02 仕事も人間関係も恵まれてきた
03 両親の知らない一面
04 ゲイで「普通」の高校生活
05 恋愛と体の関係
==================(後編)========================
06 「悩まない」
07 仕事と人生
08 メディアに映る「ゲイバー」
09 普通と普通じゃないを分けないで
10 今日も、自分の居場所で
06 「悩まない」
自分の居場所は常にあった
セクシュアリティについて悩むことも、セクシュアリティのせいでいじめを受けたこともなかった。
そして、自分が「普通」と思うことに、疑問を持つこともなかった。
自分は自分。それが自然。
人間関係にも仕事にも恵まれ、特に悩むこともない。
「僕の場合はどこもいじっていないし、なんていうのかな。悩む人って、生まれたときは男だったけど女になりたいとか、そういう人が多いのかなと思います」
「僕は変わりたいとかがない。ただの普通の男子だから。だからあまり悩まないのかな」
「男の子になりたい、女の子になりたいっていう人のほうが悩むのかなって」
「僕みたいな場合、一体、何を悩むのかなって。何を悩むのか、逆に知りたいですね」
幼稚園時代は、おままごとで「ママ」役の男の子として、受け入れられていた。
小学校のころから、自分と似たタイプの男の子がそばにいた。
中学や高校ではゲイであることをオープンにはしなかったが、二丁目に行く友だちがいた。
アルバイトでは認められ、大好きな仕事がある。
自分の居場所は、常にあった。
だから苦しくないし、悩んだこともない。
相手が苦しい場合もあるから
もうこの世にいない父、離れて暮らす弟、一緒に暮らしている母。
家族には一度も、自分がゲイだと言ったことはない。
「人にわざわざ言う必要もないって思います。伝えることで、相手が苦しい場合もあると思うから」
「たぶん、うちの親に言ったらショックじゃないけど、苦しむと思うんです」
相手を苦しませるぐらいなら言わない。
「言えない自分も苦しいかもしれないけれど、言われた相手が苦しむこともありますよね」
「知らなきゃよかった、っていうこともあるわけだから、無理に言う必要もないし」
「彼女できた?」と聞かれるのも、適当に話を合わせるのもそれほど苦ではなく、悩んだことはなかった。
「でも僕が悩まないからといって、悩むのが悪いわけじゃない。なんだろうね・・・・・・」
もし誰かに、「親に言いたいけど言えない。言えないことが苦しい」って相談されたら、どう答えるだろう。
一番大切なのは、自分の気持ちに正直になること。
「隠していることが苦しかったら、ちょっと遠回しに言うのもいいかもしれない。ストレートに言うのではなくて、そういう人が
07仕事と人生
15歳で始めたバイト
「マクドナルドは、やって良かった仕事だと思います」
15歳でマクドナルドのアルバイトを始めた。
ポケベルや携帯電話の代金も、バイト代から自分で払っていた。
高校卒業後も継続。
途中で社員となり、一時ブランクがありつつも、34歳まで働き続けた。
25歳から始めたバーでの勤務と掛け持ちした時期や、「人が足りないから戻ってきてくれ」と言われたこともある。
「始めた理由は、たまたま家の近くにあって、他に思いつかなかったから。だけど、
思いのほか長く続きました」
学生時代のアルバイト。数カ月や、数回で辞めてしまう人だっている。
これほど長く続いたのは、やはり接客が性に合っていたからだと思う。
もしくは、職場運の強さなのかもしれない。
人に教わることや人に教えること、衛生管理、商品の管理など多くのことを学んだ。
当時のスタッフとは、今も交流がある。
男女問わず友だちが多い交友関係の一端は、当時から続いている。
「マクドナルドは、やって良かった仕事だと思います」
15歳でマクドナルドのアルバイトを始めた。
ポケベルや携帯電話の代金も、バイト代から自分で払っていた。
高校卒業後も継続。
途中で社員となり、一時ブランクがありつつも、34歳まで働き続けた。
25歳から始めたバーでの勤務と掛け持ちした時期や、「人が足りないから戻ってきてくれ」と言われたこともある。
「始めた理由は、たまたま家の近くにあって、他に思いつかなかったから。だけど、
思いのほか長く続きました」
学生時代のアルバイト。数カ月や、数回で辞めてしまう人だっている。
これほど長く続いたのは、やはり接客が性に合っていたからだと思う。
もしくは、職場運の強さなのかもしれない。
人に教わることや人に教えること、衛生管理、商品の管理など多くのことを学んだ。
当時のスタッフとは、今も交流がある。
男女問わず友だちが多い交友関係の一端は、当時から続いている。
いろんな人と出会って勉強したい
野毛のバーで働き始めて3年目で、前のオーナーから店を引き継いだ。
前店の常連だったお客さんも、半分ぐらいは今も来てくれている。
「お客さんが第一。長く続くコツとか秘訣とかはないですね」
「結局、ちゃんと接客することが一番だと思います」
自分がされて嫌なことはしない。されてうれしいことをする。
迷うことなく選んだ接客の仕事だから、シンプルに、今日の仕事を一つひとつを大切にこなしていく。
「でもまあ、今は出会いを求める場所がバーとかじゃなくてスマホで出会えちゃうから、飲みに出ない子もいるし」
「昔に比べたらひまですよ。こういう業界はこれからどうなのかなって思っちゃうけどね」
そう言いつつも、やっぱり接客の仕事が好きだ。
はっきりした目標はないが、いつかはフードを出す飲食店も開いてみたい気持ちがある。
「今のお店に、ゲイの方にもっといっぱい来てほしいっていうのはあります。いろんな人と出会って勉強したいし、吸収したいのもあるから」
店はお客さんの居場所であり、出会いの場でもある。
そして、自分にとっては仕事の場所であり、勉強の場。
人生がここにある。
08メディアに映る「ゲイバー」
「特別な人」扱いは違和感
LGBTへの偏見や差別について、個人的にはあまり感じたことがない。
たとえば、とんねるずの「保毛尾田保毛男」の件も、当時周囲で流行っていた記憶がないので、特に何か思ったことはない。
「だけど、最近のメディアでの取り上げられ方については、少し気になることもあるんです」
メディアがLGBTを取り上げたことによって、認知は広がった。
一方で、LGBTが「特別な人」扱いされることには、違和感がある。
だって生まれたときから、自分は「ただの普通の男子」だったから。
「メディアで取り上げられて、受け入れられるようになってきたと感じます。昔と比べたらね」
「でもやっぱり差別する人はいるし、気持ち悪いとか言う人もいる。そういう人に、普通の人間だよっていうのを伝えてほしい」
「一般から外れてると思っている人たちへの差別をなくしてほしい」
「LGBTの良さとかっていうよりも、同じ人間だよ、同じ人だよっていうのをわかってほしいなと思います」
ドアが開いたら「キャ~~!」のイメージ
メディアが「ゲイ」や「ゲイバー」を取り上げることで、先入観を持って自分の店に来る人もいる。
「メディアで見たままのイメージで来る人も、やっぱりいるんです」
「ドアが開いたら『キャ~~!』って、テンションの高いお姉さんたちが出迎えるような。そういうイメージで来る人も前にいましたね」
そういうときは、すべての店がそうとは限らないよと話す。
「うちは普通の接客をするお店だから、そういうのをイメージすると期待外れかもしれない(苦笑)」
メディアでのイメージは強い。
「テレビでは面白く演じていたり、オネエキャラでテレビに出る芸能人だって、いろんな意味で普通の人。同じだよって思いますね」
09普通と普通じゃないを分けないで
メディアはちょっと、騒ぎ過ぎ
ままごとでママ役を選ぶことも、男の子が好きなことも、二丁目に通うことも、自分にとってはすべてが普通。
自然ななりゆきだった。
けれど、テレビはマジョリティの目線から「普通」とそうでない人を切り分ける。
そして一部のマイノリティをカメラの前に立たせて、「普通ではない」ように脚色する。
悩んでるわけじゃない。
死にたいわけじゃない。
普通に楽しく生きている。
そんなマイノリティもいる。
同じ人間だから、「普通」と「普通じゃない」を分けないでほしい。
「メディアはちょっと騒ぎ過ぎですよね、と思います」
自分を形容するときに、繰り返し登場する「普通」。
込められた思いは強い。
普通の自分
「周りからどんな人と思われているかって? どうだろうね(笑)」
あまり怒らない。
進んで自分から自分を語ることはしない。
だけど人と騒ぐのは好きで、接客業も好き。
選んできた道の中で仕事や人間関係に自然と恵まれたことは、「普通」からしたら不思議なのかもしれない。
「普通と言いつつ、これまで経験したいろいろなことは、他の人たちにとっては普通じゃないのかもしれないですね」
「でも、これが普通の自分だから、本当に」
10今日も、自分の居場所で
淡々と現状維持
弟が家を出たから、母親の面倒をみるのは自分しかいない。
「・・・・・・父のことはどうでしょう。離婚前も離婚後も、あまり思い出がないのでわからないですね」
両親が離婚したときも、さみしいという感情はなかった。
父に対してはずっと、好きではないけれど嫌いでもない。
自分が家族をつくることについては考えていない。
実は、恋人についてもあまり期待をしていない。
「なんだろね、恋愛とか考えてないです。今すぐ恋人がほしいとかないし。できればいいかなぐらいなので」
「あんまりほしいって考えちゃうと、できなかったときにダメージ大きいし(笑)」
淡々と店を続けていくこと。現状維持。
今が楽しいから、変わりたいとも思っていない。
多くを求めない。
飲食店を見てまわるために、全国を巡るのは好きだ。
これまで訪れたのは、北海道、仙台、名古屋、大阪、沖縄など。
去年少し付き合った恋人は沖縄出身だった。
今年は九州に行きたいと思っている。
「話を聞くぐらいなら」
「仕事にだけは恵まれたと思っています。接客が好きだから、結局続いてますね」
好きな仕事に恵まれて、運が良かった。
仕事に関する人間関係についても恵まれていたと思う。
高校時代から続けた仕事も、バーの仕事も、自分でバーの経営を始めてからも、仕事を学べる環境があり、仕事を教える相手がいた。
仕事の後も、一緒に遊ぶ付き合いがあった。ときには好きになってくれた異性もいた。
自分の居場所を作ってくれたのは、一緒に働いてきた人たちだったのかもしれない。
だからこれからも、店にたくさんの人が訪れてほしい。
「店を大きくしたいとは思わないけれど、もっとゲイのお客さんにたくさん来てほしいですね。ゲイバーはたくさんあるけど、自分の店はここ」
「話を聞くぐらいならできますよ」