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LGBT当事者の存在を知ってほしいから、自分のセクシュアリティをオープンにする。【後編】

LGBT当事者の存在を知ってほしいから、自分のセクシュアリティをオープンにする。【前編】はこちら

2022/11/29/Tue
Photo : Ikuko Ishida Text : Ryosuke Aritake
曲渕 光雪 / Miyuki Magaribuchi

2001年、奈良県生まれ。性自認はノンバイナリー。中学生の頃から、男女で分けられることや「女らしさ」「男らしさ」という言葉に違和感を抱いていた。大学で入ったLGBTサークルでセクシュアルマイノリティの知識を得て、自身のセクシュアリティも自覚する。現在は大学に通いながら、LGBT講師活動と村おこしのボランティア活動を行っている。

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INDEX
01 さまざまな面で支えてくれる家族
02 幼い頃に抱いた苦手意識
03 「女子」「男子」に対する違和感
04 世界が広がった高校時代
05 親身に話を聞いてくれた先生
==================(後編)========================
06 大学で得たLGBTの知識
07 ノンバイナリーというセクシュアリティ
08 自分に意味をくれるボランティア活動
09 母親にカミングアウトした日
10 これからを生きる自分たちのために

06大学で得たLGBTの知識

レインボーフラッグの意味

大学に入ってすぐに開催されたサークルフェスタ。
さまざまなサークルが、新入生を勧誘するイベントだ。

「あるサークルが大きなレインボーフラッグを掲げていて、その旗にひと目惚れしたんです」

レインボーフラッグの意味は知らなかった。しかし、そのカラーリングがとても魅力的に見えた。

「この旗キレイだな、って感想だけで部室に入ったら、先輩の押しが強くて(笑)」

「当時はLGBTって単語すら知らなかったので、先輩の話も全然わからなかったけど、とりあえずサークルに入ってみました(笑)」

セクシュアルマイノリティに関する知識を発信するサークルで、どんなセクシュアリティでもメンバーに迎えられた。

主な活動は、学校や教師向けの研修会などでの講演。

「講演に向けてランチ会が開かれて、メンバー同士で雑談をするんですよ。その時もセクシュアリティとかLGBTとか、知らないカタカナ語が飛び交って、最初は全然わからなかったです」

「先輩たちの話を聞いたり、サークルで出している冊子などを読んだりしながら、知識をつけていった感じですね」

共感した違和感

過去にサークルで発行された冊子には、レズビアン当事者のインタビューが載っていた。

「その方がどんな風に人生を歩んできたか、どんな違和感を抱いてきたかが、語られていました」

「その内容には、ところどころ共感できる部分があったんです」

女の子向けの服は、好んで着なかったこと。
「イケメン」という概念が理解できず、友だちの話題についていけなかったこと。

「自分もそうだな、って思いながら、インタビューを読みました。ただ、自分はレズビアンではないかな、という感覚はあったんです」

レズビアンは、「女性として女性が好き」というセクシュアリティ。

自分は女性が好きなわけではなく、「女性として」という感覚とも違う気がした。

「ただ、当時は知識を得たばかりで、セクシュアルマイノリティといわれる人はLGBTの4つだけに分類されると思ってたんです」

「自分はゲイでもトランスジェンダーでもないから、バイセクシュアルなのかな、って捉えてました」

07ノンバイナリーというセクシュアリティ

男性でも女性でもない自分

サークルを通じてLGBTという言葉を知った後、大学の授業で別のセクシュアリティを知る。

「授業の資料に出てきたのが、Xジェンダーでした」

「『男性でも女性でもない』『男女の中間でどちらの性も自認している』という風に書かれていて、自分はおそらくXジェンダーかなって」

性的指向が男女両方に向いているバイセクシュアルではなく、性自認が男女両方に向いているXジェンダーの方がしっくりきた。

ただ、サークルなどでXジェンダーの話をすると、個々に違う定義を持っていることを知る。

「人によって『Xジェンダーはこういうもの』って考え方が、違うんですよね」

「中には『自分は7割男性、3割女性だと思ってる』って、明確にしてる人もいました」

Xジェンダーという言葉の認知度が上がった分、捉え方も人それぞれ。

自分自身の感覚では、Xジェンダーとしての自分をうまく表現できないような気がした。

「そんなタイミングで、ノンバイナリーというセクシュアリティを知りました」

「ノンバイナリーは、『男性とも女性とも自認していない人』って説明されることが多いんですよね」

このセクシュアリティが、もっとも自分を説明しやすい言葉だと感じた。

自分はノンバイナリーだから

女性として生まれたことや、自分の体に対して、現在、嫌悪感を抱くことはない。

「書類の性別欄で女性に丸をすることは、生年月日を書くのと同じ感覚で、特に引っかかることはありません」

「ただ、女性に丸をすることで採用率が下がる、仕事内容が変わるといった支障が出るなら、話は別だと思います」

中学生の頃に抱いた「女の子なら」に対する違和感は、今も変わっていない。

「自分の人生設計には、『結婚』『出産』という文字は書いてありません」

「周りから『女らしくしなさい』と言われても、自分はノンバイナリーだから、言うことを聞く対象ではないですよね」

誰しも同じように考えていいと思う。「女らしさ」「男らしさ」に違和感を覚えるなら、その言葉に従う必要はない。

「そうはいっても、自分も流動的なところはあります」

「服装1つとっても、今日のインナーのTシャツはメンズだけど、上着のシャツはレディースです」

「『女だからレディースを着なきゃいけない』わけじゃなくて、自分の好みで決めていいじゃないですか」

「社会的性役割って蔓延してますけど、そういうものに縛られたくない、って思うんですよね」

08自分に意味をくれるボランティア活動

活動を始めた理由

大学に入ってからやりたかったことの1つが、ボランティア活動。

「お姉ちゃんが、頻繁に海外ボランティアに行ってたんですよ」

姉はカンボジアやインドに赴き、学校建設を支援するボランティアを行っていた。

「ただ、お姉ちゃんはいつもお腹を壊して帰ってくるんです。もともとお腹が弱い自分は、海外なんて行けないなって(笑)」

国内でできるボランティア活動を探し、村おこしNPO法人「ECOFF」と出会う。

いろいろな島を訪れ、「村おこし」といわれる地域貢献活動を行っているNPO。

「交通費などの出費は大きいんですけど、得られるものが多くて、ハマってしまいました」

2022年のゴールデンウィークには、瀬戸内海に浮かぶ江田島に10日間ステイし、田んぼ・畑作りに勤しんだ。

「雑草ボーボーのところから始めて、体力はかなり消耗しましたけど、楽しい10日間でした」

ボランティア活動を始めた理由は、姉の姿だけではなく、母の言葉もある。

「幼い頃から1つのことに集中すると周りが見えなくなる部分があって、よくお母さんから『もうちょっと広い視野で見なさい』って、指摘されてたんです」

「ボランティアでいろいろな土地に行けば、『広い視野』を取り入れられるんじゃないかと」

「お母さんには金銭的にもかなりサポートしてもらっているので、社会人になったら返そうと思ってます」

カミングアウトで変えた意識

ボランティアで、ある島に行った時のこと。
そこでの活動では、男女で分けられることが多かった。

「作業を分けられるだけじゃなくて、女の子をお花に見立てて男の子を囲むみたいなイベントもあったりして」

「10日間のプログラムだったんですけど、3日目くらいで苦痛に感じて、サークルの友だちに相談しました」

ボランティアのメンバーはいい人ばかりだった。ただ、そのルールが受け入れられないだけ。

せっかく訪れた島での活動も、途中で投げ出したくはない。

「だから、ボランティアのメンバーにカミングアウトしてみよう、って決めたんです」

「その頃には、カミングアウトされた側の人が思い悩んでしまう姿を見た経験があったので、メンバーにはなるべく衝撃を与えないよう、入念に準備しました」

寝る間を惜しんでカミングアウト用の原稿を書き、何度も推敲を重ねた。

カミングアウトしたのは、原稿を書き始めてから3日後。

まずは自身のセクシュアリティを伝え、どの部分に苦痛を感じたのかを話した。

そして、「5%も受け入れられない人もいると思うけど、今の話でセクシュアリティを考えるきっかけにしてほしい」と、フォローした。

「最後に『当事者はクローズ派が多い。その方たちの代わりに自分が発信した。みんなが居心地良く過ごせるように、言動を変えていってほしい』と、伝えました」

「翌日から、男女分けのルールはなくなりました」

誰かが「男ならこうしなきゃいけない」と発言すると、ほかの誰かが「それって差別的だよ」と指摘してくれる場面もあった。

「メンバーは柔軟性が高い方が多かったからか、劇的に変化した瞬間でしたね」

09母親にカミングアウトした日

想像していなかった言葉

ボランティア活動中のカミングアウトよりも前の話。

大学1年生から2年生になる間の頃、家族に自分のセクシュアリティについて打ち明けた。

「その時は、今ほど順序立てて話ができなくて、かなり言葉足らずなところがあったと思います」

「カミングアウトを受ける側に対して、どんなフォローが必要か、考えられてなかったんですよね」

それでも、姉や妹はまっすぐに受け止めてくれた。
しかし、母には拒否に近い反応を示されてしまう。

「ノンバイナリーだと伝えた直後、母から『女性はいい男性を見つけて結婚、出産して幸せになるものだよ』って、言われてしまったんです」

「その言葉を聞いて、絶対に受け入れてもらえない、って思いました」

その後の成人式に向けても、「女性は振袖を着ることで、親への感謝を示すものだ」と、言われた。

「自分は振袖を着たくなかったので、3カ月くらい、母と戦いましたね。成人式で着物を着る必要がないことをデータで示したり」

「お姉ちゃんも、お母さんとの間に入って、補佐してくれました」

結果的に、成人式は新型コロナウイルス感染症の影響で延期になり、出席は叶わなかった。

「振袖を着なくてすんだことは、良かったです(苦笑)」

見えない母の努力

「今になってあの頃を振り返ると、お母さんもすぐには受け入れられないよな、って思います」

カミングアウトは、親に親当事者であることを自覚させる瞬間でもある。

子どもからの思いがけない告白を受け止め、すぐに対応できる親は、きっと少ないだろう。

「大学1年生の終わりにカミングアウトして、今は4年生になりましたが、その間に母も落ち着いたようです」

「最近は、結婚や出産の話題を出さなくてなって、私の服のチョイスをかっこいいって言ってくれるようになりました」

「私のセクシュアリティについて、まだ完全に受け止めてはいないと思いますが、以前よりは肯定的になってきたと思います」

「お母さんがこの数年間、どんな努力をしてきたかは、まったく知りません。でも、子どものことを理解するために、知識を得たりしてくれたんじゃないかなって」

今では、何でも話せる親子関係を取り戻すことができた。

10これからを生きる自分たちのために

社会人になってからの計画

大学3年時の就職活動中、面接で面接官からこんな話をされた。

「社内におじさんだけどおばさんな人がいて、仕事はできるんだけど、扱いに困ってるんだよ(笑)」と。

「業界内でもトップクラスの企業の面接で、冗談半分だったとしてもハラスメントに近い発言が出てきて、非常にショックでした」

「自分に向けられた発言でなくても、すごくショックで、その日は寝込みましたね」

採用面接では、サークルでLGBT研修の講師を務めていることを、あえて話していた。

「その話をすることで、企業側からどんな反応が返ってくるか、見たかったんです。あとになって自分のセクシュアリティをオープンにした時、不利益を被るのはイヤだったので」

最終的に就職することを決めた会社は、LGBTに関する制度はないものの、男女を分けるようなルールはない。

「その会社は『あなたと私は1対1の対等な会話をする』ということを面接で実感させてくれました」

「今は制度がなくても、ちゃんと社員の意見を聞いてくれる会社だと思えたので、入社することを決めました」

入社するのは、IT系の企業。最初のうちはスキルを磨くことで精一杯だろう。

「その中で社内の人と信頼関係を築き、自分のセクシュアリティを話せるようになったら、徐々に制度を作る行動を起こそうと計画してます」

「ボランティア活動で初めて会う人とルールを作る経験を重ねているので、社会人になったらそのノウハウを生かしていきたいです」

放っておけない現状

ノンバイナリーであることは、オープンにしている。
そうしている理由は、LGBT当事者の存在を世の中に知ってほしいから。

「サークルの活動を通じて、ハラスメントを受けている方、苦痛から逃れるためにリストカットしてしまう方を見てきました」

「当事者がこういう状態に置かれている現状を、放っておいてはいけないと思ったんです」

セクシュアルマイノリティの話をすると、多くの人から「LGBTなんていないよ」と言われる。

そう言えてしまうのは、自分の周りに当事者はいない、と思っているからだろう。

「『LGBTはいないよ』と言っていた友だちも、私がカミングアウトすると『もっと詳しく教えて』って、踏み込んで聞いてくれます」

「当事者がいることを知ると、LGBTに対する関心が変わってくると思うんです」

だから、自分はノンバイナリーであることを隠さず、オープンでいたい。

さまざまな理由でカミングアウトできない誰かに代わって、当事者の存在を知らしめる役割を担いたい。

「サークルメンバーにも、『就職したらハラスメントを受けるんじゃないか』って、不安を抱いている人がたくさんいます」

「これからを生きる人たちが、ここなら安心して働ける、って思える場所を増やしていきたいんです」

「それを実現していくことが、自分の役目なんじゃないか、って思ってます」

これから社会に出ていく自分だからこそ、社会を変革するパワーがあるはず。

「やっていきたい」を口に出せば、きっとその願いは現実になっていく。

 

あとがき
大きなリュックの背中から、頼もしさがあふれる。おさない光雪さんが今の姿を見たら、きっと憧れの対象に。言葉にならなかった気持ち、発見した自分と他者、関係性・・・時とともに求めるものは変わるけど、私がわたしであることはこれからも同じだ■実行への恐怖心は自分の中にだけ存在する。経験談はほどほどに。そして、失敗の想像は根拠なく増殖するから要注意。光雪さんなら、静かにはっきりと「大丈夫!」とあなたの背中を押してくれる。(編集部)

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