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”その人” が好き。セクシュアリティなんてどうでもいい【後編】

”その人” が好き。セクシュアリティなんてどうでもいい【前編】はこちら

2017/11/25/Sat
Photo : Mayumi Suzuki Text : Yuko Suzuki
加藤 敏美 / Toshimi Kato

1994年、東京都生まれ。多摩美術大学美術学部デザイン学科情報デザインコース卒業。幼い頃から憧れていた美大に進学。自立して食べていくために、芸術家の道ではなく「具体的な職業が用意されている分野を」と情報系デザインを学び、株式会社LIFULLに就職。現在、Webデザイナーとして活躍中。

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INDEX
01 夢は、美大生になること
02 いつも親に気を使っていた
03 女の子っぽくない女の子
04 性別や年齢なんて関係ない
05 女性のことも好きになれるんだ!
==================(後編)========================
06 自分と向き合い続けた大学時代
07 しいて言えば、パンセクシュアル
08 隠すつもりはないけれど
09 ひょっとして、浮いている?
10 自分にできることは何だろう

06自分と向き合い続けた大学時代

「みんなと一緒」が推奨されない世界

本命の大学に進学できた。

夢に見ていたとおり、キャンパスには個性的な人ばかり。

「みんな、自分はこれがいちばん好き、というものを持っていて。髪の毛の色もファッションも言動も、『とりあえずみんなと同じに』というのが、まったく推奨されない世界でした」

「性格もバラバラ。でも、みんな『自分は自分』という考えだったからお互いに違いを認め合って付き合えるんですよ」

変にベタベタせず、適度な距離感。

それが心地よかった。

「大学は、私にとって最高の空間でした」

「ゼロベースで考える」が自分の個性

他人に合わせなくていい、むしろ他人と違うことが良しとされるというのは、心地いい反面、だらだらと過ごすわけにもいかなかった。

「自分は何が好きなのか、何を生み出したいのか。自分にしか作れないものとは、何なのか。そもそも自分は何者なのか」

「ずーっと考えていました。それは私に限ったことではなくて、みんなそうやって自分自身と向き合っていました」

「美大生って、感性の人だと思われがちですけど、実はものすごく理屈っぽいんですよ(笑)」

考えた末に見つけた「自分らしさ」は、「物事をゼロベースで考えること」だった。

「今までに身につけた知識や思い込み、先入観、偏見などをゼロにして、まっさらな状態で考える」

「人付き合いにおいては性別も年齢も大した意味を持たない、と考えるのもその一つです」

「意識してではなく、自然とそういう思考になっている。ちょっと漠然としているかもしれませんが、これが私らしさだなと」

評価された着眼点

芸術解剖学という、人体の構造を学ぶ授業で「人間の頭部・胸・腕のうち好きなパーツを一つ選び、それについてレポートを書く」という課題が
出された。

「私は胸、それも男性の乳首の存在意義を調べることにしました」

「普通は、胸といえば女性の胸を思い浮かべるんでしょうけど、そういえば男性にも乳首はあるよな、あれは何のために? って単純に疑問に思って」

着眼点がおもしろいと、教授は評価してくれたのだろうか。

「実はその授業、出席日数ギリギリだったんですけど、S、つまりいちばん上の評価をもらえたんです」

美大の教授たちの多くは、出席日数よりは「面白い作品を作れるかどうか」を評価の基準にする傾向があった。

そんな中、自分の着眼点や考え方が高く評価されたことはうれしく、自信につながったような気がしている。

07しいて言えば、パンセクシュアル

レズビアンかと思ったけれど

自分と向き合う中で、セクシュアリティについても考えた。

高校時代の失恋の後、半ばヤケを起こして新宿二丁目に通っていた時期がある。

体の性に違和感がなく、女性のことを好きになったのだから自分はレズビアンなのかもしれない。

そのことを確かめるために、レズビアンバーに行ってみた。

「でも、ちょっと違う感じがしたんです」

自分が通っていたバーに限ってのことかもしれないが、レズビアンバーに集っている女性たちの多くは、すぐにグループを作りたがり、その小さな世界の中で共依存している感じがした。

「グループのメンバー同士の関係は濃いのですが、排他的というか、他のグループとはあまり関わらない」

自分は、そういう感じの人間ではなかった。

「私は、最初から女性を恋愛対象として見ているわけではないんです」

「いいなと思ったら、まずはひとりの人間として付き合いたい。そこで本当に仲良くなると、友情がやがて恋愛感情になるという」

今後、人として魅力的であれば男性に恋愛感情を抱くかもしれない。

その頃に付き合っていた彼女に「パンセクシュアルなんじゃない?」と言われた。

パンセクシュアル? それって、何・・・・・・?

カテゴライズに興味なし

自分がレズビアンかと思ったこともあるし、ゲイの人たちの存在ももちろん知っていた。

「ただ、何というか、そういったカテゴリーに、私自身はあまり興味がなくて」

「自分のセクシュアリティについて思い悩んだことはなかったんです。ただ、目の前にいる彼女のことが大好き、というだけで」

そして、よくよく考えると自分はレズビアンではなかった。

男性のことも好きになるかもしれない。

だとすると、バイセクシュアル?

「どちらもピンとこないんですよね」

「私はレズビアンです、バイセクシュアルですと言う前に『ひとりの人間です』という思いが強くて」

「しいて自分のセクシュアリティを言うなら、友だちが言っていたパンセクシャル=全性愛でしょうか」

本当のところは、「中性でありたい」と思っている。

「見た目も思考も、男女の枠にとらわれない中性っぽい人が好きなんです」
女性であれば、グラビアアイドルのような女性性を前面に出したタイプにはあまり魅力を感じない。

惹かれるのは、女性でいながら見た目や思考がボーイッシュな人。

髪の毛の長さは関係ない。

自分も、できるかぎり中性っぽくしていたい。

「私は、ファッションとしてはシンプルな服が好き。しかも男顔なので、髪の毛を長くしてバランスを取っている感じです(笑)」

08隠すつもりはないけれど

基本的にはオープンに

高校時代の失恋の際、周りに頼れる人が誰もいなくて逃げ場がなくつらかった経験。

次に誰かを好きになった時には、相手の性別に関わらず周りの人には話しておこう、と思っていた。

だから大学でも、近しい友人たちには「自分は女性と付き合ったことがある」とオープンにしていた。

そのうちキャンパス内で好きな人ができ、付き合うように。

「高校時代の経験から、近くにいる友だちには彼女と付き合っていることをちゃんと話すようにしました」

「言うまでもなく、すでにバレていましたけど。みんな、『知ってた』『見ていればわかるよ』って(笑)」

彼女とは ”親友兼恋人”といった感じで、仲良く楽しくすごしていた。

お互いの気持ちにズレが生じて別れてしまったが、彼女のことは今でも、人として尊敬しているし、好きだ。

「それだけ好きだったというか、そこまで好きになったから付き合ったわけで」

「私は、寂しいから恋人をつくりたいのではなくて、ある人と出会って、その人のことが好きになったら『いつも一緒にいたい』と思う」

彼女とは、あれから会えてはいない。

「ただ、幸せでいてほしいなと思っているだけです」

自分は恵まれている

セクシュアリティや考え方を含め、自分のことを理解してくれる人を好きになるので、恋愛面でのジレンマはあまりない。

「恋愛といっても、たった2回の経験ですけど(笑)」

「でも、おそらくこの先も、友だちとしてじっくり付き合ってから恋愛関係になるというパターンは変わらないと思います」

美大という、ある意味、何でもありの環境にいられたおかげで、これまで生きづらさを感じたこともない。

自分はとても恵まれている、と思う。

「ただ、この先どうなるかわかりません。私がまた女性を好きになり、両思いになったとして、相手の家族が二人の関係をどう受け止めるのか」

「でも、先のことを考えても仕方がないので、その時はその時だと思っています」

09私は、浮いている?

社会の中では、やはり少数派

社会に出てからも、自分の恋愛経験についてあえて隠すことはしていないし、逆にあえて言うこともない。

「慣れ親しんだ地元の友だちには、久々に会うと『彼氏できた?』『彼女は?』、『今度はどっち?』って聞かれます(笑)」

世の中全体がそういう雰囲気になれば、LGBTの人たちみんなが幸せに楽しく生きていけるのでは、と思う。

「私自身、差別をされたことはないけれど、社会的にはあまり歓迎されないのかなと思ったりもします」

同性の友だちには「今、女の子と付き合っている」とわりと平気で言えるのに、なぜか男友だちには話しづらかったりする。

「世間的な縛りみたいなものから自由でいたいと思うけれど、やっぱり心のどこかでは世の中の空気を気にしているんでしょうか」

「どうなんだろう。まだ、よくわかりません」

出る杭は打たれる、らしい

社会人になって感じるのは、セクシュアリティのことに限らず、日本の社会では個性は認められにくいということだ。

どうやら、出る杭は打たれるらしい。

「美大では、自分なんて全然変わった存在ではなくて、逆にごくごく普通なほうでした」

しかし、今はよく「変わってるよね」と言われる。

「たしかに、多くの人が関心を持つことにあまり興味がない、ということはあるかもしれません」

「たとえば、飲み会などでは、周りの人たちにビールをつぐとか気を利かせて料理を取り分けるとか、女性的であることを推奨されがちですよね」

「でも、私にはその発想がなくて。もちろん社交の場の立場として、ある程度はやりますが(笑)」

深い付き合いではない人が集まればすぐ、「彼女いる? 彼氏いる?」という話になりがちだ。

でも、自分は目の前の人が何を考えているのか、どんなことに興味があるのかを知りたいと、いつも思う。

「まあ、初対面の場合は共通の話題を見つけるのがなかなかむずかしいから、『恋人いるの?』という話になるのも無理はないんですけどね」

ほかに、よく言われるのは「堂々としているね」。

「これは褒め言葉ですか? それとも、態度が大きいってことでしょうか?(笑)」

これまでさまざまな年代の人たちと付き合ってきて、コミュニケーション能力もあるほうだと思ってきた。

年長の人に対しては、ちゃんと敬語を使うようにしている。

だから、「堂々としているね」は褒め言葉だと思いたい・・・・・・。

「ただ、年上でも仲良くなるとついタメ口になってしまうことがあるんです(苦笑)」

「自分としてはそれは親愛しているからで、もちろん敬意を払ってのことなのですが、礼儀には気をつけなくちゃいけないですね」

「大学以上に自由なところはないんだなあと、改めて思います」

自分の個性を大切にしながら、周囲の人の気分を害せずうまくやっていくには、どうしたらいいのか。 

目下、考え中だ。

10自分にできることは何だろう

おこがましいかもしれないけれど

最近、何かしら社会に貢献しなくちゃいけないのかもしれない、と思うようになった。

そう考えるようになったきっかけはとくにないし、なぜそう考えるのか自分でもわからない。

「ただ、自分の価値観が他の人と違うなら、物事をちょっと違う視点から考えることができて、それが誰かの問題解決につながるかもしれない」

「年齢や性別の垣根を超えて誰とでもつき合えることが、何かの役に立つかもしれない」

そこで、最近LGBTについて学ぶセミナーに顔を出すようになった。

「私は体と心の性にズレがあるわけではありません。そんな人間がLGBTの理解を社会に広めようなんて、おこがましいかもしれないとも思うんです」

何より、セクシュアリティのことで深く傷つき真剣に悩んでいる人たちに対して申し訳ない、という気持ちもある。

「でも、だからこそさまざまなセクシュアリティについて学び、一人でも多くの人が私のように楽観的に生きられる世の中になったらいいのになあと」

自分に何かできることがあればやりたい、そう思っている。

世の中は、実はマイノリティだらけ

「夜は、同じセクシャリティの仲間同士が集まることが多いのですが、昼間に開かれるセミナーにはセクシュアリティはさまざま、価値観もそれぞれの人が集まるので、おもしろいんです」

そのセクシュアリティならではの考え方、感性、そして困りごと。

それは自分にとっては未知のことで、興味深いし勉強になる。

「最近よく取り上げられるようになった発達障害関連のセミナーに行ったりもします」

セクシュアルマイノリティや障害に限らず、人種、年齢、職業・・・・・・とマイノリティはそこらじゅうに存在していて、それら全部を合わせればもはや「少数」でも何でもない。

LGBTだから、障害を持っているからという理由で何かを諦める必要はない。

「たとえば、誰かを好きになることは素敵なことだし、相手が同性だろうが異性だろうが、好きになった人には遠慮なく『好き』と言っていいと思うんです」

「ただ、とくにセクシュアリティはとてもセンシティブな問題だから、オープンにしたくない人もいますよね」

「その生き方も尊重したいから、発信の仕方がなかなかむずかしいのですが・・・・・・」

数としてはマイノリティでも、だから存在価値がないなんてことはない。堂々と、自分の生きたいように生きようよ。

そのためにも、誰もが自分らしく生きられる本当の意味でのダイバシティな世の中づくりのために、何かしら貢献したい。

その「何かしら」を確かなものにするために、これからもたくさんの人と会って話をし、いろいろなものを見て感じたい。

あとがき
「何でも話していいですか?」。敏美さんの大きな声のその言葉は、取材する私たちをとても安心させた。NANAの世界に憧れていたままの天真爛漫さ■そして、とても繊細な振り返りができる敏美さん。最近のことも「いろんな人がいると、どの立場に立てばいいんだろう?って思います」と。相手の立場に立つ!が、大切なのはその通りだけど、相手の真実はわからない。まずは、自分ならどうか?をとことん試してみる??そうしたってきっと、誰かの顔が思い浮かぶから。(編集部)

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