁目には留学中はじめて足を運んだが、それほど大きな驚きもなかった。

「台湾にもゲイタウンがあるので、日本のゲイタウンもあまり変わらないなと思いました。日本の方がお酒の料金が高いくらいですかね(笑)」

「ただ、特に関西には保守的な人が多いからなのか、外国人への風当たりが強いような感じはしていました」

神戸には中華街もあり、中国人が多い。

「街中で中国人の友達と一緒にいる時に、『支那人帰れ』とか、差別的な言葉をかけられたこともあります」

日本人から見れば、自分は単なる外国人なんだろう。

でも、観光客のような普通の外国人よりは日本語が話せるし、日本文化にも精通している。

だから、日本に不慣れな “外国人らしい” 振る舞いもできない。

「私は外国人でも日本人でもない、中間的な立ち位置だったんです」

そうして徐々に疎外感を抱くようになった。

研究や仕事では人と関わることもあったが、プライベートで誰かと交流する機会は減っていった。

日台で感じた政治意識の違い

日本では、個人が政治について語ることはタブーに近い風潮だ。

しかし、台湾は中国との問題を抱えていることもあって、常に政治意識を持っている国民が多い。

もちろん、自分だってそうだ。

「でも、親は私が政治に関心があることを良く思っていませんでした。親の世代では、政治を語ったら逮捕されたり、下手すれば殺されてしまうような時代だったので」

しかし、そうやって「関心を持つな」と言われると、逆に興味が湧いてしまうのが人間の性だ。

「私だけじゃなくて、同じ世代の台湾人の多くは、日本人と比べて政治や社会への関心が高い方だと思います」

「政治について、みんながいろんな意見を持っていることが当たり前なんです」

しかし、関西に住むようになってから、LGBTコミュニティのなかで政治や戦争について語ったことで、周囲から酷いバッシングを受けたこともある。

保守的な人の多い関西と比べたら、東京の方がリベラルな考えの人に出会う機会が多いように思う。

「もちろん、関西の人全員が保守的というわけではないですよ。でも、今付き合っているのは東京の友人ばかり。ちょっとさみしいです・・・・・・」

08日本と台湾で、LGBT問題はどう違う?

台湾はLGBT先進国なのか?

台湾は、アジアではじめて同性婚の合法化が実現するかもしれないということで、現在各国から大きな注目を集めている。

また、台北で毎年おこなわれるゲイパレードも、8万人が集まるという規模だ。

そうしたことで、台湾はアジアの中では「LGBT先進国」といったイメージも強いのではないだろうか。

「でも、『LGBT先進国』と一言では言えないと思いますね。何を基準にしているかによります」

「たとえば、台湾ではトランスジェンダーが性別変更するのはとても難しいんですよ」

しかし、日本と比べれば、街中を歩いていて明らかにゲイやレズビアンだとわかるようなカップルを見かけることは多いだろう。

「特に若い人だと、街中でオープンにしている人も多いですね。ただ、それも都会なら許されるけど、田舎に行くとちょっと難しいかな。それは日本と同じですよね」

「それに、パレードだってどちらかというとデモの意味合いが強いんですよ。台湾にはもともとデモの文化が根強いこともあって、当初は余計にデモの要素が大きかったと思います」

台湾が抱えているLGBT問題

同性婚の法制化についても、あまり楽観視はできない。

「台湾にはLGBTに寛容な人が多いですが、やはり、アンチである保守派の力も強いんです」

「たとえば、富裕層の中にはLGBTにあまり寛容でない人も多いです。お金持ちには、保守派の人が多いんですよね」

経済面以外に、世代や宗教間でも違いがある。

「やっぱり、若い世代の方が差別意識のない人が多いように感じます」

また、キリスト教の福音派も、一般的にはアンチ同性婚といわれている。

「台湾人のうち、キリスト教徒は5パーセントしかいません。でも、信者にはお金持ちの人が多いんですよね。だから、信者数自体は少なくても社会的影響力が強いんです」

そうしたアンチの存在から、台湾のテレビにLGBTタレントが出演することもほとんどない。

LGBTタレントが番組に出ると、大量のクレームが入ってしまうからだ。

「LGBTは表には出られないような風潮なんです。本当はLGBTだという芸能人ももしかしたらいるかもしれませんが、カミングアウトしている人はほとんどいません」

「LGBTの中でも、特にトランスジェンダーは思い思いの格好をして外を出歩くなどはできません」

「だから、その点日本はトランスジェンダーが自由な格好で外を歩けていいなと思いますね」

ほかにも、台湾ならではの徴兵制度についても問題がある。

「私は持病があって免除になったんですけど、軍隊もゲイやトランスジェンダーにあまり寛容ではないですね」

男社会ということもあって、女性性が強いといじめのターゲットにされてしまうのだ。

09人種で差別され、セクシュアリティでも差別される

問題は結婚だけではない

「5年間日本に滞在していますが、やはり最近はLGBTの話題がどんどん盛んになってきていると思います」

「でも、今は同性婚にばかり話題が集中しているように感じます。結婚だけが、LGBTの抱えている問題というわけではないですよね」

同性婚が実現したとして、貧困や学校でのいじめといった問題はどうなるだろうか。

もちろん、同性婚が認められることも大事だ。

しかし、教育問題のような基本的な問題についても、もっと積極的に取り組む必要があるのではないだろうか。

二重の差別問題

在日の外国人として、日本で暮らしていて肌で感じ続けた問題もある。

「LGBTの在日外国人の多くは、四方から見て見ぬふりをされていると思うんです」

「『東京は自由だ』と話す在日外国人もいましたが、私は東京にいても不自由だと思っています」

「なぜかというと、同じルーツを持つ人同士で、グループを作って固まっているんですよ」

たとえば、新大久保の在日コリアンコミュニティなどが有名だろう。

しかし、それらはとても小さなグループのため、仮に「誰かがゲイだ」と噂が立てばすぐに広まってしまう。

そして、在日コリアンだけではなく、在日華僑や台湾人などのエスニックコミュニティにおいても、LGBTは阻害されてしまうのだ。

日本人には「外国人」だと差別され、同じルーツを持つ人には「LGBT」を理由に差別される。

LGBTの在日外国人には、二重の差別問題が存在しているのだ。

「たとえば、日本人のLGBT団体でも、ゲイへの差別はないのにレイシズムは持っているという人が意外と多かったりします。あれはとてもつらいですね・・・・・・」

「なので、日本のLGBT団体の人たちにも、もっと外国人や外国にルーツを持つLGBTの存在を見てほしいなと思っています」

「私より大変な思いをしている人も、たくさんいるんです」

10マイノリティだからこそ見える社会

どうせ差別されるなら

「そもそも、日本人の言う『外国』って、ほとんど欧米しか指してないんですよね(苦笑)」

「外国人と結婚したい」と言う日本人も、きっとほぼ欧米人しか眼中にないだろう。

自分たち台湾人、アジア人たちは「外国人」ですらない。「野蛮人」に近い捉え方をされていると感じることもある。

ゲイというだけで差別の対象になりやすいのに、日本にいると国籍のことでも差別される。

「どうせ差別されるなら、生まれた国のことよりもゲイとして差別される方がいいじゃんって思ったんです」

「どうせ差別されるなら、もうちょっと声を出して、社会に訴えていこうと思うようにもなりました」

自分だからこそできること

博士号を取得してからも、日本に残りたいと思っている。

幼い頃から触れてきた日本の文化は好きだ。

「でも、今の日本社会はあまり好ましいとは思えません」

「日本の嫌いなところだってありますよ。もちろん優しい日本人もいますけど、優しくない人だってたくさんいます」

外国人でLGBTという特殊な存在だからこそ、見えてくる日本社会がある。そして、日本人自身はそれにあまり気づいていない。

「だから、もっと声に出していきたいんです。日本にも外国人のLGBTがいるということを広めたいし、それが私のやるべきことなんだとも思います」

台湾でLGBT活動をしている台湾人や、日本でLGBT活動をしている日本人はたくさんいる。

でも、日本でLGBT活動をしている台湾人は、自分のほかには少ないだろう。

「だから、今の日本には自分が必要なのかなって思ってます。あんまり偉そうなことは言えないですけどね(笑)」

あとがき
日本通、台湾通と言われる劉さんは「どちらの代表でもない」という。エントリーメールからずっと、とても洗練された日本語で伝えてくれる。関西弁の軽快さに載せて出てくる言葉の印象よりも、実際はずっとシャイな劉さんだった■「自分の目からしか物事は見れない。自分の見えることは限られている」確かに。でも、見えるものすら真実ではないことがあるから難しい。せめて固定観念が根を張っている自分に気づきたい。一度取り払えたら、少しは広がりそうだ。(編集部)

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