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主婦になり子育てする。妥協せずに自分の幸せを追い続ける【前編】

蓮の花のような人。阿部裕太朗さんと話している時に、そんなイメージを持った。蓮は泥水に根をはり、美しい清らかな花を咲かす。語り口はソフトで、表情は優しく柔らかい。でも、話すとガラリと印象が変わる。とても強い。自分の気持ちに背くことを嫌う芯の強さがある。既存の枠にはまることにあらがい、自身をXジェンダーと称する。どこからそんな強さが出てくるのか。どうしたら自分らしく生きられるのか、聞いてみた。

2017/01/04/Wed
Photo : Taku Katayama Text : Junko Kobayashi
阿部 裕太朗 / Yutaro Abe

1990年、東京都生まれ。小学校の時、両親が離婚。忙しい母親にかわり、おばあちゃんに育てられる。幼少期は、古い価値観での子育てに、それが本当に幸せなのか、問い続けた。お菓子作りが大好きで、高校は製菓の高等専門学校に進学。現在は武蔵小金井のカフェ「シャトー2F」の店長をしている。また、イベントのフードコーディネーターとして招かれるなど、幅広く活躍している。

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INDEX
01 おばあちゃんの子育て論
02 幸せって何だろう
03 集団生活になじめない
04 愛読誌は「すてきな奥さん」
05 自分らしくいられるのは、どこ?
==================(後編)========================
06 なりたい職業は主婦
07 妥協しない人生を見たい
08 子育てに対するこだわり
09 個人主義がふえれば変わる
10 Xジェンダーとして生きる

01おばあちゃんの子育て論

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インドア派の幼少期

東京生まれ。両親、そして妹の4人家族。

「父親は中華料理の先生をしていて、忙しかったのかあまり家にいた記憶はないんです。家で料理をすることもほとんどなかったですね」

「母親はしっかりして強いですけど、女子的なパワーもあって・・・・・・女性というより、女子!という感じです(笑)仕事をしていたので、日中は家にいなかったです。自分がやりたいと思えば、好きにしたらという放任タイプです」

年が1つ下の妹とは趣味が近く、今でも仲良し。

「妹はしっかりしていてますよ。自分がこんなゆるい感じなので、頼りない兄だと思われているんじゃないかな(笑)」

母方のおばあちゃんが近くに住んでいて、たまに行き来する。

小学校では男の子とも女の子とも遊んだ。

「ただ、小さなころから喘息があったので、思いきり走ることができないんです。男の子と遊んでも、疲れるー。という感じ。喘息に加えて肥満もあったので、どんどん丸くなって動かなくなる・・・・・・みたいな(笑)」

自然と家の中で過ごす時間が多くなる。

父親が料理の先生だったこともあり、男の子が料理をすることに抵抗はない。

「小さな頃から包丁も使い、家でお手伝いしていたから料理は好きでした」

そんな生活に変化が訪れる。

はっきり思い出せないが、小学校の頃に両親が離婚。父親が家を出ることになった。

両親の離婚

「衝撃を受けましたね。何が原因なんだろうって。ある日いきなり、あーもう家族じゃないんだって」

なんらかの兆しはあっただろうけど、幼い子どもにはわからない。

突然両親の離婚を突きつけられた気がした。

「それほど険悪な別れではなかったみたいです。離婚後も父親は近くに住んでいたし、私は遊びに行っていたんです。だから、離婚しても2度と会えなくなるわけじゃない、とわかりもしました」

でも、いつでも会える距離に父親がいるとはいえ、父親がいなくなった家で自分が果たすべき役割が変化してくる。

「妹には、お父さんがいなくなっちゃうけど大丈夫だからね、って話しをしました。どこかで自分が励まさないといけない気持ちになっていたのかな」

母親は父親の分も働かなないといけないので、家事をする時間は少なくなる。

おばあちゃんが近くに住んでいたこともあり、おばあちゃんに預けられることが多くなった。

「この頃からおばあちゃんの存在感が増してくるんです。おばあちゃんの子育て論の登場ですよ(笑)」

「男なんだからしっかりしろ、って口ぐせのように言われました。小学校の頃は男の子にケンカを挑んだり、それなりに男らしくしていたかな」

おばあちゃんにしてみると、父親がいなくなり1人になった母親を支える役目を、長男に期待したのかもしれない。

外遊びは好きだったが、中学校になると男子の体格に差が出てくるので、インドア派では体力的にかなわなくなる。

「中学校になると、あれっ?て思うことが多くなりました。おばあちゃんに言われ続けた、『男らしくすること』とのギャップを感じるようになってきたんです」

02幸せって何だろう

お金をかけるのが幸せ?

おじいちゃんは会社を経営していて、母親の実家はどちらかと言えば裕福だった。

ただ、会社の創業時にお金で苦労した経験があるので、おばあちゃんはお金をかけられる生活のありがたさを痛感していた。

「おばあちゃんは、お金をかけることが特別と思っているんです。出前をとったり、デパートで外食したり。買い物をすることにも喜びを感じる世代なんです」

母親も何でも新しく買いなおせば良いと思っていた。

恵まれた環境だが、世の中は物を大切に使い、ハンドメイドがもてはやされる時代に変わりつつあった。

「そもそも幸せの考え方が違うんです。おばあちゃんは『男は大学を卒業して、働いて、結婚するのが幸せ』と信じてうたがわない。でも、そんな生活が本当に幸せなのかって、問うようになったんです」

おばあちゃんの考え方が偏っているわけではない。男の幸せは大学を出て、就職して家庭を持つこと。

たしかに多くの人が、それを目指して生活しているのもわかっていた。

「でも、自分は何かが違うと感じていたんです。だからと言って、何が幸せかわからない」

そんなモヤモヤを抱えていた頃、妹の友人宅に遊びに行く機会があった。

手作りのバースデーケーキ

ある出来事が、その後の人生に大きな影響を及ぼすことがある。

小学校の時に、行った妹の友達のお誕生日会。

家事が得意な友達のお母さんが、訪れた自分たちを手料理でもてなしてくれた。そして、出てきたのはお母さん手作りのバースデーケーキ。

「うわーって、衝撃です。ケーキはお店で買うものと思っていたので、家で作れるんだって。誕生日のお料理もお母さんが作る家があるんだって、本当にびっくりしました」

中学校に持っていくお弁当は作ってもらっていたし、日々のごはんも家で食べていた。

「全く料理をしない家ではないんですが、特別な日の食事は買って済ますのが普通でした。母親が働いていたので仕方ないかもしれないけど、誕生日にケーキを焼き、ごちそうを作ってくれる家は幸せだなって、思ったんです」

そして、そんな母親像が憧れになる。

「家庭的な母親や奥さんが欲しいのではなく、自分が母親のようになって、そんな家庭を作りたいと思ったんです」

友達が家に遊びに来た時、家にある食べ物でもてなしたことがある。

「同級生に、おまえ、お母ちゃんみたいだなって言われ、なんだか嬉しかったです」

冗談で言われたかもしれないが、お母さんみたいと言われた喜びは大きかった。

03集団生活になじめない

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出席は美術と家庭科だけ

中学校になると、個性より団体からはみ出さないことを求められるようになった。

「あれっ?て、感じです。みんな同じでないといけないという雰囲気が、とにかく苦手。個々人の付き合いは大丈夫なのに、団体になったときにかもし出す空気が嫌だったんです」

学校に行きたくない気持ちが強くなり、だんだんと欠席する日が多くなる。

「出席するのは美術と家庭科のみ。美術と家庭科の先生って、ちょっと変わっているじゃないですか。だからこの2教科はおもしろかったですね」

母親は仕事で忙しいこともあり、特に干渉してこない。イメージとしては、姉のような存在。

「不登校気味の孫を心配して、登校時間におばあちゃんが家にやってくるんです。自分はおばあちゃんが来ることを知っているから、タイミングを見計らって家をちょっと出る。そして、おばあちゃんが帰ったことを確認して、家に戻っていました」

おばあちゃんが母親だった。

「誰に育てられたか考えると、母親ではなくおばあちゃんの顔が浮かんできます」

おばあちゃんの期待に答えたい、望む人間になりたいと思うのだが、気持ちがついていかない。

初恋の相手は男の子

中学校になると、男子はゲームをしたりプロレスごっこ、女子はませた会話をする。

小学校にはなかった、セクシュアリティによるグループ行動に戸惑うようになる。

「男子とサッカーやゲームをして遊ぶのは大丈夫だけど、男子の荒さとか、女子の前で男ぶることに、どうしてもついていけなかったですね」

集団になると男性化する男子たちに、どこか違和感があったのかもしれない。

そして、自分自身に対してもモヤモヤしたおもいを抱えていた。

「実は、小学校終わりくらいから体育の水泳の時間に、同じ部屋でいっせいに着替えをすることが嫌だったり。体重測定の時になぜか胸をかくしたり、自分の性別がどこにあるかわからなくなっていたんです」

そんな頃、心がときめく経験もする。

「ちびまる子ちゃんにサッカーが好きな少年が出てくるじゃないですか。そんな感じのサッカーが上手なスポーツマン。男子たちから一目置かれている、自分にないものを持っている男の子でした」

授業をサボって一緒にいたり、自分は全然わからないプロレスの話しをしたり。

はたから見たら、仲が良い男子同士だっただろう。

「小学校では、可愛いと思う女の子もいました。女の子を守らないと、と思うこともあったんです」

しかし中学校に入ると、男子化する自分に嫌悪感を抱き、男子にひかれる自分がいた。

「男は男らしく」という、おばあちゃんの口ぐせはずっと頭にある。でも、心は反対に動く。

初恋の彼に告白することはなく、淡い恋心で終わる。

「その彼は結婚して子どもがいるんですよ。Facebookで何となく調べていたらあぁそうなのかって、知りました。」

04愛読誌は「すてきな奥さん」

手作りクッキーをくばる

中学校の不登校、同性への恋心。

みんなとは、どんどん違う自分になっていく。

自分の居場所がみつからない日々を過ごす中、自分を認めてもらえる瞬間があった。

家で焼いたクッキーを学校に持っていった時だ。

「好きな男の子のためとかではなく、作ってきたからどうぞって感じでみんなに持っていったんです。そうしたら、みんなクッキーに群がって」

家で料理もしていたし、バースデーケーキを手作りできることを知ってから、クッキーも焼いていた。

自分にとってクッキーを焼くのは普通だが、友人たちからは尊敬の目で見られた。

「好きな男の子も喜んでくれるし、こうやって自分が求められるのって、幸せって思いました」

中学校の行事でキャンプにいくと、たまたま同じ班になった女の子が、揃いも揃って料理できないことに驚いた。

「カレーを作っても、その手順じゃ失敗するなぁと見ていると、やはり野菜が生煮えだったして全然美味しくないんです。家でやらないのかなって不思議に思いました」

女の子は料理上手で、家庭を守る。おばあちゃんが言っていたのとは違う社会の実態。

「うまい子もいたのですが、その頃は、女子=料理うまい!って意識があったんでしょうね」

料理ならあきらかに自分の方が上手くできる。

男の子らしさ女の子らしさを超えた、自分らしさに気づきつつあった。

家庭的なものへのあこがれ

お料理が上手で、家事をするのが好き。

自分が好きなことが沢山つまった雑誌をみつける。

「『すてきな奥さん』という雑誌です。中学校にはあまり行きませんが、家のことをやるのでよろしくお願いします!って感じの逃げ方をしてとにかく読み漁りました。すてきな奥さんというタイトルもインパクトがあったんです」

雑誌に登場するのは、料理が得意で家事を完璧にこなす主婦たち。やっていることへの自信と、家庭を守る幸せに満ちた笑顔であふれている。

「『すてきな奥さん』に、シングルマザーは登場しないじゃないですか。自分の家は母親が働いていたし、誕生日のケーキも買う。お金で済ます家だったので、母親が家にいて色々してくれるっていいなあと思っていました」

「すてきな奥さん」は、女性が家庭にいて家族のためにつくす世界を素敵に見せてくれた。

自分の憧れが全部つまっていた。

家庭に入るのが目的か手段かわからないが、家庭的なことへの思いはつのるばかり。

「妹の友人宅で手作りケーキを食べてから、ケーキを焼いたり、手料理を食べることが家庭的なことの象徴になったんです」

05自分らしくいられるのは、どこ?

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製菓の高等専門学校へ進学

中学校を卒業後、製菓の高等専門学校に進むことになる。

「中学時代に出席していたのは美術と家庭科だけ。美術系の学校は学力が届かなかったし、お菓子作りが好きだったので高校の勉強もしつつ、製菓衛生師の資格をとれる専門学校にしました」

お菓子作りは女の子のイメージがあるが、男らしさを求めるおばあちゃんは反対しなかった。

「手に職がつく。だから、就職してお嫁さんをみつけて、家庭をもてる。おばあちゃんが考える幸福の線上にあったし、やりたいならいいんじゃないみないな感じでした」

専門学校の同級生は10人ほど、そのうち男子は2人。クラスの人数が少なくてこじんまりとした雰囲気が自分に合い、学校はそれなりに楽しかった。

そして中学校と同じく、クラスメイトの男子を好きになる。

「好きになったその子に彼女がいない時、勇気を振り絞って告白しました。びっくりはされなかったけど『友達でいいんじゃない』と流されちゃいました」

好きになった男子はクラス以外の女子からもモテて、結局はクラスの女子と付き合った。

いくら好きでも、仲が良くても男子と付き合うことはできない。好きな男子が女子といるのを見る度に、ダメージを受けていた。

なんとなくわかっていたが、現実を受け入れるのは嫌だった。

アメリカのカリフォルニアに行った卒業旅行も、辛い思い出しかない。

「好きな男子と一緒の海外旅行で嬉しかったけど、結局その彼が付き合っていた女子といちゃいちゃされて・・・・・・付き合っているから、仲良しこよしもわかるけど、旅行先でまで見せつけないで!とキレ気味でした」

傍目にもわかる落ち込み方だったのか、引率の先生にやさしく慰められた。

先生とはメールでやりとりし、親身になってくれたので辛い思いも何かの役には立っかかもしれない。

ブログで知る別世界

学生時代、高校生活もやはり、通っている学校や同級生が世界の全てに感じるものだ。

好きな男子も、その子がつき合う女子もクラスメイトという狭い世界。

自分が素のままでいられる場所、好きを受け止めてくれる相手を求め続けた。

「ちょうどアメブロで鬼嫁日記が流行りだした中学生のころ、ブログを書き始めたんです。はじめは自分のことを書いていたんですが、高校生になるともう1つのアカウントでLGBT的なブログも書きました」

そこでつながったLGBTの人たちとオフ会をしたり、TLGP(現:東京レインボープライド)に参加するようになる。

「はじめはアクセス数を増やすのが楽しい、という感じでした。そのうち、同年代で性に悩んでいる人がいるのを知り、自分だけじゃないんだとホッとしましたね」

ブログでやり取りした大人と会ったこともある。

ゲイの人の話しも聞いてみた。

「でも、自分とは何かが違うんです。ゲイだとやせないとダメとか、短パンをはかないとダメとかきまったスタイルがあったんですが、自分はそれはやりたくない。どうして、どちらかに寄らないとダメなんだろうって・・・・・・」

新しい世界が開けたと思ったのに、やはり自分の居場所は見つからない。

「どこだったら自分らしくいられるんだろうって、ずっと探している感じです」


<<<後編 2017/01/06/Fri>>>
INDEX

06 なりたい職業は主婦
07 妥協しない人生を見たい
08 子育てに対するこだわり
09 個人主義がふえれば変わる
10 Xジェンダーとして生きる

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