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主婦になり子育てする。妥協せずに自分の幸せを追い続ける【後編】

主婦になり子育てする。妥協せずに自分の幸せを追い続ける【前編】はこちら

2017/01/06/Fri
Photo : Taku Katayama Text : Junko Kobayashi
阿部 裕太朗 / Yutaro Abe

1990年、東京都生まれ。小学校の時、両親が離婚。忙しい母親にかわり、おばあちゃんに育てられる。幼少期は、古い価値観での子育てに、それが本当に幸せなのか、問い続けた。お菓子作りが大好きで、高校は製菓の高等専門学校に進学。現在は武蔵小金井のカフェ「シャトー2F」の店長をしている。また、イベントのフードコーディネーターとして招かれるなど、幅広く活躍している。

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INDEX
01 おばあちゃんの子育て論
02 幸せって何だろう
03 集団生活になじめない
04 愛読誌は「すてきな奥さん」
05 自分らしくいられるのは、どこ?
==================(後編)========================
06 なりたい職業は主婦
07 妥協しない人生を見たい
08 子育てに対するこだわり
09 個人主義がふえれば変わる
10 Xジェンダーとして生きる

06なりたい職業は主婦

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自分のやりたいことがかなう

小学校の時に生まれたいとこの世話をしていて、子どもが好きだということにも気づいた。

「いとこといるのが楽しくて仕方なかったんです。かわいい子どもと触れ合えて、ごはんを作れて、お誕生日などのお祝いもしてあげることができる。そんな生活いいなぁと思ったら、主婦という仕事が浮かんだんです」

自分のやりたいことが全部できるのが主婦。

愛読誌の「すてきな奥さん」にでてくるような主婦になりたい。好きなことと職業がスムーズにむすびついた。

そんな時、専門学校で、将来の目標を書かされた。

「パティシエとかパン職人を目指す友達が多い中、自分がなりたいのは主婦と書きました。そうしたら先生に書き直しを命じられたんです。主婦は職業ではないからダメだというんです」

自分の夢がかなう職業を、なんとしても認めて欲しく先生と口論になる。

「主婦の仕事を金額換算した資料を持っていったり、アンケートの職業欄に主婦とあるじゃないかと主張したり。先生の奥さんは無職なの、と最後は言い争いです」

それでも主婦と書くことを認めてもらえず、仕方なくカフェをやりたいと書いた。

この時、自分の気持ちを曲げてしまったことは、今でも悔しいような気持ちが残っている。

今でも忘れられない。

主婦は女性しかできない?

今でこそ、「主夫」という言葉が登場し、男性が家事や育児をすることを驚かなくなった。

しかし、自分が主婦をしたいと思った頃は、主婦は女性がやるのが一般的だった。

「高校生の頃は、主婦になりたい一心で、女性になるにはイソフラボンだ!と思って、豆乳ばかり飲んでた時もありました。ホルモン治療についてを調べて、痛そうだから無理と思ったり」

今でも、ごはんを作ったり、家のことをしている主婦に会うと羨ましくて仕方ない。

主婦の愚痴を聞くこともあるが、主婦ができない自分からしたら、主婦ができるだけで幸せ。

「たとえるなら、自分はお腹がすいて死にそうな子ども。主婦をしている人の辛さは、食べすぎて胃もたれしている感じ。自分はまだ何も食べていない。とにかく主婦を体験させてくれ、という感じなんです(笑)」

高校卒業後の専門過程の時代に不本意に書いた「第2の夢」の通り、カフェの店長をするようになった。

「たまたま任されたカフェが子どもが多く訪れて、保育士にならなくても子どもと触れ合う機会もあるし、ごはんも作れるしラッキーと始めたんです」

「でも、主婦とは違うんです。自分がやりたいのは、家でごはんを作り、子育てをする主婦なんです」

保育士になれば子どもと一緒にいられるかもしれない。

でも、保育園で子どもの成長を見守るのと、家庭で育てるのは次元が違う気がする。

「カフェに来る子どもと一緒に遊んだり、親子と一緒に出かけたりしますが、何か物足りないんです。やはり生活の中に、子どもがいて欲しいんです」

カフェも、できるだけ家庭的な雰囲気に近づけたいと思っている。

でも、仕事は仕事。

主婦とのギャップを感じざるをえない。

「家事をやりつつ、ちょっとした時間をつかい仕事をしている主婦の人っていますよね。そんなスーパーママに憧れるので、カフェの仕事はそんな人たちに近づくための試練なのかな」

07妥協しない人生を見たい

自分の気持ちに正直に

現在26才、周りはは結婚、出産ラッシュだ。

「結婚する報告を受けたり、子どもを産んで幸せそうな写真が泉のように湧いてきているんです。もちろん幸せそうな顔をみて、おめでとうって思うんだけど、その後の取り残され感がすごい」

「子どもが欲しいのに授からない。そんな自分は『社会的に不妊な状態』って思ってます」

ふと、女性と結婚して子どもを産んでもらおうか考えてしまう。

「でも、先々を見た時、絶対に誰かが不幸になりそうで怖いんです。好きでもない女性と結婚しても、DV夫になりそう、とか。お前なんて好きじゃない、子どもが欲しいから結婚しただけとかいつか言ってしまいそう」

結婚して子どもがいる家庭で、夫から実はXジェンダーと告げられた女性の記事を読んだ。

「それまで夫婦でありながら、偽って生活していたことに奥さんがショックを受けるんです。やっぱりなあ、とその奥さんの気持ちを想像すると同時に、自分を偽って社会に溶けこもうとすることのしんどさにショックを受けました」

「自分の気持ちをごまかしてまで生きるのは、何かが違うんです。誰も幸せにならない・・・・・・」

好きなことはお料理や、子ども。

なりたいのは主婦。

妥協した先に、自分らしい人生があるとは思えない。心が折れそうになると、色々な人のメッセージに励まされる。

最近好きな、カナダの映画監督グザヴィエ・ドランもその1人。

「おしゃれで格好良くて、映像がもの凄く綺麗。しかも、セクシュアリティを堂々とオープンにして活躍している。彼の作品を観たとき、丸まって流されているだけでは何も変わらない。自分らしいかたちで訴えかけて生きなさい、と言われた気がしたんです」

ずっと反抗期

社会の枠組みにおさまる方が簡単だと思う時もあるが、常に自分の気持ちと向きあってきた。

「おばあちゃんや母親は、何かを犠牲にしながら生きている感じなんです。したいようにすれば良いのに、その時は我慢して後から『こうしたかった・・・・・・』と言う」

身近な人の生き方を見て、流されない人生を選択した。

「おばあちゃんが自分に言う幸せは、自分のためを思ってくれているというより、多分それしか知らないから、それを押し付けることで安心してるんじゃないかなと思います」

おばあちゃんが言うことを素直に聞くことが、自分の幸せではないとわかっている。

「だからと言っておばあちゃんに反抗して、激しく言い争ったことはないです。おばあちゃんの言うことは、一応聞きますが流しちゃいます」

激しく抵抗して傷つくのではなく、身を任せているようで自分を失わずに生きている。

「年配のゲイの方には、偽装結婚という形をとっている人もいると聞いたことがあります。でも、世の中に受け入れられなかったという理由はあるとしても、社会の観念に屈するより、自分の人生が大事じゃないのかな?って思います」

「やはり妥協すると、わかるんです。そこを妥協しちゃうと冷めてしまうんです。そういう意味では、子どもの頃からずっと反抗期みたいなものですね」
行動する前に常に考え、直情的にならないタイプ。

そのせいかずっと抵抗していながらも、しなやかに自分を貫いて生きている。

08子育てに対するこだわり

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理想は養子縁組?

興味があるのは、田舎で自給自足をして子育てすること。

「クラブで夜はっちゃけるとかその時は楽しそうだけど、なんだか刹那的だし。地方でジャムを作って都会に売る。そんな生活をしながら子育てするのって楽しそう」

実際に移住を決断できないのは、地方のLGBT環境への不安から。

移住したら、子どもを産んでその地域を活性化することを求められる気がする。

「地方には、私のおばあちゃんより、もっとパワフルなおばあちゃんがいて、『嫁がいないならうちの娘を紹介するから早く結婚しろ』とか言われそう。でもそんな期待に応えられないから、移住なんて言い出さない方がいいかな」

アメリカのゲイカップルが、養子縁組(オープンアダプション)をした本を読んだ。

「養子縁組(オープンアダプション)っていいなぁと思います。日本はひっそりした処理的な感じだけど、どうしても子どもを育てられない母親がいたら、育てられる人がその子どもを預かって育てる方が自然だと思うし、幸せな家庭と産んだ母親が幸せで前を向ける仕組みが、少しでも増えたらいいな、そんな気持ちです」

血縁があることにはこだわらない。

遺伝的に自分の子どもであることにこだわると、女性に負担をかけてしまう。

「女性に産むという役割を丸投げしているようで、それは嫌なんです。それなら子どもを育てられなくて困っている母親からバトンをパスしてもらう方が、幸福なリレーができるんじゃないかな」

子どもの幸せが一番

母親は本来強い人だが、精神的にまいって薬を飲んでいた時期があった。

「その時『私、薬飲んでるから・・・・・・』と言われ、母親もつらい中で頑張っているなら、自分も頑張らないといけないとは思ったんです」

「でも、今は何か違うなと。私も頑張っているからあなたも頑張っては、子どもを前向きにはしないんです。逆に、足を引っ張るんじゃないかな」

小さい時、学校で何かの賞をとった時の母親の淡白な反応を思い出す。

「『ああ良かったね』くらいにサラリと言われてしまい、もっと褒めて認めてと思ったんです」

子どもはちょっとしたことで嬉しくもなるし、傷つきもする。

カフェに来店する親子の様子が気になるし、街中で母親が子どもを叱っていると、つい耳を傾けてしまう。

「子どもを1人の人として捉え、尊重しながら育児をしているママに教えてもらっているので『そんな風に言ったら、子どもが自分で考えなくなるよ』って教えてあげたい。子どもと見るか、1人の人間として接しているかで全然違ってくるんです」

「すごく上手に子どもをさとすお母さんもいる。いろいろな親子を見ていると勉強になるんです」

自分の気持ちの真ん中に、子育てを大切にしたいおもいがある。

将来、自分が子育てする時のことをイメージしてしまう。

「カフェのお客さまで、家事をやり、仕事をしてPTAの役員もこなすお母さんがいるんです。活動的で、いろいろな人とつきあう母親がいる家庭は楽しそう。子どもの世界も広がりそうだし、そんなスーパーママがカッコよく見えます」

「でも自分は「母親」という役割をすることはできない。もどかしいですね」

結婚して、子どもを産んで主婦になる。

女性にとっては普通のことが、自分にはできない。

里子を預かる施設で、子どもを預かる体験をする人の募集があった。募集要項で対象となっていたのは夫婦、独身女性のみ。

「見事に男性は外されている。なんだとー!です。男性は子育ての対象じゃないんです。世の中ではイクメンとか言われているけど、実際は全然違う。男性を子育てから隔離している感が、すごいんです」

「FBに憤ってシェアしたら養父に預けたら性犯罪を犯すんじゃないか、みたいな意見もあって、偏見の連鎖が・・・・・・」

「ものすごくしんどい気持ちになりました」

09個人主義がふえれば変わる

子育てしたい人がすれば良い

子育てしたい人が、自分以外の子どもを育てることができにくい社会であることを、問題視されることはほとんどない。

「同性婚の合法化は時間がたてば、いずれ実現すると思います。でも合法化された後に、何ができるか、自分はどうするかを考えますね」

「自分がその制度と自己実現をすり合わせた時に、もしかしたら絶望するような結果かもしれない。例えば、養子縁組の年齢からはみ出てしまったりとか」

「でも、それでも、そのあとに誰かの希望に結び付ければまあ良いか、と思いながらいろいろ企んでます」

「子どもが嫌いなのになんで子育てしなくちゃいけないの、と思っている母親もいる。女性だから子育ては好きでしょ、と安易にむすびつける。そんな考えが本当にいやなんです」

「子育てにも向き不向きがあるので、悲しい事件になるくらいなら子どもを迎えたい人のもとで、受け皿を作ってあげる方がみんなハッピーじゃないかな」

確かに、母親が育てるから子どもが幸せとは限らない。

母親がいやいや子育てしていたら、子どもにもそれが伝わるだろう。

どのようにしても子どもは育つが、どの様に育てたら子供にとって最大限の伸びしろを作れるか。子どもの成長を楽しめる育児ができればいいのにと思う。

「子どもの幸せがなかったら、誰が幸せになれるんだろう。だから、まず大人が幸せにならないと、子どもが幸せになることなんて無理です」

「一番はじめに同性婚が認められたオランダは、国というより個人に重きが置かれているんです。日本も、もっと個人の意思・理念などを尊重できる人たちが増えたうえで、個人主義が形成されればいいのにと思います」

自己実現と言ってはいるが、許容される範囲が限定されているようでつまらない。

その人の幸せを尊重し、容認する社会にすることが、幸せな人を増やすことにつながる。

「同性婚もいいけど、もっともっと可能性が広がればいいと思う。そのためには条件を一度フラットにした方が、いろいろな選択肢が見えてくる気がする」

「人生遠回りをしてきた自分が、どうしたら夢を叶えられるか悩み続けているんです」

自分が踏ん張る

世の中はそう簡単に変わらないことはわかっている。

「でも今、困っていることを解消しないと、次世代も同じことで困り続けることになる。確かに、すぐにできることは限られています」

「たとえ自分が生きている間にどうにもならなくても、自分の姿をみた誰かに影響を与えることができたら嬉しいんです」

“男らしく、女らしく” にあてはまらない生き方があることを、ただ示したい。

「自分のように思っている人がいることを、知って欲しいんです。それをしないと、楽しく死ぬことができない気がして」

「人生終わった時、これで良かったとちゃんと言いたい。まわりの目線に合わせて、自分の幸せの基準を下げていくと、みんな一緒でみんな同じになる。それって、つまらないでしょ」

セクシュアリティについても、今、既存の枠で自分に合うものがない。

「自分はゲイでもクエスチョニングでもないんです。強靭な肉体にすることには興味がないし、早く家庭に入らせてくださいというだけ」

「Xがあるならわかりやすいし、Xジェンダーでいいやという感じなんです。世界が自分に合うように、早く変われば良いと思います」

もしかしたらXジェンダーという分け方すら必要ない、「阿部裕太朗」で良いのかもしれない。

10Xジェンダーとして生きる

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自分らしい家庭をもつ

東京で、Xジェンダーとして生活するのはそれほど難しくない。

「でも男性と結婚して子どもが欲しいといったら、何言っているんだコイツ、みたいになるんです」

「そもそも子どもという、深い話にならないことも多いですし。子どもが欲しい人の集まりに参加すればいいのかもしれないけど、なんとなく気が進まないんです」

働きはじめ実家を出て一人暮らしをするようになっても、おばあちゃんとは2週間おきに会っている。

会うたびに彼女いるの?」と聞かれるが、仕事が忙しいと流す。おばあちゃんは、昔と比べると丸くなってきた。

でもまだ、Xジェンダーであることは言えない。

「そんなことを言ったら、どうやったら治るのかとか、絶対に調べると思うんです。それより、自分が好きな男性と結婚して子どもを得て、全部上手くいったときに『はい、これが私の家族です!』と見せたいんです」

その時のおばあちゃんの反応はもちろん気になる。

でも家庭を持てば、とりあえずおばあちゃんに安心を与えれるかもしれない。

「自分らしい家庭をもつことが、最終的にみんながハッピーになる方法じゃないかな。自分の場合は、どの手段でそれを解決するかが悩み」

「ずっとそうだけど、どの価値観によればいいのか、それすらわからない。前例がないから、自分で作るしかないのかな・・・・・・」

同性婚も、同性カップルが子どもを持つことも認められていない今。

夢を叶える方法をひたすら模索し続けている。

影響力がある人間になる

気づいたら周りには、起業する友人が増えている。

「自分が信じることのために行動する人の輪が広がったら、世の中が変わっていくと思いますね」

少し前から、起業スクールに通いはじめた。

「今は、緩やかな地域コミュニテイの中にあらゆる人がコレクトされてつながる仕組みができないか、考え中です」

他にも関心があることが沢山でてきた。

「赤ちゃん縁組など養子縁組や里親・孤児院などを行う団体は、金銭的にも時間的にもギリギリでやっているところが多いんです。LGBTの人から需要があることを知ってもらい、お金を流す仕組みも必要と思います」

社会に出て仕事を経験し、いろいろな人と知り合った。

学生の頃とは違う視点で、社会を俯瞰できるようになり、自分がやるべきことが見えてきた。

「社会をかえるためには、影響力がある何者かにならなければいけないのかも。そのためにも、自分の気持ちに偽らないことが必要ですね。自分の生き方に100%満足している人はいないと思うけど、自分の人生くらいは納得して生きたいじゃないですか」

あとがき
近しい人の言葉や多数の意見ほど、横には置きにくい−−− 幼いころの試みを真面目に、そして茶化しながら話した裕太朗さん。大人が仕切る世界で意思表示した、小さな抵抗を想像した■初めてお会いした後、裕太朗さんから届いたメッセージには、少し弾んだ空気が添えられていた。「自分の中の希望みたいなもののしっぽを掴んだ気がしています」■自分で承認、決済できる夢はたくさんある。他者が期待する姿より、ずっと確かだ。(編集部)

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