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親なら誰でも子どものアライ。もっとカジュアルに考えていい【後編】

親なら誰でも子どものアライ。もっとカジュアルに考えていい【前編】はこちら

2020/12/18/Fri
Photo : Tomoki Suzuki Text : Sui Toya
宮原 由紀 / Yuki Miyahara

1981年、兵庫県生まれ。子どもの頃から好奇心が強く、大学時代はバックパックを背負ってインドを歩いた。大手3社で10年以上メディア制作や広告営業に携わり、独立。2019年4月、仲間5人とともに性教育の専門サイト「命育(めいいく)」を立ち上げる。1女2男の母であり、性教育の悩みは自分ごと。性に興味をもちはじめる子どもを持つ、保護者に向けて性教育のノウハウを分かりやすく、ポジティブに発信している。

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INDEX
01 ある意見
02 小6の春に生まれ変わる
03 知らない世界を知りたい
04 想像できないほうを選ぶ
05 子育て中、30代半ばの女性
==================(後編)========================
06 新しい扉
07 子どものアイデンティティ
08 性に関するさまざまな悩み
09 ピンクの鍵盤ハーモニカ
10 子どもがLGBT当事者じゃなくてもアライを名乗っていい

06新しい扉

スクールの仲間たち

転職活動を続ける中で、子育てとキャリアの両立を認めてくれたのが、大手の外資系IT企業だった。

「子育てについて一切質問されないまま、内定をいただいたんです」

「やるべき仕事さえやってくれれば問題ないと言われ、入社を決めました」

外資企業に勤めて2年目に、3人目の子どもを授かった。
会社のバックアップを受け、チーム内初の産休・育休の取得者となる。

「育休中に、何か技術を身に付けたいと思い、デジタルハリウッドSTUDIOに通い始めました」

「Web制作技術を学べる専門スクールで、主婦・ママクラスがあったんです。生後1ヵ月の息子を抱っこしながら、講義を受けました」

同世代の女性ばかりが集まるクラス。
講義室の床を赤ちゃんがハイハイし、泣き声が響くのも当たり前だった。

「スクールに通っていた女性の大半は、結婚や出産で仕事を辞めなきゃいけなくなった人たちでした」

「復職するために、なんとかスキルを身に付けようという思いで、学びに来ていたんです」

スクールの受講料は40万円ほど。

パートナーや家族を説得し、受講料を出してもらっていたため、誰もが真剣だった。

「私は当初、スキルアップのつもりでスクールに通い始めたんです」

「Web制作のスキルを身に付けたら、メディア制作の部署に異動できる可能性も出てくるかもしれないって考えてました」

しかし、講義が進むにつれて、仲間の本気度に触発される機会が増えていく。

会社で働くことしか考えていなかったけど、起業という道もあり得るのかもしれない・・・・・・。

いままで想像したことのなかった扉が、急に目の前に現れた気がした。

正しい知識を得られる場所を求めて

スクールのクラスメイトは約15人。

それぞれ子育てをしながら、深夜2時過ぎまでLINEで励まし合い、課題に取り組んだ。

「そうしているうちに、仲間数人で、ウェブサイトを立ち上げてみようという話になったんです」

「それぞれ得意分野が違ったので、役割分担が自然と決まっていきました」

サイトのテーマを性教育に決めたのは、仲間の1人に、ある相談をしたことがきっかけだった。

「うちの子どもたちは、上から女、男、男なんです」

「体の違いに興味があったみたいで、上の2人がまだ小さいころ、お風呂に入っていたとき、ふいに『くっつけてみようか』って言い出したんですよ」

子どもたちの話を聞いて「マズい」と思ったが、とっさに出たのは「やめなさい」というひと言だった。

どう伝えれば良かったのかと悩み、ネットで調べたものの、答えは得られない。

周りのママや、友だちにも相談できなかった。

「スクールのクラスメイトに、中学校で保健体育の先生をしていた子がいたんです」

「皆で集まったとき、ちょっと相談してみたら、その場にいた全員が『私も聞きたい』って食いついたんですよ」

子どもの性教育について知りたいけど、正しい知識を得られる場所がない。

「これだけみんなが悩みを抱えているのに、解決策を得られる場所がないってどういうこと?」

話し合いを重ねた結果、性教育をテーマにサイトを立ち上げることが決まる。

07子どものアイデンティティ

性教育のあり方はこんなに違う

テーマは決まったものの、既存のメディアが存在しない分野のため、何から手をつければいいかわからない。

手探りで調査を始め、見つけたのが、ユネスコが発行している「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」という本だった。

「性教育の分野で、国際的にスタンダードと位置づけられている手引書でした」

その本をベースに、コンテンツになりそうな項目をピックアップするところから、サイトの制作がスタートする。

「その本には、5~8歳から教える内容として多様性やジェンダー、に触れているんです」

「9~12歳の項目には、性感染症や予期せぬ妊娠を避けるためのコミュニケーションや、緊急避妊法があることについても当たり前のように書いてありました」

「◯〜◯歳で教える」と書いてあっても、現状、日本ではレベルが高いと感じた場合は、対象年齢を引き上げた。

「日本と世界の性教育のあり方の違いに、びっくりしましたね」

いくつかの海外の参考文献を確認するなかで、世界の性教育に共通するのは、「自分と他者のアイデンティティを尊重する」といった思想だと感じた。

「日本では、性教育=セックス教育という風に捉えられがちですよね。でも、世界では、子どもに多様性や人との関係性、自分や他者を尊重することを教えるところからスタートするんです」

「なぜかといえば、文化や宗教の違う人が、当たり前に身近にいるから」

「ジェンダーやセクシュアリティも、多様なアイデンティティのひとつと捉えてますよね」

覚悟を持って公開した記事

メディアを立ち上げた当初、ドキドキしながら公開した記事がある。

子どものマスターベーションに関する記事だ。

「調べてみても、そういった記事を出しているネットメディアは、ほとんどありませんでした」

「公開するときは、勇気が要りましたね」

読者からクレームが入るかもしれないし、思わぬ方向からバッシングを受けるかもしれない。

しかし、性教育の専門サイトで、この話題を取りあげないわけにはいかないと思った。

「その記事で伝えたかったのは、子どもの自慰行為に気づいても、間違った方法だけはきちんと伝えつつも、温かい目で見守って、そっとしておいてあげてほしいっていうことです。これは専門家のどの方も同じようにおっしゃっていました」

「ひと言、『汚い』と声をかけたばかりに、親への信頼感が薄れてしまったり、自分が汚らわしい存在だと感じたりして、何かあったときも相談してくれなくなるかもしれません」

「それって、LGBT当事者のカミングアウトでも同じですよね」

「相手から『おかしい』とか『気持ち悪い』って拒絶されたら、もう何も言う気がなくなるでしょう。もちろんどのような言動が返ってきても、何度も丁寧にやり取りを重ねていらっしゃる方も少なくありませんが」

記事には、性別や年齢別の事例とともに、医師のアドバイスも掲載した。
公開すると、予想していた以上に大きな反響があった。

08性に関するさまざまな悩み

命育に寄せられる相談

性教育の専門サイト「命育(めいいく)」には、読者からさまざまな疑問や相談が寄せられる。

意外に多いのは「自分の子どもが、ネットで知り合った相手に加害しているかもしれない」といった相談だ。

息子のスマホを見たら、知らない女の子に「性器の写真を送って」とLINEを送っていたという。

「知らなかった子どもの一面を見てしまい、動転して『どうすればいいですか?』ってメールを送ってこられる方も多いです」

娘と友だちとのやりとりを見たら、不特定多数の人と性行為をしていることがわかった。

そういった相談が送られてきたときは、専門家にアドバイスを求める。

専門家が大切にしているのは、「なぜそういうことが起こったか、まず考えましょう」ということだ。

「加害している状況そのものを解決する前に、息子さんのスマホを勝手に見ちゃうような関係性から修復しませんか?」

「親子の信頼関係を築いてから、不特定多数の人と性行為をするリスクについて話をするのがいいのでは?」

トラブルの根源にあるのは、家庭間のコミュニケーション不足かもしれない。

「一度関係性が崩れても、やり直せるのが家族です」

「一度言ってダメでも、繰り返し伝えればいい。ミスしてほころびができたら、修復すればいいんです」

特定する必要はない

最近は、情報に翻弄されて、余計な心配をする保護者も多い。

「3歳の息子はままごとが好きなんですが、トランスの傾向があったらどうすればいいですか?」
「女の子とばかり遊んでいて、将来どうなるか不安です」

そんな相談を目にするたび、特定する必要はないのでは・・・・・・と思う。

「うちの子どもたちもそうでしたが、小さい頃は、感覚がコロコロ変わります」

「子どもの正体を突き止めようとせず、そのとき欲しいものや好きなものを、肯定してあげたらいいんじゃないかなって思います」

LGBT関連では、家族の言動に関する相談もたびたび寄せられる。

「テレビにおねえタレントの方が出ていると、夫が『キモいな』とか、『こいつオカマだ』とか言うんですが、子どもの前で言うのはやめてほしいです」

これは、実際に寄せられた相談だ。

「子どもは、親の発言をよく覚えています」

「成長して性別違和を感じたときに、親の発言を思い出して、誰にも相談できず抱え込んでしまう子もいるでしょうし、お友だちにそういう発言をしていまうかもしれません」

「余計な心配をする必要はないけど、自分の子どもや身近な子どもがセクシュアルマイノリティかもしれないっていう視点は、持っておいたほうがいいと思います」

09ピンクの鍵盤ハーモニカ

クラスで1人

たくさんのケースに触れたり、専門家に話を聞いたりすることで大分改善されたが、以前は自分も「考えすぎてしまう」タイプだった。

「娘が小学校に入学したとき、鍵盤ハーモニカの注文票が配られたんです」

「学校指定のメーカー製品は、青とピンクの2種類で、どちらを選んでもいいことになっていました」

娘は青が好きだったため、迷わず青を選択。

ところが、いざ授業が始まると、クラスの女の子全員がピンクを選んでいたようだった。

「娘がショックを受けて帰ってきて、『友だちはみんなピンクだった』って言うんですよ」

「よくよく聞いてみると、青が好きだけど『ピンクにしておけ』って親に言われて、ピンクを選んだ子もいたみたいです」

フラットな目線

女の子だからピンクなんて価値観はおかしい。
あなたが好きなら、青でいいじゃない。

そう言って、青い鍵盤ハーモニカを持たせようとしたが、娘は浮かない顔をしている。

「その夜、『誰も青を持っていなかったんだって』って夫に話しました」

「そうしたら『青いほうは弟に回せるし、ピンクを買ってあげたらいいんじゃない?』って言われたんです」

その返答が腑に落ちず「青が好きなら、それを貫くべきじゃない?」と突っかかった。

しかし、「小学生でそんなことまで考える必要ある? 友だちと一緒がいいだけじゃない?」と夫に言われ、ハッとする。

「確かにそうだな、って」

「ジェンダーがどうとか、小1の子に言う必要はないな、って考え直しました」

ピンクのハーモニカを買ってもらった娘は、とても嬉しそうにしていた。

「最近、娘から『いまとなっては青でも良かったよね』って言われたんです」

「親がすべきなのは、深読みしたり、意識を高く持ったりすることではなく、フラットな目線で子どもを見ること」

「その時々の子どもの希望に、できるだけ寄り添ってあげるのがいいんじゃないかな、っていまは思います」

10子どもがLGBT当事者じゃなくてもアライを名乗っていい

子どもと一緒に性教育を学ぶ

性に関する悩みは人に打ち明けにくく、1人で抱え込んでしまう子どもが多い。

「大事なのは、お母さんやお父さんに相談していいんだって雰囲気を作ることです」

「性教育に関する本を、さりげなく本棚に置いておくだけでもいいと思います」

性教育について詳しい知識がないから、子どもに教えられないという人が時々いる。

しかし、知識がないことを教えていけないなら、親は子どもに何も教えられなくなってしまうのではないだろうか。

「いまの子どもたちは、親世代が子どもだったときより、多くのことを知っています」

「多様なセクシュアリティを受け入れる姿勢も、子どもたちのほうがはるかに柔軟」

「親は『知識がないから』と萎縮せずに、子どもと一緒に学びながら、教えていけばいいんだと思いますよ」

LGBTERと連携し多様なエピソードを収集していく

「アライ」という言葉は、命育を立ち上げた後に知った。

「すごくいい考え方なのに、意欲的に活動している人しかアライになれないみたいな雰囲気がありますよね」

「でも、親なら誰でも、自分の子どものアライじゃないですか」

「自分の子がLGBT当事者でも、そうじゃなくても、肩の力を抜いてアライを名乗れるといいなと思います」

現在、命育のリニューアルに向けて、LGBTの専門家に取材し、様々な記事を作っている。

「専門家の方には、『LGBTの存在に慣れることが、多様なセクシュアリティの理解につながります』とおっしゃる方もいます」

「『色んな方のエピソードを知るのが一番いいですよ』といったアドバイスもいただきました」

性に関する悩みとその解決策については、この1年で、200本ほどのエピソードが集まった。

バリエーション豊富なエピソードの中から、自分の子どもに当てはまるものを見つけてほしいと考えている。

LGBTについても、同じようにエピソードを集め、アーカイブ化していく予定だ。

「とはいえ、エピソードを1から集めるのはかなり時間がかかります」

「さまざまな方のエピソードを集めているLGBTERさんと連携して、なるべく早くアーカイブ化を進めていきたいですね」

命育は「家庭ではじめる性教育サイト」と銘打っているが、今後は、学校向けのサービスも提供していきたいと考えている。

「家庭でできることと、学校でできることは違う。学校だからこそ、子どもたちに教えられることって、たくさんあると思うんです」

子どもにとって、学校生活は人生の全てといえる。

「制服ひとつで悩む子もいるじゃないですか」

「それを一緒に考えてくれる先生や、過ごしやすい環境を作ってくれる先生がいてくれればいいけど、色々な悩みへの対応を、先生1人に任せるのは酷でしょう」

「学校と、私たちのような外部団体が協力し合って、共に子どもの悩みに寄り添えるのが、理想の教育現場のあり方だと思っています」

メディアを立ち上げた当初から、果たしたい目標は変わっていない。

性教育をタブー視せず、子育ての一環と捉えて行動する人を、1人でも増やすことだ。

「命育はこれからも、性教育をもっと身近に考えよう、と発信を続けていきます」

「挨拶やマナーを教えるのと同じくらい肩肘張らずに、子どもと性に関する話ができたらいいですよね」

あとがき
ゆきさんはとてもエネルギッシュ。行動してこその経験がゆきさんを形作っている。予定と違っても楽しめるとか、人が無茶だと思うこともやってみるとか・・・取材中、互いの共通点がたくさん見えた■「親への信頼感」「一緒に学びながら」「一度関係性が崩れても、やり直せるのが家族」。SOGIのカミングアウトも同じ。応援、支援したいと関心を寄せることから始まる。親なら誰でも子どものアライ! 性を大切にすることは、命をはぐくむこと。編集部)

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