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自分が「性同一性障害」だと知ってから、扉が開けた【後編】

自分が「性同一性障害」だと知ってから、扉が開けた【前編】はこちら

2022/03/26/Sat
Photo : Mayumi Suzuki Text : Chikaze Eikoku
出口 茜 / Akane Deguchi

1994年、北海道生まれ。6歳上の兄と2歳下の弟に挟まれ、やんちゃな真ん中っ子として育つ。幼少期からアイスホッケーに打ち込み、17歳のときにはユースオリンピックに出場したことも。女の子に恋心を抱く思春期、「自分は変なのでは」と苦悩するが、高校生のときにあることがきっかけで自分が「性同一性障害」だと自覚。2021年4月にタイで性別適合手術を受け12月に彼女と結婚した。現在の目標は、子どもを持って幸せな家庭を築くこと。

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INDEX
01 3人兄弟でいちばんやんちゃな真ん中っ子
02 男子のチームに入れない悔しさと、アイスホッケーの楽しさの狭間で
03 好きな女の子から教えられた「性同一性障害」。FTMだと自覚
04 「男性になる」決意は固めたけれど
05 家族と職場、周囲へのカミングアウトのタイミング
==================(後編)========================
06 性別移行のためにアイスホッケーを辞める決意
07 性別適合手術へ。家族のそれぞれの反応と、支えてくれた彼女
08 9月に沖縄でプロポーズ。12月に結婚し、幸せ絶頂の今
09 男性として移籍、アイスホッケーは継続
10 情報収集が大事! 自分以外にも同じような人がいるって知ることが自信につながる

06性別適合手術へ。家族のそれぞれの反応と、気持ちの変化

戸籍変更のための性別適合手術と、家族の反応

2021年4月、タイで性別適合手術を受けた。その前日、頑なだった父親から言葉をかけられる。

「『明日頑張って来いよ』って言われたんです」

帰ってきたあとに、握手を求められて、『手術したのはいいけど、俺より長生きすることな』って」

「そこで認めてくれたんだなあって思いました」

そこから父親は、自分を息子として扱い始めた。

雪解けに至るまでの父親の感情を、母親からは一切聞かされていない。
だから自分には父親の感情の移り変わりがわからない。

当時は、握手を求められたときも「長生きしようかな」くらいしか思えなかった。

「二人が受け入れてくれたところで、僕の意思変わんないですし・・・・・」

兄と弟は、自分のセクシュアリティを知ってもさほど驚かなかった。

「あの二人は、たぶん母親から聞いてたんでしょうけど。僕からは手術する前に『タイで手術してくるわ』くらいしか言ってないです」

「そしたら兄も弟も『ま、頑張ってこいよ』みたいな反応でした」

「今は普通にたぶん、男として接してくれてます。弟とかも『兄ちゃん』とは呼ばないですけど、兄として接してくれてるし」

手術後、今までできなかったことを楽しめるように

術後の経過はとても順調。今までできなかったことを、思いっきり楽しめるようになった。

特に海パンのみでプールに入れることが、とても嬉しかった。

「今までも胸にテープ貼って、目立たないようにして、ラッシュガード着て入ってはいたんですけど、上半身脱いでっていうのはなかったんですよ」

「手術後は開放感半端じゃなかったです(笑)。 若干照れましたけどね〜。ちょっと手で隠しましたけど(笑)」

「中にナベシャツとか着なくてよくなったんで。洋服も1枚で着れるから、すごく楽です」

手術後より、ホルモン療法の方が気持ちの変化は大きかった

手術前後よりも、むしろ24歳から開始したホルモン療法前後の方が、気持ちの変化は大きかった。

「注射始めた段階でもう、気持ちは吹っ切れたんで、手術前後でなんか変わったって訊かれたら、あんまりそこまで感じないですね」

「性別適合手術のときよりも、ホルモン注射したときの方が、けっこう変化あったんで」

手術はあくまで戸籍変更のためだ。

声にコンプレックスがあったため、ホルモン療法で解消されたことがいちばん嬉しかった。

「もともと声がめちゃくちゃ高くて。彼女と歩いてても声で『あぁ、あいつ女か』みたいに言われることがあったんですよね」

道行く人の好奇の目や意地悪な言葉が、とても嫌だった。

「人前で喋るのがあんまり好きじゃなかったんですけど、この声になったから克服できました」

また、もともとは痩せ型だったが、ホルモン療法を始めて筋肉量が増えて体つきも変わった。

「アイスホッケーをやってきたんで、トレーニングはずっとしてきたんですけど、本当にウエイトトレーニングが嫌いでした(笑)」

「ずっとサボってたんですよ(笑)。重いのが持てないから当時は恥ずかしくて」

07彼女と結婚を決意した理由

手術で不安なときも、ずっと支えてくれた彼女

現在の彼女は、高校の同級生。LGBTER取材の少し前に、婚姻届を提出した。

「去年の11月くらいにお互い恋人と別れて、その後、定期的に会ってたんです。そしたら一緒にいてめちゃくちゃ楽だなあって思って」

高校生時代の自分を知ってくれている存在だから、改めて生き方を説明する必要もない。

付き合い始めて、2021年4月にタイで手術に行ったときも、ポジティブな発言で支え続けてくれた。

心配なことをポジティブに切り替えてくれる人

「僕、心配性なんですよ(笑)」

危険を伴う性別適合手術を受けるときは、やはり不安も大きかった。でも彼女のおかげで、前向きな気持ちで挑むことができた。

話を聞いてくれて、心配なことをポジティブに切り替えてくれる彼女。付き合い始めから、自然と結婚を意識していた。

「手術のときも、『帰ってきたらもう、結婚するまで離れられないよ!』って冗談とか言ってたり」

「『あと○日で会えるね』とかアルバム作ったり、支えてくれました。タイにいるあいだは、彼女からもらった手紙を毎日読んでました」

いちばん心身の負担が大きいときに、心に寄り添ってくれた。

今の夢は、彼女との子どもを持つこと

「この人とならずっと笑っていられるなって、毎日楽しいだろうなって思ったんです」

「この人となら、自分と子どもの血がつながっていなくても、楽しい家族を築けるって、それがいちばんですね」

今の夢は、彼女との「子ども」を持つこと。

自分も彼女も、子どもが大好き。新しい家族として「子ども」を強く望んでいる。

08 9月に沖縄でプロポーズ。12月に結婚し、幸せ絶頂の今

戸籍変更後、沖縄でサプライズプロポーズ

彼女の誕生日の前日に、突然「沖縄行こうよ」とサプライズで旅行をプレゼントした。

「海でプロポーズしました」

「砂浜でひざまづきましたよ! FTM関係でつながってる写真やってる方がいて、撮影してもらったんです」

知り合いのFTMに、カメラマンとして協力をお願いした。

「普通にロケーションフォトやってる途中に、『結婚してください』って言いました」

返事は「お願いします」だった。

彼女の両親への挨拶

結婚に際して、彼女の両親へ結婚の挨拶にも行った。しかし彼女のお父さんは、事情を知らなかった。

「彼女の方から、お母さんには話してあったんです。でもお父さんはまったく知らなかったんです。僕が挨拶したときに、『実は性別がもともと女性で生まれてきて、戸籍変更したんで』ってお伝えしました」

カミングアウトと結婚の申し込みを、その場で一度にやらなければならない。相当なプレッシャーだったが、お父さんは温かく迎え入れてくれた。

「『娘をお願いします』って言ってくれて」

とても緊張していたが、お父さんは特に動揺した様子もなかった。

「まあ、お母さんから僕の事情を軽く聞いてたかもしれないんですけどね」

「お母さんも別に、『やめておきなさい』とかも言わなかったみたいで。家族全員、ポジティブ一家なんですよ」

「めっちゃ震えましたよ、僕(笑)。 なに言ったか覚えてないですもん(笑)」

09男性として移籍、アイスホッケーは継続

男子アイスホッケー部に移籍が決定

性別移行のために、アイスホッケーを一度は諦める。女子アイスホッケー界にいるということ自体も苦痛になっていた。

「僕は、まあ最初はその、女子でけっこう上を目指してたんですけど、途中で気持ちが男性かなって思い始めてからは、ちょっとやだって思うようになりました」

「女子としてアイスホッケーするのは嫌だけど、でもアイスホッケー自体は辞めたくない葛藤がありましたね」

しかし、女子アイスホッケーを引退してから3年後、会社側から「男子アイスホッケー部へ入ってくれないか」と誘いを受ける。

「男子ホッケー部が人数少なくて、『入ってくれないか』ってお願いされたんです。でもやっぱ体格差があってプレー中にぶつかられたり、レベル的には高すぎるんで・・・・・・」

「それで、最初断ったんですけど『ちょっと人数が少なすぎるから頼む』って言われちゃって、入ることにしました」

予想していなかった流れではあったが、アイスホッケーを続けたいという願いは叶った。

FTMである自分への、チームメンバーの変化

実は、性別移行前まではマネージャーとして男子チームに携わっていた。

「練習には一緒に参加して、試合のときはマネージャーとして協力させてもらってました」

「その時代は女性として登録されてたので、『性別移行して今年からメンバーとして加わります』ってなったときに、みんな『あーそういうことね』って、察してくれたみたいです」

性別移行後、正式にメンバーとして加入。それを機に、メンバーから自分への接し方が大きく変わった。

一緒に着替えようと誘ってくれたり、「今のナイスプレー!」「よくやったよくやった!」などと肩を叩いてきたり、今までは絶対にされなかったボディタッチも増えた。

以前は女性だと思っていたために、メンバーはセクハラになることを心配し、身体への接触は一切なかった。

でも今は、男性として接してくれる。
その変化が、とても嬉しい。

10情報収集が大事! 自分以外にも同じような人がいるって知ることが自信につながる

インスタグラムでFTMとして発信をする理由

性別移行の過程で、LGBTERを読んで情報を集めていた。

「LGBTERは、すごい情報源でした」

自分も困っている人の助けになれたらと思い、応募した。

「それこそ高校生のときからまったく情報がない状態だったんです。北海道で、田舎だったんで」

「周りに同じような人が誰もいないと思ってたから、性別に違和感があっても『性同一性障害』だって自覚しても、どうしていいかわからないことが多かったです」

同じような悩みを抱えている人に、出会うことすらままならない環境。SNSでセクシュアルマイノリティとして発信する人も、そのころはまだほとんどいなかった。

どうしていいかわからない人たちの一助になりたくて、今はインスタでFTMの一人として発信をするように。

「LGBTERで取り上げてもらえたら、困ってる人の情報として少しでも生きるかなって思ったんです」

「自分と同じような人がいる」って知るところから

10代の人や住んでいる地域や環境によって、欲しい情報にアクセスしづらい人へ伝えたいことがある。

「周りを気にしないで、自分らしく生きた方がいいと思う」

「僕も親のこととか心配したりしたけど、もっと早く性別移行しとけばよかった、って今になって思うんで。とりあえず自分が行きたい方向に進めばいいと、僕は思うんですよね」

自分らしく生きるためのヒントとしては、「情報収集しかない!」と強く思う。

「『自分と同じように性別について悩んでいる人たちが、他にもいるんだ』っていうことを知って、自信つけてくっていうのがいいと思います」

「僕もそうだったんですけど、知るところから始めたらいいのかな」

「それこそLGBTER見てもらうとか、SNSで検索したりとか」

自分自身もインスタで同じような境遇の人たち、FTMたちとつながり、話を聞いたりしていた。

「僕にもけっこうインスタで『どうしたらいいですか』みたいなメッセージとかコメント、来るんですよね。似たような境遇の人に相談するなりしてみたらいいんじゃないかなあ」

「知らない人になら逆に言えることもたぶんあると思うんですよね、何も気にせずに」

まずは、知ること。
同じように性別について悩みを抱える人──セクシュアルマイノリティ、FTMの人がこの世に存在しているとわかれば、自分は一人きりじゃないんだと思える。

そこから行動を起こせばいい。

あとがき
北海道からようこそ! 出口さんは照れ屋なのか、自己評価は控えめ。というか苦手なことが欠点じゃないと知ってるから、明るく自分にダメ出しができるんだ。格好つけない出口さんに、思っていることをすっかり打ち明ける人は多いと思う■知ることは大切。ネットもいいし、聞いてみるのもいいね。そして、最後は自分で決める。誰かにはなれないけど、誰かもわたしにはなれない。そこから動き出せる■春が来た。あたらしい春だ。わたしの今に胸をはろう。(編集部)

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