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自分が誰かの ”救い” になれたなら【前編】

「僕は出会いにめちゃくちゃ恵まれている」「相談できる人が必ずいてくれたから、今の僕がある」という石川さん。それは単に「運がよかったから」ではない。きっと、石川さんが誰に対しても心を開き、相手の話に耳を傾け、アドバイスを素直に受け止める人だからこそ、支えようと手を差し伸べてくれる人が現れるのだろう。じきに誕生する待望の ”家族” もまた、石川さんを支え、導いてくれるに違いない。

2016/11/28/Mon
Photo : Mayumi Suzuki Text : Yuko Suzuki
石川 まさき / Masaki Ishikawa

1984年、東京都生まれ。大学卒業後、IT系広告代理店でのアルバイトを経て音楽系の会社に就職。2012年5月、FTMの仲間たちと日本初の、FTMが主役となるクラブイベント「GRAMMY TOKYO」を立ち上げ、現在も企画運営を行うとともにDJを務めている。2015年4月に結婚。2016年3月、新宿三丁目にFTMバー「2’s CABIN」をオープンした。12月31日に第一子誕生予定。結婚を機に大好きだったコーラを絶ち、生まれ来る子どものためにも健康意識を高めている。

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INDEX
01 母は泣き叫び、取り乱した
02 初恋は8歳、相手は女の子
03 病気なら、治さなければ
04 大恋愛、裏切り、留年
05 本来の性を取り戻す
==================(後編)========================
06 自分の ”家族” がほしい
07 ひと目惚れ、そして結婚
08 子どもを授かるまでの葛藤
09 いつも誰かに救われた
10 今度は自分がアクションを起こす番

01母は泣き叫び、取り乱した

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高校の卒業式の前日、母親にカミングアウト

自分は、男性として生きていきたい。

そのことを母親には伝えなければと、ずっと思っていた。

「母親にショックを与えてしまうだろうとはわかっていました。それでもやっぱり、僕はすべてを話したかったんです」

とはいえ、面と向かって話す勇気はなく、メールで伝えることにした。ちゃんとわかってほしいから、メールの文章は長くなった。

「小さい頃から ”女の子” としてくくられるのがイヤで、赤いランドセルで学校に通うのがつらかった。病気じゃないかと悩んで悩んで、正直、生きていることが苦しかった。自分はおそらく性同一性障害ではないかと思う。だから、自分はこれから男性として生きていきた・・・・・・そんな文章だったと思います」

母親がそのメールを受け取った時、そばにはたまたま3歳年上の兄がいた。

「後で兄から聞いたんですけど、その時、母は発狂してしまったそうです」

「女の子の部屋じゃない!」と泣き崩れる母

母親にとって ”待望の女の子”。

兄も、そして従兄弟たちも全員、男の子。両親だけではなく、親戚じゅうが女の子を望んでいた。

母親が、自分に寄せる特別感や期待感が半端ではないことは、子どもの頃から感じていた。

だから、母親が発狂するのも無理はないと思った。

「僕の部屋へ行き、ドアを開けて『全然、女の子の部屋じゃない!』と気づき、叫んで泣き崩れたそうです」

実際、部屋には赤やピンクの色の物や、フリルのようなひらひらの物は一切ない。

スケボーが置いてあり、洋服は男物ばかりで女物といえば高校の制服だけ。

「部屋はずっとそんな感じで、母親も見ていたはずなんですけどね。改めて言われたら、“そうだ、なんで今まで気づかなかったんだろう” と思ったのかな」

母親からメールを見せられた兄からは、「自殺なんてしないで、家に帰ってきてほしい」というメールがきた。

「どうしてそんなことを言うんだろう?と思いましたけど、どうやら兄はセクシュアルマイノリティの自殺率が高いことを知っていたようでした」

「兄のその言葉に僕は救われて、家に戻ることができたんです」

この一件で、兄との距離は急激に縮まった。

「それまではほとんど接点がなくて、兄のことは冷たい人だと思っていたんです。でも、その日からはよき理解者。口数は少ないけど、僕のことを心配して、大切に思っていてくれるんだなと感じられるようになりました」

一方、母親は長い間、「わが子は男性である」という事実を受け入れることはできなかった。

「認めてくれるまで、10年くらいかかりました。つねに『こうなっちゃったけど、僕は幸せだから心配しないで』と言い続けて、ようやくです」

02「生理はこない」と思っていた

初恋は8歳、相手は女の子

「FTMの人はよく言いますけど、僕も赤いランドセルがすごくイヤでした。その理由は自分でもわからなかったんですけどね」

髪型はショートで、毎日ズボンを履いて学校に通っていた。

そうしたかったからというより、それは自分にとっては自然のことだったのだ。

「小学校2年生の時には、すでに女の子のことを好きになっていました。友達としてではなく恋愛対象として」

その後、ある事件が起きる。

見知らぬ男性にいたずらされそうになったのだ。

「下校中に突然、後ろから来た男の人につかまえられ、倉庫みたいなところに連れ込まれたんです。大声を出したから相手は逃げたけど、ものすごく怖かった・・・・・・」

この日からいっそう、赤いランドセルを背負って学校に行くのが苦痛になった。

「赤いランドセルだったから男に狙われたんだ、と思ったんです。以来、誰かに後ろに立たれるとものすごく怒って、歩くスピードも速くなりました。また誰かに襲われるのではないかと、怖かったんです」

自分が男性化するにつれて恐怖は薄れていったが、この事件は長い間、トラウマになっていた。

体に違和感を抱き始める

小学校の高学年になると、否が応でも自分の性を意識するように。
きっかけは、男子と女子、別々の教室に集められる ”あれ” だ。

「それまで、自分が男か女かなんて、あまり考えたことはなかった。でもなぜか、自分には生理はこない、関係ないと思っていたんです」

「だから、そのとき女子全員に配られた生理用ナプキンも、自分には必要ないやと思ってクラスメートにあげてしまって」
 
ところが意に反して、少しずつ胸がふくらんでくる。

「なんで? と。そんな自分の体を他の子に見せたくなかったのか、彼女たちの体と自分が同じだと認めるのがイヤだったのか、どちらかわからないのですが、みんなと一緒にお風呂に入るのがイヤで1回目の移動教室には行きませんでした。2回目は行きましたけど、お風呂は他の子たちと時間をずらして一人で入ったんです」

03病気なら、治さなければ

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自分は性同一性障害だと確信

中学に通っていたある日、たまたま見たテレビ番組で、女性タレントたちが合コンをするという企画をやっていた。

相手は全員、おなべ。

「みんな、どこから見ても男性なのに、もともとは女性だと。ものすごい衝撃を受けました。こんな人がいるんだ、すごい!って」

その人たちと自分がイコールかと言うと、そうではないような気がしたが、”同じようなにおい” を感じたという。

「その後、家にあったパソコンでインターネットを楽しんでいたら、おなべの人たちのホームページを見つけたんです。どういう経緯でそのページにたどり着いたのか、まったく記憶にないんですけど」

「読んでみると、その人たちと自分の考えはちょっと似てるかも、と思いました」

不思議なことに、あることに興味を持ち始めるとそれに関する情報が、自分から求めなくても「向こうからやってくる」。

「本屋で、なぜか目に留まった本がセクシュアリティに関するものでした。その本で性同一性障害のことを知り、ひょっとして自分はこれなのかもしれないと」

そして高校2年生の時、テレビで『3年B組金八先生』が始まる。

「直を見て、あ、自分はこれだ!だと確信しました」

包帯を巻いて胸をつぶし始める

ただし、本でもドラマでも、性同一性障害は「障害」で、「普通ではない」こととして描かれている。

「これは病気なんだ、と思いました。だったら治さなくては、と」

高校1年生の時、同じバレーボール部の男の先輩とつきあって、セックスにもチャレンジした。

なんとも荒療治だが、そうすれば病気が治ると思ったのだ。

「今となっては、とても失礼な話しなんですが・・・・・・相手は誰でもよかったんです。とにかく男の人とつきあわないとと思い、自分のことを『いい』と言ってくれているらしいと聞いた先輩に、積極的にアプローチして、強引につきあってもらった感じです」

でも、全然楽しくないし、気持ちよくもない。

病気は治らなかった。

「よけいに辛くなりました。でも、そこで『自分は女ではない』『恋愛対象は男性ではない』ということがはっきりしたので、自分の中では何か吹っ切れたものがありました」

まずは胸をつぶしたい。

インターネットで見つけた記事を参考にして、伸縮性のある包帯や医療用のテーピング剤を胸に巻いた。

04大恋愛、裏切り、留年

思いがけず ”女の園” に入ってみると

高校卒業後は、母親の勧めもあって栄養学を学べる短大に進んだ。

「入学式に行くと、女性ばかりでびっくり。僕は、短大がそういうところだとは知らなかったんです。高校時代の友達に聞いたら『普通、短大ってほとんど女子だよ』と言われましたけど、僕はそんなこと、聞いてないよ!って(笑)」

でも、それはうれしい誤算。

男である自分にとっては、恋のチャンスがたくさんあるということだ。

「ショートヘアで、服装からしてもほぼ男性だったので、僕のことを男性だと勘違いしていた人は多かったですし(笑)。まあ、声はまだ高かったから、話をすると女性だとわかってしまったんですけど」

ただ、そんな自分に周りはどう接していいのかわからなかったのかもしれない。

クラスにはいくつか女性のグループができたが、どこからも声はかからない。

ある日の休み時間、いつものように一人でいると、自分と同じようにどこのグループにも属さない女性が話しかけてきた。

「友達いないんでしょ?って。だから、おまえもいないんでしょ?と返すと『うん』(笑)。そこから仲良くなって、自分がおそらく性同一性障害であることを打ち明けました」

「すると彼女は、『そうなんだ』とあっさり受け入れてくれたんです」

自分のことを知ってくれている人ができて、気持ちが少し楽になった。

その彼女は、今でも大親友だ。

天国から地獄に突き落とされた

女性ばかりの大学とはいえ、高校の ”女子校のノリ” があったおかげで、ボーイッシュな自分はちょっと特別な存在だったのかもしれない。

期待どおりに(!)、すぐに恋のチャンスに恵まれた。

とくに、2番目につきあった彼女は外見も内面も100%、自分の好み。
最高に幸せだった。

ところが。

「同じセクシュアリティでいちばん仲が良かった友達に、彼女を略奪されてしまったんです」

最高の恋人と大好きな友人に裏切られ、失い、心は大きく傷ついた。彼女は同じクラスだったので、学校に行けば顔を合わせてしまう。

辛くて学校に行けなくなり、半年間留年してしまった。

それまで幸せだっただけに、落ち込みようはひどかった。

まさに天国から地獄に突き落とされたような気分で、自分の気持ちをうまくコントロールすることができない。

でも、しばらくして新しい恋がやってきた。

「傷を癒やしたくて、とくに好きではなかった女の子に酔った勢いで『自分みたいなやつが、つきあってと言ったらいい返事をもらえたりする?』『自分は、恋愛対象としてアリかな?』と言ってしまったんです」

「すると、『全然アリだよ』と」

「つきあい始めたら、好きではないと思っていたのに、僕のほうの好き度が右肩上がりにぐんぐん上がっていきました。勝手ですよねえ(笑)」

おかげで心の傷は少しずつ癒えていった。

05本来の性を取り戻す

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男性になる道が拓けてきた

彼女とは、大学卒業してから2年間同棲をした末、別れを迎えた。

「僕はすごい寂しがり屋だし恋愛体質なので、つねに誰か誰かと求めていたけれど、今度は最初からきちんと好きになってつきあいたい。でもそういう相手になかなか出会えず、結局その後7年間は、恋人ができませんでした」

ただ、その間に恋愛とは別の、大きな出会いがあった。

留年によって就職の時期を逸してしまったため、大学卒業後はIT系の広告代理店でアルバイトとして働き始める。

そこで、1歳年上の女性と知り合った。

「彼女はきれいな人なんですが、なぜか恋愛感情はわかない(笑)。でも、すごく気が合い、すぐに仲良くなりました」

その頃、いよいよ男性になるための治療や手術を受けたいと思っていた。
しかし、そのためのお金がない。

どうしよう。

「彼女に相談というか、愚痴をこぼしたんです。すると、彼女が『一緒に銀行に行こう、印鑑持ってきて。銀行前に集合で』と」

行くと、定期預金の窓口に連れて行かれた。

「これで毎月、給料から引き落とされるから確実にお金が貯まるよ、と言って。お金が入ったら入っただけ使ってしまう僕を見かねて、彼女が世話を焼いてくれたんです」

人生の指南役との出会いに、感謝

お金のことのほかに、男性になるためには何が必要か。何から始めればいいのか。

彼女は教えてくれた。

「悩むのは、問題が整理されていないから。目的のために何をすればいいか、優先順位を決めて1つ1つクリアしていけば必ず目的にたどりつけるよ」と。

「彼女と話をすることで心の中から不安が消え、こんがらがっていた頭の中が整理されていきました」

22歳でホルモン治療を始め、23歳で性同一性障害の診断書を取得。

24歳で胸腺切除、26歳で性別適合手術を受け、そのタイミングで名前、そして戸籍上の性別を変更する。

晴れて男性となった。

好きな音楽関係の会社で正規の男性社員として働き始めることもできた。

「日々、いろいろなことが起きて悩みも生まれるけど、考え方や問題への取り組み方を彼女にみっちり叩き込まれたので(笑)、わけがわからなくなってパニックになることもありません」

自分を男性として、また、ひとりの人間として鍛えてくれた彼女には心から感謝している。

彼女もまた、自分の人生にとって欠かせない大切な友人だ。


<<<後編 2016/11/30/Wed>>>
INDEX

06 自分の ”家族” がほしい
07 ひと目惚れ、そして結婚
08 子どもを授かるまでの葛藤
09 いつも誰かに救われた
10 今度は自分がアクションを起こす番

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