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マジョリティに埋もれて、「普通」になろうとしなくてもいいんじゃないかな。【後編】

マジョリティに埋もれて、「普通」になろうとしなくてもいいんじゃないかな。【前編】はこちら

2020/03/21/Sat
Photo : Tomoki Suzuki Text : Ryosuke Aritake
三浦 祐介 / Yusuke Miura

1982年、神奈川県生まれ。小学4年生で京都府に引っ越し、高校3年生まで過ごす。大学卒業後、大手中食メーカーに就職し、2008年ソニー生命保険に転職。以来、保険営業の仕事を続けながら、ファイナンシャルプランナーとしても活動。現在は、保険代理店・株式会社ホロスプランニングに籍を置きながら、LGBT当事者を対象とした「GID保険相談窓口」を開設し、保険や人生の相談を受けつけている。

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INDEX
01 “中の上” で生きてきた僕の生業
02 「誰とでも接することができる人」という評価
03 学生時代に経験した変化と挫折
04 働きながら得た「生きていくためのスキル」
==================(後編)========================
05 LGBTだって悩みの中身はみんなと一緒
06 簡単かつ正確に “安心” に導く役目
07 無理して「普通」にならなくてもいい
08 悩みを抱え込まず、踏み出してほしい一歩

05 LGBTだって悩みの中身はみんなと一緒

「保険加入」と「保険金支給」

「GID保険相談窓口」をスタートするきっかけは、トランスジェンダーからの相談。

「保険に入れなくて困っている人が多い」という話を聞いた時に、こう言われた。

「性同一性障害でSRSを受ける人は、ホルモン治療を永続的に行わなきゃいけないところが、すごくネックなんです」

SRSや治療に関する知識がなかった自分にとって、新しい情報だった。

「話を聞いていくと、保険に関してごちゃごちゃになっている人が多いことに気づいたんです」

健康保険と生命保険、どちらの話をしているのか。
保険への加入と保険金の支給、どちらが目的なのか。

「当時は、SRSが美容整形扱いだったから、保険金支給の対象にならない状況でした」

「そのせいか、『保険金が支払われない=保険に加入できない』って、考える性別違和の方が多かったんです」

「でも、『保険への加入』と『保険金の支給』はまったく別物なので、誤解を解く作業から始めました」

わからないことは聞く

「僕も、最初はLGBTや性別違和に関する知識がなかったので、相談に来た当事者の方に教えてもらってました」

相談を受ける前に、「相談窓口を始めたものの、わからないことばかりなんです」と、正直に告げた。

「最初の20人くらいには、『当事者の方が何に困っているのか、教えてください』って、聞いてました」

「LGBTや性同一性障害に関する知識不足を素直に話すと、皆さん、快くなんでも教えてくれるんですよ」

「一番困っていることは何ですか?」と聞くと、多くの人が保険のことだけでなく、生活の不安も話してくれた。

「話を聞くことで、こっちが一方的にレッテルを貼ったり、決めつけたりすることが、一番良くないって実感しました」

「何事も、当の本人から聞くことが一番スムーズだし、正確なんですよね」

特殊なケースではない「GID保険相談」

専門家ぶらずに、当事者の悩みを聞いていくと、悩みの大枠がある程度見えてくる。

「悩みのベースは『保険に入れるかどうか』なんですけど、その後の望みは、人によって違うんですよね」

「『保険金がもらいたい』という人がいれば、『保険金はあてにしてません』という人もいるんです」

「ケースバイケースで変わる部分に、どう対処していくかが、『GID保険相談窓口』のカギになっていきました」

相談を受ければ受けるだけ、決して特殊なケースではないことにも気づく。

「『何に困っていて、どう解決したいか』って、ほかの保険相談と何も変わらないんですよね」

「僕自身も、『僕ならこう解決できます』って提案するスタンスは、まったく一緒」

LGBTや性別違和がある人だからといって、特別視することはない。

「昔から誰とでも接することができる自分だから、フラットに考えられているのかな」

06簡単かつ正確に “安心” に導く役目

「当事者じゃないから話しやすい」

「『GID保険相談窓口』を始めてから、LGBTに関することが自分事になりましたね」

「どんなことでも自分事にならないと、情報は素通りするだけだから」

株を保有した瞬間に、株価が気になり、情報を仕入れ始めるのと同じこと。

「GIDの学会に毎年参加したり、星賢人さんのJobRainbowのイベントで話させてもらったり、当事者の方と触れる機会は増えました」

「ただ、当事者の方を特別視してないから、頻繁にイベントに行くこともないんです」

保険やお金の相談を受ける際に、セクシュアリティが何であるかは基本的に関係ない。

「GIDだから、保険に入れない」というわけではないからだ。

「相談に来た当事者の方から『三浦さんは当事者じゃないから話しやすい』って、言ってもらうこともあります」

「同情や肩入れをせず、第三者的な立ち位置ではっきり話すところを、評価してもらってるみたいです」

考えるべきは今ある制度の利用

保険相談で大切にしていることは、事実を伝えること。

「たまに『GID専用の保険はできないんですか?』って、聞かれることがあるんです」

「その時は、『専用の保険を作ると、保険料が上がってしまいますがそれでもいいですか?』って、伝えてます」

保険は、一定の確率論に基づいて作られている。

例えば、ある生命保険の加入者が100人だったとする。

SRSの費用が100万円で、手術を受ける人が100人中、年間1人であれば、1人当たりの保険料は1万円/年。

しかし、SRS専用の保険を作り、加入者100人全員がSRSを受けたとすると、1人当たりの保険料は100万円もらわないと割に合わない。

「事実を伝えてあげることで、いい方向に動くケースは多いんですよね」

「誰でも、生きづらさを感じると、他人や世の中の責任にしてしまいやすいじゃないですか」

「でも、自ら動いてなんとかしていかないと、何も変わらないでしょう」

「今ある保険という制度が使えるんだったら、うまく利用すべきだと思います」

「保険は難しい」という思い込み

もう1つ、大切にしていることは、簡単に伝えること。

「保険は複雑なもの、って思ってるから、踏み込めないんです。だから、簡単に説明して、理解しやすくすることが大切なんですよね」

かつて、性別変更まで終了したトランスジェンダーから、こんな相談を受けた。

「恋人と入籍したから、保険を考えたいけど、ネットには『難しい』って書いてあったんです」

その相談者は、「トランスジェンダーの保険加入は難しい」と、思い込んでいた。

「保険の専門家からすると、性別変更が終わった人の方が簡単なんです。もう性別が変わらないなら、あとは、ホルモン治療を続けていても入れる保険を探すだけ」

「そんなに簡単なんだ、って思えたら、漠然とした不安は解消できますからね」

07無理して「普通」にならなくてもいい

マジョリティで決めたルール

トランスジェンダーの方、性別違和の方の相談を受け始めて、見えてきたものはたくさんある。

「当事者の目線に立ってみないと、わからないことはいっぱいあります」

「トイレとか温泉とか、その人の立場だとどういう不都合があるんだろう、って考えるようになりましたね」

いざ、同じ目線に立ってみると、現状のルールに疑問を抱くことも。

「何事においても、マジョリティで決めたルールがマイノリティにハマるかっていうと、そうじゃないんですよね」

「例えば、人口が多く、過密なスケジュールで動く東京で決めたルールが、地方の村落で適用されるかといったら、難しいじゃないですか」

「その辺の穴埋め作業は、どう行っていけばいいのか? って視点になってきています」

強みになる “希少性”

そして、人は誰しもが、何かしらのマイノリティに属していることにも気づく。

「多くの人は、その部分が表立っていない、気づいてないだけの話だと思います」

マイノリティであることは、単に数が少ないということ。
それは良くないことなのだろうか? そんな疑問も浮かんでくる。

「僕は、希少性って大事だと思うんです。特にビジネスを進める上で、希少性のかけ算は強みになるから」

「多くの人はマジョリティに合わせようとして、『自分だからできることがある』ってことに、気づいてないんです」

「全員を一括りにはできないけど、当事者の方と接していると、素晴らしいものを持ってるじゃないか、って思っちゃうんですよね」

自分のキャラを全面に出し、自分の特性を活かした方が、周囲から必要とされるのではないか。

そう考えると、マジョリティに埋もれてしまうのは、もったいないことに感じられる。

「普通」って一番難しい

「いろんな方から、よく『三浦さんはなんでそんなに普通なんですか?』って、言われるんですよ(笑)」

誰と接する時もフラットで、変わらないから、「普通」と言われるのだろうか。

「『普通』って人それぞれ基準が違うから、考えれば考えるほど、難しい概念ですよね(苦笑)」

「人間って、日々コミュニケーションが取れる人数が300~400人って、限界があるんですよね」

「その人にとっての『普通』って、その300~400人の中での『普通』でしかないんですよ」

日本の人口で考えれば、約1億3000万人の中の300人に過ぎない。

職場の同僚の平均年収が5000万円の人と500万円の人では、互いが抱く「普通」だってきっと違う。

大学院を出た人と中学を卒業して働き始めた人でも、「普通」は異なるはずだ。

「いろんな人と知り合ったことで、『普通』の価値観は一番難しい、って感じるようになりましたね」

「だから、マジョリティに埋もれて、わざわざ『普通』になろうとしなくてもいいんじゃないかな、って思います」

08悩みを抱え込まず、踏み出してほしい一歩

じっとしてらんない性格

ここ数年は、家で寝る日よりも出張で外泊する日の方が多い。

「つい最近、引っ越したんですけど、全然帰れてなくて、まだ家具がないんです(笑)」

忙しいことを、苦に感じたことはない。

「むしろ、忙しい方が好き。休日の時間の使い方が、よくわからないんですよね」

「昔から、ボーっとすることはほとんどないです」

「たまに映画を見るのにハマる瞬間もあるけど、基本はじっとしてらんない(笑)」

2019年秋、出張を詰め込みすぎたことは、少しだけ反省している。

「保険人生で初めて、命の危機を感じるスケジュールと移動距離でした(苦笑)」

「急きょアポイントの日程が変わって、ぽっかり2日間空いた時は、仕事を入れませんでしたね」

盛岡にいたため、そのまま北上し、青森でゆっくり過ごした。

「保険営業って、ほとんど自営に近いから、仕事を自分で管理しなきゃいけない難しさはありますね」

明日死んでもいい生き方

忙しさに翻弄されるものの、今の生き方に不満はない。

「仕事もプライベートも、明日死んでもいいような生き方をしてるかな」

2018年、同い年のいとこが急逝した。
過去に、年下の知り合いの葬式に、二度参列したことがある。

「同い年や年下の人を見送ると、感覚が変わりますよね」

「『老後が心配』って、話す人は多いけど、なんで定年まで必ず生きてると思うんだろう。仮に定年まで生きたとしても、健康かはわからないですよね」

「それなら今できることをして、将来どうなってもいいように準備しておくことが大事だと思うんです」

セクシュアリティや職業、年齢に関係なく、当てはまること。

そして、今できることがあるなら、一歩を踏み出してほしい。
あなたの人生のお手伝いをする準備は、整っているから。

あとがき
「明日死んでもいいような生き方」のことを、三浦さんは格好つけずに話す。将来を不安視する人も、確かになぜか長生き前提で考える。人生年数については、多くの人がポジティブだ。自分もそう(笑)■最期の時がまだまだ先だと思いこむと、いろいろ先送りにしがち。今決めない、今動かない、今備えない言いわけにもしていると反省。いき先をハッピーに予見できる生き方をしたい。それは分かっている。寝ながら考えよう・・・ほら、また先送りか(苦笑)。(編集部)

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