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同性も異性も同時に好きになれる「ポリアモラス」な僕【後編】

同性も異性も同時に好きになれる「ポリアモラス」な僕【前編】はこちら

2018/07/31/Tue
Photo : Mayumi Suzuki Text : Yuko Suzuki
吉澤 貴雄 / Takao Yoshizawa

1986年、長野県生まれ。聴覚に障害がある。中学校から長野ろう学校中学部に編入、同高等部を経て、松本ろう学校高等部専攻科(現在・閉科)にて情報工学を専攻。おもにコンピュータやPhotoshopなどマルチメディアを使った授業や簿記会計の授業に没頭する。卒業後、ホームセンターに就職。接客にあたっている。趣味は、読書と音楽と写真、そしてファッション。

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INDEX
01 耳と鼻にハンディがあるけれど
02 ハンディをハンディと思わずに済んだ理由
03 初めて ”壁のようなもの” にぶつかる
04 性別って、何だろう?
05 なぜ、男の子のことも好きなのか
==================(後編)========================
06 自分は、ゲイなのかもしれない
07 ゆらぐセクシュアリティ、迷う性自認
08 僕という人間を知ってほしい
09 男性も女性も、みんな好き
10 「知る」ことでネガティブをポジティブに変えていく

06自分は、ゲイなのかもしれない

なぜ、「男」「女」と分けるのか

高等部を卒業すると、松本市のろう学校専攻科へ。

情報工学のコースに進み勉強に没頭するかたわら、勉強で得た知識やスキルを趣味に活かして、充実した毎日を過ごしていた。

「音楽が好きだったので、音源と自分の声をミックスしてインターネット配信したり、学校の授業で校歌の着メロを作ったり」

建築物も好きで、マイホームデザイナーというソフトを使って、架空の自宅を作ったりもした。

「インターネットによって、自分の可能性や世界がどんどん広がっていくのが楽しかったですね」

学校生活の中で唯一、嫌だったのが寄宿舎の規律が厳しかったことだ。

高等部の時と同様、専攻科でも寄宿舎生活を送っていた。

寮生は、男女合わせて20人くらい。

寮生同士はとても仲が良かったが、男女交友に厳しく、それが不満だった。

寮の建物は男子棟、女子棟に分かれていて、たとえば「夜9時以降はお互いの行き来は禁止」という規則があった。

「同じ人間なのに、なぜ『男』『女』と区別されるのか」

「自分にとっては、男の子も女の子もみんな同じ友だち。どうして、男女でつき合い方を変えなくちゃいけないのか・・・・・・」

理解できなかった。

ゲイなのかも?

専攻科2年目、20歳になった頃だったと思う。

ある日、同室だった後輩にいたずらをされた。

「この子、何をやっているんだろう? と驚きました」

「でも、イヤではなかったんです」

彼のことは、後輩として「かわいい」とは思っていた。

彼からは「好きだ」と告白されたわけではないが、恐らく彼は自分のことを好きだったのだと思う。

「いたずらはその後も何回か続きましけど、拒否はしませんでした。何でですかね? 自分でもわかりません」

ただこの時、「自分は男の子もOKなんだな」と認識した。

これってどういうこと? またもや自分に興味がわいて、本やインターネットで調べたところ、ある答えが出た。

「僕は、男性として生まれた自分の体が嫌いなわけではない。でも、男性に好意を寄せられてイヤなわけでもない」

「だから、自分はゲイなのだろう。そう思いました」

07ゆらぐセクシュアリティ、迷う性自認

カルマン症候群という病気

ただ、一つ疑問が残った。

自分は、男性だけでなく女性のことも好きになれる。

そして自分自身の中には、女っぽい部分が多い。

「そう考えていくと、自分はゲイではなくて、『学校へ行こう!』に出ていた性同一性障害の子と同じなのでは? って」

その可能性がある、と考えたのには理由があった。

「子どもの頃からの定期的な病院通いは、ずっと続いていたのですが、18歳からは診察のたびに注射をされるようになりました」

「僕の性自認のゆらぎは、その注射のせいではないか、って思ったんです」

医師に尋ねると、「そのことは関係ない」との答えが返ってきた。

「注射は男性ホルモンで、それは『カルマン症候群』の治療や『男性更年期障害』『骨粗しょう症』の予防もしていると」

カルマン症候群とは、簡単に言うと脳の視床下部から分泌される性腺刺激ホルモンの量が少ない病態のこと。そのため、第二次性徴の進行が完全ではない。

この病気は、目や耳、鼻の感覚が弱いことによって発現するのだという。

「自分がカルマン症候群なのだということは、その時はじめて知りました」

消去法で考えると「バイセクシュアル」

医師の説明によって、自分は性同一性障害ではないことがわかった。

だとするとやはり、ゲイなのだろうか。

でも、自分の中にある「女っぽさ」や、女性も好きになれることについては、どう理解すればいいのだろう。

「カルマン症候群という病気にも興味がわきました。自分の体の中で、いったい何が起きているんだろう、って」

セクシュアリティについて、そして自分の病気を含め、医学についての知的好奇心を満たそうとする。

インターネットの情報だけでなく、図書館にも通って調べた。

ゲイバーにも行ってみた。

「でも、実際にゲイの方たちに会ってみると、どうもしっくりこなかったんです」

自分はゲイではない、と確信。

「性同一性障害でもゲイでもない。だから、自分はバイセクシュアルなのだろうというのが、その時点での答えでした」

08僕という人間を知ってほしい

25歳で初カミングアウト

ゲイ、性同一性障害、バイセクシュアルといった言葉は、高等部時代にいろいろと調べていた時に知った。

その後、レズビアンも含めて「LGBT」と呼ばれ、社会の中ではマイノリティとされていることも知った。

「でも僕は、自分がマイノリティであっても、だから嫌だとか、そういう気持ちはないんです」

だから、自分のセクシュアリティは何なのかと考え、迷うことはあっても、セクシュアルマイノリティであることについて悩んだことはない。

ただ、自分という人間を周りの人に知ってもらいたい。

初めてのカミングアウトは25歳の時、相手は同じ職場の男性社員だった。

「当時、彼のことが好きだったんです。『自分は男女関係なく人を好きになれる。あなたという人間が好きです』と打ち明けました」

彼は、拒絶することなく話をよく聞いてくれた。

「うれしくて、泣いてしまいました」

その後、同僚の女性にもカミングアウト。

彼女も自分の話に耳を傾けてくれた。

「『そういう人もいるよね』という軽い反応だったのですが、それがかえって、うれしかったんです」

「相手にとって重たい話だったら悪いなあと思っていたので、ホッとしました」

その後、カミングアウトをした二人をはじめ、職場の人たちの自分に対する態度に変化はない。

セクシュアリティの問題で職場にいづらくなってしまう人も少なくない。

自分は恵まれていると心から思う。

「耳の障害のことも含め、自分が困っていると上司や先輩、同僚もサポートしてくれる」

「本当にいい職場だと感謝しています」

親には心配かけたくない

自分がセクシュアルマイノリティであることを、周りに隠すつもりはない。

だが、両親にはあえて知らせる必要もないと思っている。

「話しちゃダメな雰囲気が、家の中にあるような気がするんです」

「親は、僕のことを変態だと思うかもしれない」

それが怖いというより、「親に心配をかけたくない」という気持ちがあるのだろうか。

自分でもよくわからない。

だからといって、親に話せなくて苦しんでいるわけでもない。

「言わなくていいかな」と思っているだけだ。

「母親にはしょっちゅう『早く結婚しなさい』と言われますけど、『イヤだ』と言ってやり過ごしています(笑)」

「ただ、兄には話しても大丈夫のような気がします。時期がきたらカミングアウトしようかな・・・・・・」

もっとも、このインタビュー記事を兄や両親が見つける可能性はある。

「その時は、その時です(笑)」

09男性も女性も、みんな好き

スマホから広がった新たな世界

25歳以降ずっと、自分はバイセクシュアルだと思っていた。

ところが2年ほど前から、性自認に変化が起きつつある。

転機となったのは、ガラケーが壊れてスマートフォンを使うようになったことだ。

「スマホで調べものをしていたら、そこにはパソコンとは違うインターネットの世界が広がっていたんです」

「LGBTに関する情報の量も、パソコンよりもスマホのほうがずっと多くて、驚きました」

以前、mixiで言葉だけを知っていた「Xジェンダー」についての情報も得た。

それによれば、「Xジェンダーとは、身体的に男性あるいは女性として生まれながら、そのどちらでもないという性自認を持つ人のこと」。

「自分に、よく当てはまるような感じがしました」

『LGBTER』の存在を知ったのも、本を買えるアプリだった。

「バイセクシュアル女性が書いた『LGBTのBです』という本を見つけたのが、きっかけでした」

「自分と同じようにバイセクシュアルだという著者のことが知りたくなって調べたところ、彼女の記事が『LGBTER』に掲載されていたんです」

彼女の記事をはじめ、サイト内で紹介されている人たちの記事を読んだ。

「自分と同じように、聴覚にハンディのある人もいました。世の中には、そしてLGBTとひと口に言っても本当に多種多様な人がいること、そして理解者もいるということを知りました」

「パンセクシュアル」というセクシュアリティとも、このサイトで初めて出会った。

「パンセクシュアルとは、性差を超えた恋愛感情。自分はまさにこれだ! と思ったんです」

もやもやが晴れ、目の前がぱっと開けたような気がした。

ポリアモラスな性質を持ったパンセクシュアル

バイセクシュアルやパンセクシュアルの当事者たちと、ツイッターを通じて会話を交わすようにもなった。

ツイッターのタイムライン上では、「恋愛感情とは何か」という議論がなされているのをたびたび目にする。

そこで、自分自身にも問うてみた。

恋愛感情とは何か。

「僕は、誰かを好きになって、その人と実際につきあいたいか? と言われると、そこまでは思わないんです」

「この人と、お茶をしたい。そう思うと、ドキドキする」

「こうした気持ちが恋愛感情なのかどうか、考えれば考えるほどよくわからなくなります」

「思い返してみると、僕は好きになった人の性別を気にしたことはないんです」

「男性も女性も、人間としてステキだなと感じると好きになる」

さらに、同時に複数の人を好きになれる。

そんな自分のような人間は、ほかにもいるのだろうか? と調べるうちに、「ポリアモリー」という言葉を知った。

ポリアモリーは、複数の人を同時に愛し、それを互いが全員合意している性愛関係と言われている。

「ただ僕の場合、自分の気持ちが恋愛感情なのかどうかわからないので、ポリアモラスな性質を持っているということかな」

しかも、好きになる対象の性別は問わない。

「それを考えると、自分は『ポリアモラスな性質を持ったパンセクシュアル』でしょうか」

10 「知る」ことでネガティブをポジティブに変えていく

あっけらかんと生きている自分を伝えたい

自分は、聴覚や嗅覚に障害があり、カルマン症候群という病気も持っている。

しかも、パンセクシュアル。

世間から見れば、自分はいろいろな意味においてマイノリティだ。

「聴こえについては不自由を感じることもあるけれど、病気のことやセクシュアリティのことについて、ほとんど悩んだことがないんです」

もともとあまり悩まない性格だということもあるが、家族や学校の友だち、職場の人たちに恵まれているからだろう。

そんな自分が、今、セクシュアリティの問題で深く悩み、苦しんでいる人たちに何かを言うのは、おこがましい。

「ただ、マイノリティとされる存在であっても、こうしてあっけらかんと生きている人間もいる、ということを知ってもらえたら」

もし悩むことがあったら、インターネットで情報を集めるだけでなく図書館へ行って、本で調べてみるといいかもしれない。

「専門書や当事者の書いた本から、何かしらヒントが見つけられると思うんです」

「こんな人がいるんだ、こんなふうに生きているんだ、ということを知ると力がわいてくるかもしれません」

だから、ひとりで思い悩んでいるだけでなく、まずは調べてみる。

それが、前に進む第一歩につながるかもしれない。

セクシュアリティの移ろいを楽しむ

自分は今、LGBTやジェンダー、そしてSOGI(Sexual Orientation & Gender Identity)について、さらに研究中だ。

「研究といっても自己流。趣味です(笑)」

「僕にとっては、あんなこともある、こんなこともある、と知識として頭に入れておくだけでも、楽しいんです」

ゲイかな、バイセクシュアルかも、いや、パンセクシュアルかな・・・・・・ と自分の中でセクシュアリティが揺らいだり、変わっていくのが興味深い。

今でも、揺らぐことはある。

「もしかしたら、この先、LGBTではなくなる可能性もあるかもしれないなあと、思ったりもします」

「自分は◯◯だ」と決めてしまうより、「あれもアリ、これもアリ」としたほうが自由に生きられるような気がする。

「僕の今の気分としては、セクシュアリティも洋服のように、その日の気分によって変わる感じかな」

変わらないのは、誰かを好きになったと思った瞬間、心の中がしあわせな気分で満たされること。

そこに、相手の性別や自分のセクシュアリティは関係ない。

「好きな人を集めて、みんなでお茶すること。それが夢なんです」

あとがき
個性的なカッティングのシャツを着こなす貴雄さん。長野県からのご登場だ。とにかくずっとニッコリな表情。取材スタッフの顔もほころんだ◼聞こえや香り、からだのこと。不自由さがあると知りながら、ハンディキャップと感じないのはどうしてか? それは、貴雄さんの笑顔の習慣にちがいない。恐れのない無垢な視線は、これからの時間に向けられていた。好きな人たちを集めたしあわせなお茶会は、きっともうすぐ。(編集部)

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