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介護・福祉の力で、誰もが寂しさを感じずにいられる社会を作りたい【後編】

介護・福祉の力で、誰もが寂しさを感じずにいられる社会を作りたい【前編】はこちら

2017/10/05/Thu
Photo : Mayumi Suzuki  Text : Mayuko Sunagawa
佐藤 悠祐 / Yusuke Sato

1991年、東京都生まれ。幼少期から吹奏楽部に所属し、高校では全国大会に出場。海外での招待演奏も経験した。介護専門学校を経て介護福祉士の資格を取得後、現在はサービス提供責任者として訪問介護に従事する。また、NPO団体Startline.netを設立し、福祉・介護業界にてLGBTの認識を広める活動も行う。

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INDEX
01 自分の意思を尊重してくれる家庭
02 思春期の性別との向き合い方
03 唯一の救いは吹奏楽
04 絶望から救ってくれたFTMとの出会い
05 介護・福祉の道
==================(後編)========================
06 FTMの自分を受け入れてくれた両親・高校の友だち
07 どんな性別であろうと自分は自分
08 セクシュアリティで悩んだ経験を生かして
09  LGBTが不自由なく福祉・介護を受けられるように
10 誰もが望むように生きてほしい

06FTMの自分を受け入れてくれた両親・高校の友だち

周囲へのカミングアウト

健斗さんに、カミングアウトについても相談した。

「案外みんな離れていかないから大丈夫」
「もし嫌なことを言ってくる奴がいたら、そこまでの関係ってことだよ」
「これからの出会いを大切にしたほうがいい」

そう言ってくれた。

彼のおかげで、周囲にカミングアウトをする勇気を持つことができた。

高校卒業時に、SNSで自分が性同一性障害であることをカミングアウトした。

「高校の友だちとSNSでつながっていたんですけれど、もう卒業するしカミングアウトして縁を切られるなら、それでもいいやと思って」

友だちの反応は、「そうなんだ」「言ってくれてありがとう」「確かに男っぽいからね」「それでも離れることはないからね」。

否定的なことを言う友だちは、誰一人いなかった。

カミングアウトをして良かった。

両親へのカミングアウト

自分がFTMであることを、姉はSNSを通じて知っていたが、両親にカミングアウトすることはなかなかできなかった。

すごく怖かった。

「当事者のネガティブなブログを読んだ影響もあり、絶縁されるんじゃないか、と思って怖かったんです」

「家族のことが大好きなので、絶縁されると思うとすごく辛かった」

両親にカミングアウトしたのは20歳の時。

就職を機に、一人暮らしをすることになったのがきっかけだ。

一人暮らしの家に引っ越す前日、両親がそろっている前で話し始めた。

幼い頃から性別に違和感があったこと、性同一性障害であること、今後は診断や治療、手術も考えていること・・・・・・。

泣きながら伝えた。

母親は「ずいぶん前から気づいていたよ。母親なんだから」と。

父親は「そっか、そうなんだ」と言った。

「母はスカートを履きたくないと言っていた小さい頃から、あんまり女の子っぽくない子なんだな、と思っていたみたいです」

「あと、母は高校の時、同級生に僕と同じような子がいたので、FTMの存在を知っていました」

「それから、高校の時に彼女を家に連れてきていたんですが、ただの友人関係ではないことを察知していたようです」

「母親ってすごいですね(笑)」

カミングアウトをする前は、壮絶な修羅場も想像していただけに、拍子抜けしてしまった。

治療や手術に関しては身体を心配していたが、それ以外のことはとても肯定的に受け入れてくれた。

心底ほっとした。

07どんな性別であろうと自分は自分

セクシュアリティに捉われない

一番悩んでいた高校生の時は、セクシュアリティに捉われ過ぎていた。

「性同一性障害だから就職できない」「性同一性障害だから幸せになれない」というふうに。

自分のパーソナリティにおける性同一性障害の割合が、大半を占めていた。

しかし、だんだんと性同一性障害は単に自分の一部に過ぎず、それが自分の可能性を狭めることにはならない、と思えるようになっていった。

「3年くらい前、母親から『性別を言い訳にするんじゃないよ』って言われたことがあって」

「彼女と別れた時、どうせ結婚できないから別れてよかった、みたいなことをポロっと母親に話したらそう言われました」

「その時から性同一障害を、何かができない理由にするのはやめよう、自分の弱さとちゃんと向き合おう、と思うようになったんです」

今の自分にとって、性同一性障害はパーソナリティのほんの一部。

どんな性別であろうと、自分は自分。

セクシュアリティを気にすることはほとんどなくなった。

GID診断、手術、これからのこと

親へのカミングアウトが済んでまもなく、GID診断を受けホルモン治療を始めた。

乳腺摘出手術も行った。

GID診断や治療を受けたのは、将来的に戸籍を変更したいと思ったからだ。

「幼少期から自分のことを女の子だと思ったことがないので、戸籍が女性であることにずっと違和感がありました」

「診断や手術を受けて戸籍が変われば、自分のセクシュアリティに関する問題に、一つ区切りがつけられるんじゃないかと思っています」

「現状、日本の法律では同性婚はできないし、社会的な保証をパートナーに与えることもできません」

「将来パートナーと生きていきたい、子どもを育てたいという願望があるので、戸籍を変えて結婚できるようにしておきたいと思っています」

今後、性別適合手術も考えている。

症例数も多いので海外での手術を考えており、資金が貯まったら手術をしに行くつもりだ。

08セクシュアリティで悩んだ経験を生かして

男性として働く訪問介護の現場

介護老人福祉施設で経験を積んだ後、現在は訪問介護の仕事をしている。

前職も今の職場の仲間にも男性と認識されており、男性として仕事をしている。

見た目が男性であることから、利用者さんも男性だと思っている人がほとんどだ。

「仕事は仕事だと思っているので、どう見られてもあまり気にしていないんです」

「僕としては、男だろうが女だろうが好きに捉えてもらえれば。利用者さんが安心してもらえるほうで良いと思っています」

「たまに女性の利用者さん同士で、自分が男か女かの論争が繰り広げられている時があって・・・・・・」

「その話し声、僕に聞こえているんですけどね(苦笑)」

現在、事業所ではサービス提供責任者の役割を担っている。

利用者さんやケアマネージャー、訪問介護スタッフなどさまざまな人と関わり、調整する役割だ。

「ケアマネージャーや介護ヘルパーなど、スタッフとのコミュニケーションに難しさを感じることもあります」

「それでも、信用してもらえるように努力していきたいと思っています」

FTMの介護福祉士だからできること

介護には入浴介助など、体力のいる仕事もある。

男性の介護福祉士が活躍できる場は多い。

「特に身体的な障害のある若い男性の利用者さんの場合、自分が指名されることが多いですね」

また、セクシュアリティに長年悩んできた自分だからこそ、できることがあると思っている。

「セクシュアリティで悩んでいた時に、自分の悩みを人に話すことができなかったし、本心を伝えることが難しかったんです」

「それは介護を受ける利用者さんも、同じじゃないかと思うんです」

「利用者さんは介護をしてもらっているという気持ちがどこかにあるので、思いや希望があっても我慢して言えない方が多いんです」

「だから本音を引き出せるように、まずは利用者さんと信頼関係を築くことを大事にしています」

気持ちに寄り添うこと。

「よく話を聴いて、その人が本当はどんなことを考えているのか、表出してもらえるよう関係性を築いています」

自分もマイノリティの立場にあることで、障害や病気を抱える人の想いを理解し受け止める力は他の人よりもあると自負している。

09LGBTが不自由なく福祉・介護を受けられるように

Startline.netを設立

「最初は、介護に携わるLGBTの当事者たちと集まって、ワイワイ楽しくやれたらいいなと思っていたんです」

「介護の人たちがけっこう集まったので、せっかくだから何かできることはないか、ということで始めました」

2011年に任意団体としてStartline.netを設立。その後2014年にNPO法人化した。

当時、他にも介護とLGBTに関する活動団体はあったが、当事者に老後の生活や介護・福祉サービスの情報提供を行う、当事者サポートに寄った活動をしているところばかりだった。

「僕は、介護者や施設運営者など働き手側に訴えかけることで、LGBT当事者が介護・福祉サービスを受けやすい環境を作りたいと思ったんです」

誰もが、どこにいても、ベストな介護・福祉を受けられるような社会にしたい。

そこで、働き手に訴えかける団体を設立した。

介護福祉業界にLGBTの正しい認識を伝える

現在、企業や福祉施設、専門学校、大学などの介護福祉職養成機関にて、主に、LGBTの正しい知識を伝える講演・研修活動を行っている。

「『LGBTのリアルな情報を知ることができました』とか『自分たちの認識はまだ浅かったです』とか、受講生それぞれが何かを感じてくれているようです」

また、講演会では、LGBT当事者が「実は自分も」と、カミングアウトしてくれることも多い。

「ある大学で120人くらいに講演した時に、学生数人に感想を聞いたんですが、その中の1人が『実はどっちを好きになるか、わからない状態なんです』って言ってくれて」

「おそらく他の学生がLGBTに対して肯定的な発言をしていたから、勇気を出してカミングアウトできたんだと思います」

LGBTに対して関心がない人でも、自分の講演を聞いて少しでも関心や興味を持ってもらうきっかけになったらうれしい。

また、LGBT当事者やそれ以外の人たちにとっても、自分の老後を現実的に考えることは大切だ。

「老後も元気で幸せに生きられると考える人がほとんどだと思うんですが、現実は多くの人が病気になり介護を受けることになります」

「そして、介護を受けるタイミングって、本当に急に来るんです」

介護を受ける時に慌てないように、あらかじめどんな介護サービスを受けられるのかを知ってほしい。

介護サービスを利用しながらどう自分らしく生きていくのかを考えてほしいと思っている。

「特にLGBTの人は、自分の将来についてよく考えておかなければいけません」

「パートナーがいても結婚していなければ、パートナーには決定権がないので、ご自身の選択を明確にし、パートナーにそれを伝えておく必要があります」

10誰もが望むように生きてほしい

誰もがさみしいと思わない世界を

近年、テレビでは悲しいニュースが頻繁に流れている。

介護疲れから母親を殺してしまったとか、ニュースや子どもを虐待したという事件だ。

そういった事件の背景をたどると、介護・福祉サービスを利用できていなかったり、児童相談所へ相談できていなかったりする現状がある。

介護福祉士として心苦しく思う。

「行政のサービスというものがあるのに、どうしてそれを利用しなかったんだろうと思います」

「それは、介護・福祉の情報が多くの人に行き渡っていないことが問題ですし、そういう人たちを取り残したままにしている社会が悪いと思います」

「その現状を、僕は変えたいです」

将来的には介護福祉士の立場で、地域の中で誰もが困った時に逃げ込んでこられる場所、必要な情報を得られる場所を作りたいと思っている。

「今後は、LGBTを含め社会的にマイノリティ、あるいは弱者とされている人たちが、自分の生きたいように生きられる社会を作りたいと思っています」

掲げている目標は「誰もがさみしいと思わない世界」を作ること。

「怒りなどのネガティブな感情は、時間が経てば治まりますが、さみしいという感情は時間が経っても治まりません」

「介護福祉の力で、誰もが寂しさを感じずにいられる社会を作りたいですね」

セクシュアリティの問題で悩む若者たちへ

今はセクシュアルマイノリティに関する情報量が多い分、正しい情報を自分で選択しなければいけない。

それがうまくできないと、だまされてしまうこともある。

「自分でより良い選択をするために、この人なら絶対信頼できるという人を見つけてほしいと思います」

「僕の場合は、母親でした」

「この人には何を言っても大丈夫だと思える、絶対的な信頼をおける大人を見つけてください」

信頼できる人と出会うために、まずは相手の話を聴くこと。

相手がどういう考えを持っている人なのかを、理解することが大切だ。

「自分のことをわかってほしいなら、まずは相手のことを理解することです」

「相手の話を聴いて、セクシュアリティや性同一性障害について、その人がどう捉えているのか、自分との関係をどうしていきたいと思っているのかを探ります」

「例えば、LGBTに嫌悪感があるんだと感じた時、セクシュアルマイノリティ自体が嫌なのか、別の理由なのか、聴いていくうちにだんだんわかってきます」

「それによって、相手へのカミングアウトの仕方、アプローチの仕方も違ってくるはずです」

これを根気よく続けていくことで、必ず自分が信頼できる人を見つけることができるはずだ。

自分のようにセクシュアリティの問題で悩む若い子たちには、信頼できる大人に早く出会ってほしい。

自分の望むように生きてほしいと思っている。

「自分の拠り所となる大人は、社会のどこかにいるはずですから」

あとがき
「女の子って思ったこと、ないんだ」と保健の先生につぶやいた時、両親へのカミングアウト・・・悠祐さんを支え、安心感のある驚きをくれたのは近くにいた大人たち■お母さんの言葉「性別を言い訳にするんじゃないよ」は、悠祐さんの素直さをさらに磨いた。うまくいかない状況に陥ると、その理由を自分の外側か、変えられないことに向けてしまう。特に[変えられないこと]は、他人も口出しできないから使い勝手がいい。我を省みた。(編集部)

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