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3女1男の母だけど、パンセクシュアルでよかったと思う。【後編】

3女1男の母だけど、パンセクシュアルでよかったと思う。【前編】はこちら

2018/11/03/Sat
Photo : Tomoki Suzuki Text : Kei Yoshida
吉野 愛 / Ai Yoshino

1978年、埼玉県生まれ。物心ついた頃から、いつも誰かに恋しているような恋多き子だった。中学生の時に、男性だけでなく女性に対しても明確な恋心を抱いている自分に気付き、やがてパンセクシュアルであると自覚した。23歳で現在の夫と結婚。3女1男の母として、賑やかな毎日をパワフルに送っている。

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INDEX
01 4人の子どもの母として
02 自分の体を知る大切さ
03 恋をするって楽しいこと
04 「どうせ男なんて」
05 援助交際の先にあったもの
==================(後編)========================
06 結婚相手は “普通の人”
07 お母さんはパンセクシュアル
08 全員に認められたいわけじゃない
09 自然に性を語れる世の中に
10 性に悩む子どもを受け入れたい

06結婚相手は “普通の人”

オープンに話しても引かない夫

二十歳の時、男とは続かない、どうせ男なんて、という考えに終止符を打つ人物が現れた。

現在の夫だ。

お互いに彼氏彼女募集中ということで、知り合いを通じて連絡先を交換し、初めて会った時から好印象だった。

「この人とは続くかなって思いました」

「本当に “普通の人” なんです。何でもオープンに話す私に『変わってる』って言うくらいで “普通” です」

「でも、きっと好奇心旺盛なんでしょうね。私のような “変わってる” 人と結婚するなんて(笑)」

夫と付き合い始めた時、オープンにセックスの話もした。
今までの恋人は引いてしまうところを、夫は引かなかった。

付き合いが深まっていくにつれ、女性と付き合っていたことも話した。

やはり引くことはなく、「へー、そう言う人もいるんだ」という反応だった。

「きっと未だにちゃんとは理解していないと思います。『同じものが付いてて何がいいの?』って言ってたりしますし(笑)」

「普通が一番いいんだよ、なんて言われた時には、『あなたの “普通” と私の “普通” は違うの!』って喧嘩したりもしました」

肌が合うのは大切なこと

付き合っている時に、一度だけ浮気を疑って、別れを切り出したことがあった。

別れてしばらくは、他にいい人がいないかと探しもしたが、結局見つからず、その間ずっと待ってくれていた夫の元に戻った。

そして、23歳で結婚。
長女を授かった。

「実は私、長女が産まれるまでは子どもが苦手だったんですよ。実家には年の離れた姉がいるだけで、赤ちゃんと接する機会もなくて」

「電車に乗っていて、泣いている赤ちゃんに出会っても、『うるさいなぁ』くらいしか思っていなかったんですが、主人と付き合っている時に『この人の子がほしいなぁ』って思ったんです」

「でも、結婚を決めた時に、主人が『子どもは3人くらいいたらいいよね』って言った時は、『え、3人も産めないよ』って感じでした」

「4人も授かるとは・・・・・・。想像してもいませんでした(笑)」

以前は、男性とは1ヶ月も続かなかったのに、夫との付き合いが始まってからは、もう20年が経つ。

長続きした理由は何だろう。

「肌が合うってことでしょうか。それって、とっても大切なことだと思います。うちは、セックスレスとかにはならないですね」

07お母さんはパンセクシュアル

「男でも女でもどっちでもいいんだよ」

高校生になって、自分は男性も女性も好きになれるのだと自覚する。

信頼できる友だちにはカミングアウトしていた。

「友だちには、『女の子のことを好きになるのはいいけど、告白はしないほうがいいよ』と言われていました」

「きっと、その恋は叶わないだろうからって・・・・・・」

夫には結婚する前に打ち明けた。

しかし、両親と姉には言えないままだ。

「母はちょっと堅いタイプの人なので、そう言うのは理解してもらえないかなって思っていて」

「姉も15歳離れているので、姉というよりも、もうひとりの母って感じで」

「でも、子どもたちには伝えているんです。伝えているっていうか・・・・・・」

「家族でご飯を食べている時に主人が『ママは、男でも女でもどっちでもいいんだよ』って言い出して」

「どんな話の流れだったかは忘れちゃいましたけど、そういう感じで、サラッと言われたんですよ(笑)」

当時中学3年生だった長女も、小学6年生だった次女も、ちょうど思春期だったため、とても驚いたはずだ。

オープンに話すので話してほしい

「女の人と付き合うのも男の人と付き合うのも一緒だよ、て説明しても、娘たちは『女同士なんて、ちょっと想像できない』って言ってましたね」

「小学2年生の長男は、男友だちが大好きなんで、『男と暮らすの楽しそう』って言ってました(笑)」

子どもたちの反応はさまざまだ。

こう思ってほしい、こう考えてほしい。
親の希望は押し付けず、自分の経験や考えをオープンに話すことで、子どもたち自身で感じ、考えてほしいと思っている。

そして、逆に、子どもたちにも気持ちをオープンに話してほしいと願う。

「子どもたちから、女の子らしくないことを母親から禁止されているボーイッシュな友だちの話や、同性の先輩に憧れている友だちの話を聞くにつけ、もしや・・・・・・と思うことがあります」

「もしも、その子たちがセクシュアリティで悩んでいるようなら、いつでも話を聞いてあげたいと思っています」

自身のブログで、セクシュアリティのことも性教育のこともオープンに書いている。

仲のいいママ友にもカミングアウトしている。

自分がカミングアウトしたことで、なかには同じパンセクシュアルの人もいると知った。

しかし、世の中には、性のことを話題にするだけでも眉をひそめる人もいる。

子どものセクシュアリティを決めつけて強制する親も。

親に話せないならば、代わりに話を聞いてあげる存在でありたいと思う。

08全員に認められたいわけじゃない

戦うつもりも押し付けるつもりもない

自分のセクシュアリティについても過去の出来事も性教育のことも、ブログやセミナー、会話においてオープンにしている。

つまり、家族や友だち以外にもその情報をキャッチできる人がいるということだ。

そんなことを他人に言うべきではない、ましてや子どもに言うべきではない、と嫌悪感を示す人もいるだろう。

「今までにセクシュアリティについて悩んだことはない」と言っているが、非難を受けたことが一度もなかったわけではない。

「SNSで情報の拡散も行なっているので、ブログを読んでくださっている人だけでなく、SNSでつながっている人にも情報が届いています」

「そのなかには、私が性的マイノリティであると言うことだけでなく、母親なのに過激な内容を発信していることを『ありえない』と言っている人がいると、人づてに聞いたことはあります」

しかしそれは、不特定多数に向けて発信する立場として、想定できていたことだ。

「私は、どういう風に思われても、言われても、構わないと思っています。全員に認められるために発信しているわけではないので」

「もしも、反対意見をぶつけてくる人がいたとしても、私は戦うつもりはありません」

「私がやっていることは、決して悪いことだと思わないけど、相手に押し付けようとも思ってないから」

さりげない夫の理解

いろんな考え方がある。

自分の考えに同意してくれる人もいれば、反対する人もいる。
それは、当たり前のことだと受け止める。

ブログやセミナーは、積極的に情報を求めてやってくる人が読んでいるので、肯定的な反応が多いだろう。

しかしSNSは違う。

知り合いの知り合いが、うっかりとその人の意にそぐわない内容の投稿を読んでしまうことは珍しくない。

「私の発信を嫌だと思う人がいるのなら、読まなきゃいいじゃんって思います」

「共感できたり、役に立つと思うなら読んでくださればいいなと」

そんな自分を、夫は応援するでもなく反対するでもなく、ただ側で見ている。

「私がブログをやっているのは知っていると思うけど、ちゃんと読んではいないんじゃないかな(笑)」

「活動に関しては、興味がないのか、何も言ってきませんね」

興味がないのか、一歩引いて見守っているのか。
どちらか分からないが、フラットな視線で見ているのは確かだ。

「男性向けのセミナーをするときだけは心配してますけどね。男性相手に性の話をするなんて、セクハラとか大丈夫か? って(笑)」

「でも、活動自体に反対することはありません。家のことをちゃんとやってから出掛けてねって言ってくるくらい」

「家のことも、休日の料理は主人がやってくれています」

きっと、さりげない夫の理解とサポートが、私の支えとなっている。

09自然に性を語れる世の中に

パンセクシュアルでよかった

これまで好きになった相手は、ストレートの男性もいればストレートの女性もいて、レズビアン、インターセックスの人もいた。

自分はバイセクシュアルというよりもパンセクシュアルなのだろう。

「ある日、主人に言われたんですよ。『どっちでもいいんだから、いいよな』って。それで、確かにそうだなって(笑)」

「だから『1粒で2度美味しいよ』とか『チャンスは2倍ある』って返しておきました(笑)」

しかし、パンセクシュアルであれば2度や2倍どころではなく、恋ができる可能性があるということだ。

「そう考えると、パンセクシュアルでよかったなあって素直に思います」

このパンセクシュアルという言葉自体も、ここ数年で一般に知られてきたことだ。

LGBTを取り巻く環境は変化し続けている。

「新宿二丁目も随分変わりましたね」

「とても明るくオープンになりました。高校3年生の時に友だちと潜入した時は、ちょっと怖い感じで」

「通りにはゲイの人は歩いているけど、女性はほとんどいなくて」

「付き合っていた人に教えてもらったレズビアンバーに行って、ふたりで怯えていました(笑)」

街の変化は人や社会の変化

街がオープンになったのは、LGBT当事者自身が、周囲に向けてオープンになってきているということを表しているとも言える。

LGBTという言葉の認知度も上がり、アライの数も増えた。

セクシュアリティをオープンにしやすい社会になりつつあるということなのだろう。

しかし、まだカミングアウトはハードルが高いと感じる当事者も多い。

全員に認められなくてもいいとは言えても、大切な人にカミングアウトした結果、相手に受け入れられないのは誰でも怖いはずだ。

「みんながカミングアウトしなくてもいいと思うし、カミングアウトするしないは自由だと思うけど」

「もしもオープンにしようと思った時に、肩に力を入れずともできるようになればいいなと思います」

「もっと自然に、どんなセクシュアリティの人であっても、日常の会話のなかで、恋人とか恋愛の話をできたら楽しいのに」

かつての恋人のなかには、カミングアウトせずクローゼットのままの人もいた。

セクシュアリティが同じだとしても、環境や性格、社会的立場などいろんな理由でオープンにしづらいこともある。

社会の変化には時間がかかるかもしれない。

しかし、少しずつ誰もがオープンに生きやすい環境になってきていると信じたい。

10性に悩む子どもを受け入れたい

オープンに話せる場をつくる

誰もがオープンに生きやすい社会になりつつあるとしても、いまはまだ十分ではなく、あと何年かかるかも分からない。

しかし、そんななかでもセクシュアリティに関する悩みを抱えている人は確実に存在する。

では、今、どうすればいいのか。

「自分だけで悩みを抱え込んでいると、そこから抜け出すのは難しいと思うんです」

「相手が抱えている悩みを解決してあげるのは大変だけど、話を聞くことは誰でもできるのかも」

「悩んでいる人が、オープンに話せる場が必要だと思います」

自らが性についてオープンに話すことも、相手がオープンに話せる場をつくる一歩だ。

「お母さん向けのセミナーで、ゲイのペンギンのカップルが子育てをする『タンタンタンゴはパパふたり』という絵本を読んだり、私の実体験を話たりすることで、周囲の理解が深まればと」

「もし悩みを抱えている子どもがいたら、家庭で受け入れられたら一番いいのでしょうけど、必ずしも受け入れられる親ばかりじゃないのですよね」

誰もが子どもの悩みの受け皿になれるよう、広く多くの方に知ってほしい。

現在、LGBTやアレルギーなど、マイノリティのための居場所づくりやプロジェクトを企画中だ。

素直にそのままを受け入れること

テレビでオネエタレントを見かけない日はない昨今。

LGBTの認知度は高まっているはずなのに、まだ多くの親が自分の子どもがLGBT当事者かもしれないという可能性に気づかないままだ。

「セミナーに来てくださる方は、『息子が彼を連れて来ても大歓迎!』と受け入れられる人が多いんです」

「でも、そんな親ばかりではないし、言いたいのに言えないままの子どもはたくさんいると思います」

「そんな埋もれたままの子どもたちを引っ張り出してあげたいです」

自分も親にはカミングアウトできなかった。
でも、友だちには話すことができた。

親に言えなくても、誰か話せる相手がいれば、きっと救いになるはずだ。

「社会は一気にひっくり返らない。だからちょっとずつ、話を聞く場を増やしていきたいです」

そして、そんな風に考えられるようになったのは、自分の子どもたちにいろんなことを教えてもらったからだ。

「一番下の子なんか、お姉ちゃんたちのお下がりばっかりで、私たち大人から見たら、あんなボロを着てかわいそうにって感じなんですよ」

「でも、この前もお姉ちゃんから破れかけのプールバッグをもらって、『私のプールバッグだ! ヤッタァ!』って大喜びしてて(笑)」

「子どもの感じ方を、親が勝手に決めつけちゃダメですね」

「子どもは素直にそのままを受け入れてる。ほんと、子どもたちから教わることは多いです」

経験が増えると、判断が早くなり、危険回避も上手くなる。

しかし先入観が生まれ、すべてをそのまま受け入れるのが難しくなる。

「子どものように素直にそのままを受け入れること。それが誰に対してもオープンに自分を開き、相手を懐に迎え入れることなんだと思います」

あとがき
自分の感覚に素直で、画像のままの自然体、愛さん。気負いのない雰囲気は、きっと誰といても変わらないだろう。ご主人のことを何度も“ふつうの人” と。マイノリティがテーマになると使いにくい[ふつう]だけど、愛さんがおもう感覚で話す■「どんな経験もむだではない」と言えるのは、何をしたか、しなかったかの事実よりも、愛さん自身が見出した価値が添えられる時間になっているから。他人と戦うことや比べることに意味はないんだ。(編集部)

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