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既存の枠組み以外の概念を生み出してもいい【後編】

既存の枠組み以外の概念を生み出してもいい【前編】はこちら

2022/09/03/Sat
Photo : Tomoki Suzuki Text : Chikaze Eikoku
今井 恵理 / Eri Imai

1993年、北海道生まれ。幼少期から性別違和を覚えるが、自分を説明する言葉を見つけるのに難儀した。気持ちをおもんばかってくれない家庭で育ち、成人後に毒親と分籍。現在は、家族とおもえる人との出会いを経て、愛される喜びを噛み締めている。アジェンダーであることをオープンにした上で、行政書士として働いている。

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INDEX
01 言葉が早く、口が達者だった幼少期
02 情緒的なやりとりが薄い生育環境
03 小学校では毎年親を呼び出されていた
04 いじめが始まり、どこにも居場所がない時代
05 「毒舌」な自分の在り方は正しいのか
==================(後編)========================
06 恋とは違う「執着」の気持ち
07 「Xジェンダー」に衝撃を受けるも・・・・・・
08 しっくりきた言葉は「アジェンダー」
09 毒親との分籍
10 「大切な唯一の家族」と、自分らしく生きること

06恋とは違う「執着」の気持ち

恋とは似て非なる「執着」の気持ち

女子校だったため、ひるがえって自分の性別に関する違和感を意識することはあまりなかった。

明確な恋は経験しなかったものの、似て非なる「執着心」を1人に抱く。

「自分でもなんでだかわかんないけど、小学校高学年くらいから、誰かしらに執着していたんです」

「中学の終わりごろから高校卒業するまでは、ずっと同じ人にべったりくっついて行動してました」

しかし、他者との関わり方をきちんとわかっていなかったために、一方的に気持ちを押し付けてしまっていたと思う。

「本人に嫌がられているのに、休み時間のたびに隣りにいて・・・・・・」

「それでもその人の近くにいれば、その人を土台にして他の人とも関われたんです」

拒絶されることに傷つかないわけではないが、それでも近くにいるメリットの方が遥かに大きかったのだ。

家庭内の問題を誰にも相談できない

良くも悪くも他人に関心のないタイプだったが、執着する相手はいつも見た瞬間に決まっていた。

「一目惚れというと顔のイメージがあると思うんですけど、顔じゃなくて雰囲気で『あの人私が執着しても許してくれそう』ってビビッと感じ取るんです」

しかし家庭内の深刻な悩みや問題については、誰にも明かすことができなかった。

「高校の後半になってくると、自分の家の問題点がわかってくるんですけど、それを誰かに相談したところで、解決しないっていうのもわかってたんですよ」

衣食住も満たされているし、習い事もさせてもらっている。
相談したところで「幸せじゃない、感謝しなさいよ」とたしなめられてしまうだけだ。

「長崎の家のそばに児童相談所があったんですけど、その前を通るたびに『私が今ここに駆け込んでもどうにもならないだろうなあ・・・・・・』って思ってました」

07 「Xジェンダー」に衝撃を受けるも・・・

「Xジェンダー」との出会い

「Xジェンダー」という言葉に出会ったのは、確か高校卒業前後だった。

「執着していた人に対する気持ちは、自分では『恋』じゃないと思ってたんですけど、周りからは『好きなんじゃないか』とよく言われていたんです」

周囲から見てそう捉えられるのなら、そうなのかもしれない。
そう思い、友だちに「あの子のことが好きだよ」と話したこともある。

「私自身の中で友情と恋愛の区別がないので、今の私でもそれには答えられないなと思ってます(苦笑)」

「そのころから自分の気持ちが恋なのかどうかってことに、すごく興味があったんです」

「いろいろ調べているうちにセクシュアルマイノリティの概念にも詳しくなって、あるときXジェンダーって言葉にたどり着きました」

幼いころから性別違和を感じていた自分にとって、その言葉は衝撃的だった。

「『性別がない』って言っていいんだ」

自分が「女の子」と呼ばれることは、まだギリギリ許容できていた。

「でも、自分が女性って呼ばれることには我慢ならないって思ったんですよ」

その一方で、自分を男性だとも思えない。

「自分の戸籍も身体も女性なので、『私は女性じゃない』って言っていい選択肢があると思っていなかったんです」

「Xジェンダーって言葉を知ったときに、『性別がない』って言っていいんだって、衝撃を受けました」

「Xジェンダー」は不十分

様子見のような感覚で、インターネット上のXジェンダーの掲示板を覗き始める。

しかし当時のその掲示板における「Xジェンダー」の定義は曖昧で、他者を「お前は本当のXジェンダーじゃない」などと勝手に断ずるような言論も入り乱れていた。

「嫌な思いもしたし、ネットの情報を見ていてもあんまり居心地がよくない時期もあって・・・・・・」

「いろいろ考えているうちに、別にXジェンダーを名乗ってもいいけど、なんか違う気がし始めたんです」

性別二元論をグラデーションとして捉える人、そもそも性別という概念がない人。

その掲示板では、それらが全員同じ「Xジェンダー」の括りに含まれていたからだ。

「もしかしたら私もこの中に含まれているのかもしれないけれど、自分を表す言葉として『Xジェンダー』はちょっと足りないなって感じだったんですね」

「とりあえずXジェンダーを名乗っていた時期はあったんですけど、しっくりはきていませんでした」

08しっくりきた言葉は「アジェンダー」

アジェンダーだと確定的に名乗り始めたきっかけ

「アジェンダー」という用語自体は以前から知っていたし、知ったころから自称し始めてはいた。

牧村朝子さんの『ゲイカップルに萌えたら迷惑ですか?』の巻末資料に掲載されていた「アジェンダー」についての説明を読んでから、確信を持って名乗るようになった。

「私の中にはジェンダーという枠自体が存在しないということを示せる語が、他になくて」

「別に男女どっちで扱われてもいいけど、自分が女性かって言われると微妙なんだよね、という感覚の人と自分を区別したかった」

「明らかに私は女性じゃないんです」

ただ、ことさらに「自分だけは、人と違うんです」というような主張をしたいわけでもない。

「ノンバイナリー」「Xジェンダー」という言葉が付けられたイベントであれば自分も含まれると感じるし、場合によっては「トランスジェンダー」でも同じだ。

「でも女性限定って書いてあると絶対行かない、っていう線引きです(笑)」

職場にカミングアウト。しかし

大学院修了後、公務員として就職する。

就活は女性のスーツを着て臨んだが、役所という環境を考えると差別されることはまずないだろうと推測し、入ってから周囲にカミングアウトした。

「実際目立った差別はされないんですけど、『あ〜そうなんだねえ〜。そういう人いるよね、わかるわかる〜』みたいな軽い感じで流されちゃう」

「それに、公務員って本当に職場を転々とするので、頑張って仕事を覚えてお客さまファーストで動けるようになっても、すぐまた1からになっちゃうんです」

そもそも定年まで公務員として勤めるつもりはなく、職場も合わなかったため、転職を決意する。

アジェンダーをオープンにして行政書士に転身

「将来性を考えたときにできれば専門職に行きたいなって思って、なんとなく士業系とか会計事務所とかのあたりで転職活動してたら、行政書士法人を見つけたんです」

行政書士の受験科目は5科目で、そのうちの3科目は公務員試験の際に既習だったことから、残りの2科目を習得して行政書士試験に挑んだ。

合格を勝ち取り、2021年9月に前の職場を退職。

10月にアルバイトとして今の職場に就職し、登録が完了した2022年2月から行政書士として働き始める。

「自分のことをわかってもらうためには、オープンにして入らなきゃダメなんだなって考えたので、転職するときは自分のセクシュアリティに関して完全にオープンにしていました」

「でも最近は、受容と理解は別なんだって・・・・・・痛感しています」

理解を示そうと努力してくれる人はいるが、真の理解とは程遠いこともしばしばあると感じている。

「私のことを知って本を読んで勉強しました、って言ってくれるような人が、他の人に対して差別的な言葉遣いをしていたりして」

自分に対して理解を示そうとしない人であれば、正義と正論で「差別はダメです」と指摘できるのに。

攻められないことに、苦い気持ちが込み上げた。

「私に対してはすごい無理してくれてるんだろうなって考えたり、絶望感に襲われたりもします」

「オープンにして入っただけで、理解のされなさが解消されるわけじゃないんだなって思っています」

09毒親との分籍

知人に実の親を悪く言われて

分籍を意識し出したのは、知人に自分の親を悪く言われたことがきっかけだった。

「自分の親がなんか毒っぽいぞ、っていうのは高校生くらいから気づいていたんですけど、本格的にこれは離れるべきだなって感じたのは大学院に入ったころです」

「歯に衣着せぬ物言いをする知人に話をしたら、自分の親のことをけちょんけちょんにけなされて、私が笑い転げたんです(笑)」

他人から見てもやはり自分の親は「毒」なのだと、改めて知った。

「それ以降、親とは離れた方がいいのかなって思い始めました」

分籍は事後報告。親の反応は・・・・・・

両親には、特に宣言などはせずに分籍の手続きを済ませた。

「分籍したときは『抜いたよ〜』って伝えたんですけど、大人になりたいからとか、そういう適当な理由をつけて誤魔化しました」

現在、母親とのみ一応連絡は取り合っている。

「あんまり強い言葉を使うと、母親がパニックを起こしてごちゃごちゃ言い出すので、適当な距離を保ちつつちょっとずつ離れていこうって思ってるんです」

「就職してからは仕事で忙しいって言って帰ってなくて、そのあともコロナを言い訳にして帰省を避けてます(苦笑)」

荷物を引き取るために一度帰ろうと思っていたが、「コロナで帰れないから、着払いで送ってくれない?」と伝えた。

「ちょっとずつ荷物を引き上げて、ちょっとずつ縁切ってって感じで」

「話の通じない人ではあるので疲れるんですけど、根は悪人ってわけじゃないし、雑談するくらいだったらそんなに “毒” って感じでもないんですよ」

だからこそ、今の関係に留めておきたいし、もう深い話はしたくない。

「転職したことも、今パートナーがいるってことも、伝えてないです」

10 「大切な唯一の家族」と、自分らしく生きること

パートナーというよりも “家族”

現在、いわゆるパートナーに相当する相手がいる。

「お互いに恋という感情をよくわかっていなくて。便宜上パートナーと呼んでるその人は、今の私にとって唯一の家族です」

ギフテッドのコミュニティで出会ったその人から与えられる愛情は、生育環境では獲得できなかったものだ。

「家族はみんな私のことを理想の娘、理想の孫って枠で見ていて、そこに当てはまらないと怒るし、当てはまっていれば褒めるんですけど・・・・・・」

新しい“家族” は自分の気持ちがどこにあるのかを考えた上で、自分自身を愛してくれる。

「たとえば私がバレエのレッスンに行ってくるってLINEを送ると、私が楽しそうに出かけていくのが嬉しいって言ってくれるんです」

パートナーは自分が踊っているところを実際に見たことはなく、上手かどうかも知らない。

それでも私が楽しそうにしている様子を見るだけで、喜んでくれる。

「感情をぜんぶ言葉にして伝えてくれるので、日々愛されてるなあって思っています(笑)」

出会えたパートナー・家族と出会ったことで、人との関わり方も大きく変わった。

「以前は毒親持ちあるあるの、他人の顔色を見て先回りするってことをよくしていたんですけど、今は『とりあえず相手の話を聞いてみるか』って思えるようになりましたね」

辞めさせられたバレエを再開、自分らしく生きる今

中学受験をきっかけに辞めさせられたバレエを、ハタチごろに再開した。
土日や仕事終わりの平日にレッスンに通い、楽しみながら継続している。

「親に辞めさせられたので未練みたいなものもあったし、バレエを踊ること自体が好きなので再開しました」

ちょっとしたハンドメイドや、ファッションで「自分らしさ」を追求することを楽しんだりもしている。

「フレアスカートが好きなんですけど、シャツにカフリンクスやアームガーターを付けて、男性ものを取り入れています」

「単に好きなものを着ているだけなんです。ズボンって動きにくくて嫌いなんですよ(笑)」

女性っぽいけど女性になりきらない自分が、見た目的にはそれこそ自分だ。

「前はもっと女性的なものに対する嫌悪感があったんですけど、私よりももっとジェンダーを軽々と飛び越えている人を見て、『ああ、なんだ! あんな感じでいいのか』って」

「最近は自分の女性的な格好とか行動に対して、あんまり違和感を抱かなくなってきました」

既存の枠組み以外の概念を生み出してもいい

「マイノリティ中のマイノリティ」を自覚する自分が発信をすることで、似たような人へのヒントになれればと考えている。

「私自身、Xジェンダーって言葉に出会ったときもこれが自分とは思い切れないままだったし・・・・・・」

「そういう中で自分を説明する言葉を見つけることが、まず大変。私は根が戦闘民族なので、私が戦って道を切り拓いてやる! って感じです(笑)」

性自認も性的指向も、説明するための言葉は自分で選択して良いし、当てはまるものがなければ自ら生み出していったっていい。

また、「多様性」という言葉を巡って、言葉狩りだという声が上がったり、マジョリティ側の苦労が語られることもある。

「『個人的にあなたみたいな性別のよくわからない人とは付き合いたくないです』って言われるのは、私はしょうがないと思っていて」

「でもそれを理由にして差別をしてはいけない。ヘイトと好き嫌いは違うんだよっていう、多様性の意味が知れ渡る世の中になってほしいです」

 

あとがき
麗しいステップにパステルグリーンのフレアスカートが揺れる。今井さん、マインド戦闘民族というが、戦う動機はきっと自分のためではなく、誰かのおもいを知ったとき。冷静な情熱だと感じた■共感できなくても、理解できることがある。そして、賛成や納得をしても自分がおもう正しさが否定されはしない■他者のことはわからない、これはインタビューの大前提。その人を知ろう、よりも、その人が見ている、感じている世界を知りたいと思う。(編集部)

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