02 冒険ヒーローへの憧れ
03 初恋は、剣道部の先輩
04 校長先生が男子の制服を許してくれた!
05 進路を急転換。海上自衛隊を目指す
==================(後編)========================
06 自衛隊の古い制度のなかで生きる
07 レズビアンを自認。人を好きになっていることがうれしい!
08 新しいパートナーはフランス人
09 突撃! カミングアウト大作戦
10 シェフとして、新しい目標へ離陸する
01幼稚園の頃から、夢はパイロット
国際的な視野を培う
神奈川県藤沢市生まれ。3歳年上の姉と年子の妹の3姉妹で育った。今でも、毎月、顔を合わせる仲のいい姉妹だ。
「お父さんは海外への出張が多いIT系のビジネスマンで、海外に単身赴任をしていたこともありました」
両親は職場結婚。二人の影響か、子どもの頃から視野を広く海外へ向けていた。
「小さい頃から夢はパイロットでした。あんな大きなものを操縦して、ほかの国に行けるなんて、すごいじゃないですか。想像するだけでワクワクしてました」
「女の子では、珍しいですよね。変わり者といわれてたんです(笑)」
湘南の海を見ながら、その向こうの遠い国へ飛んでいくことに思いを馳せた。
3姉妹そろって英語教室にも通う。
「世界はここ(日本)だけじゃない、って意識は早いうちからありましたね」
子どもの頃に培ったワールドワイドな視野が、固定観念に縛られない思考の礎になった。
おじいちゃん、おばあちゃんに教えてもらったこと
妹が生まれたとき、お母さんは甘えん坊の姉と赤ん坊の世話に追われた。
「2歳のときから、私ひとりだけ、よく祖父母の家に預けられたんです」
母親の実家が鎌倉だったため、昼間はおじいちゃん、おばあちゃんと過ごすことが多くなった。
「おじいちゃん、おばあちゃんは自由にさせてくれるでしょ。楽しかったですね(笑)」
おじいちゃんは、いろいろな遊びを教えてくれた。
「竹を細く割っていくと、しなるようになるんです。そこに糸を張って弓矢を作りました。ススキを矢にして飛ばして遊ぶんです」
竹のしなりを利用した豆鉄砲の作り方も教えてもらった。
「手先が器用になったのは、そのおかげですね」
自転車を乗り回したり、江ノ島に行ったり・・・・・・。男の子のように外を走り回る。
「おじいちゃんと遊んでるうちに、自然の中にいるのが大好きになりましたね」
おばあちゃんに教えてもらったのは料理だ。
「今でも作る甘い卵焼きは、おばあちゃんのレシピです」
大好きな焼き芋をたくさん作って待っていてくれたのも、懐かしい思い出だ。
「夏は、いつもスイカが冷えてました。本当に甘やかしてもらいました」
02冒険ヒーローへの憧れ
ついてこられるのは男の子だけ
幼稚園の頃から、ワイルドでアクティブな遊びが好きだった。
「とにかく、走り回ってました。ついてこられるのは男の子だけ」
誰がのぼり棒を一番速く登れるか。鉄棒では、何回前回り前転ができるか。長い髪を振り乱して遊びまくった。
「その頃のあだ名はポカホンタスでした」
そんな野生児の遊び相手は、必然的に男の子ばかり。
「その男の子も泣かせちゃうくらい、すごかったです(笑)」
差別的なあだ名もポジティブに受け入れた
小学校に入っても、その性格は変わらなかった。
「昼休みは、ダーッと校庭に飛び出していって、ドッジボールをしてました。クラスでも目立っていたんでしょうね」
あだ名は、途中からオトコ・オンナに変わる。
「別に嫌じゃありませんでした。ざまあみろ、負けるもんかっていう感じでした」
差別された、とマイナスに取るのではなく、「しっくりくる」とポジティブに受け入れる強さもあったのだ。
「家で遊ぶときは、妹のママゴトにつき合っていました」
しかし、ママゴトの役割分担は、はっきりとしていた。
「夏みかんがいる、となると、『よし!』といって、私が木になっている夏みかんを取ってくるんです」
その夏みかんを使って、妹が料理の真似ごとをする、というパターンだった。
「私が狩りを担当していたわけです」
「ゼルダの伝説」に登場する勇者リンクやドラゴンボールなど、冒険ヒーローへの憧れが鮮明になっていった。
体操クラブでトランポリンに熱中
小学生のときには、いろいろな習いごとにチャレンジする。
「英語のほかに、ピアノ、体操を習いました。強くなりたい、という理由で空手もやりましたね」
特に楽しかったのが体操だった。
「家の近くにある、日大藤沢高校が運営している体操クラブでした」
器械体操にも興味があったが、レオタードを着るのがどうしても嫌だった。そこで始めたのが、トランポリンだ。
「前転をしたり、腹打ちをしたり。一人でできるのがよかったみたいです」
黙々と体を鍛えることが好きで、お父さんに足を押さえてもらいながら、腹筋100回にも挑戦した。
夏休みの恒例行事は、家族でいくキャンプ旅行。
「クルマに荷物を満載して、家族5人におじいちゃんとおばあちゃんも一緒に行くんです。それは、賑やかで楽しかったですね」
03初恋は、剣道部の先輩
親友はアーティスト系
小学校の友だちは男子ばかりだったが、そのなかでひとり、仲のいい女友だちがいた。
「とても個性的な子で、絵を描いたり、ものを作ったりするのが得意な、アーティストタイプでした」
一緒に話をしていると楽しくて、時間を忘れることもあった。
「その子とは同じ中学、高校に進学して、部活も一緒でした。地元の親友ですね」
中学で選んだ部活は、剣道部。女子だけで30人も部員がいる、人気の部活だ。
「お姉ちゃんが剣道部だったので、私も、という感じでした。『ワンピース』に出てきたロロノア・ゾロが好きだったこともありました」
自分がカッコよくなるために、人一倍竹刀を振って、体の鍛錬に努めた。
この気持ちって、いったい何?
その剣道部に気になる先輩がいた。
「後から考えれば、あれが初恋だったんでしょうね」
明るくて、優しくて、きれいな人だった。
「もっと先輩のことを知りたい、いろいろなことを話したい、と思う特別な存在でした」
「なんか気になる。近くにいるとドキドキする。これって恋? でも、相手は女性だしなあ。そんな感じでした」
女の人を好きになっているのか、単なる憧れなのか、自分でも何なのか分からない、モヤモヤした感情だった。
先輩とふたりきりのデートはしなかったが、剣道部の4人で出かけることがあった。
「駅前のプリクラとか、ゲームセンターとか。一緒にいるだけで、うれしかったですね」
バレンタインデーには、特別ではない普通の贈り物をした。
「手紙なんて、恥ずかしくて書けなかったですね。こっそりと気持ちだけを込めました」
男子には一切、興味なし
クラスには彼氏、彼女を作る同級生もいた。
「親友の子もボーイフレンドがいて。でも、羨ましいとは思いませんでしたね。私と一緒にいられる時間が半分になっちゃうのは、寂しかったですけど」
カッコいい男子がいたとしても、それは自分がそうなりたいという目標であって、恋愛の対象にはならなかった。
「マンガで『胸がキュンとする』みたいなシーンがあっても、自分に置き換えると、こっぱずかしくて、ダメ、ダメという感じでした」
たとえば、男の子とキスをしたいなどという感情は、一切、沸かない。
中学でも、相変わらず、あだ名はオトコ・オンナ。「ジャニーズ入ってるな」ともいわれた。髪は短く、ソフトモヒカンにしたこともある。
「中性的なキャラって、男子にモテないんですよ。告白されたことは、一度もありませんでした」
親友から恋愛について相談されたことがあったが・・・・・・。
「私に聞かれても、?っていう感じですよね(笑)。大変だね〜 っていって、ごまかしましたよ」
04校長先生が男子の制服を許してくれた!
校長先生に直談判
中学の同級生にセクシュアリティの悩みを持つ子がいた。
「はっきりとカミングアウトしていたわけではありませんが、よく『男になりたい』といってました」
その子と自分だけが、スカートを履きたくなくてジャージで登校していた。
ある日、担任の先生に「ちゃんと制服を着るように」と注意される。
「私たちは、『どうしてもスカートを履きたくないんです』と泣きながら訴えたんです。そうしたら、校長先生のところに連れていかれて・・・・・・」
すると、校長先生は、「あなたたちの気持ちはよく分かった」といって、なんと男子の制服を着ることを許してくれた。
「ただし、不良のような真似をしたら許可は取り消す。品行方正にしていなさい、という条件付きでした」
校長先生が書いてくれた「証明書」を持って、二人で藤沢のさいか屋に行き、晴れて男子用のズボンとブレザーを新調する。
「みんな、『やったじゃん!』と喜んでくれました。ほかにもズボンを履きたい子は、たくさんいたんです」
「お母さんは、ただビックリしていましたけどね(笑)」
そのとき、一緒に頑張った子とは、その後も連絡を取り合う仲になった。
部活はYOSAKOIソーラン
中学卒業後、国際語学科のある高校に進学した。英語に特化した特徴ある学科だ。
「姉がその高校に通っていて、楽しいよ、と話していたので、決めました」
その後、妹も同じ高校に進学することになる。
「高校ではレクリエーション部に入りました」
特に一生懸命に取り組んだのは、YOSAKOIソーラン。軽快な音楽に合わせて、チーム一体となって動くのが魅力だ。
「地元のお祭りに参加したり、老人ホームで踊ったりしました」
体を動かして表現をすることが好きだったので、YOSAKOIソーランには楽しく取り組むことができた。
男性とのおつき合いを経験
高校生の頃、ひとつの悩みがあった。
「自分は人を好きになれない人間なんじゃないか、って不安になったんです」
どんなにカッコいい男子でも、恋愛感情は沸いてこない。かといって、女性を愛せるかといえば、それも分からない。
「それで、同級生の男子とつき合ってみたんです」
彼はサッカー部に所属していた。同じスポーツ好きとして話が合うのでは、と期待した。
「でも、最初に感じたのは、温度差です。ホットとアイスみたいな」
「剣道部の先輩と一緒にいたときはドキドキしたり、汗をかいたりしたのに、それがないんです」
手をつないだりキスをしたりしても、何も感じない。
「それって、普通、ありえないですよね(笑)」
結局、3カ月ほどつき合って、「ごめんなさい」と別れを切り出した。
「男性とのつき合いは、やっぱりダメなんだ、と分かりました」
05進路を急転換。海上自衛隊を目指す
目標は、難関の航空大学校
一方で、幼い頃に抱いた、パイロットになる夢は継続中だった。
「内田幹樹さんの『機長からのアナウンス』という本を読んだんです」
元機長が綴る楽しいエピソード集だった。その本のなかに「(着陸のため高度を下げると)エッフェル塔が見えた」という一節がある。
「エッフェル塔かぁ。すごいなぁ、と感激しました」
頭の中に異国の風景が広がった。
旅客機を操縦して、知らない町を訪ねてみたい。その思いは、ますます募るばかりだった。
卒業後の進路は航空大学校に定める。国が設立した唯一のエアライン・パイロット養成機関。誰もが知る、超難関だ。
「一生懸命に勉強をして突破する、と心に決めました」
身長が足りない!
周囲には「パイロットになる」と意気込みを語り、受験に向けて準備を着々と進める。
「飛行機に乗る仕事というと、みんなだいたい『スチュワーデス?』って聞くんですよ。『ううん、運転』って答えると、みんな驚いてました」
ところが、あるとき、受験に関する応募要項を読んでいて愕然とした。
「パイロットになるためには、身長が足りないことが分かったんです」
私、ダメなんだ。どんなに頑張ってもパイロットになれない!
「ガッカリしたのは、もちろんですけど、かなり焦りましたね」
しかし、簡単に夢を諦めるわけにはいかない。
「ほかに道はないかと思って、いろいろと検索をしました」
そのときに、バーンと出てきたのが、自衛隊の「航空学生募集」だった。
「これだ! と思いました」
第一希望だった旅客機のパイロットではないが、自衛隊の飛行機でもいい。とにかく、空を飛ぶ仕事に就きたかった。
「自衛隊には、航空、海上、陸上がありますが、私が選んだのは海上自衛隊でした」
意外なことに、航空自衛隊よりも海上自衛隊のほうが飛行機の数が多い。パイロットの道も開けているのだ。
海上自衛隊に入る、と母親に伝えると、「え〜!」と驚かれた。
「何を言い出すか分からない、奇想天外な娘だったんでしょうね」
ちなみに、大学生だった姉の目標は警察官、妹も後に陸上自衛隊に入隊する。
泥だらけの入隊教育
自衛隊一般練習員の入隊試験は、高校3年生の9月に実施された。
「試験に合格したので、通常の大学入試はどこも受けませんでした」
翌年4月、横須賀にある武山駐屯地で4カ月間の入隊教育がスタート。
「同期生は44名。全員、女性でした」
座学とトレーニングに明け暮れる日々。特にトレーニングは過酷で、肉体的な疲労が極限に達した。
「しごかれて、怒られて、お風呂は3分。常に、みんな臭かったですね(笑)」
でも、まさに軍隊のような生活を楽しむことができた。同じ目標を持つ仲間と汗だくになって頑張る経験は貴重だった。
<<<後編 2020/07/11/Sat>>>
INDEX
06 自衛隊の古い制度のなかで生きる
07 レズビアンを自認。人を好きになっていることがうれしい!
08 新しいパートナーはフランス人
09 突撃! カミングアウト大作戦
10 シェフとして、新しい目標へ離陸する